孫は法定相続人にあたらないため、基本的には遺産を相続することができません。
孫に遺産を相続させるには大きく3つの方法があります。
ただし、孫に遺産を相続させる場合には相続税の負担が増えるなどのデメリットもあるため注意が必要です。
この記事では、孫に遺産を相続させるための3つの方法とそれぞれのデメリット、孫が遺産を相続する場合の相続税の負担などについて、相続に強い弁護士がわかりやすく解説します。
孫は法定相続人ではない
孫は法定相続人ではないことから、基本的には遺産を相続することができません。
遺産を「相続」することができるのは、民法が定める「法定相続人」に限られています。
「相続」とは、被相続人(亡くなった方のことです。)の遺産(権利だけでなく借金などの義務を含みます。)をまとめて引き継ぐことをいいます。
法定相続人の範囲について、民法は次のように定めています。
第887条第1項 被相続人の子は、相続人となる。
第889条第1項 次に掲げる者は、第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹
第890条 被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第887条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。
このように、相続人になることができるのは、被相続人の
- ① 子ども
- ② 直系尊属(両親や祖父母など、縦のラインでつながる上の世代の親族のことです。)
- ③ 兄弟姉妹
- ④ 配偶者
であり、孫は法定相続人に含まれません。
したがって、孫は基本的に遺産を相続することができないのです。
なお、相続人には次のような優先順位があります。
常に相続人 | 被相続人の配偶者(妻・夫) |
---|---|
第1順位 | 被相続人の子 |
第2順位 | 被相続人の直系尊属(両親・祖父母等) |
第3順位 | 被相続人の兄弟姉妹 |
例えば、第2順位の相続人(直系尊属)は、第1順位の相続人(子ども)がいる場合、遺産を相続することができません。
孫に相続させる3つの方法
孫に遺産を相続させるためには、(1)養子縁組、(2)代襲相続、(3)包括遺贈の3つの方法があります。
以下ではそれぞれの方法とそのデメリット・注意点について解説します。
養子縁組
養子縁組をして、孫を養子にする方法です。
上で説明したように「相続人の子」は相続人にあたりますが、「相続人の子」には養子も含まれ、実子と同じように遺産を相続することができます。
また、「被相続人の子」は第1順位の相続人なので、孫を養子にすることによって確実に遺産を相続させることができます。
注意点・デメリット
- 孫が養子縁組によって相続人になる場合、孫の相続税は2割加算されます。
- 孫を養子にすることを不満に思う家族が出てくる可能性があります。
感情的な対立が生まれて相続トラブルにつながる可能性があるため、注意が必要です。
代襲相続(だいしゅうそうぞく)
代襲相続とは、被相続人の子どもが相続の開始前に亡くなっている場合に、孫が子どもの代わりに相続人になることをいいます。
代襲相続される人(被相続人の子ども)を「被代襲者」、代襲相続する人(被相続人の孫)を「代襲相続人」といいます。
代襲相続人は被代襲者の地位をそのまま引き継ぐことになります。
したがって、代襲相続人である孫は、第1順位の相続人として優先的に遺産を相続します。
注意点・デメリット
代襲相続は被相続人の子どもが先に亡くなるという偶然の事情に左右されるもので、積極的に選択できる手段ではありません。
包括遺贈(ほうかついぞう)
遺贈とは、遺言書を作成して、誰にどの遺産を渡すかを指定することをいいます。
遺贈には「特定遺贈」と「包括遺贈」の2種類があり、このうち「包括遺贈」を受けた人(包括受遺者)には相続人と同一の権利義務が認められます(民法990条)。
「特定遺贈」とは、個別の財産を指定して遺贈する方法で、遺言書には「孫にA銀行B支店の預金を遺贈する」、「孫に自宅の土地と建物を遺贈する」といった記載をします。
これに対して、「包括遺贈」とは、個別の財産を指定せずに財産の全部または一定の割合をまとめて遺贈する方法で、遺言書には「財産の全部を孫に遺贈する」、「財産の2分の1を孫に遺贈する」といった記載をします。
厳密にいうと包括遺贈と「相続」は異なりますが、包括遺贈をすることで遺産を相続させるのと同様の状況を作ることができます。
つまり、包括遺贈を受けた孫(包括受遺者)は他の相続人と遺産を共有している状態になるほか、借金やローンなどのマイナスの財産も引き継ぐことになります。
遺産の共有状態を解消するためには、包括受遺者(孫)と他の相続人との間で、誰がどの遺産を取得するのかを具体的に話し合うことが必要です(これを「遺産分割協議」といいます)。
第990条 包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。
引用元:民法|e-Gov法令検索
注意点・デメリット
- 包括遺贈をする場合、孫は予想外の借金等を引き継ぐことになるリスクがあります。
孫が包括遺贈を放棄(辞退)する場合には、相続の開始(被相続人の死亡)を知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きをする必要があり、手間と時間がかかります。 - 孫に遺したい遺産が具体的に決まっている場合には、特定遺贈の活用も検討するとよいでしょう。
- 遺言書の作成については民法で定められたルールがあり、ルールに沿って作成しない場合には遺言書が無効になるリスクがあります。
遺言書の作成については相続にくわしい弁護士などの専門家に相談されることをおすすめします。
相続以外で孫に財産を遺す方法
相続以外にも孫に財産を遺す方法はあります。
生前贈与(せいぜんぞうよ)を活用する
孫と生前贈与の契約をすることによって、財産を孫に遺すことができます。
「生前贈与」とは、生きているうちに、特定の相手に特定の財産を無償で与えるという契約をすることをいいます。
注意点・デメリット
- 贈与契約は口約束でも有効に成立しますが、後々他の相続人などから「贈与はなかった」などと主張されて争いになる可能性があります。
トラブルを防ぐためには契約書を作成することをおすすめします。 - 生前贈与を受けた孫は贈与税を負担する可能性があります。
贈与税の負担を軽減できる制度
生前贈与については「贈与税」がかかる可能性がありますが、贈与税の負担を軽減できる制度もあります。
代表的な3つの制度をご紹介しますので、生前贈与を利用する場合には制度の活用を検討してみるとよいでしょう。
「暦年課税(れきねんかぜい)」とは、1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の合計金額に応じて贈与税がかかるという課税方式(税金の算定方法)です。
暦年課税方式で贈与税を計算する場合には、年間110万円の基礎控除(税金のかからない金額のボーダーライン(非課税枠)のことです。)が設けられています。
1年間に受けた贈与のうち110万円を超える部分のみが贈与税の対象となり、贈与の金額が110万円以下の場合には贈与税がかかりません(贈与税の申告も不要です)。
年数はかかりますが、年間110万円の贈与を繰り返すことで、贈与税の負担なく孫に財産をあげることができます。
暦年課税の基礎控除による節税効果を最大限得るためには、計画を立てて長期的に行うのがポイントです。
両親や祖父母が、30歳未満の子や孫などに対して教育資金にあてるための金銭等を贈与した場合には、最大1500万円までの金額について贈与税が非課税となります。
「教育資金」には学校の入学金や授業料のほか、通学のための交通費、給食費などが含まれます。
さらに、500万円までであれば、塾や水泳、ピアノなどの学校以外での習い事にかかる費用も「教育資金」に含まれます。
この特例は、現時点では2026(令和8)年3月31日までの期限つきの特例です。
また、特例の適用を受けるためには金融機関との契約が必要であり、金融機関を通じて非課税の申告書を提出する必要があります。
両親や祖父母が、20歳以上50歳未満の子どもや孫などに対して結婚・子育て資金を贈与した場合には、最大1000万円までの金額について贈与税が非課税となります(ただし、結婚資金は300万円が上限です。)
「子育て資金」には、不妊治療・妊婦検診の費用、分娩費用、産後ケアの費用、子どもの医療費、幼稚園・保育園等の保育料、ベビーシッター代などの妊娠・出産・育児にかかる費用が含まれます。
「結婚資金」とは、挙式費用、婚礼費用(披露宴にかかる衣装代等の費用)、新居費用(家賃、敷金など)・転居費用などの、結婚に際して支払われる金銭をいいます(上限300万円)。
この特例は、現時点では2025(令和7)年3月31日までの期限つきの特例です。
また、特例の適用を受けるためには金融機関との契約が必要であり、金融機関を通じて非課税の申告書を提出する必要があります。
孫を生命保険の受取人にする
生命保険に加入して、保険金の受取人に孫を指定する方法です。
生命保険金は相続される遺産の中に含まれず、遺産分割の対象とならないため、他の相続人との話し合いをすることなく孫の取り分にすることができます。
ただし、税務上は相続税の課税対象となる可能性があるため、相続税の負担について事前によく確認することが大切です。
家族信託を活用する
家族信託(かぞくしんたく)とは、信頼できる親族に財産を預けて、その管理や処分を任せるという方法です。
例えば、孫の親(被相続人の子ども)に財産を預けて、その財産の中から孫にとって必要なときに遺産を渡すよう設定することができます。
家族信託の内容は柔軟に設計することができる反面、内容をしっかりと吟味しないと無効になってしまったり、税金の負担が増えてしまったりするリスクがあります。
家族信託の活用を検討する場合には、相続にくわしい弁護士などの専門家に相談されることを強くおすすめします。
孫の相続税の計算方法
孫は相続税の2割加算の対象となる可能性があるため、注意が必要です。
相続税の2割加算とは、相続人のうち特定の人について相続税の金額が2割増しになることです。
ここでは、相続税の計算方法の概要を説明した上で、相続税の2割加算について解説します。
相続税の計算方法
相続税の計算は非常に複雑ですが、おおまかな流れは以下のとおりです。
課税遺産総額(相続税の対象となる金額のことです。)は、正味の遺産の金額から基礎控除額を差し引いて計算されます。
正味の遺産の金額が基礎控除額よりも少ない場合、相続税はかかりません。
(1)で計算した課税遺産総額をもとに、相続人が法定相続分で遺産を分けたものと仮定して、各相続人について仮の相続税を計算します。
相続人全員の仮の相続税の金額を合計したものが、相続税の総額となります。
(2)で計算した相続税の総額を、それぞれの相続人等が実際に受け取った遺産の割合に応じて割り振ります。
相続税の2割加算
孫が遺産を相続する場合、相続税の2割加算の対象となる場合があります。
2割加算となる場合の税金の金額は、上の(3)で計算した各相続人の相続税の金額を1.2倍した金額となります。
被相続人の配偶者、両親、子は2割加算の対象外であり、それ以外の人は2割加算の対象です。
したがって、被相続人の祖父母や兄弟姉妹、孫、甥姪などは基本的にすべて2割加算の対象となります。
養子は「被相続人の子」にあたるため基本的には2割加算の対象外ですが、孫を養子にする場合は例外的に2割加算の対象となります。
通常であれば被相続人から子どもへ、子どもから孫へ、という2回に分けて相続税が課されることになるところ、孫を養子にすることによって相続税の負担を1回免れることになるのは不公平である、という考え方によるものです。
孫が代襲相続によって遺産を相続する場合には、2割加算の対象外です。
孫は本来相続人になるはずだった「被相続人の子」が先に亡くなるという偶然の事情によって、その地位をそのまま引き継ぐこととなるためです。
上で説明したように、包括遺贈は厳密には相続とは異なりますが、相続税の対象となります。
この場合には原則どおり2割加算の対象となります。
孫に相続させるときの3つのポイント
相続税等の負担をよく確認する
孫に遺産を相続させる場合には、相続税の2割加算など、孫の税金の負担が大きくなる可能性があります。
生前贈与や生命保険金の活用など、相続以外の方法による場合であっても、贈与税や相続税を負担しなければならない可能性があります。
税金の負担が想定外のものとなって慌てることがないよう、事前に税金の負担をよく確認することが大切です。
他の家族にしっかりと説明する
法定相続人にあたらない孫に遺産を相続させる場合、特定の孫が優遇されることについて家族が不満を持つ可能性があり、孫を巻き込んだ遺産相続トラブルにつながるリスクがあります。
特に相続人については、孫が相続人となることで自分の遺産の取り分が減る可能性があるため、不満につながりやすいといえます。
家族間のトラブルを避けるためには、孫に遺産を相続させる理由や必要性などついて、他の家族に十分な説明をすることが大切です。
相続に強い弁護士に相談する
孫に遺産を相続させるときには、相続に強い弁護士に相談することを強くおすすめします。
この記事で解説してきたように、孫に遺産を遺すための方法はいくつもあり、どの方法が最適であるかはそれぞれの状況によって異なります。
また、孫に遺産を相続させる場合には、想定外の税金を負担することになるリスク、借金を引き継いでしまうリスク、遺言書が無効になってしまうリスク、遺産相続トラブルを招くリスク、など、さまざまなリスクがあります。
相続の分野は高度の専門知識が必要となるため、一般の方が最適な方法を判断するのはなかなか難しい側面があります。
相続に強い弁護士に相談することで、希望に沿った形で孫に遺産を遺すための最善の方法を探すとともに、また、リスクについても適切に対処できる可能性が高まります。
相続の分野については初回の法律相談を無料としている弁護士も少なくないため、まずは法律相談を活用されるのがよいでしょう。
孫と相続についてのQ&A
おばあちゃんの遺産は孫が相続できますか?
おばあちゃんの遺産を相続することができるのは、おばあちゃんの夫(おじいちゃん)、おばあちゃんの子ども(孫にとっての親)、おばあちゃんの両親、おばあちゃんの兄弟や姉妹だけです。
ただし、おばあちゃんが孫と養子縁組をした場合や、孫の親(おばあちゃんの子ども)が孫より先に亡くなった場合(代襲相続の場合)には、孫がおばあちゃんの遺産を相続することになります。
孫の相続税はいくらから?
「基礎控除額」とは、税金のかからない金額のボーダーラインのことで、以下の計算式で計算されます。
したがって、相続税を支払わなければならない遺産のボーダーラインは法定相続人の数によって異なります。
以下は法定相続人の数に応じた基礎控除額を表にしたものです。
法定相続人の数 | 基礎控除額 |
---|---|
1人 | 3,600万円 |
2人 | 4,200万円 |
3人 | 4,800万円 |
4人 | 5,400万円 |
5人 | 6,000万円 |
例えば、法定相続人の数が2人であれば、正味の遺産の金額が4200万円以上ある場合に相続税がかかります。
孫は法定相続人の数に含まれる?
孫が遺産を相続する場合、
孫を養子にする場合、被相続人に実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人まで、孫を「法定相続人」の数に含めて数えることができます。
例えば、被相続人に妻と実子(長男)がいるケースで、孫2人を養子にした場合、基礎控除額の計算における「法定相続人」の数は「3」となります(孫1人だけをカウント)。
つまり、正味の遺産の金額が4800万円以上の場合に相続税がかかります。
法定相続人の数は、孫の人数ではなく、代襲相続される被相続人の子ども(孫にとっての親)の数を基準にカウントされます。
例えば、被相続人の妻と長男のうち長男が被相続人より先に亡くなり、長男の子どもである孫2人が代襲相続するというケースでは、基礎控除額の計算における「法定相続人」の数は「2」となります(妻と長男の2人)。
つまり、正味の遺産の金額が4200万円以上の場合に相続税がかかります。
包括遺贈を受けた場合、孫は法定相続人の数に含まれません。
例えば、被相続人に妻と長男がいるケースで、孫2人がそれぞれ包括遺贈を受けた場合、基礎控除額の計算における「法定相続人」の数は「2」となります(妻と長男の2人)。
つまり、正味の遺産の金額が4200万円以上の場合に相続税がかかります。
まとめ
- 孫は法定相続人にあたらないため、基本的に遺産を相続することはできません。
- 孫に遺産を相続させる方法には大きく、①養子縁組、②代襲相続、③包括遺贈、の3つの方法があります。
- 孫に遺産を遺す方法には相続以外の方法もあり、どの方法がもっとも適切かはそれぞれの状況によって異なります。
- 孫に遺産を遺す場合には、税金の負担が増えるリスクや遺産相続トラブルを招くリスクなど、さまざまなリスクがあります。
- 相続の分野は高度の専門知識が必要となることから、孫に遺産を遺したい場合には相続に強い弁護士に相談することを強くおすすめします。孫に遺産を遺すための最善の方法やリスクの回避方法などについて、適切なアドバイスをもらうことが期待できます。
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