相続人の預金使い込みが疑われる場合どうしたらいいですか?


弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

預金使い込みについての質問です。

先日、母が他界しました。

母が生きていた時は兄が母の介護をしていたのですが、母の死亡後に調べてみたところ、母の預金が毎月たくさん引き出されていることが分かりました。

母は銀行に行ける状態ではなかったので、兄が引き出していたのだと思います。

母の預金を取り戻したいのですが、どうしたらよいですか。

 

 

預貯金等遺産の使い込みに対しては、損害賠償請求が可能です。

もっとも、相手への伝え方など具体的な対応については注意が必要です。

 

無断で預貯金を引き出した場合

お兄さんが母親に無断で勝手に自分のために預金を引き出していたとすれば、

不法行為に基づく損害賠償請求または不当利得に基づく利得金返還請求をすることができます。

 

生活費等に充てている可能性

老人女性ただし、お兄さんが母親の介護をしていたとすれば、介護のお礼として母親からお兄さんへの贈与の可能性もありますし、引き出されていた額が毎月数万円ならば、お母さんの生活費や介護費用に充てていた可能性も十分に考えられます。

まずは、お兄さんが無断で預金を使い込んだと決めつけず、以下のような点を調べる必要があります。

  • 引き出したのは誰なのか
  • 引き出したのは母親の指示ではなかったか
  • 引き出されたお金は何に使われたの

また、仮にお兄さんが使い込んだ可能性が高いとしても、それを証明する証拠を集めることが必要になります。

 

 

遺産の使い込みの証拠の集め方

では、どのような証拠を集めればよいのでしょうか。これは、場合分けして考えるのが分かりやすいと思います。

  1. 相続人であるお兄さんが引き出したことを認めなかった場合
  2. 引き出したことは認めたが、母親の介護等に用いていたと述べている場合
  3. 引き出したことは認めたが、介護してくれたお礼に贈与を受けたと述べている場合
  4. 引き出したことを認め、自分のために使ったと述べている場合

以上のようなことが考えられ、場合によって対応を変えていくのがよいでしょう。

1.預貯金の引き出しを認めない場合

話し合いで解決するにしても裁判を見据えるにしても、相続人であるお兄さんが引き出したことを証明できる資料を確保しておく必要があります。

この場合、通帳やキャッシュカードを管理していたのはお兄さんであったことや、母親が引き出す可能性はなかったことなどを証明して、お兄さんが引き出したことを証明することになります。

例えば母親が認知症であったことやベッドから動けなかったことなどを証明できるカルテ等を病院に開示してもらって証拠資料を収集するようにしましょう。

 

2.介護費用などに使用したと述べている場合

介護引き出されている額が介護等に用いた額として適正かが問題になります。

病院の入院費等の明細や、生活費としてどのくらいかかっていたかなどをしっかり押さえておきましょう。

 

3.介護してくれた御礼に贈与を受けたと述べている場合

車椅子贈与する意思があったのかが問題となり、明確に書かれた手紙やメールのようなものがあればわかりやすいですが、そうでなくても、母親が「お兄さんには贈与するつもりはない」等との言動がなかったか思い出して、その日時や状況を書き留めるなどしておきましょう。

仮に、贈与だとすればその贈与が特別受益に当たる可能性も出てきます。

特別受益についてはこちらをごらんください。

 

4.引き出したことを認め、自分のために使ったと述べている場合

特に問題がないように思えます。

しかし、後から1.から3.のように言動を翻すことも考えられますので、金銭がしっかり返還されるまでは1.から3.の記述を参考に証拠を残しておきましょう。

ポイントのマークまた、どの場合であっても、預金が引き出されていたことは証明する必要があります。

当該銀行に取引履歴の開示を請求し、取引経過をしっかりと証拠として手元に残しておくべきです。

早期に行動しないと、お兄さんが引き出したお金を使ってしまったり、隠匿してしまったりすることもあるかもしれません。

また、使い込んだかの判断や証拠の収集の判断は難しいと思いますので、もし不安があれば、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士への相談についてはこちらをごらんください。

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遺産の使い込みを取り返す方法

預貯金等の使い込みを取り返すための具体的な方法について説明します。

協議による解決

まず、使い込みを行った相手本人と直接協議を行って返還してもらうという方法があります。

この場合、次のメリットとデメリットがあります。

メリット

協議による解決は、裁判とは異なり、比較的、早期に解決する傾向があります。

また、裁判所に出向く必要がないことから、労力も小さくなる傾向です。

デメリット

あくまで話し合いですので、相手が応じてくれない場合、最終的に解決できません。

また、当事者同士の場合、次のような問題が想定されるため、円満解決が難しい可能性があります。

冷静な話し合いが困難

預貯金等の遺産の使い込みの事案では、双方が感情的になってしまい、冷静な話し合いが難しい場合が多々あります。

例えば、設例のように、被相続人(亡くなった方のこと)と同居していた親族が、これまでずっと被相続人の世話を行っていたような場合が典型です。

同居親族からすれば、突然、他の親族から犯罪者であるかのように扱われ、心外に思ってしまうことがあります。

また、相続事案の特殊性として、当事者の過去の関係も影響します。

例えば、もともと兄弟の仲が良くなかったような場合、嫌悪感があるため、疑心暗鬼となって相手の説明に納得できないことがあります。

適切な解決とならない

当事者同士の場合、仮に、冷静に対応できたとしても、適切な解決とならない可能性があります。

すなわち、預貯金等の遺産の使い込みは、上記のとおり、使い込んだ額の正確な調査が必要です。

また、使い込んだ内容について、それが適切な支出か否かを判断できなければなりません。

このような調査能力や判断力は、専門的な知識や豊富な経験が必要であり、相続問題に精通した弁護士でなければ難しいと思われます。

 

裁判所の手続を利用する解決

次に、裁判所に訴訟を提起して解決するという方法があります。

具体的には、管轄の地方裁判所に対して、民事訴訟(不法行為に基づく損害賠償請求)を提起するというものです。

なお、法律構成としては、不法行為のほか、不当利得に基づく返還請求という方法もあります。

不法行為であっても、不当利得であっても、求める額は同じです。例えば、500万円の預貯金の使い込みがあれば、500万円を請求できます。

両者の違いですが、時効について異なります。

すなわち、不法行為の場合は損害及び加害者を知ってから3年、不当利得の場合は行為時から10年となります。

したがって、預貯金の使い込み等を知ってから3年以上経過している事案では、不当利得に基づく返還請求を行うこととなります。

しかし、そのような古い事案は稀ですので、実務上は両者の選択にそれほどこだわる必要はないと考えられます。

訴訟の場合、次のメリットとデメリットがあります。

メリット

協議による解決と異なり、相手が反論してきて和解が成立しない場合でも、最終的に「判決」という形で判断が示されます。

また、裁判官という専門職の公務員が判断するので、不適切な結果となる可能性は小さいと思われます。

デメリット

裁判は、判決が出るまで、長期間を要する傾向です。

また、本人訴訟も理論上は可能ですが、裁判手続は専門知識が必要となるため、多くの場合、弁護士に訴訟遂行を依頼することとなります。

一般に、示談交渉よりも訴訟手続の方が弁護士の労力も大きくなります。

したがって、弁護士に支払う報酬は示談交渉のときよりも高額化する可能性があります。

 

弁護士による示談交渉

当事者による協議や裁判による解決は上記のようなメリットとデメリットが考えられます。

弁護士による示談交渉は、そのようなデメリットを払拭できる可能性があります。

すなわち、相続問題に精通した弁護士が代理人となって相手と交渉するので、適切な解決が見込めます。

弁護士また、弁護士が本人に代わって、全面的な窓口となって、相手と交渉するので、冷静に話し合いを行います。そのため、示談による解決の可能性が期待できます。

さらに、裁判の場合と比べて、弁護士費用も低額になると思われます。
※正確には依頼予定の弁護士に見積もりを出してもらうと良いでしょう。

以上から、当事者の協議の場合、訴訟の場合、弁護士の示談交渉を比較すると、次の図となります。

当事者の協議 訴訟 弁護士の示談交渉
冷静な話し合い
解決可能性
依頼者の労力
経済的な負担 ×

※あくまでイメージであり、実際の結果は事案によって異なります。

 

 

使い込み事案で遺産分割調停は可能?

この問題について、インターネット上、誤った情報が見受けられるので注意が必要です。

すなわち、「遺産の使い込みは遺産の範囲の問題であって、使い込みについて問題となっている事案は、遺産分割調停を申し立てても家裁は受け付けてくれない」などの記載が見受けられます。

確かに、不法行為や不当利得は上記のとおり、訴訟で解決すべき問題であって、遺産分割の審判では採り上げることはできないと考えられます。

そのため、無断引き出しについて、最終的に相手が自己使用を認めない場合、別に地方裁判所へ訴訟提起を行うべきです。

しかし、訴訟は上記のとおり、当事者の負担が大きくなります。

また、調停手続きの中で、使い込みの事実を説得的に主張し、かつ、その裏付けとなる証拠を提出することで、相手が自己使用を認めることがあります。

この場合、調停手続で解決できる可能性があります。

したがって、遺産の使い込みがある事案は遺産分割調停を利用できないという考えは不適切です。

 

 

まとめ

以上、預貯金等、遺産の使い込みについて、くわしく解説しましたが、いかがだったでしょうか?

遺産の使い込みの問題を早期に、かつ、適切に解決するためには、相続問題に対する専門知識と豊富な経験が必要となります。

そのため、相続問題に精通した弁護士への相談を強くお勧めしています。

当事務所の相続対策チームは、相続に注力する弁護士や税理士のみで構成される専門チームです。

遺産の使い込みでお困りの方は当事務所までお気軽にご相談ください。

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