- 葬儀代は喪主が負担すべきでしょうか?
- 兄弟が相続人の場合、葬儀代は長男が負担するのですか?
- 葬儀代の支出で後からもめたくありません・・・
デイライト法律事務所の相続対策チームには、このような葬儀代の負担に関するご相談が多く寄せられています。
以下、具体的な相談事例をもとに解説しますので、参考にされてください。
事例 兄弟が相続人の場合の相談事例
先日、母が亡くなり、長男である私が喪主となって葬式を執り行いました。
なお、父はだいぶ前に他界しています。
葬儀の費用は私が出しているのですが、弟にも費用を負担してもらいたいと思っています。
また、葬儀後に母の残した現金が金庫にあるのを見つけたので、四十九日などの費用にはそれを使うことも検討していますが、使っていいものでしょうか?
相続問題に詳しい弁護士が解説いたします。
葬儀代を負担するのは喪主?長男?
葬儀代は、喪主や長男が当然に負担すべきと考えている方がいます。
しかし、葬儀代の負担については、法律上、明確に規定されていません。
相続人間で葬儀代の支出でもめると、後々トラブルになってしまい大変です。
そのため、まずは相続人である弟さんと話し合うことが大事です。
弟さんと話し合って、相続人全員が納得のもと、お母様の相続財産から葬儀費用等を控除し、遺産分割協議を行うことができればそれが一番スムーズです。
弟さんと協議がまとまらない場合には、裁判所に葬儀費用の負担者を決めてもらうことになります。
葬儀代に関する裁判所の判例
葬儀費用の負担者が誰かについては、裁判所の見解も分かれているため、弟さんに負担してもらえるかは個別の事情によるといえます。
また、四十九日の費用については、そもそも葬儀費用に含まれるか否かの争いがあります。
四十九日の法要の費用は葬儀費用?
葬儀費用については、法律上明確に定めがあるわけではありません。
そのため、葬儀費用に当たるかどうかは、個別の事情を考慮することになります。
もっとも、葬儀のために直接必要な、会場の賃借費用や遺体搬送の費用、僧侶や寺へのお布施などが葬儀費用に含まれることで争いはありません。
一方、四十九日の法要の費用は、葬儀費用に含まれないとする裁判例もありますが、四十九日の法要の際に墓地に埋蔵する場合には葬儀費用に含まれるのではないかという見解もありますので、個別的な判断が必要となってきます。
葬儀費用は誰が負担者する?
葬儀費用の範囲だけでなく、葬儀費用は誰の負担かについても争いがあり、裁判所の扱いも一律ではなく、以下の通り見解が分かれています。
① 喪主負担
② 相続人負担
③ 相続財産負担
④ 慣習・条理により決める
①喪主負担 や②相続人負担 は文字通り、喪主や相続人が負担するというもので、③相続財産負担 は相続財産から葬儀費用を控除するとする見解です。
④慣習・条理 により決めるは慣習などによって決めるというもので、近年ではあまりとられていない見解と思われます。
同じ東京地裁の判決でも、平成17年4月28日判決では④の見解をとっており、平成17年7月20日判決では③の見解をとっていますが、平成18年10月19日判決では②の見解を採用しているものと思われ、平成27年12月3日の判決では①の見解をとっています。
このように、裁判所の中でも見解が一致していないところであり、個別の事情を考慮してだれが負担すべきなのかを判断していくほかないといえます。
葬式費用を銀行に直接請求できる?
葬儀費用など、亡くなってからすぐに必要となる費用については、被相続人の預貯金を預かっている直接銀行に対して、直接請求したいと考える方が多いでしょう。
相続法の改正により、2019年以降、一定の上限を設けた上で、裁判所の判断を得ることなく、金融機関の窓口において預貯金の払い戻しを受けることができるようになっています。
銀行への直接請求する金額の上限
民法909条の2は、銀行に直接請求できる金額の上限について、次のとおり規定しています。
① 相続開始の時の債権額の3分の1に法定相続分を乗じた額
② ただし、標準的な当面の必要性経費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする
したがって、銀行等ごとに、各人が引き出しを請求できる金額は、原則として次の計算式によって算出されます。
引き出しができる額 = (相続開始時の口座残高) ☓ 1/3 ☓ 引き出しを求める相続人の法定相続分
夫の遺産:預貯金1500万円
本事例の場合は、預貯金の額が1500万円、妻Aさんの法定相続分は2分の1ですので、Aさんが預貯金を引き出したい場合、250万円まで銀行への直接請求が可能となります。
1500万円 ☓ 1/3 ☓ 1/2 = 250万円
もっとも、②により、法務省令によって限度額が定められることとなります。
そして、法務省令によれば、その額は150万円となっています。
参考:民法第909条の2に規定する法務省令で定める額を定める省令
同じ銀行に2つ口座があった場合はどうなる?
本事例において、もし、被相続人の口座が同一銀行に2つあった場合はどうなるでしょうか?
民法909条2項は「債務者ごとに法務省令で定める額」と規定しています。
したがって、同一金融機関であれば、引き出しの上限は150万円ということになります。
葬儀代のトラブルを回避するポイント
生前の対策
相続が発生する前であれば、遺産を残す方が遺言書の中で、葬儀費用の負担について明記しておくという方法が考えられます。
ただし、遺言の記載内容が不明確だったり、法律上の要件を満たさず、遺言が無効となる可能性があるので注意が必要です。
相続発生後
相続人間でのトラブルは、事前の協議が十分に行われていない場合に多く見受けられます。
葬儀のやり方、費用の程度などについては、個人によって様々な考え方があります。
例えば、墓石については、高額なものを購入すべきと考える相続人もいれば、納骨堂で十分と考える相続人もいます。
そのため、どのような葬儀を行い、そのためにどの程度の費用がかかるか、事前に協議しておくべきでしょう。
葬儀代の負担についての解決方法として、葬儀代から香典を差し引き(香典返しの費用は葬儀代に含まれるとします。)、不足している葬儀代を相続人が法定相続分にしたがって負担するという方法が考えられます。
この方法は、各相続人の負担が法定相続分に応じて決まるので、多くの相続人に納得感があると考えられます。
この方法で協議をすすめるときに重要となるのは、葬儀代の総額と内訳、香典の額について、相続人に開示するということです。
このような情報を開示せずに、負担すべき額だけ請求されると、他の相続人は疑心暗鬼になってしまう可能性があるからです。
また、葬儀代の総額や内訳については領収証を取っておき、必要に応じて開示するとよいでしょう。
香典については、後々トラブルになりそうであれば、金額の確認作業を複数の相続人で実施するとよいでしょう。
これまで、遺産分割前に預貯金を引き出すためには、分割前の仮処分を家裁に申立てなければなりませんでした。
もっとも、分割前の仮処分の要件は厳格であり、現実には遺産分割前の預貯金債権の行使は難しいという問題がありました。
そのため、葬儀費用など、亡くなってからすぐに必要となる費用については、家裁に申し立てるより、直接銀行に請求することを認める必要性があります。
このような状況に鑑み、民法が改正され、2019年7月1日以降、一定の上限を設けた上で、裁判所の判断を得ることなく、金融機関の窓口において預貯金の払い戻しを受けることができるようになりました。
葬儀費用の負担のまとめ
以上のように、葬儀費用については、その範囲や負担者について争いがあり、不確定なところがあります。
トラブルを防止するためには、葬儀をするにあたり、事前に相続人で話し合うべきといえます。
しかし、相続人間で感情的な対立があると、そもそも話し合いが難しいという状況が多々あります。
したがって、相続問題に精通した弁護士にご相談されることをおすすめします。
当事務所の相続対策チームは、相続に注力する弁護士や税理士のみで構成される専門チームです。
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