事実婚・内縁の遺言書の書き方とは?弁護士が事例で解説


弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

事実婚(内縁関係)とは、婚姻届の提出がなくとも、夫婦として生活し、互いに婚姻の意思を持っている男女関係をいいます。

しかし、内縁の配偶者には法律上の相続権がありません。そのため、内縁の配偶者へ財産を遺したい場合、遺言書の作成が非常に重要となります。

本記事では、事実婚にある方が遺言書を作成する際の書き方とポイントについて、相続に注力する弁護士がわかりやすく解説します。

内縁関係や事実婚における相続でお困りの方は、ぜひご参考にしてください。

事実婚や内縁の場合の相続についての質問

事実婚や内縁の場合の相続に関して質問です

婚姻はしていませんが、事実婚状態の夫Aが老衰で余命数週間だろうと言われました。

私とAとの間に子供はいませんが、Aには前妻との子供Bがいるようで、その人と争いが起きないように、夫には遺言を書いてもらおうと思います。

夫は自宅不動産を持っていますが、ほとんど現金や預貯金がないので、Bから家を出て行けと言われないか心配です。

どのような遺言にしたら良いでしょうか。

 

 

弁護士からの回答

まず、Aさんは老衰状態であるということなので、遺言をかける状態なのかが問題となります。

その点の判断は医師の診断が必要になってくるところです。

また、遺言を書くにしても、現時点では相談者さんには相続分がないことから、できるのであれば法的な婚姻関係を生じさせるために婚姻届を出すことをおすすめします。

さらに、婚姻届を出すかどうかは別として、遺言を書いたとしてもBには遺留分という最低限もらえる権利がありますので、それを踏まえた遺言にすることが必要になります。

※なお、この記事は改正後民法の適用を前提にしており、配偶者居住権については2020年4月1日以降に相続が開始しており、かつ施行日以後に作成された遺言に適用されるものですので、その点はご注意ください。

 

 

遺言書を作成することができるか確認する

遺言を書くためには遺言能力というものが必要になります。

この能力は成人であれば通常は何ら問題なく認められるものですが、認知症が重度であったりすると後々紛争になりやすいので、その点は医師に確かめるなどした方が良いでしょう。

遺言を作成する場合には、大まかな選択肢として、

  • 遺言のすべての内容を自筆で書く自筆証書遺言
  • 公証役場で作成する公正証書遺言

の2つがあります。

もし認知症が重度である場合や手書きが難しい場合には、公証人が間に入ってくれる公正証書遺言を作成することが望ましいです。

 

 

婚姻届を提出し配偶者になる

また、相談者とAさんは事実婚状態ということですので、仮にAさんが今の状態で亡くなられると相談者は一切の相続権を持たないことになります。

しかし、婚姻届さえ出しておけば、遺言がなかったとしても相談者さんは配偶者として遺産の2分の1を相続する権利を持つことになります。

そのため、遺言とともに婚姻届を提出することも検討したほうがよいでしょう。

もっとも、婚姻届を出す場合もAさんの能力が問題となりますので、Aさんがしっかり婚姻届の意味を理解できる程度の理解力を持っているかも医師に尋ねることが必要になります。

 

 

 

遺言書を作成する

婚姻届を出せば、相談者さんは2分の1の相続権を持つことになりますが、遺言ではすべての遺産を相談者さんに相続させる旨の遺言も可能ですので、遺言を書くことをおすすめします。

もっとも、遺言で相談者さんにすべての遺産を相続させる旨を書いたとしても、Bさんには遺留分がありますので、遺留分を考慮しての遺言にしておくか、遺留分の支払いができるような状態にしておく必要があります。

 

遺留分がどのくらいになるか

婚姻届を出していない場合

Bさんの遺留分は相続分1分の1の2分の1なので、遺留分は2分の1ということになります。

 

婚姻届を出している場合

Bさんの遺留分は相続分2分の1の2分の1なので、遺留分は4分の1ということになります。

 

婚姻届を出した前提だと、遺産全体の4分の1程度の支払額を確保しておかないと、相談者さんが困ることになりますので、その点をどうするか考えておかないといけません。

▼遺留分について、詳しくは以下をご覧ください。

 

 

遺留分の支払いについて

遺留分の支払いについては、具体例をあげて見ていきましょう。

具体例1遺言で、すべての遺産を相談者さんに相続させるという内容を遺していた場合

遺 産:2000万円(評価額1500万円の不動産と預貯金500万円)
婚姻届:提出済み


この場合、遺留分は総額500万円ということになります。

そのため、取得した預貯金500万円をBに支払えば良いことになります。

もっとも、それでは相談者さんが預貯金を一切手元に残すことができないことになり、当面の生活資金などに困るということになりかねません。

現金も手元に残すということであれば、法改正で導入された配偶者居住権を検討することも考えられるかと思います。

 

 

配偶者居住権を検討する場合

上記の具体例1で、相談者さんが不動産それ自体ではなく遺言で配偶者居住権を取得すること、Bさんが不動産を取得すると書かれていたとしましょう。

なお、その場合、配偶者居住権の評価という難しい問題があるのですが、その点は以下のページを御覧ください。

具体例2遺言で、相談者さんが不動産それ自体ではなく配偶者居住権を取得し、Bさんが不動産を取得すると書かれていた場合

配偶者居住権の評価額:1000万円


そうすると、不動産自体の評価額は、1500万円から1000万円を控除した500万円となります。

この場合、Bさんの遺留分は前述のとおり500万円ですが、すでに500万円の不動産を取得しているので、Bさんは遺留分が満たされていることになり、相談者さんはBさんに何も支払う必要がなくなります。

つまり、具体例1の場合と比べて、相談者さんには預貯金500万円が手元に残るのです。

配偶者居住権は、まだ新しい制度であり、まだまだ未知の問題が多くあるので、安易に利用することはおすすめしませんが、場合によっては上記事例のように活用できるものですので、検討は怠らないようにしたいものです。

なお、配偶者居住権にいう「配偶者」は法律婚の配偶者のみと解されています。

そのため、もし相談者さんが事実婚状態のままの場合には、いくら遺言書で配偶者居住権を取得させると書いていても配偶者居住権を取得することはできませんので、その点には注意が必要になります。

 

 

まとめ

遺言の相談について、本人ではなく配偶者やお子さんから相談を受けることが度々あります。

遺言書を書いてもらうためには、前述のとおり遺言書を作成する能力があるか、遺言書を書いた場合に後々紛争にならないかを仔細に検討する必要があります。

これを怠ると、遺言書はあるのに紛争になるという事態が生じます。

それでは遺言書を作成した意味が半減されてしまいます。

また、遺産の額が多い場合には、税金関係も考慮して遺言書を作成する必要があります。

遺言の作成の際には、法律だけではなく、税金や登記といった周辺分野についても精通した弁護士に相談するのが良いでしょう。

▼ご相談の流れについては以下をご覧ください。

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