相続放棄とは?【弁護士が解説】

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

相続放棄とは

相続放棄とは、相続財産の一切を放棄することができる制度です。

民法上、人が死亡したときには、相続人が相続開始のときから被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継するものと定めています(民法896条)。

しかし、相続人の中には、遺産相続を希望しない人もいますので、そのような場合のために相続放棄という制度が用意されています。

例えば、資産に比べ明らかに大きな負債があるときや、相続に伴うトラブルに巻き込まれたくないときなど、相続人は相続放棄をすることにより借金を負わなくてもよいことになります。

また、借金だけでなく、損害賠償責任などの責任も免れることになります。

しかし、相続放棄をする場合には、いくつか注意点があります。

 

 

相続放棄の期間

相続放棄をするには、被相続人が死亡したことを知るなどして相続の開始を知ったときから3か月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をし、受理される必要があります。

これを「熟慮期間」といいます。

家庭裁判所は、相続放棄の申述が熟慮期間内にされたものであると認めれば当該申述を受理しますが、もしその申述が熟慮期間の経過後にされたものであると認めた場合には、その申述の申立てを却下します。

申立てを却下するということは、家庭裁判所がその相続放棄の申述を受け付けないということです。

 

 

相続放棄ができない場合

もっとも、熟慮期間中であっても、相続人が相続財産の全部又は一部を処分したときは、相続を単純承認したものとして、相続放棄をすることができなくなります。

※ただし、保存するための行為や短期賃貸借(民法602条参照)をするときは相続放棄は可能です。

判例 【参考判例 最判昭和42年4月27日判決】

「民法921条1号本文が相続財産の処分行為であつた事実をもつて当然に相続の単純承認があつたものとみなしている主たる理由は、本来、かかる行為は相続人が単純承認をしない限りしてはならないところであるから、これにより黙示の単純承認があるものと推認しうるのみならず、第三者から見ても単純承認があつたと信ずるのが当然であると認められることにある(大正九年一二月一七日大審院判決、民録二六輯二〇三四頁参照)。

したがって、たとえ相続人が相続財産を処分したとしても、いまだ相続開始の事実を知らなかつたときは、相続人に単純承認の意思があつたものと認めるに由ないから、右の規定により単純承認を擬制することは許されないわけであって、この規定が適用されるためには、相続人が自己のために相続が開始した事実を知りながら相続財産を処分したか、または、少なくとも相続人が被相続人の死亡した事実を確実に予想しながらあえてその処分をしたことを要するものと解しなければならない。」

と判示しています。

つまり、①相続したことを知りながら②相続財産を処分した場合、単純承認があったものとみなされることになります。

それに対し、被相続人の死亡後に②相続財産を処分した場合であっても、被相続人の死亡の事実を知らず、相続の開始を知らなかったときは、なお相続放棄が可能であるといえます。

 

相続放棄の3つのデメリット

相続放棄には、次のデメリットが考えられるので注意が必要です。

撤回はできない

相続放棄をした後に、その当時判明していなかった新たな遺産が発見されることがあります。

相続放棄をする理由は、多くの場合、被相続人の借金を引き継ぎたくないなどです。

したがって、このような動機の場合、発見された遺産が高額であれば、相続放棄を取り消したいと思うでしょう。

しかし、相続放棄は撤回が不可能です。

したがって、相続放棄の前にはしっかりとした財産調査が必要です。

 

いいとこ取りはできない

相続放棄は、被相続人のマイナスの遺産(借金)だけでなく、プラスの遺産もすべて相続することができなくなる制度です。

そのため、例えば、親が残してくれた実家のみは引き継ぎたい、と思っても相続することができなくなります。

したがって、被相続人の遺産はすべて引き継がない、ということを前提に相続放棄をするかどうかを検討すべきです。

なお、遺産の内容が債務超過か否か不明な場合に、被相続人の財産の範囲内で被相続人の債務を支払うことができる制度として、限定承認というものがあります。

この制度については、後述します。

 

相続放棄は他の親族に迷惑をかけることがある

相続放棄をすると、被相続人の借金を引き継ぐことはありませんが、他の親族がその借金を相続する可能性があります。

具体例で説明します。

夫が死亡したところ、夫にはプラスの遺産はなく、500万円の借金があったことが判明したとします。

そして、相続人である妻と子どもは、法定相続分がそれぞれ2分の1ずつですので、250万円の借金を引き継ぐこととなります。

そのため、妻と子は相続放棄をしました。

相続放棄によって、妻と子は夫の借金を背負う必要はありません。

しかし、相続放棄によって、法律上妻と子は、はじめから相続人とはならなかったものとみなされます(民法第939条)。

根拠条文

第939条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

引用:民法|電子政府の窓口

もちろん、妻と子の夫との身分関係自体が無くなるわけではありませんが、相続人としては存在しなかったとみなされてしまいます。

そうすると、この事案では第2順位の相続人である、両親が相続人となってしまうのです。

つまり、両親が夫の借金についても相続するということになります。

相続放棄は、このような事態を招くおそれがあります。

そのため、相続放棄の際には、相続権がある親族が全員で放棄することをお勧めいたします。

もちろん、相続放棄するか否かはそれぞれの自由です。

したがって、相続放棄を強制するのはよくありません。

しかし、少なくとも、相続放棄をする場合、その影響について、事前に知らせておいた方がよいでしょう。

 

 

 

相続放棄の手続の仕方

相続放棄の場所

相続放棄を行うには、法律で定められた手続を家庭裁判所で行う必要があります。

家庭裁判所は全国にありますが、手続を行う裁判所は、被相続人が生前住んでいた場所の家庭裁判所になります。

各地の裁判所の所在地については、こちらをご覧ください。

参考:裁判所|各地の裁判所一覧

 

必要書類

 

まず、相続人は相続放棄申述書を作成し、申述をおこなう人の戸籍謄本や被相続人(亡くなった人)の戸籍謄本などの必要書類を添付したうえで、家庭裁判所に提出します。

なお、相続放棄申述書は家庭裁判所にも備え付けてありますので、そちらで用紙を取得することができます。

必要書類を提出すると、家庭裁判所はそれらの書類を確認し、必要に応じて、申述人に書面で照会をかけたり、審問に呼び出したりします。

これらを通じて、申述人が相続放棄の意思を本当に持っているのかなどをチェックし、相続放棄の要件をきちんと備えているのか確認を行います。

当事務所では、相続放棄の申述書のサンプルをホームページ上に公開しており、無料で閲覧やダウンロードが可能です。

 

受理

 

きちんと要件を備えていることが家庭裁判所により確認されると、相続放棄の申述が受理され、相続放棄の効力が生じます。

相続放棄の申述の時に、相続放棄申述の受理証明書を申請しておくと、家庭裁判所から受理証明書が交付されますので、もし被相続人の債権者が訪ねてきたとしても、この受理証明書を示して支払いを拒否することが可能です。

 

 

限定承認について

限定承認とは、相続人が被相続人の財産の範囲内で被相続人の債務を支払うという制度です。

この手続きも、相続放棄と同様に、被相続人の死亡を知ってから3か月以内に家庭裁判所に申立てをして行う必要があります。

限定承認を選択すべき場合

以下のようなものが考えられます。

  • 債務が超過しているかどうか不明な場合
  • 債務を加味しても、自宅などのどうしても相続したい相続財産がある場合
  • 家業を継いでいくような場合に、相続財産の範囲内であれば債務を引き継いで良いという場合

 

 

限定承認に必要な手続き

  1. ① 相続放棄と異なり、相続人全員の総意が必要となります。
  2. 相続の開始を知ったときから3か月以内に「限定承認の申述審判申立書」を家庭裁判所に提出します。

限定承認は単純承認に比べ、無限責任ではなく有限責任という大きなメリットがあるため、利害調整が必要だと考えられており、手続きが複雑になっています。

そのため、限定承認をする際には 経験豊富な弁護士にご相談されたほうがよいでしょう。

 

 

相続放棄の費用

当事務所の相続放棄にかかる費用は以下のとおりです(税別・実費別)。

5~8万円

同一の被相続人について放棄する相続人が複数いる場合は、追加1名当り3万円

 

以上、相続放棄について、内容やデメリットを解説しましたがいかがだったでしょうか。

相続放棄は、被相続人の借金を引き継ぐ必要がなくなるため、相続人にとってありがたい制度です。

しかし、相続放棄は期限があるのでなるべく早く動く必要があります。

また、遺産の一部を使った場合、相続放棄できるか否かは専門的な判断が必要となります。

そのため、相続放棄については、専門家である弁護士にご相談されてみることをお勧めしています。

 

 


なぜ遺産相続のトラブルは弁護士に依頼すべき?

続きを読む

まずはご相談ください
初回相談無料