遺産分割協議前に預貯金を引き出せる?弁護士が解説

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

遺産分割前に預貯金を払い戻す方法としては、①仮分割の仮処分を申し立てる方法と、②一定の金額を上限として銀行に直接請求する方法があります。

遺産分割にはある程度時間がかかります。

他方で、相続開始後は葬儀費用等で様々なお金が必要となります。

ここでは、遺産分割前に預貯金を引き出す方法について、相続に注力する弁護士が解説しています。

相続問題でお困りの方はぜひ参考になさってください。

預貯金債権の仮分割の仮処分を申し立てる方法

仮分割の仮処分を行うには、次の2つのパターンのいずれかの要件が必要となります(家事事件手続法200条)。

【パターン1】
  • 遺産の分割の審判又は調停の申立てがなされていること
  • 強制執行を保全し、又は事件の関係人の急迫の危険を防止するため必要がある

 

【パターン2】
  • 遺産の分割の審判又は調停の申立てがなされていること
  • 相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権を当該申立てをした者又は相手方が行使する必要がある場合(ただし、他の共同相続人の利益を害さないこと)

上記のいずれかの要件を満たして、裁判所が仮処分を出すと、それをもって、預貯金債権を行使できるようになります。

もっとも、上記の手続きは1~2か月程度はかかりますし、弁護士への依頼をしないと難しいため、その費用も掛かってくることになります

そのため、次に説明する「遺産分割前における預貯金債権の行使」も検討するとよいでしょう。

 

 

遺産分割前における預貯金債権の行使

被相続人が亡くなった場合、葬式等の費用や病院への支払、配偶者の当面の生活費などそれなりの金銭が必要になります。

その資金として、生命保険金などを残してくれている場合には問題はないのですが、預貯金しかないような場合には、被相続人の死後は口座が凍結されてしまい、銀行は預貯金の払戻しを受け付けてくれません

このような問題を背景として、2018年に法改正があり、預貯金債権の一部について、遺産分割前に払戻しを受けられるようになりました。

遺産分割前の払戻しのため、場合によっては当該払い戻しによって他の相続人が不利益を受ける可能性もありますので、その額には下記のとおり一定の上限を設けられています。

 

遺産分割前の預貯金の払い戻しの上限

  1. ① 相続開始の時の債権額の3分の1に法定相続分を乗じた数
  2. ② 標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする

 

①「相続開始の時の債権額の3分の1に法定相続分を乗じた数」について

預貯金額の3分の1ということになりますが、これは「債務者ごと」に判断することになります。

つまり、複数の口座を持っている場合でも、それを合算した額の3分の1となるということです。

 

②法務省令について

150万円となっています

 

具体例でシュミレーション

以上を踏まえて、事例で説明します。

 

事例

被相続人Zが亡くなって、相続人が配偶者A、子どもB及びCで、下記の被相続人の預貯金口座がある。

Bは、いくら払い戻しを受けられるのか。

R銀行
○○口座:1500万円
△△口座:600万円

P銀行
××口座:300万円

Bが各銀行から払い戻しを受けられる額は、以下のとおりです。

①要件について

R銀行の口座:(1500万円 + 600万円)× 3分の1 × 法定相続分4分の1 = 175万円
P銀行の口座:(300万円)× 3分の1 × 法定相続分4分の1 = 25万円

②要件について

R銀行から受けられる払戻額 = 150万円(上限が150万円のため)
P銀行から受けられる払戻額 = 25万円

 

 

 

まとめ

以上、遺産分割前の預貯金の払い戻しについて解説しましたが、いかがだったでしょうか。

預貯金を払い戻す方法としては、①仮分割の仮処分を申し立てる方法と、②150万円を上限として銀行に直接請求する方法があります。

仮処分手続きと遺産分割前の払戻しのいずれを選ぶかは、手続きの迅速さや必要資金の規模によって判断することが推奨されます。

それぞれのメリット・デメリットを考慮し、必要に応じて弁護士のサポートを受けることが重要です。

当事務所は相続に注力する弁護士のみで構成される専門チームがあり、相続でお困りの方を協力にサポートしています。

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