養子縁組を離縁しても、基本的に遺言は有効です。
ただし、遺言書を作成した経緯に照らして、遺言書が取消しをされていると判断される場合や無効とされる可能性はあります。
遺言書が有効か無効かは、相続人に重大な影響を及ぼします。
ここでは相続問題に注力する弁護士が養子縁組を離縁したときの遺言の有効性について、実際の相談事例をもとにわかりやすく解説していきます。
相続問題でお困りの方はぜひ参考になさってください。
養子縁組の離縁と遺言についての相談事例
相続についての質問です。
先日、兄が亡くなりました。兄は、結婚をしておらず、子どももいないのですし、両親も亡くなっているので、法定相続人は妹である私だけでした。
しかし、兄が亡くなって、お葬式の際、兄と以前に養子縁組をしていた遠縁のYさんが兄の遺言書があって、自分が遺産全てを相続することになっているから、財産のことを教えてほしいと言われました。
確かに、遺言書作成当時はYさんは兄ととても仲が良く、本当の子どものように可愛がっていましたし、兄は私に対しても、「Yさんと養子縁組して、もし自分に何かがあったときは、Yさんに面倒を見てもらいたい」ということも漏らしていましたので、真意でYさんに全財産をあげるつもりだったようです。
しかし、その後、兄はYさんと仲が悪くなり、協議離縁をしています。兄は、Yさんには財産をあげるつもりはなかったと思いますので、このような状況でも遺言は有効なのでしょうか。
もし有効だとすれば、私は、一切兄の財産を相続できないのでしょうか。
養子縁組の離縁をした場合の遺言の有効性
遺言書がある場合には、基本的にはお兄さんの遺産は遺言書通りに相続されることになります。
そのため、原則としてはYさんがすべての遺産を取得することになります。なお、兄弟姉妹には遺留分がないので、遺留分侵害額請求をすることもできません。
一方、遺言書を作成した経緯に照らして、遺言書が取消しをされていると判断される場合や無効とされる可能性はあります。
例えば、判例では、養親が養子から「終生扶養」を受けることを前提として、養子縁組をした上で遺言書を作成したような場合には、後の協議離縁によって、民法1023条2項により撤回されたものとみなされると判示したものがあります。
そのため、遺言書を作成した経緯・事情を子細に検討する必要があります。
遺言書の撤回
遺言書は、一度作成しても遺言者が自由に撤回できるものです。
一方、遺言に抵触するような行為をした場合には、遺言が法律上撤回したものとみなされるとの規定があります(民法1023条2項)。
どのような行為をした際に、遺言が撤回されたものとみなされるのかについては、条文の解釈の問題となりますが、養子縁組をした養子に対して遺産を取得させる遺言がある場合に、後の離縁によって遺言が撤回されたことになるかは以下のような判例があります。
判例 離縁をした場合の遺言の撤回についての判例
「民法1023条・・・2項にいう抵触とは、単に、後の生前処分を実現しようとするときには前の遺言の執行が客観的に不能となるような場合にのみとどまらず、諸般の事情より観察して後の生前処分が前の遺言と両立せしめない趣旨のもとにされたことが明らかである場合をも包含するものと解するのが相当である。そして、原審の適法に確定した前記一の事実関係によれば、縫太郎は、上告人らから終生扶養を受けることを前提として上告人らと養子縁組したうえその所有する不動産の大半を上告人らに遺贈する旨の本件遺言をしたが、その後上告人らに対し不信の念を深くして上告人らとの間で協議離縁し、法律上も事実上も上告人らから扶養を受けないことにしたというのであるから、右協議離縁は前に本件遺言によりされた遺贈と両立せしめない趣旨のもとにされたものというべきであり、したがつて、本件遺贈は後の協議離縁と抵触するものとして前示民法の規定により取り消されたものとみなさざるをえない筋合いである。」
【最判昭和56年11月13日】
上記の判例は、養子縁組の協議離縁をした場合について、遺言が民法1023条2項により撤回とみなされる場合があるとしています。
しかし、協議離縁があれば即座に撤回とみなされるわけではありません。
「諸般の事情より観察して後の生前処分が前の遺言と両立せしめない趣旨のもとにされたことが明らかである場合」としていますから、遺言書が作成された当時の事情を考慮した上、離縁までの経過や離縁に至った事情についても検討して、離縁という行為が遺言の撤回とみるべき事情なのかという観点をもって判断する必要があります。
相談事例に対する弁護士からの回答
では、本件でも養子縁組の離縁によって遺言が撤回されたとまでいえるでしょうか。
遺言を作成した前提としては、①Yさんが子どものように可愛かった。②Yさんに面倒を見てもらいたかった。という二つの事情があるようです。
一方、協議離縁をした理由については「不仲になった」というもので、この事情をどのように見るかで結論も変わってくる可能性があります。
なぜなら、本件では遺言を作成した事情が二つあり、②の事情が変わったため協議離縁をしたといえるかどうかが微妙なところだからです。
判例では、「終生扶養を受けることを前提としていた養子縁組が、養子に対する不信の念から離縁をした」というものですから、遺言の前提と抵触する行為といえそうですが、本件では、そこまでいえるのかは不明です。
なお、仮に本件で遺言書が有効とされた場合、兄弟姉妹には「遺留分」がありませんので、相談者は、お兄さんの財産を何も取得できないということになります。
遺言の効力については、争いが多く、その判断には多くの資料と知識・経験が必要になり、専門家の判断が必須の分野です。
遺言書の効力については、相続に特化した弁護士が対応しますので、まず当事務所にご相談ください。