遺産分割調停とは、亡くなった方の遺産の分け方について、家庭裁判所を介して相続人全員で話し合い、合意による解決をめざす手続きのことです。
遺産分割調停で決まった内容については、基本的に後から覆すことはできないため、相続人に重大な影響を及ぼします。
そのため、遺産分割についての正しい法律知識や家庭裁判所の実務的な運用を押さえておく必要があります。
この記事では、遺産分割調停の手続きの流れや必要書類、遺産分割調停にかかる費用、やってはいけないことなどについて、相続に強い弁護士がわかりやすく解説します。
遺産分割調停とは?
遺産分割調停とは、被相続人(亡くなった方のことです。)の遺産の分け方について争いがある場合に、相続人同士が家庭裁判所の調停委員会を介して話し合いを行い、合意による解決をめざす手続きのことです。
調停委員会は通常、裁判官1人と調停委員2人で構成されます。
調停の当事者は、調停を申し立てる人(申立人)と申立てを受ける人(相手方)です。
遺産分割調停の場合には、相続人全員が当事者(申立人か相手方)になる必要があります。
調停委員会は中立の立場で当事者の双方から事情や意見の聴き取りを行い、合意による解決に向けて、当事者間の意見の調整をします。
遺産分割についてくわしくはこちらをご覧ください。
遺産分割調停の手続き
遺産分割調停の開始前から開始後までの流れを図に表すと、次のようになります。
遺産分割調停の申立前の流れ
遺産分割調停が行われる前には、遺言書の確認や遺産分割協議が行われるのが通常です。
遺言書の確認
被相続人が有効な遺言書を残している場合には、相続人は原則として遺言書の内容にしたがって遺産を分割することになります。
そのため、まずは被相続人が遺言書を作成しているのかどうか、遺言書は有効なものであるかどうかの確認を行います。
被相続人が遺言書を残していない場合や、遺言書が無効と判断された場合には、相続人同士の話し合い(遺産分割協議)で遺産の分け方を話し合うことになります。
遺産分割協議
遺産分割協議とは、相続人全員の話し合いで遺産の分け方を決めることをいいます。
相続人全員が合意できた場合には遺産分割協議が成立し、合意した内容を「遺産分割協議書」という書面の形にします。
遺産分割協議を試みたものの、相続人全員が合意できない場合には遺産分割協議は不成立に終わります。
この場合には、遺産分割調停・審判によって遺産の分け方を決めることになります。
ただし、後で説明するように、遺産分割調停・審判によって遺産の分け方を決める場合には、解決までに多くの時間と労力がかかってしまいます。
そのため、できる限り遺産分割協議によって遺産の分け方を決めるのが理想的であるといえます。
当事者だけの話し合いではらちが明かないという場合には、弁護士に遺産分割調停の進行を依頼したり、弁護士に依頼して遺産分割協議に代理出席してもらったりするのがおすすめです。
相続人同士の話し合いでは感情的になって話し合いにならないケースや、論点がぶれてしまって話し合いがまとまらないケースがあります。
専門家である弁護士が協議に加わることによって、法律的な観点から論点を的確に整理し、冷静かつ論理的な話し合いができる可能性が高くなります。
遺産分割調停の流れ
遺産分割協議がまとまらず、遺産分割調停によって解決する場合の流れは、以下のとおりです。
調停の開始
遺産分割調停は、当事者の申立てによって開始される場合と家庭裁判所の権限(職権)で開始される場合があります。
基本的には、遺産分割調停は当事者(相続人)が家庭裁判所に申立てをすることによって開始されます。
遺産分割調停では相続人全員が当事者(申立人か相手方)になる必要があるため、 相続人のうちの1人または何人かが申立人となって、他の相続人全員を相手方として、遺産分割調停の申立てをします。
相続人は法律上、遺産分割調停を申し立てることも、調停の申立てをすることなくいきなり遺産分割審判を申し立てることもできます。
しかし、遺産分割審判の申し立てがされた場合であっても、家庭裁判所はその権限(職権)で「まずは調停から行うべき」と判断して遺産分割調停を開始することができ、実務ではそのように判断されるケースがほとんどです。
そのため、実務上はまずは遺産分割調停を申し立て、調停不成立となったときに審判手続へと移行するのが通常です。
なお、「遺産分割審判」とは、当事者(相続人)から主張された内容や提出された証拠をもとに、家庭裁判所が最終的な判断を下す手続きのことです。
調停と審判のもっとも大きな違いは、当事者の合意によって解決する手続き(調停)なのか、それとも当事者の合意にかかわらず裁判所が証拠をもとに結論を下す手続き(審判)なのか、という点にあります。
調停期日の通知
申立てを受理した家庭裁判所は、第1回の調停期日を決定したうえで当事者に呼出状を送付し、調停期日を通知します。
申立人が調停を弁護士に依頼している場合には、裁判所と弁護士の間で日程調整が行われます。
調停期日とは、当事者が実際に家庭裁判所へ行って調停委員会の面前で言い分を主張したり、資料を提出したりする日のことです。
第1回の調停期日は申立てから1〜2ヶ月後に指定されるのが一般的で、それまでの間に提出された書類の審査が行われます。
審査の結果によっては、裁判所から書類の追加提出や修正を求められることがあり、その場合には調停の進行は遅れることになります。
調停期日の通知を受けた相手は、指定された日時に家庭裁判所へ行く必要があります。
調停期日
調停期日は平日の日中(基本的に午前10時〜17時の間)に行われます。
会社に勤めている場合には、有給休暇を取得するなどして調停期日に出席する必要があります。
弁護士に依頼している場合は弁護士のみで出席することが可能です。
第1回の調停期日では、基本的に当事者が一堂に会して、調停委員会から当事者全員に対して遺産分割調停の手続きや内容の説明が行われます。
他の当事者(相続人)と同席することが難しい事情がある場合には、事前に裁判所に伝えておく必要があります。
その後、申立人と相手方はそれぞれ交互に調停室(調停手続きを行う部屋のことです)に呼ばれ、調停委員から説明や質問を受けます。
1回の調停期日は2時間程度で、調停委員会はそれぞれの当事者を30分〜1時間ごとに入れ替えて事情を聴きます。
この段階で申立人と相手方が同じ部屋で顔を合わせて直接話し合いをすることはなく、一方の当事者(相続人)が調停委員から呼び出されている間、もう一方の当事者(他の相続人)は待合室で待機します。
当事者は、提出された書面や調停委員会を通じて相手がどのような主張をしているのかを把握することになります。
調停期日では、次のようなポイントを中心とする確認が行われます。
まずは、相続人とそれぞれの法定相続分を確認します。
遺産分割調停では相続人全員が当事者になる必要があることから、戸籍謄本等の資料をもとに相続人の把握漏れがないかどうかを確認します。
また、各相続人の法定相続分を確認します。
法定相続分とは、法律(民法)が定めている、どの相続人がどのくらいの遺産をもらうことができるのかという遺産の取り分の目安のことです。
相続人は必ず法定相続分のとおりに遺産を分けなければならないものではなく、相続人が全員で合意すれば、法定相続分とは異なる割合で遺産を分けることもできます。
法定相続分について詳しくはこちらをご覧ください。
遺産分割の対象となる遺産の範囲を確定します。
基本的には、被相続人が亡くなった時点で所有しており、かつ、調停の時点でも存在する遺産が分割の対象となります。
遺産の範囲の確定は、相続人から提出された資料(例えば、不動産の登記簿謄本など)をもとに行います。
一部の相続人が遺産を隠していることが疑われる場合には、「ほかにも財産があるはずだ」と主張するだけでは足りず、具体的な資料を提出する必要があります。
なお、被相続人が有効な遺言書を作成しており、その中で誰にどの遺産を取得させるのかを指定している場合、原則としてその遺産は分割の対象になりません。
被相続人が作成した遺言書があり、一部の遺産の分割方法が遺言書で指定されている場合には、状況により、遺言書を証拠として提出する必要があります。
(2)のプロセスで遺産分割の対象になることが確定した遺産を公平に分けるために、遺産全体の金銭的な価値を評価します。
相続人の一部が遺産の評価額について納得できないと主張する場合には、裁判所の選任する鑑定人に遺産の価値を評価してもらうことになります(これを「鑑定」といいます)。
特に、不動産や株式などの価格が変動する遺産については、評価方法や評価結果をめぐって相続人同士で争いとなる場合があります。
相続人の中に、被相続人から多額の生前贈与などの特別な利益(これを「特別受益(とくべつじゅえき)」といいます。)を受けた人がいる場合を受けた人がいる場合は、その特別受益を考慮して遺産の取得額を減らすことがあります。
他の相続人が特別受益を受けたという主張をする場合には、その証拠(例えば、贈与契約書など)を提出することが必要です。
特別受益についてくわしくはこちらをご覧ください。
また、相続人の中に、被相続人の遺産の維持・増加に対して特別な貢献(特別な貢献のことを「寄与分(きよぶん)」といいます。)をした人がいる場合、その寄与分を考慮して遺産の取得額を増やすことがあります。
例えば、相続人の1人が無報酬で被相続人の経営する事業を手伝って事業の売上に貢献した場合や、相続人の1人が長期間無償で寝たきりの被相続人を介護した場合などには、寄与分が認められる可能性が高いといえます。
寄与分を主張する場合には、その裏付けとなる証拠を提出する必要があります。
寄与分についてくわしくはこちらをご覧ください。
最終的な各相続人の遺産の取り分(取得額)を確定します。
上記(3)のプロセスで確定した遺産の評価金額をベースに、(4)のプロセスで確定した特別受益や寄与分を考慮して決めることとなります。
その際には法定相続分(法律で定められた取り分の目安)が基準となることが多いですが、相続人全員が合意していれば法定相続分と異なる割合で取り分を決めることもできます。
最後に、(5)で確定した各相続人の取り分(取得額)に基づいて、どのような方法で遺産を分割するのかを決めます。
遺産分割の方法には(ア)現物分割、(イ)代償分割、(ウ)換価分割、(エ)共有分割の4つがあります。
遺産分割調停の中では、これらのうちどの方法によって遺産分割をするのかを確定します。
通常は、これらの(ア)〜(エ)の方法を組み合わせて分割します。
遺産分割の方法についてくわしくはこちらをご覧ください。
1回目の調停期日で相続人全員が合意し、調停が成立するというケースはほとんどなく、調停期日は複数回行われることがほとんどです。
調停の終了
遺産分割調停は、①当事者(相続人)全員が遺産の分け方について合意した場合、または、②合意できる見込みがない場合に終了します。
当事者(相続人)全員が合意できた場合には、調停成立によって終了します。
この場合、裁判所は当事者が合意した内容を書面化した「調停調書」を作成します。
当事者(相続人)全員が合意できる見込みがない場合、裁判所の判断で調停の手続きが打ち切られ、調停不成立によって終了します。
遺産分割審判への移行
遺産分割調停が不成立となった場合には、自動的に遺産分割審判へ移行します。
当事者から遺産分割審判の申立てをする必要はありません。
遺産分割審判では、当事者等から提出された証拠等をもとに、家庭裁判所が遺産の分け方について判断(審判)を下します。
調停の手続きでは、当事者全員が合意していれば柔軟な解決をすることができますが、審判ではそのような柔軟な解決は難しくなります。
遺産分割調停の期間はどれくらい?
遺産分割調停にかかる期間はそれぞれの事案によって異なりますが、一般的なケースでは1年〜2年程度です。
事案が複雑な場合(相続人の数が多い場合や遺産の数が多い場合など)には、より長い期間となる傾向にあります。
事案によっては、調停の成立までに3年以上の年月を要する場合もあります。
遺産分割調停の管轄
当事者は遺産分割調停をどの裁判所に申し立ててもよいわけではなく、遺産分割調停を担当する裁判所(これを「管轄」といいます。)は、次のように決められています。
- 相手方の住所地を管轄する家庭裁判所
- 当事者が合意で定めた家庭裁判所
当事者はこの2つのどちらかの家庭裁判所に遺産分割調停の申立てをする必要があります。
遺産分割調停の必要書類
家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる際には、以下の書類を提出する必要があります。
必要書類 | 入手先 | 取得費用 | |
---|---|---|---|
遺産分割調停の申立書 | 申立書 | 申立人が作成(雛形は裁判所で入手可能) | – |
当事者等目録 | |||
遺産目録 | |||
相続関係図 | |||
添付資料 | 入手先 | 取得費用 | |
相続関係を証明する書類(※1) | 被相続人の生まれてから亡くなるまでの連続した戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本(戸籍謄本類) | 被相続人の本籍地の市区町村役場 |
|
被相続人の戸籍の附票 | 被相続人の本籍地の市区町村役場 | ||
相続人全員の住民票または戸籍の附票 | 相続人の住所がある市区町村役場 |
|
|
相続人全員の戸籍謄本 | 各相続人の本籍地の市区町村役場 |
|
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遺産に関する証明書類(※2) | 遺産に不動産が含まれる場合
|
登記事項全部証明書・公図の写し:不動産の所在地の法務局
固定資産評価証明書:不動産の所在地の市区町村役場 |
※土地と建物はそれぞれ別に必要 |
遺産に預貯金や株式が含まれる場合
|
銀行・証券会社等 | 1000円前後/通 | |
遺産に自動車が含まれる場合
|
最寄りの運輸支局又は自動車検査登録事務所 | 300円/通 |
※1:相続人の続柄によっては追加書類の提出を求められる場合があります。
また、郵送で取得する場合には別途郵送料がかかります。
※2:遺産によって必要な書類は異なります。
戸籍謄本の取り方について詳しくはこちらをご覧ください。
遺産分割調停の申立書
遺産分割調停を申し立てる際には、必ず申立書を提出する必要があります。
調停の申立書には、当事者や被相続人の氏名、申立ての趣旨、申立の理由などを記載します。
申立ての趣旨については、被相続人の遺産について分割の調停を求めるという内容を簡潔に記載します。
申立の理由には、遺産分割調停を申し立てる動機や経緯(相続人同士での話し合いの有無など)を記載します。
裁判所の書式を利用する場合には、記載されている内容についてチェックを入れるだけで足ります。
また、申立書には、当事者等目録、遺産目録、相続関係図が含まれます。
当事者等目録には申立人と相手方全員の住所、氏名、生年月日、被相続人との続柄を記入します。
遺産目録には遺産分割の対象となるすべての遺産(不動産、預貯金、株式その他の有価証券、現金など)を具体的に特定して記入します。
相続関係図とは被相続人と調停の当事者の親族関係を図で表現したものをいいます。
申立書(当事者目録等を含みます。)は裁判所を通じて相手方に送付されるため、裁判所に提出する原本1通のほかに、相手方(他の相続人)の人数分の写しを用意する必要があります。
裁判所によっては、上記のほかにも追加書類(例えば、調停の申立てに至るまでの経緯や遺産の管理状況等を記載した事情説明書、特別受益を主張する場合の特別受益目録など)の提出を求められることがあります。
申立書の書式はこちらからダウンロードが可能です。
相続関係を証明する書類
遺産分割調停の当事者となる相続人をもれなく把握するために、被相続人が生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本類や戸籍の附票、相続人全員の戸籍謄本や戸籍の附票等を提出する必要があります。
遺産に関する証明書類
分割の対象となる遺産が存在することやその状況・価値を把握することができる客観的な証拠を提出する必要があります。
遺産分割調停では、遺産をできるだけ公平に分割するために、遺産全体の金銭的な価値を確認できる資料を提出することが求められます。
遺産分割調停にかかる費用
遺産分割調停にかかる費用には、大きく実費と弁護士費用にわけることができます。
実費
遺産分割調停の実費は、主に、家庭裁判所に調停の申立てをする際に提出する必要書類を取得するための費用と裁判所に支払う手数料等です。
これらを合わせた実費の金額は、相続人の人数や遺産の内容によって異なりますが、一般的な相場は、5000円〜1万5000円前後です。
必要書類の取得費用
遺産分割調停を申し立てる際には、上の「遺産分割調停の必要書類」の項目で解説した書類を取得して提出する必要があります。
これらの必要書類の取得にかかる費用は相続人の人数や遺産の内容によって変わりますが、一般的には数千円〜多い場合で1万円程度です。
手数料等
家庭裁判所に申立てをする際には、調停の手数料と郵送料を納付する必要があります。
①手数料
裁判所に調停をしてもらう場合の手数料(裁判所に支払う手数料)は1200円です。
申立人は1200円分の収入印紙を購入して家庭裁判所に納付します。
②郵送料
申立人、裁判所と当事者との連絡(書類の郵送等)に使用する郵便切手をあらかじめ購入して納付する必要があります(これを「予納郵券」といいます)。
遺産分割調停に必要な予納郵券は当事者1人につき800円前後(※)で、申立人は当事者の人数分の郵便切手を購入して家庭裁判所に納付する必要があります。
※予納郵券の金額はそれぞれの裁判所によって異なります。
弁護士費用
遺産分割調停の手続きを弁護士に依頼する場合には、弁護士費用がかかります。
弁護士費用は大きく、①法律相談料、②着手金、③報酬金、④日当・実費などに分類することができます。
弁護士費用は一律に決まっているものではなく、それぞれの弁護士が自由に決めることができます。
また、弁護士費用は事案の複雑さや取得する遺産の金額によって大きく変わる場合がほとんどです。
そのため、弁護士に正式に依頼する前に、法律相談を活用するなどして弁護士費用の見積もりをもらい、金額を確認することが大切です。
①法律相談料
法律相談料とは、正式な依頼をする前に弁護士に相談する際にかかる料金のことです。
法律相談料の相場は1時間あたり5000円〜1万円程度ですが、遺産分割などの相続の相談については、法律相談料を無料とする弁護士も少なくありません。
②着手金
着手金とは、弁護士に正式に依頼する場合に、前金として支払う弁護士費用のことで、依頼時に支払う必要があります。
遺産分割調停の着手金の相場は20万円〜50万円程度(固定の金額)ですが、事案の複雑さ(相続人の数や遺産の内容などによって判断されるのが一般的です。)に応じて金額は前後する可能性があります。
また、弁護士によっては、遺産分割調停によって相続人が得ようとしている遺産の金額に、一定の割合をかけあわせて着手金を計算するケースもあります。
③報酬金(成功報酬)
報酬金とは、遺産分割調停によって最終的に得られた結果(金額)に応じて支払われる弁護士費用(成功報酬)のことをいいます。
遺産分割調停の場合、調停が成立して依頼者(相続人)が取得することとなった遺産の金額に応じた一定割合(3%から18%前後)をかけ合わせた金額を報酬金とするケースが多いといえます。
例えば、相続人が取得した遺産の金額が300万円以下の場合はこの金額に18%をかけ合わせた金額、取得した遺産の金額が300万超3000万円以下の場合はこの金額に11%をかけあわせた金額、といった形で設定されます。
④日当・実費
日当とは弁護士の出張が必要となる場合にかかる出張手当のことで、日当の相場は拘束時間によって1日あたり3万円〜10万円程度です。
実費とは、コピー代や切手代、印紙代、交通費などの経費のことです。
当事務所の弁護士費用はこちらをごらんください。
遺産分割調停でやってはいけないこと
遺産分割調停では、次のようなことをやってはいけません。
- 欠席する
- 嘘をつく
- 感情的な対応をする
欠席する
遺産分割調停の期日を欠席してはいけません。
調停は話し合いによる解決をめざす手続きなので、一方の当事者が欠席した場合には手続きを先に進めることができません。
調停委員会や調停の相手は調停期日のために予定を調整し、時間と労力を割いて調停期日にのぞんでいるため、迷惑がかかります。
また、家庭裁判所は多くの事件をかかえているため、調停期日を延期するとさらに1〜2ヶ月先の日程になってしまいます。
そのため、調停を欠席することによって解決までにかかる時間がより長くなってしまいます。
欠席が続く場合には、調停によって解決できる見込みはないものと判断され、裁判所が調停を打ち切る(調停不成立で終了)可能性もあります。
どうしても期日に出席できなくなった場合には、事前に裁判所に連絡をすることが大切です。
なお、弁護士に調停手続を依頼している場合には弁護士が代わりに出席すればよく、本人が出席しなくても調停期日は行われます。
嘘をつく
遺産分割調停で嘘をついてはいけません。
相手方としては嘘の事実について反論をすることが考えられ、この場合には裁判所や相手方により多くの負担(特に時間と労力の負担)がかかります。
また、相手方の反論によって嘘が発覚するケースは少なくありません。
嘘が発覚した場合には調停委員会からの信頼を大きく失い、その後の主張を信じてもらえなくなってしまう可能性があります。
このように、嘘をつくことは相手方や裁判所に迷惑をかけるだけでなく、嘘をついた本人にとってもデメリットとなる可能性が高いといえます。
決して嘘をつくことなく、事実に基づく主張を行いましょう。
感情的な対応をする
遺産分割調停で感情的な対応をしてはいけません。
相続問題などの親族同士のトラブルでは、感情的になってしまうケースが少なくありません。
しかし、調停委員会はあくまでも相続法のルールや客観的な事実・証拠をもとに調停を進行するため、感情的な主張をしても伝わりません。
むしろ、感情的になることによって調停委員会から悪い心証をもたれてしまう可能性や、調停で解決できる見込みがないと判断されてしまう可能性もあります。
また、相手に対する不満やマイナスな感情にとらわれてしまうと、かみあわない主張を続けることになり、解決までにより多くの時間がかかってしまう可能性もあります。
調停の場では、できる限り事実や証拠にもとづく客観的な主張を行い、冷静な話し合いを心がけることが大切です。
遺産分割調停を有利に進めるポイント
主張を準備していく
調停委員会の前でどのようなことを主張するのかを調停期日前に準備しておくことが大切です。
調停期日では、調停委員会が当事者の意見を相互に聞きながら落としどころを探し、状況によっては調停委員会から一方の当事者に対して説得を行うこともあります。
そのため、調停委員会に自分の主張に共感・納得してもらうことができれば、調停を有利に進められる可能性があります。
1回の調停期日は2時間程度で、調停委員会はそれぞれの当事者を30分ごとに入れ替えて話を聴きますが、30分という時間はあっという間に過ぎてしまいます。
調停委員会に自分の主張を理解してもらい、納得してもらうためには、事前に主張の要点を整理しておき、簡潔にわかりやすく伝えられるように準備しておくことが大切です。
また、調停委員会は基本的に相続法にもとづいて事実関係の整理を行うことから、調停を有利に進めるためには、できる限り自分の主張が法律上どのような意味をもつのかを理解した上で主張することが望ましいといえます。
例えば、事実関係を時系列に沿って整理してみる、特に重要なポイントは何かを確認しておく、自分の主張の法律的な意味を確認しておく、主張したい内容をメモにまとめて当日持参する、などの事前準備をすることが考えられます。
相手の話を一方的に拒絶しない
調停は話し合いによって解決する手続きであるため、お互いに譲り合うことが必要不可欠です。
当事者が一切譲る姿勢を見せず、一方的に相手の話を拒絶し続けていると、調停によって解決できる見込みがないと判断され、調停委員会から早々と調停の手続きが打ち切られてしまう(調停不成立で終了となる)可能性があります。
自分の主張をすべて通そうとするのではなく、相手の主張をよく聞き、譲っても良いポイントでは相手に歩み寄る姿勢を示すことで、調停委員会にも良い心証を持ってもらえる可能性があります。
調停をできるだけ有利に進めるためには、事前に譲れないポイント・譲れるポイント(どこまで譲れるのか)をあらかじめ整理しておくのがよいでしょう。
客観的な資料(証拠)を集めて提出する
遺産分割調停を有利に進めるためには、自分にとって有利な資料(証拠)を集めて提出することが大切です。
家庭裁判所の調停委員会は、客観的な事実・証拠をもとに事実の確認を行います。
「こう思った」「こう感じた」などの感情を主張するだけでは調停委員会や調停の相手に納得してもらうことはできず、時間ばかりが過ぎてしまう可能性があります。
特に、相手方から不合理な主張がなされた場合には気分を害するかもしれません。
しかし、相手に対する不満を述べたり「そんなはずはない」などと抽象的な否定を繰り返すだけでは調停は前に進みません。
自分の主張の裏付けとなる証拠としてどのようなものがあるのかを考え、調停の場で提出することが大切です。
証拠に基づく冷静な主張をすることで、調停委員会からの信頼を得ることにつながり、調停を有利に進められる可能性が高まります。
調停委員まかせにしない
調停委員会のメンバーには裁判官が含まれますが、裁判官は調停の開始や終了などの重要な局面でのみ現れ、通常の調停期日は調停委員のみで進めるのが一般的です。
調停の進行を調停委員まかせにしてしまうと、調停委員が解決の方針をミスリードしてしまう場合もあるため、注意が必要です。
調停委員によるミスリードが起きる原因としては、法律の専門家ではない方が調停委員となる場合があること(※)や、時間が限られているため当事者から十分にヒアリングできない場合があること、調停委員が当事者の発言を十分に理解できていない場合があること、などがあげられます。
調停を有利に進めるためには、調停委員が本当に自分の主張を理解してくれているかを確認し、誤解している可能性があるときにはすぐに認識合わせを行うことが必要です。
(※)調停委員は、①弁護士になる資格がある人、②民事・家事の紛争を解決するための専門的な知見のある人、③社会生活上の豊富な知識経験がある人のいずれかに当てはまり、かつ、人格や見識が優れている40歳以上70歳未満の人の中から、裁判所によって任命されます。
相続に強い弁護士に相談する
遺産分割調停の申立てをする場合には、相続に強い弁護士に相談することを強くおすすめします。
遺産分割調停では、相続人や遺産に関するさまざまな資料を準備して提出する必要があります。
また、他の項目で説明したとおり、調停を有利に進めるためには、調停委員や裁判官に対して説得的な主張を行い、有利な証拠を集めて提出することなどが大切です。
もっとも、相続法や調停に関する知識のない一般の方がこれらを独力で行うことはかなり難しい面があるといえます。
相続に強い弁護士に相談・依頼することで、調停の申立てに必要な書類等の準備や、調停期日で主張すべき内容の決定、主張を裏付ける証拠の準備などを任せることができるため、調停を有利に進められる可能性が高まります。
相続に強い弁護士であれば、相続法に関する専門知識や過去に担当した案件での経験を元に、的確な判断をしてくれることが期待できます。
また、調停期日で調停委員によるミスリードが行われた場合には、弁護士から誤りを指摘して軌道修正をしてもらうことができます。
さらに、平日の日中に裁判所へ行くことが難しい場合には、弁護士に調停期日に代理で出席してもらうこともできます。
裁判所の統計によれば、遺産分割調停では代理人弁護士に依頼しているケースが8割以上に及びます。
ただし、弁護士には専門分野があることから、弁護士の中でも、相続に強い弁護士に相談・依頼することが大切です。
相続問題にそれほど相続に強くない(あまり相続問題を取り扱った経験がない)弁護士に依頼したために思ったような結果が得られないばかりか、かえってお金と労力がかかってしまった、というケースもあります。
弁護士への依頼を検討している場合には、いきなり正式な依頼をするのではなく、まずは法律相談を活用することをおすすめします。
法律相談を通じて、調停を申立てた場合の見通しや弁護士費用の見積もりを確認したり、弁護士との相性を確認したりしてみるのがよいでしょう。
相続を弁護士に相談すべき理由はこちらをご覧ください。
遺産分割調停についてのQ&A
遺産分割調停で負けたらどうなるの?
調停の結果は「成立」に終わるか、または「不成立」に終わるか、のいずれかです。
相続人全員が合意できた場合には調停成立によって終了しますが、相続人全員で合意できる見込みがない場合には調停不成立となり、手続きが打ち切られます。
遺産分割調停が不成立に終わった場合には、当事者からの申立てによらず、自動的に遺産分割審判が開始されます。
遺産分割審判では、当事者が合意できなかった場合であっても家庭裁判所が最終的な判断(審判)を下します。
当事者は一定期間内に審判に対する異議申立てをすることができますが、異議申立てが認められなかった場合には審判が確定し、その内容に従わなければなりません。
遺産分割調停は何回くらいありますか?
当事者や遺産の数が多い場合など、事案が複雑な場合は調停の回数が多くなる傾向にあり、多いもので20回以上に及ぶケースもあるようです。
調停を弁護士に依頼していない場合、当事者はその都度裁判所に行く必要があります。
調停は1〜2ヶ月に1回のペースで行われるため、一般的な回数の場合でも解決までには半年〜2年程度の時間がかかります。
調停の手続きを弁護士に依頼している場合には、できるだけ少ない回数・期間で調停を終わらせるために、期日間で相手方との交渉を進めてもらうことが考えられます。
調停が成立したのに遺産を渡してもらえないときはどうしたらいい?
裁判所の作成した調停調書には、訴訟(裁判)に勝訴した場合の「判決書」と同じように強い効力が認められています。
「強制執行」とは、裁判所の力を借りて強制的に相手方から遺産の引き渡しや支払いを強制的に実現する手続きのことです。
例えば、相手が遺産分割調停で合意した金銭を支払ってくれない場合には、相手の財産を差し押さえて売却するなどして、その売却代金を支払いにあてるなどの方法がとられます。
強制執行の管轄(どの裁判所に申立てをすべきか)は、相手方に引き渡しや支払いを求めたい遺産の種類によって異なります。
遺産分割の強制執行について詳しくはこちらをご覧ください。
まとめ
- 遺産分割調停とは、家庭裁判所の「調停委員会」を介して、亡くなった方の遺産の分け方について相続人全員で話し合い、合意によって解決することをめざす手続きのことです。
- 遺産分割調停の申立てをする前には、被相続人が有効な遺言書を残しているかどうかを確認したり、有効な遺言書がない場合には相続人全員での遺産分割協議を行ったりすることとなります。
- 遺産分割調停を利用した場合には、調停委員会が中立的な立場から、相続人が一定の結論で合意できるように促してくれるというメリットがある一方、解決までに長期間(一般的には1年〜2年程度)を要すること、柔軟な解決ができなくなること、などのデメリットがあります。
そのため、遺産分割調停の申立てをする前に、まずは遺産分割協議での解決を目指すのがおすすめです。 - 遺産分割調停を有利に進めるためには相続法や調停手続きに関する専門知識が必要となることから、相続法に強い弁護士に相談・依頼されるのがよいでしょう。
当事務所では、相続問題に強い弁護士で構成する相続対策専門チームを設置しています。
遺産分割に関するトラブルはもちろんのこと、遺言書の作成、相続税の申告や節税対策、相続登記など、相続全般に関する幅広いご相談について、相続対策専門チームが対応させていただきますので、安心してご相談ください。
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