相続放棄申述書(そうぞくほうきしんじゅつしょ)とは、相続放棄をするために必要な書類のことです。
相続放棄をするためには、必ず家庭裁判所に相続放棄申述書を提出しなければなりません。
この記事では、相続にくわしい弁護士が、相続放棄申述書のサンプルを示しながら、その内容や書き方をわかりやすく解説します。
また、相続放棄申述書を提出した後に家庭裁判所から送付されてくる相続放棄の照会書や、それに対する回答書の書き方についてもあわせて説明します。
相続放棄申述書とは?
「相続放棄申述書」とは、相続放棄の申立てをするために家庭裁判所に提出する書類のことです。
相続放棄申述書には、相続放棄をする意思があることやその理由などを記載します。
相続の放棄をするためには、相続が開始したこと(被相続人※が亡くなったこと)を知ったときから3ヶ月以内に、家庭裁判所に対して相続放棄の申立て(申述)をしなければなりません。
※被相続人:遺産を残して亡くなった方(故人)のことです。
相続放棄の申立ては、相続放棄申述書のほか所定の添付書類を提出して行う必要があり、口頭での申立ては認められません。
次の項目では、相続放棄申述書の内容や作成方法についてくわしく解説します。
相続放棄申述書の作成方法
相続放棄申述書のサンプル
以下は、相続放棄申述書のサンプルです。
まずはこれを見て、相続放棄申述書のイメージをつかんでいただければと思います。
▼クリックで拡大できます
相続放棄申述書の書式のダウンロードはこちら
相続放棄申述書はどこでもらえる?
相続放棄申述書の用紙は、最寄りの家庭裁判所の窓口でもらうことができます。
また、裁判所のホームページから書式をダウンロードして印刷することもできます。
当事務所でも書式(PDF形式・Excel形式)を無料で提供していますので、ダウンロードしてご利用ください。
相続放棄申述書の書式のダウンロードはこちら
相続放棄申述書の書き方
相続放棄申述書の記載する内容とその書き方は、次のとおりです。
収入印紙
「収入印紙」の欄には、申立の手数料として800円分の収入印紙を貼ります。
収入印紙は、郵便局やコンビニエンスストア、裁判所などで購入することができます。
申立書を提出する裁判所・作成年月日・申述人の氏名と印鑑
1つめの欄には、申立書を提出する裁判所と作成年月日、申述人の氏名を記入して印鑑を押します。
申立書を提出する裁判所は、被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所です。
「被相続人の最後の住所」とは、被相続人が住民登録をしていた最後の住所のことです。
その下には、申立書を作成した日付を記入します。
右側の枠に、相続放棄をする方(申述人)の氏名を記入して印鑑を押します。
印鑑は実印である必要はなく、認印でもかまいません。
添付書類の情報
相続放棄の申述をする際には、相続放棄申述書のほかに添付書類を提出する必要があります。
相続放棄をする方(申述人)すべてに共通する添付書類は次の2つです。
- 被相続人の住民票除票または戸籍の附票
- 申述人の戸籍謄本
上記以外の添付書類は、申述人と被相続人との続柄によって違います。
例えば、被相続人の子どもが相続放棄をする場合には、上記に加えて「被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本、除籍謄本または改製原戸籍謄本」を提出する必要があります。
相続放棄の必要書類について、くわしくはこちらの記事で解説しています。
申述人の情報
「申述人」の欄には、相続放棄をされる方ご自身の本籍地、住所、平日の日中に連絡の取れる電話番号、氏名、生年月日と年齢、職業、相続人との関係を記入します。
ご自身の戸籍謄本や住民票を参照しながら、間違いのないように記入しましょう。
法定代理人等の情報
「法定代理人等」の欄には、申述人が未成年の場合は親権者、成年被後見人の場合は成年後見人の情報を記入します。
具体的には、法定代理人の種類(親権者または成年後見人等)、住所、電話番号、氏名を記入します。
被相続人の情報
「被相続人」の欄には、被相続人の本籍地、最後の住所、死亡当時の職業、氏名、死亡年月日を記入します。
本籍地については被相続人の戸籍謄本等(添付書類)を確認しながら正確に記入しましょう。
最後の住所は、被相続人が住民登録をしていた最後の住所を記入します。
住民票除票または戸籍の附票(添付書類)で確認することができます。
被相続人の死亡当時の職業について、被相続人と疎遠であったなどの理由でわからない場合には、「不明」と記載すれば足ります。
被相続人の死亡年月日は、被相続人の戸籍謄本 (被相続人の死亡届が受理された後に記載されます。)または住民票除票を確認しながら、間違いのないように記入しましょう。
申述の趣旨
「申述の趣旨」は、家庭裁判所に対して相続放棄の申立てをする意思があることを伝えるものです。
家庭裁判所の書式を利用する場合には、あらかじめ用紙に「相続の放棄をする。」という文言が印刷されているため、申述人の側で新たに何かを記載する必要はありません。
申述の理由
「申述の理由」の欄には、相続の開始を知った日、相続放棄の理由、相続財産の概略を記入します。
「相続の開始を知った日」とは「被相続人が亡くなったことを実際に知った日」を意味します。
例えば、相続人が被相続人と近い関係にあって(同居している場合など)、相続の開始日当日(被相続人が亡くなった当日)にその事実を知った場合、「相続の開始を知った日」は被相続人の亡くなった日(死亡年月日)と同じ日付になります。
また、相続人が被相続人と疎遠な関係にあり、亡くなってから2週間後にその事実を知ったという場合には、「相続の開始を知った日」は、死亡年月日から2週間後の日付となります。
「相続の開始を知った日」は相続放棄の期限に影響するため、よく確認して記入することが大切です。
民法は、相続放棄の放棄について、相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内にしなければならないと定めています(この3ヶ月の期間を「熟慮期間(じゅくりょきかん)」といいます)。
この3ヶ月の熟慮期間内に相続放棄の申立て(申述)をしなかった場合、基本的にはそれ以降の相続放棄は認められません(家庭裁判所は申立てを受理してくれません)。
相続人は、借金などのマイナスの財産を含むすべての遺産を相続したものと扱われることになります。
【根拠条文】
◼︎民法第915条1項◼︎
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
出典:e-GOV法令検索
「放棄の理由」欄では、相続を放棄する理由を以下の5つから選択します。
①被相続人から生前に贈与を受けている
被相続人が生きているうちにすでに十分な財産(例えば土地やマンション、預金など)をもらっており(生前贈与)、さらに遺産を相続する必要がない場合などです。
②生活が安定している
ご自身に十分な収入や財産がある(生活が安定している)ため、被相続人の遺産を相続する必要がない場合などです。
③遺産が少ない
被相続人の遺産が少なく(価値が小さく)、手続きの手間や労力をかけて遺産を相続するメリットがあまりない場合などです。
④遺産を分散させたくない
被相続人の遺産を特定の相続人に集中させたい場合(例えば、被相続人の遺産が先祖代々の土地のみであり、長男にこれを継がせたい場合などです。)などです。
⑤債務超過のため
被相続人にマイナスの財産(借金やローンなど)がある場合、相続放棄をしない限りマイナスの財産は相続人に引き継がれます。
債務超過とは、明らかにプラスの財産(不動産や預貯金など)よりもマイナスの財産の方が多く、相続した場合には相続人が不足分を返済しなければならないようなケースのことです。
相続放棄は真意にもとづくものであればよく、相続放棄の理由には制限がありません。
したがって、基本的には「この理由でなければ相続放棄を認められない」ということはないので、選択肢の記載と完全に一致していなくても、意味が近いものを選択すれば問題ありません。
どれにも当てはまらない場合は、「その他」を選択した上で簡潔に理由を記載します。
例えば、次のような理由が考えられます。
- 相続に関わりたくないため
- 被相続人とは絶縁状態にあるため
- 遺産分割協議に参加したくないため
「相続財産の概略」欄には、被相続人の資産(プラスの財産)や負債(借金・ローンなど)の内訳をわかっている範囲で記入します。
相続財産の内容は厳密でなくてもよく、大まかな数字を記入すれば足ります。
また、相続財産の内容を把握していなくても相続放棄は認められるため、把握していない場合には「不明」と記載します。
もっとも、後になってから被相続人の資産が見つかったという理由で相続放棄を取り消したり撤回したりすることはできないことから、しっかりと相続財産を調査したうえで相続放棄の判断をされることをおすすめします。
相続放棄申述書のコピーを保管
ほとんどの場合には、相続放棄申述書を提出した後に、庭裁判所から記載した内容に関する質問(照会)を受けることになります(質問の内容や回答方法については後ほど解説します)。
相続放棄申述書に記載した内容と矛盾した内容を記載してしまうと、家庭裁判所が、相続放棄申述書は本人の意思によらず他人に勝手に提出されたのではないか、等の疑いを持ってしまう可能性があります。
家庭裁判所に相続放棄申述書を提出する前にコピーを取って保管しておき、後日の照会(質問)の際にはコピーを参照しながら回答するのがおすすめです。
相続放棄申述書はパソコンで作成できる?
相続放棄申述書はパソコンで作成することができます。
申述人の氏名についても、手書きで署名しなければならないという決まりはありません。
以前は原則として申述人(または法定代理人)が氏名を自署しなければならないとされていましたが、法改正によって氏名の自署は必須ではなくなりました。
裁判所のフォーマットにも「申述人(未成年などの場合は法定代理人)の記名押印」と記載されています。
「記名」とは、方法を問わず書類等に氏名を書くことをいい、パソコンで氏名を印字する方法や、氏名のスタンプを押す方法、他人に氏名を代筆してもらう方法なども「記名」に含まれます。
裁判所の窓口で相続放棄申述書の書式(印刷済みのもの)をもらう場合や、裁判所のホームページからPDF形式の書式をダウンロードして印刷する場合には、手書きで記入することになるかと思います。
パソコンで作成したい場合には、Word形式・Excel形式の書式をダウンロードして利用しましょう。
申立先の裁判所によってはWord形式の書式を用意している場合があり(東京家庭裁判所など)、また、当事務所でもExcel形式の書式を無料で提供しています。
相続放棄申述書の書式のダウンロードはこちら
相続開始から3ヶ月が経過したケース
相続放棄の手続きは相続の開始(相続人が亡くなったこと)を知った日から3ヶ月の熟慮期間内にしなければならず、この期限を過ぎると原則として相続放棄の申立ては認められず、借金等のマイナスの財産を含めて、すべての遺産を相続したものとみなされます。
一般的なケースでは、相続人は被相続人が亡くなった事実(相続の開始)を比較的早い段階で知ることになります。
そのため、相続の開始(被相続人が亡くなった日)から3ヶ月以上を経過して相続放棄の申立て(申述)をする場合には、家庭裁判所から、相続開始の事実を知ってから3ヶ月を過ぎているのではないか、という疑いを持たれる可能性があるため、注意が必要です。
長期間にわたって被相続人が亡くなった事実(相続の開始)を知らず、そのために相続放棄の申述の手続きまでに時間がかかったという場合には、家庭裁判所に対して合理的な理由を説明することが大切です。
例えば、相続人が被相続人や他の相続人と不仲(疎遠)であったため、被相続人が亡くなった4ヶ月後に相続開始があったことを知り、その2ヶ月後に相続放棄の申述をするというケース(実際には3ヶ月の熟慮期間内に申述がされているケース)です。
このようなケースでは、相続放棄申述書を提出する際に、被相続人が亡くなったことを知るまでに時間がかかったことについての合理的な理由を記載した書類(相続放棄の申述理由書)をあわせて提出するなどの対処をします。
合理的な理由を説明できない場合には、相続放棄が認められないリスクがあることから、相続開始から3ヶ月以上を経過して相続放棄の手続きをする場合には、相続に強い弁護士などの専門家に相談されることをおすすめします。
相続放棄の申述理由書の具体例はこちら
相続開始を知ってから3ヶ月を経過したケース
さらに、被相続人が亡くなった事実(相続の開始)を知ってから3ヶ月を経過しているケースでは、相続放棄を認めらない(受理されない)可能性が非常に高くなります。
もっとも、やむを得ない特別な事情がある場合には、相続放棄を認められる場合もあります。
【3ヶ月経過後の相続放棄は認められる?参考判例】
過去の判例では、やむを得ない特別な事情があるケースについて、3ヶ月の熟慮期間の開始時点を「相続の開始があったことを知った時」ではなく「相続財産の全部又は一部の存在を認識した時(または通常認識できる時)」であるとしたものがあります。
この事案では、相続人は被相続人と10年以上も疎遠な関係にあり、負債の状況等について一切の説明を受けていなかったことから、相続すべき財産(債務を含む。)はまったくないと信じて相続放棄の手続きをしなかったところ、被相続人の死亡から1年以上経って、債務の支払いを命じる判決書の宗達を受けました。
判例は、被相続人との関係性などを考慮すると、相続人が「相続すべき財産はまったくない」と信じたことには「相当な理由がある」として、「相続財産の全部又は一部の存在を認識した時(保証債務の存在を認識した時)」から3ヶ月以内であれば、相続放棄が認められるとしました。
この判例のように、被相続人が亡くなった事実(相続の開始)を知ってから3ヶ月を経過したにもかかわらず相続放棄が認められるのは非常に稀なケースであり、安易に「被相続人には債務がない」と信じて相続財産の調査を怠っていたような場合には認められません。
やむを得ない事情があって相続開始を知ってから3ヶ月を経過してしまった場合には、できるだけ早く相続にくわしい弁護士に相談することが大切です。
3ヶ月の期限が迫っているケース
相続放棄をすべきかどうかの判断を適切に行うためには、事前に被相続人の遺産の内容や価値を調査することが重要です。
もっとも、被相続人の遺産の数が多い場合や、評価の難しい遺産が含まれている場合には、3ヶ月の熟慮期間内に調査が終わらない可能性があります。
そのようなケースでは、家庭裁判所に期間伸長の申立てをするという対処法があります。
すでに説明したように、3ヶ月の熟慮期間を過ぎてからの相続放棄は認められない可能性が高くなることから、期間内に遺産の調査等がに合わない可能性があるときは、忘れずに期間伸長の申立てをすることが大切です。
申立ての内容や方法によっては、期間の伸長が認められず相続放棄を受理してもらえないリスクもありることから、相続にくわしい弁護士などの専門家に相談・依頼されることをおすすめします。
相続放棄申述書の提出方法
どこに提出する?
相続放棄申述書は、被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所に提出します。
「管轄」とは、どの裁判所がどの案件を担当するのか(どの裁判所に申立てをすればよいのか)について定められたルールのことです。
各裁判所の管轄する区域については、こちらでご確認いただくことができます。
参考:裁判所ホームページ
提出方法は?
相続放棄申述書の提出方法には、管轄の家庭裁判所の窓口に直接持参して提出する方法のほか、郵送で提出する方法があります。
どちらの方法を選択してもかまいません。
家庭裁判所からの照会について
相続放棄申述書を提出すると、10日前後で家庭裁判所から「相続放棄照会書」と「相続放棄回答書」が送られてきます。
※ なお、相続放棄の手続きを弁護士に依頼した場合、相続放棄照会書は弁護士宛てに送付されますが、手続きを司法書士に依頼した場合は申述人本人に送付されます。
相続放棄をされる方(申述人)は、家庭裁判所から指定された期日までに相続放棄回答書を返送する必要があります。
相続放棄照会書
「相続放棄照会書」とは、家庭裁判所から相続放棄の申述人に対して、本当に自分の意思で相続放棄の申立て(申述)をしたのか(本当に相続放棄をする意思があるのか)、相続放棄をする意思に変わりはないか、等を確認するために送付する書類です。
相続放棄が認められると、相続人は一切の遺産を引き継がなくなる(相続権を失う)という強い効果が発生します。
また、一度した相続放棄を撤回したり、取り消したりすることはできません。
そのため、家庭裁判所は相続放棄照会書を送付することで、申述人の名前で相続放棄の申立て(申述)があったことを知らせるとともに、申述人の意思確認をすることとしているのです。
なお、申述人の全員に必ず相続放棄照会書が送付されるとは限らず、家庭裁判所が相続放棄申述書の内容だけで相続放棄の意思等を確認できると判断した場合には、送付されないこともあります。
2週間以上たっても照会書が送られてこない場合には、相続放棄申述書を提出した家庭裁判所の窓口に問い合わせをしてみるのが安全です。
相続放棄回答書
「相続放棄回答書」は「相続放棄照会書」と一緒に送られてくる書類です。
相続放棄回答書の書式や内容は、それぞれの家庭裁判所によって異なりますが、相続放棄に関する質問が記載されており、質問に対する回答を記載する欄が設けられています。
家庭裁判所は、提出された「相続放棄申述書」が申述人本人の真意にもとづいて作成されたものかを確認するために相続放棄照会書・回答書を送付しているため、「相続放棄申述書」の内容と矛盾しないように回答することが大切です。
回答内容についてさらに家庭裁判所が疑問をもった場合には、電話での問い合わせを受けたり、裁判所への出頭を求められたりする可能性がありますので、しっかりと対応しましょう。
回答書の書式や質問の内容はそれぞれの家庭裁判所によって異なりますが、一般的には以下のような質問に対する回答を記載することになります。
- 被相続人が亡くなったことを知った日
- 相続放棄は自分自身の意思によるものか
- 相続放棄の申立ては自分自身で行ったか(誰かに依頼したか)
- 被相続人の財産を処分したり使ったりしたことがあるか
- 相続放棄の申立てをした理由
- 相続放棄をする意思に変わりはないか
質問内容は申述人の状況によっても異なる可能性があります。
例えば、被相続人の債務超過を理由に相続放棄をする場合には、把握している負債の内容について質問されたり、被相続人が亡くなったことを知るまでに時間がかかっている場合には、その理由について質問されたりすることがあります。
回答書に虚偽の事実を書いてはいけません。
- すでに提出済みの相続放棄申述書の内容と矛盾する内容を書いてしまうと、相続放棄が申述人の真意にもとづくものではないと判断されるおそれがあるため、相続放棄申述書のコピーを取っておくなどして、矛盾のない回答をすることが大切です。
- 「被相続人の財産を処分したり使ったりしたことがあるか」という内容の質問は、相続放棄ができなくなる事情がないかを確認するための質問です。
相続放棄の申述をする前に被相続人の遺産を売却したり、使いこんだり、隠したりすると、すべての遺産を相続したものとみなされてしまい(これを「法定単純承認」といいます。)、もはや相続放棄をすることができなくなります。
間違えて「処分したことがあります」という回答をすると、相続放棄が認められなくなる可能性があるため、注意が必要です。
また、処分したことがあるのにもかかわらず「処分したことはない」という虚偽の回答をしてはいけません。
遺産の一部を被相続人の葬儀費用にあてた場合など、遺産の使い方によっては法定単純承認が成立しない場合もあるので、心配な場合には相続にくわしい弁護士に相談されることをおすすめします。
相続放棄受理通知書について
相続放棄回答書の内容に問題がなく、相続放棄の手続きが完了すると、家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が送付されます。
再発行してもらうことはできないため、失くさないよう大切に保管しましょう。
万が一何らかの問題があって相続放棄が認められなかった場合には、「相続放棄不受理の決定通知書」が届きます。
一般的には、回答書を返送してから1〜2週間前後でどちらかの通知書が届きます。
不受理の決定通知書が届いた場合には、2週間以内に高等裁判所に対して不服申立て(即時抗告)をして争うことができます。
即時抗告は必ず法的な根拠を示して行う必要があり、認められるためのハードルもきわめて高いため、相続に強い弁護士に依頼されることを強くおすすめします。
相続放棄受理証明書
「相続放棄受理通知書」と似ている書類に「相続放棄受理証明書」があります。
「相続放棄受理証明書」とは、相続放棄が受理されたことを証明するための書類です。
自動的に送付されてくることはなく、家庭裁判所に申請して発行してもらう必要がある点や、失くしても申請すれば何度でも発行してもらうことができる点などで、相続放棄受理通知書とは異なります。
「相続放棄受理証明書」が必要となる場面としては、次のようなものがあります。
- 相続放棄をした方が、債権者から支払いを求められた際に、相続放棄をしたことを証明するために提出を求められる場合
- 遺産を相続した他の相続人が、相続手続き(相続登記や預貯金の名義変更等)をする際に、法務局や金融機関等から提出を求められる場合
相続放棄申述書のよくあるQ&A
相続放棄申述書を出さないとどうなる?
相続放棄の申立て(申述)をするためには、必ず相続放棄申述書を提出しなければなりません。
■家事事件手続法第201条第5項■
限定承認及びその取消し並びに相続の放棄及びその取消しの申述は、次に掲げる事項を記載した申述書を家庭裁判所に提出してしなければならない。
出典:e-GOV法令検索
相続放棄申述書を提出しないまま3ヶ月の熟慮期間を過ぎると、遺産を相続したものとみなされてしまうため、相続放棄を希望する場合には必ず期限内に申述書を提出しましょう。
相続放棄申述書は代筆できる?
相続放棄申述書は本人の真意にもとづいて作成されていることが重視されており、誰が作成したのかは問題とされていません。
申述人や法定代理人の氏名についても「記名」で足りるとされており、他人による代筆が可能です。
家庭裁判所は、後日あらためて照会を行う(相続放棄照会書・回答書を送付する)こと等によって、相続放棄申述書が本人の真意にもとづいて作成されているかどうかを判断します。
相続放棄申述書はコンビニでもらえる?
相続放棄申述書の用紙は家庭裁判所の窓口でもらうか、裁判所のホームページ等でダウンロードして印刷することができます。
当事務所でも無料で書式を提供していますので、ぜひご利用ください。
相続放棄申述書の書式のダウンロードはこちら
相続放棄申述書の理由に「疎遠」と記載できる?
すでに説明したように、相続放棄は真意にもとづくものであればよく、相続放棄の理由には制限がありません。
疎遠を理由に相続放棄をする場合には、相続放棄申述書の「放棄の理由」欄で「その他」を選択した上で、「被相続人と疎遠であったため相続を希望しない」等と記載します。
まとめ
・「相続放棄申述書」とは、相続放棄をするために家庭裁判所に提出しなければならない書類です。
・相続放棄申述書には、相続放棄をする方(申述人)自身の情報や被相続人の情報、相続放棄の理由などを記載します。
・相続放棄申述書の書き方を誤ると、相続放棄が認められなくなる可能性もあるため、少しでも不安がある場合には弁護士などの専門家にチェックしてもらうのが安全です。
・相続放棄申述書は、相続の開始(相続人が亡くなったこと)を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に提出しなければならず、この期限を過ぎると基本的に相続放棄の申立ては認められません(受理されません)。
・3ヶ月の期間に間に合わない可能性がある場合や、事情があって3ヶ月の期間を過ぎてしまったような場合には、できるだけ早く、相続にくわしい弁護士に相談されることをおすすめします。
・当事務所では、相続に強い弁護士で構成する「相続対策専門チーム」を設置しており、相続放棄を含む相続全般に関するご相談をうけたまわっています。
相続放棄以外にも、遺言書の作成や遺産分割協議、相続トラブル、相続登記、相続税の申告・節税対策など、幅広いご相談に対応しておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。