遺留分権利者とは、①配偶者、②子又は子の代襲相続人(孫など)、③直系尊属(親、祖父母など)です。
兄弟姉妹は遺留分権利者ではないので注意が必要です。
遺留分は、相続人に対して最低限認められている遺産の取得分であり、遺産相続において重大な影響を及ぼします。
この記事では、遺留分を得られる「遺留分権利者」のことや遺留分の計算方法などについて、わかりやすく解説していきます。
ぜひ参考になさってください。
目次
遺留分権利者とは
遺留分(いりゅうぶん)とは、亡くなった方(法律では、「被相続人」(ひそうぞくにん)といいます。)の遺した財産(相続財産)のうち、一定の相続人に確保されている持分割合のことです。
そして、遺留分権利者とは、この遺留分を有している相続人のことです。
遺留分は、被相続人が自分の財産を死後どのように処分するか決める自由を一部制限する制度です。
たとえば、亡くなった被相続人が遺言で、「遺産はすべて愛人(又は何人かの子のうちの一人だけ)に遺贈する」と書き残していたとします。
原則としては、被相続人は自分の財産を自由に処分できます。
それは自分の死後についてでも同じことなので、このような遺言を残すことも一応は自由です。
でも、全面的にその自由を認めると、被相続人の財産(家、預貯金など)で生活していたご遺族が生活に困ったり、ご遺族のこれまでの被相続人への貢献が無にされたり、相続人間で不公平が生じたりと困ったことが起こってきます。
こうした不都合を解消するため、遺留分の制度が設けられています。
遺留分権利者であれば、遺言で遺産をもらった人に対して、
「自分には遺留分があるのだから、その分をお金で支払って」
と主張することができるのです。
遺留分権利者になる人とは?
配偶者、子・孫等、直系尊属
民法は、遺留分権利者について、「兄弟姉妹以外の相続人」は遺留分を有すると定めています(民法1042条1項)。
兄弟姉妹以外で相続人となりうるのは、
- 配偶者(妻や夫)
- 子(亡くなっているときは孫など)
- 親(亡くなっているときは祖父母など)
です(民法887条、889条、890条)。
これらの人が相続人となった場合は、遺留分権利者となります。
被相続人が死亡する以前に子が亡くなっていた場合、その亡くなった子の子(被相続人の孫)が相続人になります(代襲相続〔だいしゅうそうぞく〕といいます。)。
その孫も亡くなっていた場合は、さらその亡くなった孫の子(被相続人のひ孫)が再代襲相続する、といった具合に続きます。(民法887条2項、3項)。
こうして相続人となった孫やひ孫も、「兄弟姉妹以外の相続人」ですので、遺留分権利者です。
第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。
引用元:民法|電子政府の窓口
お腹の子(胎児)に遺留分ある?
被相続人が亡くなった時点でまだ生まれていなかった子(胎児)は、相続に関する場面では既に生まれたものとして扱われますので、相続人となることができ、遺留分権利者にもなります(民法886条)。
ただし、残念ながら生きて生まれることがなかった場合は、初めから相続人でなかったこととなり(民法886条2項)、遺留分も認められません。
相続欠格、廃除となった者の子(「代襲相続人」(だいしゅうそうぞくにん)といいます。)に遺留分はある?
相続欠格について
相続欠格となる事由があると、本来相続人となるはずだった人でも相続人になることができなくなります。
欠格事由は、法律で以下のように定められています(民法891条)。
2 被相続人が殺害されたことを知って、告発・告訴しなかった者
3 詐欺・脅迫によって、被相続人が相続に関する遺言をすることや、遺言の撤回や変更をすることを妨げた者
4 詐欺・脅迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせたり、遺言を撤回・変更させたりした者
5 相続に関する被相続人の遺言書を偽造・変造し、又は破棄・隠匿した者
こうしたことをした本人は、相続欠格となり、相続人となることができなくなります。当然遺留分もありません。
相続人の廃除について
相続人の廃除という制度もあります(民法892条)。
遺留分を有する推定相続人(被相続人が亡くなって相続が開始した場合に相続人となる人のことです。)が被相続人に対して虐待や重大な侮辱を加えたときや、著しい非行をしたときは、被相続人は、家庭裁判所に推定相続人の廃除を請求することができます。
廃除の審判が出ると、廃除された推定相続人は相続人になることができなくなり、遺留分もなくなります。
しかし、相続欠格や廃除によって相続人になれなくなるのは本人だけです。
推定相続人が相続欠格や廃除で相続人となれなくなったときは、代襲相続が発生し、その人の子が相続人となります。
この場合、遺留分も得られますので、遺留分権利者となれます。
まとめ:相続欠格や廃除と遺留分
相続欠格 | 相続廃除 | |
---|---|---|
本人 | × 遺留分なし | × 遺留分なし |
子ども | ◯ 遺留分有り | ◯ 遺留分有り |
遺留分権利者にならない人は?
兄弟姉妹
兄弟姉妹は、相続人となっても遺留分が認められず、遺留分権利者にはなれません。
また、兄弟姉妹を代襲相続したおい・めいも、同じく遺留分権利者ではありません。
相続欠格、廃除、相続放棄
相続欠格となる事由がある人、廃除された人、相続放棄をした人は、相続人になれず、遺留分権利者にもなれません。
相続放棄をした人の子
相続放棄をした場合、代襲相続はなく、相続放棄をした人の子は相続人になれないので、遺留分もありません。
相続欠格や廃除の場合とは違いますので、注意してください。
遺留分権利者にならない人 | |
---|---|
兄弟姉妹 | 遺留分なし |
相続欠格の事由がある人 相続廃除された人 相続放棄をした人 |
|
相続放棄をした人の子供 |
各相続人の遺留分の割合【早見表】
計算方法
総体的遺留分
相続人の実際の遺留分を算定するときには、まず、相続財産全体の中で遺留分権利者に留保される割合(「総体的遺留分」といいます。)を考える必要があります。
これは民法1042条1項に定められており、下の表のとおりとなっています。
相続人 | 総体的遺留分 |
---|---|
直系尊属(親や祖父母)のみが相続人である場合 | 1/3 |
それ以外の場合 | 1/2 |
この総体的遺留分は、いわば「遺留分権利者全員分の遺留分の合計」です。
これを、1人1人の遺留分権利者に分けていくことになります。
分けていくことによって導き出される「1人1人の遺留分権利者が有する相続財産上の持分的割合」を個別的遺留分といいます。
個別的遺留分の計算
遺留分権利者が一人しかいないときは、総体的遺留分全てが、その遺留分権利者の個別的遺留分となります。
遺留分権利者が複数いる場合には、1人1人の相続人に個別的遺留分を分けていくことになります。
遺留分は、法定相続分の割合で分けられます。
計算式は、
(個別的遺留分)=(総体的遺留分)×(法定相続分)
となります(民法1042条2項)。
遺留分権利者の法定相続分は、下の表のとおりです(民法900条)。
相続人 | 法定相続分 |
---|---|
子と配偶者 | 配偶者:1/2 子:1/2 |
配偶者と直系尊属(親など) | 配偶者:2/3 |
直系尊属:1/3 |
※子、直系尊属が複数いるときは、上の表の子、直系尊属の法定相続分をその人数で割ったものが、1人分の法定相続分となります。
※兄弟姉妹は、遺留分権利者とはなりえないので記載していません。
第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。
引用元:民法|電子政府の窓口
早見表
各相続人の個別的遺留分を計算式によって計算すると、以下の表のとおりとなります。
誰が相続人となるかの組み合わせによって、遺留分が変わることがあるので、注意してください。
相続人 | 個別的遺留分 | ||
---|---|---|---|
配偶者 | 子 | 直系尊属 | |
配偶者のみ | 1/2 | – | – |
配偶者と子 | 1/4 | 1/4 | – |
子のみ | – | 1/2 | – |
配偶者と直系尊属 | 1/3 | – | 1/6 |
直系尊属のみ | – | – | 1/3 |
配偶者と兄弟姉妹 | 1/2 *兄弟姉妹にはなし |
– | – |
子、直系尊属が複数いるときは、子、直系尊属の遺留分をその人数で割ったものが、1人分の遺留分となります。
具体例 子2人のみが相続人の場合
1人分の遺留分 1/2 ÷ 2 = 1/4
遺留分の計算方法〜わかりやすい具体例付き〜
計算式
実際の遺留分の金額は、
(基礎財産)×(一人分の遺留分 = 個別的遺留分)
で計算できます。
基礎財産は、
(被相続人が相続開始の時において有した財産の価額)+(贈与財産の価額)-(相続債務の全額)
で計算できます。
詳しくは、以下のページを参照してください。
具体例
具体例を見ながら解説します。
Aさんが亡くなり、相続が開始しました。
亡くなった時点でのAさんの財産は、3000万円でした。
このとき、相続人の組み合わせごとに、1人1人の相続人の遺留分の金額を計算すると、次のようになります。
状況 | 遺留分類 |
---|---|
妻Bのみがいた場合 | 妻B:3000万円 × 1/2 = 1500万円 |
妻B、子Cがいた場合 | 妻B:3000万円 × 1/4 = 750万円 子C:3000万円 × 1/4 = 750万円 |
妻B、子C、Dがいた場合 | 妻B:3000万円 × 1/4 = 750万円 子C:3000万円 × 1/4 ÷ 2 = 375万円 子D:3000万円 × 1/4 ÷ 2 = 375万円 |
子C、Dがいた場合 | 子C:3000万円 × 1/2 ÷2 = 750万円 子D:3000万円 × 1/2 ÷2 = 750万円 |
妻B、父E、母Fがいた場合 | 妻B:3000万円 × 1/3 = 1000万円 父E:3000万円 × 1/6 ÷2 = 250万円 母F:3000万円 × 1/6 ÷2 = 250万円 |
父Eがいた場合 | 父E:3000万円 × 1/3 = 1000万円 |
父E、母Fがいた場合 | 父E:3000万円 × 1/3 ÷2 = 500万円 母F:3000万円 × 1/3 ÷2 = 500万円 |
妻B、兄Gがいた場合 | 妻B:3000万円 × 1/2 = 1500万円 兄G:なし |
当サイトには、簡単に遺留分の計算ができる遺留分計算シミュレーターがあります。
下のリンクから、ぜひご活用ください。
遺留分を自動計算機で簡単に計算!
遺留分は一般の方が自分で計算するのは大変です。
当事務所は、遺留分の概算額をシミュレーションできる計算機をWEB上に掲載しており、誰でも無料で使用できます。
遺留分を請求する方法
遺留分侵害額請求権を行使する意思表示をする
被相続人の遺言などにより、自分の遺留分を下回る相続財産しか得られない(遺留分が侵害された)場合、まずは、遺言などで財産をもらった者に対して、遺留分侵害額請求権を行使します。
遺留分侵害額請求権を行使することで、遺留分を侵害された額と同じ金額のお金を支払うよう求める権利(金銭給付請求権)が発生します。
遺留分侵害額請求権を行使する際は、相手方に対し、「遺留分侵害額請求権を行使する」という意思表示をしなければなりません。
この意思表示をする方法に決まりはなく、一応、口頭でも普通の手紙ででもよいとされています。
ただ、遺留分侵害額請求権を行使できる期間には制限があり、相続が開始したこと(=被相続人が死亡したこと)と遺留分が侵害されていることを知った時から1年間の間に行使しないと、遺留分侵害額請求権は消滅してしまいます(相続が開始したときから10年が経過したときも同様です。)。
この期間の間に遺留分侵害額請求権を行使したことを、はっきりと証拠で示すことができないと、後々困ったことになりかねません。
「遺留分侵害額請求権を行使する」ということを言ったかどうかについて「言った、言わない」の争いになってしまいがちなのです。
「言った」ことが立証できないと、「遺留分侵害額請求権は制限期間内に行使されておらず、もはや消滅した」とされてしまうのです。
権利行使できる期間が原則1年間と短いので、「言った」と認められなかった時になって、「それでは意思表示をし直そう」と思っても、もう手遅れだ・・・ということになってしまいやすいのです。
このようなことにならないように、遺留分侵害額請求権を行使する意思表示は、日付と内容が証拠として残る内容証明郵便によってすることを強くおすすめします。
内容証明郵便の書き方にも、はっきりと遺留分侵害額請求権を行使することを書かなければならないなどといった配慮が必要ですので、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
解決手段
遺留分侵害額請求権を行使する意思表示をした後は、実際の支払金額、支払時期などについて決めていくことになります。
これを決めていく方法には、
- 当事者間の示談交渉
- 遺留分侵害額の請求調停
- 訴訟手続(裁判)
があります。
当事者間の示談交渉
当事者間での示談交渉は、裁判所を通さないため、比較的少ない労力で短期間に問題解決できるといったメリットがあります。
しかし、裁判所が関与しないため、専門的知見に基づいた適切な解決は保障されませんし、相手方が交渉に応じない場合や決裂した場合は解決できません。
遺留分侵害額の請求調停
遺留分侵害額の請求調停は、家庭裁判所の調停を利用して話し合い、当事者間の合意により解決する方法です。
遺留分侵害額請求については、訴訟を提起する前に、必ず家庭裁判所での調停をしなければなりません(調停前置主義といいます。家事手続法257条)。
当事者のみでの話し合いでは解決が難しい場合、裁判所の調停委員が間に入ってくれることで、事態を打開できる可能性があります。
しかし、一般に調停手続は長期間かかる傾向があり、相当な労力を要します。
訴訟手続(裁判)
調停でも解決できなかった場合、訴訟を提起して裁判をすることになります。
裁判となれば、最終的には裁判所が判決を下して、遺留分侵害額や支払時期を定めることになります。
当事者間での合意ができなくとも、裁判所によって結論が出されるわけです。
しかし、調停と同様、一般に長期間を要しますし、手続が複雑で、専門的知識が必要となります。
詳しくは、以下のページを参照してください。
弁護士による代理交渉
当事務所では、遺留分の問題を解決する際、「弁護士による代理交渉」という方法をご提案することが多いです。
これは、弁護士が依頼者の代理人となって、直接相手(他の相続人やその弁護士)と交渉し、話し合いによる解決を目指す方法です。
この方法は、裁判所の手続きを利用することによるデメリット(解決まで長期間を要すること、労力がかかること)や示談交渉のデメリット(専門家が関与していないことによるリスク)を回避することができます。
まずは代理交渉を試してみて、話し合いにならない場合に調停等の手続を選択されると良いでしょう。
遺留分を放棄する・放棄させることはできる?
遺留分権利者は、遺留分の放棄もできます。
被相続人から遺留分権利者となる人に依頼して、遺留分を放棄してもらうこともできます。
被相続人となるべき人がご存命の間に遺留分を放棄することもできますが、それには、家庭裁判所の許可を得なければなりません(民法1049条1項)。
家庭裁判所は、①申立てが真意に基づくか、②申立てが戦前の家督相続のような単独相続の強制にならないか、③放棄に対して相応の代償が得られているかといった点を審理して、許可するかどうかを判断します。
遺留分放棄の許可の申立て方法、書式などについては、遺留分放棄の許可 | 裁判所 が参考になります。
被相続人が亡くなって相続が開始した後であれば、遺留分の放棄に家庭裁判所の許可は不要です。
なお、一部の相続人が遺留分を放棄したからといって、他の共同相続人の遺留分が増えることはありません(民法1049条2項)。
まとめ
以上、遺留分権利者はだれか、遺留分の計算方法などについて解説しました。
遺留分は、実際の金額を計算する際には、何が基礎財産となるかなどに複雑な問題が多くあります。
遺留分侵害額請求をするときも、法律的に効力のある内容で内容証明郵便を出すなどしなければならず、専門的知識が必要となってきます。
遺留分に関する問題が生じたときは、一度弁護士に相談することをお勧めします。