遺言執行者に対して、法所定の情報開示を求めることで、相続人らは必要な情報を得ることができます。
遺言執行者が義務を果たさない
遺言書の中で遺言執行者が指定されている場合、相続財産の管理など遺言の執行に必要な行為はすべて遺言執行者が行うことになります。
そのため、遺言の執行に関する資料や情報は、ほとんどすべて遺言執行者が持っています。
しかし、指定された遺言執行者によっては、相続人らに対して、①事務処理の状況を全く報告しなかったり、②被相続人の財産目録を開示しないことがあり、その場合には遺言の執行状況が相続人にはわからないという事態が生じます。
また、遺言執行者が財産目録を開示した場合であっても、③財産目録の裏付けとなる資料が開示されず、財産目録の内容が正確かどうかわからないと、不安を抱く相続人の方が少なくありません。
近年、遺言執行者が被相続人の財産を横領したという事件が存在する上、相続税の申告は相続開始を知った日の翌日から10か月以内に行う必要があり、時間的な余裕があまりないことから、相続人としては、遺言執行者による遺言の執行状況が現在どの段階にあるのか、また、その執行状況におかしいところがないかについて、きちんと把握しておかなければなりません。
情報開示の方法
①事務処理状況の報告請求
遺言執行者は、相続人や包括受遺者(遺産の全部または割合的な一部分を遺贈された人のことです。)から請求されたときは、いつでも遺言の執行状況を報告する義務があります(民法1012条2項、646条、990条)。
また、遺言の執行が終了した場合、遺言執行者は、相続人や包括受遺者に対して、遅滞なく経過及び結果を報告しなければなりません。
遺言執行者には上記のような義務がありますので、相続人や包括受遺者は、遺言執行者に対して、いつでも事務処理状況の報告を求めることが可能です。
(遺言執行者の権利義務)
第千十二条 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
3 第六百四十四条、第六百四十五条から第六百四十七条まで及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。
(受任者による報告)
第六百四十五条 受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。
(包括受遺者の権利義務)
第九百九十条 包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。
引用:民法|電子政府の窓口
②財産目録の開示請求
遺言執行者は、遺言執行者となった後すぐに、相続財産の目録を作成し、相続人や包括受遺者にこれを交付する義務があります(民法1011条1項、990条)。
また、遺言執行者は、相続人や包括受遺者の請求に応じて、相続人や包括受遺者が立ち合う中で財産目録を作成するか、または、公証人に財産目録を作成させなければなりません(民法1011条2項)。
上記の規定によって、相続人や包括受遺者は、遺言執行者に対して、財産目録の作成及び開示を求めることができます。
(相続財産の目録の作成)
第千十一条 遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。
2 遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。
引用:民法|電子政府の窓口
③財産目録が正確であるかどうかの確認
まずは、遺言執行者に対し、財産目録の裏付けとなる資料の提出を求めるのが良いでしょう。
遺言執行者が任意に開示してくれない場合には、以下のような方法で財産目録の裏付け資料を入手し、財産目録の正確性を確認することが考えられます。
遺言の執行終了前
相続人や包括受遺者が、遺言執行者に対して、自らの立ち合いの下で財産目録をさせるか、または、公証人に財産目録を作成させることを請求することが可能であるというのは上記のとおりです。
このような財産目録の作成手続きにおいて、相続人や包括受遺者は、財産目録の裏付けとなる資料を閲覧することが可能です。
また、相続人という立場で独自に調査する方法も考えられ、相続人は、金融機関に対し預貯金口座の照会手続を行うことが可能です。
遺言の執行終了後
相続人や包括受遺者は、遺言執行者に対し、遺言執行者がその執行に関し受領したすべての物を引き渡すよう請求することができます(民法1012条2項、645条)。
このとき引き渡される物の中には、財産目録の裏付けとなる資料が当然含まれますので、相続人や包括受遺者は、遺言執行者に対して、受取物の引渡しを請求することで、財産目録の裏付けとなる資料を入手することが可能です。