先日、父が他界しました。
相続人は長女である私だけなのですが、父は生前に事業に失敗しており、負債が多く残っている状態だったため、相続放棄をしようと思っています。
その場合にお墓や位牌などについてはどうなるのでしょうか?
また、長女である私は嫁いでいるため、夫の名字に変わっているのですが、お墓などを引き継ぐのに関係がありますか?
相続放棄をしたとしても、お墓や位牌については、祭祀承継者が承継することになっています。
今回の相談者が唯一の相続人である場合には彼女が祭祀承継者とされる可能性が高いので、お墓や位牌を相談者本人が承継することになると思われます。
祭祀承継者となる者について、法律上は限定をしていませんので、被相続人と名字が異なったとしても、祭祀承継者となることができます。
相続財産と祭祀財産
相続放棄をした場合には、相続はできなくなるのではないかと思われるかもしれませんが、お墓や位牌などは、祭祀財産と呼ばれるもので、民法で以下のように規定されており、相続財産とは別の扱いがされています。
「系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。」
つまり相続放棄は相続財産を引き継ぐ地位を放棄するだけなので、祭祀財産についてまで放棄することにはならないということです。
第八百九十七条 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。
引用元:民法|電子政府の窓口
祭祀承継者の基準
祭祀財産が相続財産とは別とされているのと同様に、祭祀承継者は相続人とは異なります。
そのため、相続人であることや長男であることなどから、当然に祭祀承継者となるわけではありません。
民法では、897条より、以下の順番で祭祀承継者が決定されると規定されています。
- ① 被相続人が指定した者
- ② 慣習
- ③ 家庭裁判所による決定
つまり、被相続人の遺言などにより誰かが指定されている場合には、その者が祭祀承継者となります。
祭祀承継者に限定はなく、名字が異なる親族はもちろんのこと、法定相続人である必要もないですし、親族に限られるわけでもないのです。
次に指定がない場合には、慣習により決定されますが、慣習がない又は明らかではない場合には、家庭裁判所が決めてくれるということになります。
家庭裁判所が決定する場合の判断基準は、「諸般の事情の総合考慮」と言われていますが、以下の決定が参考になると思われます。
参考判例
事案の概要
被相続人Aは、平成13年死亡した。相続人はX1とY1である。
原審は、双方の希望に沿い、過去帳及び仏壇についてはX1を、位牌(XらがAの死後作成したものを除く)についてはY1を権利の承継者と定めた。
しかし、墓地使用権及び墓碑等について、両者が争い、原審判はY1を承継者と定めた。
これに対して、X1は不服を申し立てた。
裁判所の判断
裁判所は、墓地使用権及び墓碑等の帰属の判断について、
「承継候補者と被相続人との間の身分関係や事実上の生活関係、承継候補者と祭具等との間の場所的関係、祭具等の取得の目的や管理等の経緯、承継候補者の祭祀主宰の意思や能力、その他一切の事情(例えば利害関係人全員の生活状況及び意見等)を総合して判断すべきであるが、祖先の祭祀は今日もはや義務ではなく、死者に対する慕情、愛情、感謝の気持ちといった心情により行われるものであるから、被相続人と緊密な生活関係・親和関係にあって、被相続人に対し上記のような心情を最も強く持ち、他方、被相続人からみれば、同人が生存していたのであれば、おそらく指定したであろう者をその承継者と定めるのが相当である。」と判示して、X1を承継者とした。
引用元:平成18年4月19日 東京高裁 事件番号平18(ラ)85号
家庭裁判所の決定についても、被相続人の意思が尊重されているといえます。
相続においては、金銭的な問題だけではなく、親族間の感情的な問題も生じることが多いですが、祭祀承継においても、同様です。
祭祀承継を含め、相続は専門的な知識が必要となる分野ですので、一度弁護士に相談することをおすすめします。
当事務所では、家事事件チームが複雑な法律問題にも対応しますので、お気軽にご相談ください。