問題点・趣旨
問題点や改正の趣旨としては、前回述べた遺産分割前における預貯金債権の行使と同じです。
遺産分割前における預貯金債権の行使について、詳しくはこちらをご覧ください。
この場合、遺された相続人の生活費などが不足するおそれがあり、遺産分割の成立を待ってそういった不足部分について、遺産分割の前に一部の分割を家庭裁判所に求める際の要件を緩和するという改正です。
遺産分割前の預貯金債権の仮分割の仮処分の内容
趣旨で指摘したとおり、この仮分割の仮処分自体は、現行の家事事件手続法200条2項に以下のとおり定められています。
しかし、この規定においては「事件の関係人の急迫の危険を防止するため必要があるとき」と定められており、この要件を裁判所に認めてもらうことは容易ではありませんでした。
そのため、改正では、2項の次に新たに3項を挿入し、以下のように定めることになっています。
第3項では、債務弁済や相続人の生活費の支弁などのために「遺産に属する預貯金債権を行使する必要があると認めるとき」という要件となっており、第2項と比べると「急迫の危険の防止」という文言がなく、要件がだいぶ緩和されたものとなっています。
もっとも、要件が緩和された分、但し書きでは、「他の共同相続人の利益を害するとき」は仮分割はしませんと規定しています。
効果
上記の要件を満たして、裁判所が仮処分出すと、それをもって、預貯金債権を行使できるようになります。
もっとも、保全手続きは通常の裁判手続きよりは迅速に行われますが、それでも1~2か月程度はかかりますし、弁護士への依頼をしないと難しいため、その費用も掛かってくることになります。
そのため、趣旨で説明したとおり、「遺産分割前における預貯金債権の行使」をしつつ、仮処分も求めていくということになろうかと思います。