私の夫が病院で亡くなり、夫の死後、不倫相手に全財産を残すという遺言書が見つかりました。
遺言書は、入院先の病院で見つかりましたが、夫は入院中意識が混濁している状態であったため、夫が病院で遺言書を作成するということは非常に困難な状態でしたし、遺言書の筆跡も夫の筆跡とは異なるものでした。
そのため、私は、この遺言書は偽造されたものであると考えましたが、この場合、私はどのような対応をとるべきなのでしょうか。
偽造と思われる遺言書を発見した場合、以下のような流れで手続きを進めていくことになります。
① 家庭裁判所で検認の手続を行う
② 遺言が無効であることを主張するために、遺言者が遺言書を作成した当時の状況、遺言者のそれ以前の言動を証拠化しておく
③ 遺言無効確認調停の申立て・遺言無効確認訴訟の提起
取るべき対応
このような場合、遺言書は不倫相手が偽造したものであると考えられますが、遺言書については、たとえそれが偽造されたものであると考えられる場合にも、まず家庭裁判所で検認の手続きをする必要があります。
検認は、相続人に対して遺言の存在と内容を知らせ、遺言書の形状、加除訂正の状態・日付・署名などの検認の日時点における遺言書の内容を明らかにして、遺言書の偽造・変造を防ぐ一種の検証手続き・証拠保全手続きと解されています。
もっとも、検認は、遺言の効力を決定するものではありません。
そのため、家庭裁判所で検認を受けたとしても、法律上、この遺言が有効であるとの裁判がなされたというわけではありません。
したがって、遺言書が遺言者の意思と関係なしに偽造されたものである場合には、その遺言書は無効となりますので、別途その効力を争う必要があります。
遺言書の無効を争う方法として、まずは遺言書が無効であることの確認調停を申し立てることになります。
そして、この調停が不成立に終わった場合ないし審判がされないことになった場合には、調停不成立調書をとり、地方裁判所に対して、遺言無効確認の訴訟を提起することになります。
遺言書の検認について、詳しくはこちらからご覧ください。
遺言が無効かどうかの判断要素
裁判所が、遺言の有効性を判断する場合、大きく分けて以下の3つの観点から判断するのが一般的です。
そのため、以下の3つの観点から有利に働く証拠をあらかじめ収集しておくことが重要です。
①遺言書作成時の状況
遺言書作成時の状況とは、遺言書を作成した当時の遺言者について、認知症等を原因として、どの程度判断能力が減退していたかということです。
認知症では、その進行状況を判断する上で、長谷川式簡易知能評価(20点以下の場合は認知症の疑いあり。)等の客観的なテスト結果も一定程度考慮されますが、それよりも、カルテ等に記載されている遺言者の当時の症状やコミュニケーション能力が重視される傾向にあります。
引用元:改訂長谷川式簡易知能評価(HDS-R)|一般社団法人 日本老年医学会
②遺言内容の複雑性
遺言内容の複雑性とは、遺言の内容が誰でも理解できるような単純なものか、それとも容易には理解できないような複雑なものかということです。
遺言の内容が「私の財産をすべて○○に相続させる。」というような内容の遺言は単純だといえます。
一方、遺産として不動産が多数ある場合に、不動産ごとに細かく相続分を指定したりするような内容の遺言は複雑な遺言であるといえます。
③遺言内容の合理性
遺言内容の合理性とは、遺言者の従前の生活状況や考え方に照らして、遺言者が当該遺言を作成することが合理的かどうかということです。
例えば、遺言者が、「自分の財産は全部長男に遺す。」と話していたような場合に、同内容の遺言書が作成されていたのであれば、遺言内容は合理的だと判断されることになります。
一方、遺言者が、「自分の財産は全部二男に遺す。」と話していたような場合に、遺言者とは険悪であり交流がほとんどなかった長男にすべて財産を残す旨の遺言書が作成されていたのであれば、遺言内容の合理性に疑問があると判断されることになるでしょう。
なお、そもそも愛人に全財産を遺すとの遺言が有効かどうかはこちらをご覧ください。