まずは財産の内容を調査し、調査に時間がかかるようであれば限定承認を検討します。
相続人の選択肢
相続が発生した場合、相続人が被相続人を相続するか否かについて、相続人には、次の3つの選択肢があります。
- ① 単純承認
被相続人の権利義務を全て相続すること - ② 限定承認
相続財産の限度でのみ相続債務等を負うことを留保して相続を承認すること - ③ 相続放棄
相続財産を一切承継しないこと
相続発生時は、上記のいずれの選択肢を取るか、慎重に判断しなければなりません。
なぜ慎重に判断すべきなのか?
日本では法律上、相続はプラスの財産(預貯金など)だけでなく、マイナスの財産(借金)も引き継ぐことになります。
そのため、被相続人(亡くなった方)の借金の内容が不明瞭なケースでは、相続すべきか慎重に判断しなければなりません。
例えば、亡父親の相続において、借金の額が100万円程度と思って、相続したとします。
実際に、蓋を開けてみたところ、借金の合計額が1000万円程度だった場合、大きな誤算となります。
プラスの財産が借金の額を上回っていれば、それほど深刻な問題とはならないでしょう。
しかし、プラスの財産よりも借金の方が額の方が大きいケースでは、相続しない方がよかったと感じるかもしれません。
それどころか、借金の額が高額なケースになると、破産などの債務整理を検討しなければならなくなってしまいます。
「まさか破産をすることになるとは・・・」という事態に陥らないようにするために、借金の存在が疑われるケースでは慎重に対応するようにしましょう。
対応のポイント
では、上記のようなトラブルを避けるためにはどうすればいいでしょうか。
ポイントとなるのは、「借金と遺産を徹底的に調査する」ということです。
借金の調査
借金の有無や内容を調査するためのチェックポイントは以下のとおりです。
預貯金の取引履歴に返済の形跡がないか
被相続人の方の通帳があれば、その記載内容を確認してください。
返済のための引き落としの記録があれば、借金の可能性があります。
例えば、サラ金や金融機関の名前が通帳に記載されていれば、それを手がかりとして、相手業者に借金の有無等の照会をかけることが可能です。
また、通帳がなければ、銀行に取引履歴の開示を求めることが可能ですので、その履歴を確認してください。
遺品の中に契約書等がないか
被相続人の方の遺品の中に、「消費貸借契約書」「借用書」「念書」などの書類があれば、借金の可能性があります。
債権者(お金を貸した人)の名前が記載されていると考えられますので、債権者に借金の有無等を問い合わせるとよいでしょう。
債権者からの通知書がないか
借金がある場合、被相続人のご自宅に、金融機関等の債権者から貸付の残高等が記載された書面(葉書)が定期的に届いている可能性があります。
そのような書面の有無を調べれば、借金の額が判明する場合があります。
周囲の人からヒアリングする
借金があれば、被相続人が同居している家族などに話をしていた可能性があります。
したがって、被相続人のことをよく知るご家族などに事情を聞くことで、借金の内容が判明する場合があります。
遺産の調査
相続すべきか否かを判断するためには、借金の額に加えて、プラスの財産も調査する必要があります。
熟慮期間に注意
以上のように、被相続人の財産関係を調査して、資産の方が多ければ相続をするという選択をとるべきですが、被相続人に資産も負債も多いという場合、財産の調査にかなり時間がかかる場合があり得ます。
民法では、一定期間内に相続放棄又は限定承認の手続きをとらなければ単純承認をしたものとみなされるという規定が存在します(民法921条2号)。
この期間を熟慮期間といい、相続の開始を知ったときから3か月以内と規定されています(民法915条)。
そのため、財産の調査に時間がかかる場合には、限定承認という選択をすることも検討すべきでしょう。
借金が不明の場合の相続についてのまとめ
以上、借金が不明の場合の相続問題について、くわしく解説しましたがいかがだったでしょうか?
相続することで生活が苦しくなってしまっては大変です。
そのような事態にならないようにするためにも、借金の有無や額、遺産の内容について正確に調査することが重要となります。
しかし、遺産の調査等は、素人の方には難しい場合があります。
専門家に助言をもらいながら進めていかれることをお勧めいたします。