不当利得返還請求とは?使い込まれた遺産を取り戻す方法を解説


弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

不当利得返還請求とは、法律上の原因なしに不当に利益を得た人に対し、損害を受けた人が利益の返還を請求することです。

相続が発生すると、故人と同居していた相続人による預貯金の使い込みが発覚するケースが少なくありません。

遺産を使い込まれたら、他の相続人は「不当利得返還請求権」を行使して取り戻せる可能性があります。

今回は不当利得返還請求権を行使するための要件や手順をご紹介します。

共同相続人が使い込んだ遺産を返還せずにお困りの方は、参考にしてください。

不当利得返還請求とは

不当利得返還請求とは、ある人が法律上の原因なしに利益を得たときに、損害を受けた人が利益の返還を請求することです。

たとえば、給料として支払われたわけでもないのに従業員が会社のお金を使い込んだら、従業員は不当に利益を得ている状態になります。

会社は損失を被っているので、従業員へ不当利得返還請求権を行使して横領されたお金を取り戻せます。

消費者金融やクレジットカード会社に払いすぎた利息を取り戻す「過払い金請求」も不当利得返還請求の一例です。

遺産を使い込んだ相続人には、通常「法定相続分を超える部分」を取得する法律上の権限がありません。

そこで他の相続人は、使い込んだ相続人に対して不当利得返還請求権を行使し、法定相続分を超える遺産の返還を請求できます。

 

 

不当利得返還請求の要件

不当利得返還請求権が発生するには以下の要件を満たさねばなりません。

相手が利益を受けている

相手が何らかの「利益」を得ている必要があります。

遺産使い込みの場合、預金や保険解約金などを自分のものにしたことが「利益」です。

 

法律上の原因がない

相手の利益に「法律上の原因がない」ことが2つ目の要件です。

たとえば相手が「売買によって取得した、代金も払った」「贈与を受けた」などと主張する場合、売買や贈与は「法律上の原因」となるので、相手の言い分が認められたら不当利得返還請求はできません。

遺産を返還させるには、売買や贈与などの「法律上の原因」がなかったことを明らかにする必要があります。

 

損失が発生している

不当利得の返還を請求するには、請求者に損失が発生していなければなりません。

相手が不正に利益を得ていても、損失がなければ「返還」する理由がないからです。

遺産を使い込まれたら他の共同相続人は適正な遺産を相続できなくなるので、損失が発生します。

 

利益と損失の間に因果関係がある

相手の利益と請求者の損失との間に「因果関係」が必要です。

相手の利益とは無関係にこちらが損失を被っていても、不当利得返還請求はできません。

遺産を使い込まれた場合、相手が不正に使い込みによる利益を得たことによって共同相続人に損失が発生するので、因果関係が認められます。

根拠条文
(不当利得の返還義務)
第七百三条  法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

引用元:民法|e-Gov法令検索

 

 

不当利得返還請求権の時効

不当利得返還請求権には次の「時効」があります(民法166条1項)。

  1. ① 請求できることを知ったときから5年
  2. ② 請求できるときから10年

不当利得返還請求権の時効

参考:民法|eーGOV法令検索

遺産を使い込まれたと知ったら基本的に5年で時効となるので、早めに対応しなければなりません。

②は、遺産を使い込まれたことを知らなかったとしても、不当利得から10年が経つと時効が成立するということを意味しています。

①か②のいずれかの時効が成立すると、使い込まれた遺産を取り戻せなくなってしまう可能性が高くなります。

なお、時効の成立が間近な場合は内容証明郵便で請求すると6ヶ月間時効を延長できます。

また、訴訟を起こせば時効を止めることができます。

急ぎの際には、これらの対応を弁護士に依頼しましょう。

 

 

不当利得返還請求で取り戻せる範囲と取り戻せない範囲

不当利得返還請求で取り戻せる範囲

不当利得返還請求で取り戻せる範囲は基本的に「現存利益」

不当利得返還請求で取り戻せる範囲は、基本的に「現在残っている利益」の限度となります(民法703条)。

たとえば、請求するまでに相手がギャンブルなどで使い込んでしまっていたら、その分は返してもらえない可能性があります。

 

不当利得返還請求で取り戻せる範囲

 

ワンポイント:現存利益とは?

現存利益には、財産が積極的に増加する場合のほか、消極的に当然生ずべき財産の減少を免れた分も含みます。

例えば、相手が生活費に消費したような場合は、それにより自分の財産の減少を免れているので、現存利益があります。

 

相手が悪意の場合は全額取り戻せる

悪意とは「自分には利得を得る権利がなく、他者へ損失を発生させる」と認識している状態です。

この場合、相手に対し、現存利益だけでなく、全額に利息を加えて請求することが可能です(民法704条)。

遺産の使い込みのケースでは、使い込みの時期や態様にもよりますが、相手が悪意のケースも多いでしょう。

その場合には遺産の全額に利息をプラスして返還請求が可能となります。

 

ワンポイント:不当利得の利息とは?

現在、利息は年3パーセントとなっています。

この利息は、法律により定められる利率であり、法定利率と呼ばれています(民法404条)。

法定利率は変動制となっており、3年に1度改められることになっています(民法第404条第3項)。

 

不当利得返還請求で取り戻せない範囲

使い込まれている場合は取り戻せない可能性がある

上で解説したように、相手が悪意で限り、現存利益が存在しない場合、取り戻せない可能性があります。

なお、現存利益がないケースの場合、不法行為に基づく損害賠償請求ができる可能性があります(民法709条)。

参考:民法|eーGOV法令検索

 

5年の時効の完成により取り戻せない可能性がある

また、不当利得には時効があります。

すなわち、不当利得返還請求ができることを知ったときから5年が経過している場合、相手から時効を主張されると取り戻すことができません。

また、遺産の使い込みを知らなかった場合でも、請求できるときから10年が経過していると、同様に取り戻すことができない可能性があります。

 

 

不当利得返還請求で使い込まれた遺産を取り戻せるケースの典型

ここでは、不当利得返還請求によって使い込まれた遺産を取り戻せる具体例について、紹介します。

被相続人名義の預貯金を使い込む

被相続人の預貯金の使い込みは、最もご相談が多く、不当利得返還請求の対象となる典型例です。

このタイプは、被相続人と同居している親族による使い込みが多いです。

同居している親族が被相続人の預貯金の通帳・銀行員やキャッシュカードを使って、銀行窓口又はATMから預貯金を引き出すのです。

被相続人の同意がなく、私的な目的で預貯金を使い込んでいる場合は、その全額の返還請求を検討しましょう。

 

被相続人が自宅に置いていた現金を使い込む

被相続人と同居している親族が被相続人の現金を使い込むのが典型例です。

親族のほか、介護職員やヘルパーなどによる使い込みもあります。

被相続人が銀行にお金を預けずに、タンス預金をしている場合、返還請求額が高額になる傾向です。

 

保険を勝手に解約して解約返戻金を使い込む

被相続人が生前契約していた保険を勝手に解約し、その解約返戻金を使い込むというケースです。

勝手に使い込んだ解約返戻金の全額の請求をしていくこととなります。

 

株式を勝手に売却して売却金を使い込む

被相続人が保有している株式を勝手に売却し、そのお金を使い込むというケースです。

使い込んだ売却代金の全額の請求をしていくこととなります。

 

不動産を勝手に売却して売却金を使い込む

同居している親族が被相続人の実印を利用して、被相続人名義の不動産を売却することがあります。

この場合、使い込んだ不動産の売却代金全額に対して、返還請求を行います。

 

相続財産である不動産から発生した賃料を使い込む

被相続人名義の不動産で、その賃料収入がある場合に、支払われた賃料を被相続人に無断で使い込むというケースです。

賃借人が支払った賃料が入金されているを預貯金の口座から勝手に引き出すというパターンと、賃借人から直接賃料を受け取るというパターンがあります。

 

不当利得返還請求の手順

遺産を使い込まれて不当利得返還請求によって取り戻す手順は以下の通りです。

 

不当利得返還請求の手順

 

STEP1 不当利得の額を計算する

証拠を集めて内容を検討し、相手方による使い込み額(不当利得の額)を計算する必要があります。

預金の取引履歴などの資料を分析して、正確に算定するために、専門の弁護士へご相談されるとよいでしょう。

なお、証拠資料が相手の手元にある場合、弁護士を通じて、相手に資料の開示を求める場合もあります。

 

STEP2 相手に不当利得返還請求をする

証拠集めと使い込み額の計算が終わったら、使い込んだ相続人へ不当利得返還請求の通知をします。

相手との関係にもよりますが、争われる可能性が高いなら内容証明郵便を使って請求書を送るとよいでしょう。

弁護士名で内容証明郵便を送ると、相手により強いプレッシャーをかける効果があります。

 

STEP3 話し合う

不当利得返還請求の通知を送ったら、相手と話し合いましょう。

いくらをどのような方法で返還するのかを決定する必要があります。

弁護士に依頼されている場合、弁護士が依頼人に代わって相手と直接交渉することになります。

 

STEP4 合意書を作成して支払いを受ける

合意ができたら、内容を「合意書」にまとめましょう。

口頭では約束が守られないリスクが高くなるので、いつまでにいくらをどの相続人へ支払うのか、書面で明確にする必要があります。

特に分割払いにするなら「公正証書」を作成するようお勧めします。

公正証書があれば、相手が不払いを起こしたときに相手名義の預貯金や不動産などの資産を差し押さえて回収できるからです。

相手にプレッシャーがかかるので、不払いが生じにくくなる効果も期待できます。

なお、合意書や公正証書については後日のトラブルを防止するために、相続専門の弁護士に作成をサポートしてもらとよいでしょう。

 

STEP5 訴訟を起こす

相手と話し合っても合意できない場合には、裁判所で「不当利得返還請求訴訟」を起こさねばなりません。

訴訟手続内で相手による不当利得(法律上の原因のない遺産使い込み)を証明できれば、裁判所が相手に不当利得の返還命令を出してくれます。

相手が判決に従わない場合、強制執行(差し押さえ)によって回収することも可能です。

 

 

不当利得返還請求に必要な証拠

不当利得返還請求によって使い込まれた遺産を取り戻そうとすると、相手から反論されるケースがほとんどです。

反論を崩して支払わせるためには、以下のような証拠が必要です。

 

預貯金通帳、取引履歴、定額貯金の解約請求書の写し

預金を使い込まれた場合、預貯金通帳や取引履歴、定額貯金の解約請求書の写しなどを集めましょう。

内容を分析し、使い込みの有無や金額を調べる必要があります。

たとえば、故人の生活費に必要な範囲を超えて高額な出金をされていたら、相手が使い込んだ可能性が高いといえるでしょう。

相手に使途の説明を求め返答に窮するようであれば預金の返還を強く求められますし、裁判で争う材料にもなります。

また、定額貯金が解約された場合、解約請求書に書かれた署名が故人ではなく相続人のものであれば、相手が勝手に解約した蓋然性が高いといえるでしょう。

被相続人名義の預金取引履歴は、相続人が金融機関に申請すれば発行してもらえます。

ゆうちょ銀行の場合、相続人が申請すれば定額貯金の解約請求書の写しを発行してもらえるケースがあるので、戸籍謄本など「相続人であることがわかる資料」をもって金融機関へ相談してみましょう。

 

カルテ、診断書などの医療に関する資料

不当利得返還請求をすると、相手からは「本人が自分で預金を出金した」「本人が保険を解約した」などと反論されるケースがよくあります。

その場合、カルテや診断書などの医療関係の資料を集めましょう。

当時被相続人の状態が悪く認知症が進行していた事実や入院していた事実などが判明したら、本人の手による出金や解約が難しいので相手の主張を崩せます。

相続人が医療機関に情報開示請求をしたらカルテや看護記録などの診療記録を交付してもらえるので、申請してみてください。

 

介護日誌、要介護認定の記録など介護関係の資料

被相続人が介護を受けていた場合には、介護に関する記録も役に立ちます。

たとえば、介護日誌をみると、被相続人の認知症が進行していたため到底自分では財産管理できなかった事実を証明できる可能性があります。

要介護認定を受けたときの記録も当時の被相続人の状態を証明する資料となります。

介護記録は介護事業所へ、要介護認定の記録は役所へ申請してみましょう。

 

介護や葬儀に関する領収証

預金の使い込みを指摘すると「介護や葬儀に使った」と反論されるケースも少なくありません。

その場合には、介護や葬儀に関する費用の領収証の提示を求めましょう。

相手の使い込んだ金額と領収証の金額が合致しない場合、不当利得になる可能性があります。

 

相手から「贈与された」「売買した」と反論された場合の対処方法

不当利得返還請求をすると、相手から「被相続人から贈与を受けた」「売買によって購入した」などと反論されるケースもあります。

その場合、相手に「贈与契約書」や「売買契約書」「売買代金の領収証」などの提示を求めましょう。

相手が証拠を提示できないなら、反論は認められず遺産を取り戻せる可能性が高くなります。

 

 

相続開始後の使い込みは遺産分割でも解決できる

遺産を使い込まれたとき、「使い込みの時期」によって対応方法が変わる可能性があります。

法改正によって「相続開始前」と「相続開始後」の取り扱いが変更されたので、以下で詳しくみていきましょう。

法改正前の取り扱い

近年、使い込まれた遺産の取り戻し方法について民法の改正がありました。

法改正前は、相続開始前の使い込みも相続開始後の使い込みも「遺産分割協議」では解決できず、不当利得返還請求または不法行為にもとづく損害賠償請求をしなければなりませんでした。

遺産分割協議で解決できるのは、使い込んだ本人が合意した場合に限られていたのです。

しかし相続人たちにとっては、遺産分割協議で1回的に解決できた方が簡便です。

そこで法改正が行われて取り扱いが一部、変更されました。

 

法改正後は遺産分割で解決できるように

法改正により「相続開始後の使い込み」に関しては、使い込んだ相続人の同意がなくても「遺産分割協議(調停、審判)」で解決できるようになりました。

改正法が適用される場合、被相続人が死亡してから共同相続人が預金などを使い込んだ場合、わざわざ不当利得返還請求をする必要はありません。

遺産分割協議の中で返還請求をしたり相手の取得遺産額を減額調整したりして、解決できます。

 

改正法の施行時期

改正法が施行されたのは「2019年7月1日」です。それ以降に相続が発生した「使い込みが被相続人の死亡後」であれば不当利得返還請求を行う必要はありません。

遺産分割協議で話し合い、解決できなければ家庭裁判所へ遺産分割調停を申し立てるとよいでしょう。

ただし、改正法の施行後も「相続開始前(被相続人の死亡前)の使い込み」に対しては不当利得返還請求が必要です。

また相続開始前から相続開始後にかけて継続的に預金の不正出金が続いている場合などには、まとめて不当利得返還請求によって遺産を取り戻す方法も検討可能です。

 

 

法定相続分までの出金は不当利得にならない

相続発生後に特定の相続人が預金を出金しても、必ず法律上の原因のない不正出金となるわけではありません。

それぞれの相続人には「法定相続分」まで預金を取得する権利が認められるからです。

また法改正により、相続人は遺産分割前であっても1つの金融機関につき「法定相続分の3分の1または150万円の少ない額」までは預金の仮払いを受けられる制度が作られました。

さらに家庭裁判所へ仮処分の申立をすれば「法定相続分まで」の仮払いが認められる可能性もあります。

このように、法定相続分までの出金には法律上の原因があるので不当利得になりません。

不当利得返還請求によって取り戻せるのは「法定相続分を超えた出金額」のみなので、押さえておきましょう。

 

 

不当利得返還請求を弁護士に依頼するメリット

不当利得返還請求によって遺産を取り戻すには、事前にしっかり証拠集めをして使い込まれた遺産の金額を計算し、相手と交渉しなければなりません。

相手が使い込みを認めないため、訴訟になるケースも多々あります。

ご自身で対応するとトラブルが大きくなりやすく、解決は困難となるでしょう。

弁護士に依頼すれば証拠集めや利得金の計算、交渉、訴訟などすべての対応を一任できます。

有利に解決できる可能性が高くなり、ストレスもかかりません。

そのため、不当利得の問題でお困りの方は相続問題に強い弁護士に相談されることをお勧めいたします。

 

 

まとめ

以上、不当利得返還請求について、意味、要件、時効、請求の手順等をくわしく解説しましたが、いかがだったでしょうか。

相続が発生すると、故人と同居していた相続人による預貯金等の遺産の使い込みが発覚するケースがあります。

遺産が使い込まれていたら、不当利得返還請求権を行使して取り戻せる可能性があります。

しかし、不当利得返還請求ができるか否か、できるとしていくら請求できるのか、などを適切に判断するためには法律に関する専門知識が必要です。

また、相続の際に不当利得の返還請求を的確に実現するためには、相続に関する豊富な経験やノウハウも必要と思われます。

そのため、相続問題で、不当利得返還請求を検討されている方は、相続に強い弁護士に相談なさることをお勧めいたします。

 

 


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