不動産を生前贈与すべき?メリット・税金の計算や必要書類も解説


弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

生前に不動産を贈与することで、相続人が支払う相続税を節税できる場合があり、このようなケースでは生前贈与を検討したほうが良いでしょう。

ここでは、不動産を生前贈与するメリットやデメリット、生前贈与を検討すべきケース、税金の計算方法や必要書類について、税理士資格を持つ弁護士が解説いたします。

ぜひ参考になさってください。

不動産の生前贈与とは?

不動産の生前贈与とは、ある方が所有する不動産を、生前に、別の方に無償で譲渡することをいいます。

あなたのお子さんなどの推定相続人に、あなたの不動産を取得させる方法としては、

  1. ① 生前贈与する、
  2. ② 死因贈与する(あなたが亡くなった際に、推定相続人に不動産を譲渡するとの契約を締結する)、
  3. ③ 推定相続人に不動産を相続させる遺言書を作成する、
  4. ④ あなたが亡くなった後、法定相続分に従って、又は遺産分割協議を行って合意することにより、相続人があなたの不動産を相続する、

などの方法があります。

それぞれの方法にメリット・デメリットがありますが、場合によっては、あなたが亡くなった後、遺言書や相続などにより不動産を取得させるよりも、不動産の生前贈与を行った方が、推定相続人が納めるべき税金を減らすことができる場合があります。

つまり、不動産の生前贈与は、節税対策として使える場合がある、ということです。

この点について、以下、説明していきます。

 

 

不動産を生前贈与するメリット・デメリット

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  • ケースによっては節税できる
  • 不動産を引き継ぎたい相手に確実に残せる
    • 節税効果の判断が難しい
    • 気が変わったときに贈与を取り消せない

 

不動産の生前贈与のメリット

一般的に贈与税のほうが相続税よりも割高です。

そうすると、生前贈与は節税につながらないようにも思えます。

しかし、後で解説するように、不動産の生前贈与は、①将来値上がりすることが確実に見込まれる不動産がある場合、②高収益の賃貸不動産がある場合に節税効果が見込まれます。

また、相続の場合、最終的にその不動産を誰が取得するのかは不確定となります。

生前贈与であれば、不動産所有者が元気なうちに、取得させたい者に対して確実に引き継ぐことができます。

 

不動産の生前贈与のデメリット

不動産を生前贈与すると、後で解説するように不動産取得税や登記の登録免許税が相続の場合よりも多くかかることになります。

税金の計算は一般の方には難しいため節税効果があるかどうかの判断が難しいという問題があります。

また、一度不動産を贈与すると、万一、後になってその贈与を取り消したいと思っても、基本的にはできません。

したがって、不動産の生前贈与は慎重に判断したほうが良いでしょう。

なお、不動産を贈与した場合には、不動産を受け取ったほう(受贈者)に贈与税がかかるため、その納税資金を用意する必要があります。

受贈者が納税できない場合には、不動産を贈与した人が連帯納付義務を負っているため、贈与した上に税金まで支払わなければならないこともあります。

 

 

不動産を生前贈与したほうがいい場合とは?

それでは、どのような場合に、不動産を生前贈与した方がいいのでしょうか。

具体的には、以下の4つのケースが考えられます。

 

ケース①:将来値上がりすることが確実に見込まれる不動産がある場合

1つ目は、将来値上がりすることが確実に見込まれる不動産がある場合です。

将来値上がりすることが確実に見込まれる不動産とは、具体的には、

  1. ① 新たな駅の設置予定がある、新たな開発計画があるなどの事情により、将来利便性が増すことが確実のため、地価が上昇することが予想される場合、
  2. ② 現在は、市街化を抑制すべき市街化調整区域に指定されているが、将来、市街化区域に編入される可能性が高い場合、
  3. ③ 不動産の相続税評価額について、現在は倍率方式によって低く評価されているが、将来、路線価方式に変更され、評価額が増額する可能性が高い場合、

などがあげられます。

この場合、不動産が値上がりした時点で相続を行って、相続税の税率に従って相続税を収めるよりも、

  1. ① 値上がりする前に不動産を生前贈与し、通常の贈与税の税率に従って贈与税を納めるか、
  2. ② 値上がりする前に不動産を生前贈与し、相続時精算課税制度を利用する、

のどちらかの方法を取ることにより、納付税額を抑えることができることがあります。

相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の子・孫への生前贈与について、贈与時には贈与財産に対する軽減された贈与税を支払い、その後相続時に、その贈与財産とその他の相続財産を合計した価額を基に計算した相続税額から、既に支払った贈与税額を控除する、という制度です。

この制度の具体的なメリットは、①2500万円までの贈与には贈与税がかからない、②贈与額が2500万円を超えた場合、超えた額に対して一律20%の贈与税が課税されるにとどまる、というところにあります。

なお、相続時精算課税制度を利用することができるかどうか、相続時精算課税制度を利用することで実際に節税となるかどうかは、具体的な事実の下で正確に判断する必要がありますので、専門家にご相談いただいた方がよいでしょう。

 

ケース②:高収益の賃貸不動産がある場合

2つ目は、高収益の賃貸不動産がある場合です。

不動産の賃料収入がある場合、生前贈与をしないと、その収入があなたの資産として蓄積されていき、相続時に、その資産に相続税が課されることになります。

しかし、その不動産を、お子さんなどの推定相続人に対して生前贈与しておけば、その後は、推定相続人が賃料収入を得ることになります。

そうすると、

  1. ① 賃料収入はあなたの相続財産ではありませんので、あなたの相続が発生しても相続税がかからない上、
  2. ② 推定相続人からすると、賃料収入を得ることで、将来相続税を収めるための納税資金を準備することができます。

このように、高収益の賃貸不動産を生前贈与することには、節税対策上、大きなメリットを得ることができる場合があります。

 

ケース③:そもそも生前贈与の必要性がきわめて高い場合

3つ目は、そもそも生前贈与の必要性がきわめて高い場合です。

具体的には、

  1. ① あなたの不動産を生活の本拠として欲しがっている親族がいて、早めに不動産を贈与してあげたい場合、
  2. ② あなたの死期が迫っていて、早めに特定の誰かに不動産を贈与したい場合、

このような場合、いずれにしても、相続を待たずに、必要なタイミングで生前贈与を行う必要があります。

その際、節税対策として、相続時精算課税制度を利用するなどの方法が取れないか、専門家にご相談いただいた方がよいでしょう。

 

ケース④:確実に贈与者の意思を反映させる相続を行いたい場合

4つ目は、確実に贈与者の意思を反映させる相続を行いたい場合です。

例えば、①あなたが会社経営者や個人事業主であり、株式や事業用資産を特定の誰かに承継させたい場合には、相続を待つのではなく、生前贈与により、あらかじめ株式や事業用資産を承継させておいた方がよいでしょう。

株式や事業用資産を残して相続が起きた場合、遺産分割が複雑化して、解決が困難となる場合がまま見られます。

株式や事業用資産の遺産分割が解決できない状態が長期化すると、会社や事業の遂行に著しい支障をきたすことが予想されます。

あらかじめ、株式や事業用資産を特定の承継者に生前贈与させておけば、このような事態を避けることができます。

また、②推定相続人間の対立が深いなどの事情のため、あなたの相続が起きた場合に、遺産分割をめぐってトラブルが発生することが予想される場合にも、生前贈与が役に立つことがあります。

例えば、ある推定相続人に特定の不動産を生前贈与し、その代わり、他の推定相続人に預金・有価証券などを生前贈与するなどの方法で、あらかじめ相続財産を減らしておくことで、将来の争いの種を減らせる場合があります。

 

 

不動産の生前贈与には税金がかかる

贈与税の具体的な計算方法は?

不動産の生前贈与には、基本的に贈与税がかかります。

贈与税は、以下の計算式によって算出します。

計算式 贈与税額  =(その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与によりもらった財産の価額の合計 – 基礎控除額110万円)×  贈与税率 – 控除額

贈与税率と控除額は、贈与が「特例贈与」に該当するか、「一般贈与」に該当するか、いずれかによって数字が変わってきます。

「特例贈与」とは、直系尊属(祖父母や父母など)から、その年の1月1日において18歳以上の者(子・孫など)に贈与する場合です。

そして、「一般贈与」とは、特例贈与財産に該当しないその他の贈与をいい、具体的には、兄弟間の贈与、夫婦間の贈与、親から子への贈与で子が未成年者の場合などが該当します。

同じ贈与額であれば、特例贈与に該当する場合の方が、贈与税率が低く設定されています。

特例贈与・一般贈与のそれぞれの場合の贈与税率・控除額については、以下のウェブサイトの表をご覧ください。

ここで、2つの具体例を挙げて、贈与税の計算をしてみましょう(なお、下記は、相続時精算課税制度を利用しない場合の計算です。)。

1つ目は、特例贈与の場合です。

財産の贈与を受けた年の1月1日現在において18歳以上の子や孫が、父母または祖父母から贈与を受けた場合、この贈与は特例贈与に該当します。

この場合に、1000万円の価額の不動産を生前贈与すると、基礎控除後の課税価格は、1000万円 – 基礎控除110万円 = 890万円です。

この場合、贈与税率は30%、控除額は90万円となりますので、贈与税額は、890万円 × 30% – 90万円 = 177万円となります。

2つ目は、一般贈与の場合です。

直系尊属から贈与を受けたが、受贈者の年齢が財産の贈与を受けた年の1月1日現在において18歳未満の子や孫の場合、この贈与は一般贈与に該当します。

この場合に、1000万円の価額の不動産を生前贈与すると、基礎控除後の課税価格は、1000万円 – 基礎控除110万円 = 890万円です。

この場合、贈与税率は40%、控除額は125万円となりますので、

贈与税額は、890万円 × 40% – 125万円 = 231万円となります。

このように、贈与者と受贈者が誰かによって、特例贈与となるか、一般贈与となるかの違いがあり、贈与税額にも違いが出てくることがお分かりになるかと思います。

そのため、節税対策の観点からは、贈与者と受贈者の親族関係や、贈与の時期についても、慎重に検討する必要があるといえます。

 

納税資金の贈与にもまた贈与税がかかる

現金を贈与した場合には、その現金を納税資金にすることができる一方、不動産を贈与した場合には納税するための現金がないため、問題となります。

不動産を贈与する場合には、不動産をもらった側に贈与税が課税されます。

そして、不動産はある程度高額なものですから、課される贈与税もそれほど安くありません。

そのため、贈与税の支払いのための資金を用意する必要が生じてきます。

受贈者側に納税資金がない場合には、贈与者がその資金を不動産と合わせて提供するということがあります。

贈与者側も連帯納付義務を負うため、納税資金を提供するのは良いのですが、納税資金を提供した場合もその金銭は贈与税の対象となる贈与となることには注意が必要です。

つまり、納税資金の贈与にもまた贈与税がかかるということです。

 

不動産取得税と登記の登録免許税

建物を贈与する場合、贈与税以外の点で注意が必要となります。

配偶者や子どもといった相続人は、相続で当該建物を取得した場合には、不動産取得税は課されず、所有権移転登記をしても登録免許税が安く済みます。

しかし、建物を贈与した場合には、不動産取得税がかかり、登録免許税も相続に比べて多くかかることになってしまいます。

また、建物を新たに購入して贈与するとなると、購入し、贈与した人と、贈与を受けた人の両方に不動産取得税と登録免許税がかかることになってしまいます。

相続の場合と比較して、前述の時価2100万円の物件では、贈与した場合不動産取得税と登録免許税がどのくらい余計にかかるのかを見てみましょう。

不動産取得税

現在、住宅であれば固定資産税評価額の2分の1に3%をかけた額となります。

2100万円 ×(1/2)× 3% = 31.5万円

登録免許税

相続人が相続で建物を得た場合には、固定資産税評価額の0.4%で、通常の贈与の場合には2%となっているので、相続ではなく生前贈与した場合には以下の差額分多く払うこととなります。

2100万円 ×(2 – 0.4%)= 33.6万円

⇒ 時価2100万円の物件の場合、相続で建物を取得した場合よりも贈与のほうが、65.1万円多く税金がかかる

 

親子間の生前贈与も贈与税はかかる?

親子間であっても、評価額が110万円(贈与税の基礎控除額)を超える不動産を生前贈与する場合には、超えた部分に対して贈与税がかかります。

また、親子の共有名義であった不動産を子名義に変更する場合も、不動産の親名義の共有持分を子に生前贈与したことになりますので、親名義部分の共有持分の評価額が110万円を超える場合には、超えた部分に対して贈与税がかかります。

ここで、不動産の生前贈与のケースとは異なりますが、あなたの資金で不動産を建築・購入して、その不動産をお子さんなどに生前贈与する場合よりも、資金を直接お子さんに贈与して、その資金で不動産を建築・購入した方が節税になる場合がありますので、ご参考までに紹介いたします。

具体的には、「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」制度を利用できる場合が、これに該当します。

「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」制度とは、父母や祖父母などから住宅取得のための資金の贈与を受けた場合で、一定の要件を満たすときは、贈与税の申告をすることにより、一定の金額について贈与税が非課税となる制度です。

この制度は、もともと、令和3年12月31日までの住宅取得等資金の贈与について適用可能な制度となっていました。

しかし、令和3年12月10日に発表された税制改正大綱により、令和5年12月31日までの住宅取得等資金の贈与まで、この制度の適用が延長されることが発表されました。

そのため、令和5年の年末までは、まだ上記制度を利用することができることになりましたので、不動産の建築・購入をお考えの方は、この制度の利用を検討されるとよいでしょう。

ただし、住宅取得等資金のため生前贈与を行うと、その贈与は、将来相続が発生した場合の特別受益に該当することになります。

特別受益の額・有無をめぐって、将来の相続時の争いの原因となる場合もありますので、そのような可能性がないかどうか、弁護士にご相談いただいた方がよいでしょう。

なお、「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」制度について、より詳しくは、下記の国税庁のウェブサイトも合わせてご覧ください。

引用元:国税庁|直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税

 

 

不動産の贈与の必要書類について

贈与契約は、法律上は口約束でも成立します(民法549条)。

参考:民法 | e-Gov法令検索

しかし、トラブル防止の観点からは、贈与契約書を作成したほうが良いでしょう。

贈与契約書については、法律上はご自身でも作成できますが、弁護士に作成してもらうとより確実で安心できるでしょう。

 

不動産の名義変更の必要書類

また、名義を変更するために以下の書類が必要となります。

【不動産を贈与する人】

  • 登記識別情報通知(登記済権利証)
  • 印鑑証明書(3か月以内のもの)

【不動産をもらう人】

  • 住民票

【共通】

  • 固定資産評価証明書(名義変更する年度のもの)

 

生前贈与された不動産に3000万円控除を適用できる?

居住用不動産の3000万円の控除とは

不動産を売却する際、その不動産を取得した金額よりも売却代金が高いと利益が出ます。

その利益に対しては、譲渡所得税や住民税という税金が課されます。

この譲渡所得税には一定の条件をクリアすると、3000万円の控除を受けることができる制度があります。

この制度のことを居住用不動産の3000万円控除といいます。

 

生前贈与された不動産でも控除を受けることができる?

節税目的で不動産を生前贈与するのであれば、不動産を取得した者がその不動産を売却するときに、この3000万円の控除を受けることができるのかも押さえておくべきです。

生前贈与された不動産でも、以下の条件をクリアすると、この控除を受けることが可能です。

 

自宅として使用している

又は

今後自宅として使用すること

実際には別荘としてしか使っていない、などのケースはこの控除の対象外となります。

不動産を売却する可能性があり、不動産の値上がりが予想される場合は注意しましょう。

 

まとめ

以上のとおり、不動産の生前贈与は、節税対策として使える場合があり、状況に応じて有効活用すれば、大きな経済的メリットを享受できる場合があります。

もっとも、不動産を生前贈与するにあたっては、相続時精算課税制度等の各種制度を利用することができるか、現実に節税となるかどうかなどを判断するためには、すぐれて専門的な知識が必要となってきます。

そのため、不動産の生前贈与を節税対策として役立てようとお考えの方は、ぜひ、専門家である弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

 

 


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