遺留分の割合とは?具体例で解説【計算機付】

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

遺留分とは、法律によって認められた最低限の遺産の取り分のことで、それぞれの相続人の遺留分は、被相続人(亡くなった方のこと)の財産のうちの一定の割合と定められています。

この法律で定められた一定割合のことを、「遺留分の割合」といいます。

例えば、被相続人が「遺産のすべてをA子(愛人)に相続させる」といった遺言を残していた場合、被相続人の配偶者や子供にあたる方は、納得できないことでしょう。

このような場合、被相続人の配偶者や子どもは、最低限の取り分である「遺留分」を主張して、A子に対して一定の金額を請求することができます。

以下では、この「遺留分」や「遺留分の割合」について、具体例をあげながら解説します。

また、遺留分が害された場合、どのような手段をとることができるかについても、わかりやすく説明していきます。

遺留分とは何か?

遺留分とは

遺留分(いりゅうぶん)とは、一定の範囲の相続人に対して、法律で保障されている最低限の遺産の取り分のことです。

この「遺留分」は、法律で認められた相続人の権利であり、被相続人の遺言や生前の贈与によっても奪うことはできません

被相続人は、本来、自分自身の財産を自由に処分することができるはずです。

しかし、遺産の取扱いについて被相続人に完全な自由を認めると、次のような問題が起こる可能性があります。

    • 被相続人の財産で生活していた相続人が一切遺産をもらえず、生活に困ってしまう
    • 被相続人の好き嫌いによって一部の相続人だけ多く遺産を与えられ、不公平が生じる
    • 被相続人に貢献した相続人がいるのに、被相続人の一存でその貢献を無視されてしまう

このような事態を防ぐために、法律は「遺留分」の制度を定めて被相続人の自由を制限することによって、相続人の権利を保障しています。

 

遺留分が認められる相続人(遺留分権利者)の範囲

遺留分が認められるのは兄弟以外の相続人、つまり、次の者となります。

  • 被相続人の配偶者
  • 被相続人の子
  • 被相続人の直系尊属(父母や祖父母、曾祖父母)

これらの者を「遺留分権利者」といいます。

兄弟姉妹は、相続人となる場合であっても、遺留分はありませんので注意してください。

根拠条文

民法 第1042条第1項

兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。

 

もし遺留分を害されたら?

遺留分権利者は、被相続人が生前にした贈与や遺言のせいで十分な財産を受け取ることができなかった場合、贈与等を受けた人に対して、遺留分を侵害された分に相当するお金の支払を請求することができます(これを、遺留分侵害額の請求といいます。)。

なお、「遺留分の侵害額」と「遺留分」は異なるため、注意が必要です。

「遺留分の侵害額」については、後から詳しく説明します。

 

 

遺留分の割合について

自動計算機で遺留分を簡単に計算

当事務所では、相続問題に注力する弁護士が監修した、遺留分の金額を簡単に計算できる自動計算機(シミュレーター)を提供しています。

このシミュレーターに遺産の金額や相続人の人数を入力することで、遺留分の額を簡単に計算することができます。

ただし、シミュレーターはあくまでおおよその金額を計算するためのもので、正確な金額の算出は難しいことについて、あらかじめご了承ください。

遺留分の額を正確に算出するためには、相続の対象となる遺産の正確な評価や金額への算定が必要となるほか、個別の事情によっては入力すべき数字が異なる場合があります。

遺留分の計算には相続に関する専門的な知識や判断が必要となるため、シミュレーターによる計算結果はあくまで参考にとどめ、正確な遺留分の額については、相続専門の弁護士にご相談されることをおすすめします。

 

遺留分の割合の早見表

相続人の遺留分の割合については民法第1042条が定めており、相続人の続柄や人数によって異なります。

相続人1人あたりの遺留分の割合について、法律の条文を読み解いてまとめたものが、次の早見表です。

相続人 遺留分の割合 全員の遺留分の合計
配偶者 直系尊属※1
(父母等)
兄弟姉妹
配偶者のみ 1/2 1/2
子のみ 1/2(÷人数) 1/2
直系尊属(父母等)のみ※1 1/3(÷人数) 1/3
兄弟姉妹のみ 0 0
配偶者と子 1/4 1/4(÷人数) 1/2
配偶者と直系尊属 1/3 1/6(÷人数) 1/2
配偶者と兄弟姉妹※2 1/2 0 1/2

※1 直系尊属とは、父母や祖父母、曾祖父母などのことです。父母がどちらもいないときは祖父母が、祖父母もいないときには曾祖父母が相続人となります。

※2 被相続人の兄弟姉妹には遺留分が認められないため、配偶者と兄弟姉妹が相続人となる場合には、配偶者のみが1/2の遺留分を取得します。

 

遺留分の計算方法

以下では、遺留分の金額の計算方法について詳しく知りたいという方のために、具体的な計算の手順をお伝えしていきます。

まず、具体的な遺留分の金額は、次のような式で計算されます。

遺留分の金額 = 遺留分を算定するための財産の金額 × 遺留分の割合

この計算式にしたがって金額を計算するためには、前提として、次のような下準備をすることが必要となります。

  1. ① 遺留分を算定するための基礎となる財産額を確定する
  2. ② それぞれの相続人について遺留分の割合を調べる

以下では、①②それぞれの手順について解説します。

 

遺留分を算定するための基礎となる財産額の確定

遺留分の金額を計算するためには、まず、遺留分を算定するための基礎となる財産の金額を確定することが必要です。

遺留分を算定するための基礎となる財産の金額(価額)は、次の式で計算します。

遺留分を算定するための財産の金額

= (a) 被相続人が死亡時に有していたプラスの財産(積極財産)の金額 + (b) 被相続人が贈与した財産の金額 − (c) 債務の全額

根拠条文

民法 第1043条第1項(遺留分を算定するための財産の価額)

遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。

根拠:民法 | e-Gov法令検索

次に、この算定式の(a)、(b)、(c)のそれぞれの要素について説明します。

 

(a)被相続人が死亡時に有していたプラスの財産(積極財産)の金額

被相続人が死亡した時点で有していたプラスの財産(積極財産)のすべてを、金額で評価します。

「積極財産」には、家や土地などの不動産、預貯金、現金、株式、骨董や絵画、時計などさまざまなものが含まれます。

積極財産の中に不動産や株式が含まれる場合、これらを評価するためには専門的な知識が必要となるため、相続専門の弁護士等に相談することを強くおすすめします。

なお、生命保険金死亡退職金(死亡による退職が発生したときに支払われる退職金のことです。)は、原則として「積極財産」には含まれません

これらは、保険会社や被相続人が勤めていた会社から、指定の「受取人に対して」支払われるお金であって、「被相続人に対して」支払われるものではないため、被相続人の財産ではなく、受取人の財産として扱われるためです。

 

(b) 被相続人が贈与した財産の金額

遺留分を算定するための財産として加算される(b)「被相続人が贈与した財産の金額」については、誰に対する贈与であるかによって、取扱いが異なります。

この内容をまとめたものが、次の表です。

贈与の対象者 加算される贈与の内容
相続人以外 死亡前1年以内にした贈与
相続人 死亡前10年以内にした、相続人の結婚等のための贈与、その他生計の資本として行った贈与(特別受益にあたる贈与)※
共通 被相続人と贈与を受けた人のいずれもが、遺留分を害することを知りながら行った贈与(期間を問わない

※ 例えば、相続人が結婚する際に与えた支度金や嫁入り道具、住宅購入資金などは、「特別受益にあたる贈与」とされる可能性があります。

根拠条文

第1044条

1 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。
2 第904条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。
3 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。

根拠:民法 | e-Gov法令検索

 

(c) 債務の全額

被相続人に住宅ローンや借金などの債務があった場合、それらの債務の全額が、遺留分を算定するための財産の額から差し引かれます。

ここまで説明してきた「遺留分を算定するための基礎となる財産額」の計算について、具体例で確認してみましょう。

具体例

被相続人が死亡時に有していた財産:2000万円
被相続人が贈与した財産:3000万円
被相続人の債務: 1000万円この場合、遺留分を算定するための財産の金額は、以下のとおりです。
2000万円 + 3000万円 – 1000万円 = 4000万円

 

相続人の遺留分の割合

次に、それぞれの相続人について、遺留分の割合を確認します。

遺留分の割合は、相続人の数や続柄によって異なり、具体的には、上の「遺留分の割合の早見表」にまとめたとおりです。

以下では、より詳しく知りたい方のために、早見表にまとめた「遺留分の割合」を求めるための計算式について説明します。

遺留分(通常「個別的遺留分」と呼ばれています。)を求め計算式は、次のとおりです。

個別的遺留分の割合 = ①総体的遺留分の割合 × ② 法定相続分の割合

遺留分を計算するためには、①総体的遺留分と②法定相続分の割合をおさえる必要があります。

①と②について、くわしく解説します。

 

①総体的遺留分について

総体的遺留分というのは、相続人全員の遺留分のことをいい、法律で次のように定められています。

被相続人の直系尊属のみが相続人の場合:被相続人の財産の1/3

被相続人の配偶者や子がいない場合、父母(または祖父母、曾祖父母)の取り分を合わせたものが、被相続人の財産の1/3となります。

それ以外の場合:被相続人の財産の1/2

「それ以外の場合」には次が含まれます。

相続人が被相続人の配偶者だけの場合
相続人が子だけの場合
相続人が配偶者と子の場合
相続人が配偶者と直系尊属の場合

これらの場合にはいずれも、相続人全員の取り分の合計は、被相続人の財産の1/2となります。

根拠条文

民法 第1042条

1 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
① 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
② 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
(略)

根拠:民法 | e-Gov法令検索

 

②法定相続分の割合について

相続人が2人以上いるときには、上で確認した相続人全体の遺留分(総体的遺留分)を法定相続分の割合で分け合います。

「相続人が2人以上いるとき」には、次の2つの場合があります(両者の組み合わせを含みます)。

  • 異なる続柄の相続人がいる場合(配偶者と子、または配偶者と直系尊属が相続人となる場合)
  • 同じ続柄の相続人が複数いる場合(子が2人以上いる場合、父母ともに存命の場合)
根拠条文
民法 第1042条
(略)
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。

根拠:民法 | e-Gov法令検索

以下、法定相続分の割合について解説します。

まず、異なる続柄の相続人がいる場合(配偶者と子、配偶者と直系尊属)について、詳しく説明します。

 

相続人が配偶者と子の場合の相続割合
配偶者
1/2 1/2
異なる続柄での分け方

相続人が配偶者と子の場合、それぞれの法定相続分の割合は1/2となります。

上で説明したとおり、総体的遺留分は1/2ですので、これをさらに1/2ずつ分け合うことになります。

つまり、次の計算式より、1/4となります。

配偶者の遺留分の割合は、1/2(総体的遺留分)×1/2(相続分の割合)=1/4

子の遺留分の割合は、1/2(総体的遺留分)×1/2(相続分の割合)=1/4

同じ続柄の相続人が複数いる場合の処理

配偶者と直系尊属1名のみが相続人となる場合、上記のとおり、それぞれの遺留分の割合は1/3と1/6です。配偶者のほかに直系尊属(父母)2人が存命であるときは、上で計算された直系尊属の遺留分(1/6)を、2人で均等に分けます。

例えば、配偶者のほかに被相続人の父母がいずれも相続人となる場合、父母一人あたりの遺留分の割合は、次の計算式より、1/12となります。

1/6 × 1/2 = 1/12

 

相続人が配偶者と直系尊属の場合の相続割合
配偶者 直系尊属
2/3 1/3
異なる続柄での分け方

相続人が配偶者と直系尊属の場合、それぞれの法定相続分の割合は配偶者が2/3で、直系尊属が1/3となります。

上で説明したとおり、総体的遺留分は1/2であり、これを法定相続分に従って、2/3:1/3の割合で分け合います。

つまり、次の計算式より配偶者は1/3、直系尊属は1/6となります。

配偶者の遺留分の割合は、1/2(総体的遺留分)× 2/3(相続割合)= 1/3

直系尊属全体の遺留分の割合は、1/2(総体的遺留分)× 1/3(相続割合)= 1/6

同じ続柄の相続人が複数いる場合の処理

配偶者と直系尊属1名のみが相続人となる場合、上記のとおり、それぞれの遺留分の割合は1/3と1/6です。

配偶者のほかに直系尊属(父母)2人が存命であるときは、上で計算された直系尊属の遺留分(1/6)を、2人で均等に分けます。

例えば、配偶者のほかに被相続人の父母がいずれも相続人となる場合、父母一人あたりの遺留分の割合は、次の計算式より、1/12となります。

1/6✕1/2=1/12

根拠条文

民法 第900条(法定相続分)

① 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
② 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
③ 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
④ 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。

根拠:民法 | e-Gov法令検索

 

具体例でシミュレーション

計算式だけではイメージがつかないという方も多いと思いますので、ここでは、遺留分の金額がどのように計算されるのかについて、具体例をあげてシミュレーションしてみましょう。

ここでは、以下の4つの具体例についてシミュレーションしてみたいと思います。

相続人が子2人の場合

遺留分を算定するための財産額:3000万円

相続人:長男、次男

遺留分の割合

この場合、子全体の遺留分の割合は1/2です。

子が2人いることから、それぞれの子の遺留分の割合は、次の計算式より、1/4となります。

1/2(総体的遺留分)✕1/2(相続割合)=1/4

遺留分の金額

子の遺留分の金額は、それぞれ次のようになります。

長男:3000万円×1/4=750万円

次男:3000万円×1/4=750万円

 

相続人が配偶者と子3人の場合

遺留分を算定するための財産額:3000万円

相続人:配偶者、子(長男、長女、次男)

遺留分の割合

この場合、配偶者の遺留分の割合は1/4(1/2×1/2)、子全体の遺留分の割合は1/4(1/2×1/2)です。

子が3人いることから、それぞれの子の遺留分の割合は、次の計算式より1/12となります。

1/4 × 1/3 = 1/12

遺留分の金額

配偶者の遺留分の金額は、750万円となります。

3000万円 × 1/4 = 750万円

子の遺留分の金額は、それぞれ、250万円となります。

長男:3000万円 × 1/12 = 250万円

長女:3000万円 × 1/12 = 250万円

次男:3000万円 × 1/12 = 250万円

 

相続人が配偶者と親(父親)の場合

遺留分を算定するための財産額:3000万円

相続人:配偶者、父親、母親

遺留分の割合

この場合、配偶者の遺留分の割合は1/3(1/2×2/3)、父母の遺留分の割合は1/6(1/2×1/3)です。

父母それぞれの遺留分の割合は、1/12となります。

1/6 ✕ 1/2 = 1/12

遺留分の金額

配偶者の遺留分の金額は、1000万円となります。

3000万円 × 1/3 = 1000万円

父母の遺留分の金額は、それぞれ、250万円となります。

父親:3000万円 × 1/12 = 250万円

母親:3000万円 × 1/12 = 250万円

 

相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合

遺留分を算定するための財産額:3000万円

相続人:配偶者、兄弟姉妹

遺留分の割合

この場合、兄弟姉妹には遺留分がなく、配偶者のみが遺留分を有します

配偶者のみが遺留分を有する場合、遺留分の割合は1/2です。

遺留分の金額

配偶者の遺留分の金額は、1500万円となります。

3000万円 × 1/2 = 1500万円

兄弟姉妹の遺留分の金額は、なし(0円)です。

 

 

遺留分請求の手続について

遺留分侵害額請求

被相続人が、一部の相続人だけに多額の財産を与えるという遺言を残していた場合など、相続人が遺留分の金額に満たない財産しかもらえない場合(遺留分を侵害された場合)には、遺留分を侵害された相続人は、侵害された分の金額の支払いを求めることができます。

この権利を「遺留分侵害額請求権」といいます。

根拠条文

民法 第1046条(遺留分侵害額の請求)

遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

根拠:民法 | e-Gov法令検索

かつては、遺留分を請求する方法として、「遺留分減殺請求」の制度が定められていましたが、この制度は令和元年7月の法改正によって廃止され、「遺留分侵害額請求」の制度へと改められました。

法改正前の「遺留分減殺請求」の制度では、遺言や贈与の対象となった物それ自体の取り戻しを求める権利とされていました。

これに対して、現在の「遺留分侵害額請求権」の制度では、遺言や贈与の対象となった物それ自体の取り戻しではなく、遺留分を侵害された分の金額を金銭で支払うように求める権利とされています。

 

請求の相手

遺留分侵害額の請求を行う相手は、次のいずれかとなります。

  • 被相続人から遺言で遺産をもらった人(「受遺者」といいます。)
  • 被相続人から財産の贈与を受けた人(「受贈者」といいます。)

このうち、後者(受贈者)については、贈与を受けたすべての人が対象となるのではなく、一定の範囲の人のみが対象となります。

遺留分侵害額請求の相手となりうるのは、上の「遺留分を算定するための基礎となる財産額」のところで解説した、「遺留分を算定するための財産」として加算される贈与を受けた人です。

つまり、以下の場合は請求の対象となります。

  • 被相続人の死亡前1年以内に、被相続人から贈与を受けていた相続人以外の人
  • 被相続人の死亡前10年以内に、被相続人から、結婚等のため、もしくは生計の資本として贈与を受けていた相続人(特別受益にあたる贈与を受けていた相続人)
  • 相続人の遺留分を害することを知りながら、被相続人から贈与を受けていたすべての人(相続人であるかどうか、および期間を問わない

なお、「遺贈」は、被相続人が遺言書の中に「財産のすべてを◯◯に取得させる」といった形で一方的に記載することで成立するのに対して、「贈与」は、被相続人と財産をもらう人(受贈者)との間の合意(契約)がなければ成立しない点に違いがあります。

 

遺留分侵害額の確認方法(計算方法)

遺留分侵害額の請求を行うためには、前提として、遺留分の侵害があることが必要です。

遺留分の侵害があるかどうかや、侵害されている金額がどのくらいであるのかの確認については次の計算式を使います(民法第1046条第2項)。

遺留分侵害額 = 遺留分の金額 − (遺留分権利者が受けた遺贈または特別受益の金額) − (遺留分権利者が相続によって得た財産の額) + (遺留分権利者が引き継ぐ借金等の額)
根拠条文
(遺留分侵害額の請求)
第千四十六条
(略)
2 遺留分侵害額は、第千四十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。
一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額
二 第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額

引用元:民法|e-Gov法令検索

計算結果がプラスの場合には、遺留分の侵害があることになり、計算結果の数値が侵害されている遺留分の金額となります。

これに対して、計算結果がマイナスの場合、遺留分の侵害はないため、遺留分侵害額の請求を行うことはできません。

また、計算式にあてはめる数値は、それぞれ、次のとおりです。

遺留分の金額:上で解説した計算式によって算出した数値

遺留分権利者が受けた遺贈または特別受益の金額:遺留分権利者が受けた遺贈や特別受益にあたる贈与を、金銭的に評価した数値

遺留分権利者が相続によって得た財産の額:遺言や遺産分割によって取得した財産を、金銭的に評価した数値

遺留分権利者が引き継ぐ借金等の額:遺言や遺産分割によって引き継いだ借金等の債務を、金銭的に評価した数値

具体例

被相続人が、亡くなる半年前に、愛人のYに4000万円を贈与していた。

被相続人の遺産:預貯金2000万円

相続人
妻:遺産の預貯金のうち1000万円を取得
子(長男、長女):遺産の預貯金をそれぞれ500万円ずつ取得

遺贈や特別受益等:なし

この場合、妻の遺留分侵害額は、次のように計算されます。

遺留分の金額
妻の遺留分 (2000万円 + 4000万円) × 1/4 = 1500万円
子の遺留分(それぞれ) (2000万円 + 4000万円) × 1/4 ÷ 2 = 750万円

遺留分権利者が相続によって得た財産の額
妻:1000万円
子:500万円ずつ

遺留分権利者が引き継ぐ借金等の額
なし

■計算式
(遺留分の金額:1500万円) − (遺贈・特別受益: 0円) − (相続によって得た財産の額:1000万円) + (妻が引き継ぐ債務の額:0円) = 500万円

したがって、妻には500万円の遺留分侵害額があることになります

 

請求の方法

遺留分を侵害された場合、これを請求するための方法には、次の3つがあります。

なお、遺留分の問題については、いきなり裁判を起こすことはできず、裁判を起こす前に家庭裁判所の調停を行わなくてはいけないのが原則です(「調停前置主義」といいます)。

つまり、最終的に裁判を行う場合であっても、

交渉 → 調停 → 裁判

または

調停 → 裁判

というプロセスを経る必要があります。

 

交渉(話し合い)

裁判所を利用せずに、当事者同士で交渉(話し合い)をする方法です。

交渉を始めるときには、まず、内容証明郵便等を利用して「遺留分の侵害があるので、遺留分侵害額請求をする」ということを、請求の相手に知らせることが大切です。

遺留分侵害額請求の方法については、法律等で決められたルールがないことから、口頭で「遺留分侵害額請求権を行使する」と伝えることもできます。

しかし、遺留分侵害額請求には請求の期限があるため、後から期限内に請求されたかどうかが争いになるケースがあります。

そこで、内容証明郵便によって、いつ、誰に対して、どのような内容で遺留分侵害額の請求をしたのか、という事実を証拠として残しておくのがおすすめです。

交渉は、他の手続きと異なり、早期に解決できる可能性がある点で大きなメリットがあります。

しかし、ご本人が直接交渉しても相手が応じてくれない可能性があります。

また、専門家が関与していない場合、適切な条件(遺留分としてどの程度が妥当な金額かなど)がわからずに、損をしてしまう可能性も懸念されます。

そのため、弁護士に交渉をご依頼される方法(当事務所ではこれを「代理交渉」と呼んでいます。)をおすすめいたします。

弁護士に依頼されると、その弁護士が内容証明郵便等の法律文書をすべて作成してくれるので安心です。

また、弁護士が仲介役となることで相手との交渉が進むことも期待できます。

 

家庭裁判所の調停

当事者だけでの交渉による解決が見込めない場合や、交渉をしても話がまとまらなかった場合には、家庭裁判所に「遺留分侵害額の請求調停」を申し立てることが考えられます。

調停は、家庭裁判所の調停委員会を介して、当事者の間で合意を成立させるための手続です。

調停の申し立ては、原則として、相手の住所地を管轄する家庭裁判所または当事者が合意した家庭裁判所に対して行います。

調停は、あくまで当事者間の合意を成立させるための手続ですので、当事者が合意することができなかった場合、調停は不成立に終わります。

また、調停は通常解決までに長年月を要すること、裁判所に行かなければならないなどの負担があることから、まずは弁護士の交渉による解決をおすすめしています。

そのため、当事務所ではいきなりの調停申立ては行わずに、まずは代理交渉での解決をおすすめしています。

なお、調停の申立てをしたとしても、相手に遺留分侵害額の請求をしたとはいえないため、調停の申立てとは別に、相手に内容証明郵便を送って、遺留分侵害額を請求することを伝えておくことが必要です。

 

裁判

調停で話し合っても合意できない場合には、裁判所に裁判(訴訟)を提起します(この裁判のことを「遺留分侵害額請求訴訟」といいます)。

訴訟の提起は、相続開始時(被相続人の死亡時点)の、被相続人の住所地を管轄する地方裁判所または簡易裁判所で行います。

地方裁判所と簡易裁判所のどちらで訴訟を提起するかは、請求する金額によって決まります。

訴訟の場合には、裁判所が証拠をもとに遺留分の侵害額を判断し、「判決」の形で結論を出すため、当事者が合意することは不要です。

したがって、紛争が解決できるというメリットがあります。

しかし、裁判手続は通常長年月を要します。

また、裁判所の判断が必ず有利な内容となるわけではありません。

さらに、裁判手続を相続人が自力で行うのは難しいことから、通常は弁護士に依頼することになるかと思われます。

調停や裁判手続のすべてを弁護士に依頼すると、その分の弁護士費用などの増加が懸念されます。

そのため、弁護士が必要だとしても、まずは交渉からご依頼されることをおすすめしています。

調停や裁判手続は、交渉で解決できない場合の次善の策として、検討されると良いでしょう。

 

遺留分の請求方法のまとめ

項目 交渉 調停 裁判
特徴 裁判所を通さずに話し合う 裁判所での話し合い 裁判官に判断してもらう手続
メリット 早期解決の可能性、負担が少ない 裁判所が仲介役になってくれる 最終的な判断が示される
デメリット 相手が応じない可能性、適切な条件などがわからない 相手が応じない可能性、解決まで長期間を要する 解決まで長期間を要する、本人の負担が大きい
デメリットへの対策 弁護士に相談・依頼して任せる まずは交渉からスタートする まずは交渉からスタートする

※一般的な傾向であり状況により異なる

 

 

遺留分の割合に関するよくあるQ&A

遺留分の割合を変更する方法はある?



遺留分の割合は民法第1042条によって定められている一定の割合であり、被相続人や相続人がこれを自由に変更することはできません
遺留分は、相続人の生活保障や相続人間の公平を図ることを目的として、国が政策的に定めている権利だからです。

なお、相続人は、自分に与えられた遺留分を手放すことができます(これを「遺留分の放棄」といいます)が、一部の相続人が遺留分を放棄した場合であっても、これによって他の相続人の遺留分が増えることはありません

このように、遺留分の「割合」を変更することはできませんが、具体的に計算される遺留分の「金額」を増やせる可能性はあります。

上で説明したように、遺留分の金額は、

遺留分の金額 =遺留分を算定するための財産の金額 × 遺留分の割合

という計算式で算定されるため、「遺留分を算定するための財産の金額」が増えれば、遺留分の金額が増えることになります。

そして、「遺留分を算定するための財産の金額」は、

(a) 被相続人が死亡時に有していたプラスの財産(積極財産)の金額 + (b) 被相続人が贈与した財産の金額 − (c) 債務の全額

という計算式によって算定されるため、

(a)の「積極財産」の金額をできるだけ高く評価する

(b)の贈与した財産の金額をできるだけ高く評価する

という方法が考えられます。

財産の種類によっては様々な方法があることから、できるだけ有利な評価額によって遺留分の金額を算出することができないか、検討する余地があります。

ただし、財産の評価については専門的な知識と経験が必要となるため、相続を専門とする弁護士等の専門家に相談することをおすすめします。

 

遺留分はいつまで請求できる?



遺留分侵害額の請求については、期限があります
少し細かい話になるのですが、「遺留分侵害額請求権」は、これを行使することによって、具体的に「遺留分の侵害額に相当する金銭を請求する権利(金銭支払請求権)」が発生します。

そして、「遺留分侵害額請求権」と「遺留分の侵害額に相当する金銭を請求する権利(金銭支払請求権)」のそれぞれについて、行使するための期限が定められているのです。

以下では、それぞれの期限についてさらに詳しく説明します。

遺留分侵害額請求権の行使期限

遺留分侵害額請求権の行使期限については、民法第1048条が次のように定めています。

根拠条文

民法 第1048条(遺留分侵害額請求権の期間の制限)

遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

根拠:民法 | e-Gov法令検索

この条文によると、次の①②いずれかの早い期限が経過したときは、遺留分侵害額を請求する権利が消滅してしまいます。

  1. ① 相続の開始と遺留分を侵害する贈与等があったことを知ったときから1年
  2. ② 相続が開始したとき(被相続人が死亡したとき)から10年

それぞれ、①の期間は「時効」の制度、②の期間は「除斥期間」という制度に基づくものです。

これらはいずれも、権利を行使しないまま期間が経過すると、権利が消滅してしまうという制度です。

特に、①の期間制限は1年と短いことから、遺留分侵害額請求権はできるだけ早く行使することが大切です。

「遺留分侵害額請求権を行使した」といえるためには、遺留分侵害額請求をするという意志を請求の相手に伝えるだけでよく、それ以外に法律上の決まりはありません。

ただし、上でも説明したように、請求が相手に伝わったかどうかについての争いが発生する可能性があるため、内容証明郵便を送付する方法によることを強くおすすめします。

 

金銭支払請求権の期限

遺留分侵害額請求権の行使をすると、遺留分を侵害している相手に対して、遺留分の侵害額に相当する金銭を請求する権利(金銭支払請求権(債権))が発生します。

この金銭支払請求権についても期限があり、遺留分侵害額請求権を行使したときから5年を経過すると、「時効」の制度によって権利が消滅します。

つまり、内容証明郵便等によって「遺留分侵害額の請求をする」という意志を相手に伝えたものの、相手が支払いをしてくれなかった場合、そのまま何もせずに5年が経つと、もはや遺留分の侵害額に相当する金銭を請求することはできなくなってしまいます。

根拠条文

民法 166条1項1号(債権等の消滅時効)

債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
① 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。

根拠:民法 | e-Gov法令検索

そのため、請求の相手が任意にお金を支払ってくれない場合には、裁判を起こすなどの手段をとって、時効の完成を止める必要があります。

 

兄弟姉妹は遺留分を請求できない?



被相続人の兄弟姉妹は、遺留分を請求することができません。
上で説明したように、遺留分が認められるのは、被相続人の配偶者、被相続人の子(子が亡くなっているときは孫やひ孫)、被相続人の父母(父母が亡くなっているときは祖父母や曾祖父母)のみであり、被相続人の兄弟姉妹には遺留分が認められていません。
したがって、兄弟姉妹にはそもそも侵害される「遺留分」がないため、遺留分の請求をすることができないのです。

 

遺留分の割合の覚え方はある?



遺留分の割合については、兄弟姉妹には遺留分がないことを前提に、

  • 原則として、相続人の遺留分:法定相続分の1/2
  • 例外:直系尊属のみが相続人となる場合の遺留分は1/3

と覚えると良いでしょう。

 

 

まとめ

  • 亡くなった方(被相続人)の配偶者、子、父母(祖父母)が相続人となる場合、法律によって最低限の遺産の取り分(遺留分)が保障されています。
  • 遺留分は、被相続人の財産に対する一定の割合として定められており、続柄や人数によってその割合は異なります。
  • この記事では、それぞれの相続人ごとの遺留分の割合についてまとめた早見表を紹介していますので、ぜひご活用ください。
  • 被相続人の遺言や贈与によって遺留分を侵害された相続人は、侵害された遺留分に相当する金額を請求することができます。
    請求の方法としては、当事者間での話し合い(交渉)のほか、調停の申立て、裁判の提起などがありますが、弁護士による代理交渉をおすすめいたします。
  • 遺留分の金額や、遺留分の侵害額を正確に計算するためには、相続法に関する専門的な知識が必要となるため、詳細は相続を専門とする弁護士等の専門家に相談することを強くおすすめします。
  • 弁護士法人デイライト法律事務所では、相続問題に注力する弁護士なる経験豊富な相続専門チームが対応させていただきます。

遺留分に関するご相談をはじめ、相続全般に関する相談をお受けすることが可能です。

初回の相談は無料となっており、オンラインでの相談も受け付けておりますので、ぜひご活用ください。

 

 

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