遺産分割協議書とは、相続人の間で誰がどの遺産を相続するのかを話し合い、全員で合意した内容を記載した文書のことをいいます。
遺産分割協議書は、各種の相続手続を行う際に、金融機関や法務局などに提出することとなる重要な書類ですので、必要な書類を集めて正確に作成することが必要です。
以下では、遺産分割協議書の作成に必要な書類やその入手方法について解説します。
目次
遺産分割協議書の必要書類と入手先の一覧表
遺産分割協議書を作るためのプロセスの中で必要となる書類とその入手方法の一覧は、次のとおりです。
以下では、これらの必要書類の内容とその入手方法について、さらに詳しく解説していきます。
被相続人の戸籍謄本類及び相続人全員の戸籍謄本
相続人の調査を行うために、次のような戸籍謄本類を取得します。
- 被相続人の生まれてから亡くなるまでの連続したすべての戸籍謄本類(戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本)
- 相続人全員の戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)または戸籍抄本(戸籍個人事項証明)
上記の書類は似たような言葉でわかりづらいかと思いますので、下表において内容を整理しています。
名称 | 内容 |
---|---|
戸籍(こせき) | 日本国民が出生してから死亡するまでの身分関係(出生、婚姻、死亡、親族関係など)を登録し、公的に証明するための公的な記録簿で、一組の夫婦と性を同じくする未婚の子を単位に作られている |
戸籍謄本(こせきとうほん) | 戸籍に記載されている全員の身分関係を証明する戸籍の写しのこと |
戸籍全部事項証明書 | 戸籍謄本が電子化されている場合は「戸籍全部事項証明書」という |
戸籍抄本(こせきしょうほん) | 戸籍に記載されている方のうち、一部の人の身分関係を証明する戸籍の写しのこと |
戸籍個人事項証明書 | 戸籍抄本が電子化されている場合は「戸籍個人事項証明書」という |
除籍謄本(じょせきとうほん) | 死亡、結婚、離婚、本籍地の変更などによって、戸籍に記載されている人が誰もいなくなった状態の戸籍の写しのことで、戸籍から誰もいなくなったことを証明する書類 |
改製原戸籍謄本(かいせいげんこせきとうほん) | 改正前の戸籍法に基づく様式で作成された戸籍の写しのこと |
「戸籍法」が改正されると、戸籍の様式も変更され、そのたびに新しい戸籍への書き換えが行われます。
その際、古い戸籍のすべての内容が新しい戸籍に記載されるわけではなく、例えば、養子縁組や婚姻、離婚、死亡などで戸籍から除かれた人についての情報は記載されません。
そのため、被相続人に離婚歴がある場合などは、改製原戸籍謄本を取得し、子がいなかったか等を確認する必要があります。
財産目録、財産目録の作成資料
財産目録とは、相続の対象となるすべての財産(不動産、預貯金等のプラスの財産のほか、ローン等のマイナスの財産を含みます。)について、種類や内訳、評価額などを一覧にまとめたものをいいます。
財産目録を作ることで遺産分割協議を進めやすくなるほか、相続税の計算にも役立ちます。
財産目録を作成するために、通帳や有価証券報告書、保険証書、不動産の登記簿謄本や固定資産納税通知書、自動車納税証明書、ローンの残高証明書やクレジットカード明細、借り入れの契約書、などの書類を集めます。
なお、当事務所では財産目録の書式をウェブサイト上に掲載しており、無料で閲覧やダウンロードが可能です。
ぜひご活用ください。
相続放棄申述受理証明書
相続放棄申述受理証明書とは、ある相続人が相続放棄の手続を行い、家庭裁判所がこれを受理したということを証明する書類です。
遺産分割協議は相続人全員で行わなければ無効となってしまうため、相続を放棄して相続人とならなかった人がいる場合、その事実を明確にするために、相続放棄申述受理証明書の交付を受けます。
相続放棄申述受理証明書は、相続放棄をした本人のほか、他の相続人など一定の利害関係のある人が交付を申請できます。
寄与分や特別受益を証明する書類
寄与分(きよぶん)とは、一部の相続人が、被相続人の財産の増加・維持に貢献した場合、その貢献度に応じて認められる相続分をいいます。
特別受益(とくべつじゅえき)とは、一部の相続人が、被相続人から遺贈や生前の贈与によって得た「特別の利益」のことをいいます。
寄与分や特別受益の考慮が必要となる場合は、証拠となる贈与契約書などの証拠書類を準備したうえで協議を行うことが大切です。
印鑑登録証明書
遺産分割協議書を作成したら、相続人全員が署名したうえで、通常は実印を押します。
遺産分割協議書の作成に使われた印鑑が実印であることを証明するために、遺産分割協議書を作成した時点の印鑑登録証明書を全員分収集し、遺産分割協議書に添付します。
※遺産分割協議書が本物であることを証明するためには、法律上、署名又は押印でも可能となります。しかし、各種手続きの際に、後述するよう署名に加えて、押印(実印)を要求されることが多いため、トラブル防止のためには、署名に加えて押印(実印が望ましい。)もあったほうが良いでしょう。
遺産分割協議書が必要となる場面
遺産分割協議書の作成は、法律上の義務ではありません。
しかし、遺産分割協議書は、各種の相続手続(不動産の名義変更や預貯金等の解約・名義変更、相続税の申告等)を進めるために必要となります。
なお、相続人が一人の場合や、相続人の全員が相続を放棄する場合、遺産分割協議書は不要です。
また、相続人が複数いる場合に、有効な遺言書が存在し、その内容に従う場合も不要です。
遺産分割協議書の作成が必要となる場合をまとめると、下図のようになります。
※遺言書がない場合で、法定相続分に従う場合、遺産分割協議書は必ず必要というわけではありませんが、トラブル防止のために作成したほうが望ましいと考えます。
遺産分割協議書を使用する手続きは?
作成した遺産分割協議書を実際に提出する場面として、典型的なものは次のとおりです。
以下では、それぞれの場面に分けて必要となる書類を解説します。
預貯金の引き出し等のための必要書類
遺産分割協議によって相続した預貯金を解約して引き出し、あるいは名義変更をするためには、一般的に、次のような書類を提出する必要があります。
※ 金融機関によって異なり、また、個別の事情により下記以外の書類が必要となる場合があります。
- 遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑登録証明書
- 法定相続情報一覧図※
- 被相続人の戸籍謄本類
- 相続人全員の戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)
- 相続放棄申述受理証明書
- 預貯金の相続人の実印・銀行取引印
- 預貯金の相続人の印鑑登録証明書
- 金融機関所定の印鑑届
- 各金融機関所定の申請書類
法定相続情報一覧図とは、法定相続人(民法で定められた相続人となることができる人)をまとめて一覧化した図で、登記官が内容を確認して認証したものをいいます。
相続手続のすべて場面において、相続人を確定する必要があることから、かつては被相続人の生まれてから亡くなるまでの連続したすべての戸籍謄本類や相続人全員の戸籍謄本等の「書類の束」を提出することが必要でした。
2017年(平成29年)から法定相続情報証明制度が開始され、これらの書類の束の代わりに、法定相続情報一覧図の写しを提出することができるようになりました。
一度法定相続情報一覧図を作成し、法務局に保管しておけば、その後は法定相続情報一覧図の写しの交付を受けることができます。
法定相続情報証明制度を利用するためには、法務局に以下の必要書類を提出して申請します。
- ①被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本及び除籍謄本
- ②被相続人の住民票の除票(被相続人の最後の住所地の市町村役場で入手可能)
- ③相続人全員の現在の戸籍謄本または戸籍抄本(被相続人が死亡した日以後の証明日のもの)
- ④法定相続情報一覧図(①〜③に基づいて作成したもの)
- ⑤申請者の身分証明証(運転免許証、マイナンバーカードのコピーなど)
法務局に提出する法定相続情報一覧図は、相続人が自ら作成することもできますが、弁護士などの専門家に依頼することもできます。
不動産の名義変更(相続登記)のための必要書類
近年の法改正により、2024年(令和6年)4月1日以降は、相続による不動産取得を知った日から3年以内に名義変更等の手続をしなければならないことになりました。
この義務に違反した場合は罰則の対象となりますので、注意が必要です。
不動産の名義変更(相続登記)を行うためには、次のような書類を提出する必要があります。
※個別の事情により、下記以外の書類が必要となる場合があります。
- 遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑登録証明書
- 法定相続情報一覧図
- 被相続人の戸籍謄本類
- 相続人全員の戸籍謄本または戸籍抄本
- 被相続人の住民票、住民票の除票、戸籍の附票のいずれか
- 相続放棄申述受理証明書
- 不動産を相続する人の住民票
- 固定資産税評価証明書または固定資産税納税通知書
- 登記申請書
自動車の名義変更のための必要書類
自動車の名義変更を行うための必要書類は、相続する自動車の種類(軽自動車かどうか)や自動車の評価額(100万円超かどうか)によって変わります。
評価額が100万円超の普通自動車の名義変更を行うためには、次のような書類を提出する必要があります。
※ 個別の事情により、下記以外の書類が必要となる場合があります。
- 遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑登録証明書
- 法定相続情報一覧図
- 被相続人の戸籍謄本類
- 相続人全員の戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)
- 新所有者の印鑑登録証明書
- 新使用者の住民票、印鑑登録証明書等
- 自動車検査証(車検証)
- 新所有者の自動車保管場所証明書(車庫証明書)
- 相続放棄申述受理証明書
- 所定の申請書
株式の名義変更のための必要書類
株式の名義変更をするためには、一般的に、次のような書類を提出する必要があります。
※ 金融機関によって異なり、また、個別の事情により、下記以外の書類が必要となる場合があります。
- 遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑登録証明書
- 株式の相続人の印鑑登録証明書
- 法定相続情報一覧図
- 被相続人の戸籍謄本類
- 相続人全員の戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)
- 被相続人の戸籍の附票や金融機関からの通知物、住民票の除票等
- 相続放棄申述受理証明書
- 各金融機関所定の申請書類
相続税申告のための必要書類
相続税の申告が必要な場合、被相続人が亡くなったことを知った日から10か月以内にする必要があります。
この10ヶ月以内に申告をすることができない場合は、「配偶者の税額軽減」や「小規模住宅地等の特例」などの、相続税を減額できる特例を利用できなくなるほか、追徴課税を課される可能性があります。
相続税の申告に必要な書類には、次のようなものがあります。
※個別の事情により、下記以外の書類が必要となる場合があります。
- 遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑登録証明書
- 法定相続情報一覧図
- 被相続人の戸籍謄本類
- 相続人全員の戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)
- 相続放棄申述受理証明書
- 相続する財産の価額を証明する書類
遺産分割協議書の必要書類についてよくあるQ&A
遺産分割協議書はどこに提出するのですか?
相続手続の種類 | 提出先 |
---|---|
不動産の名義変更 | 法務局 |
株式や投資信託の解約・名義変更 | 証券会社等の金融機関 |
預貯金の解約・名義変更 | 銀行等の金融機関 |
自動車の名義変更 | 運輸支局 |
税務申告 | 被相続人の住所地の所轄税務署 |
遺産分割協議書の必要書類に有効期限はありますか?
遺産分割協議書については有効期限がないため、作成から何十年たっても、各種手続に利用することができます。
いつまでに作成しなければならないという法律上の期限(作成期限)もありません。
ただし、相続税の申告は被相続人が亡くなったことを知った日から10か月以内にする必要があります。
手続には遺産分割協議書が必要となることから、遺産分割協議書もそれまでに作成する必要があります。
また、トラブルを防止し、スムーズに遺産分割を行うためにあまり時間を置かずに手続きを進めていくことをお勧めいたします。
遺産分割協議書以外の書類については、使用する場面によって有効期限が異なります。
これについては上でくわしく解説していますのでご確認ください。
遺産分割協議書を自分で作成できますか?
遺産分割協議書を自分で作成することはできます。
しかし、「遺産分割協議書の作成手順」で説明したように、遺産分割協議書の作成には専門的な知識が必要となるだけでなく、様々な調査や資料の収集等を行う必要があり、多くの手間と時間がかかります。
また、遺産分割協議書の内容に抜け漏れや間違いがあった場合には、遺産分割協議や協議書作成についてやり直しが発生する可能性があります。
そのため、相続に精通した弁護士等の専門家に依頼するのがおすすめです。
必要書類の取得を専門家へ依頼できますか?
戸籍謄本類など一部の書類の取得代行を依頼するだけならば、弁護士のほか、司法書士や税理士、社会保険労務士、行政書士などに依頼することができます。
ただし、相続に関する手続は複雑であり、専門的な知識が必要となることから、手続を円滑に行うためには、相続分野の経験が豊富な専門家に依頼するのがよいでしょう。
また、弁護士以外の士業は、相続に関する一般的な説明をすることはできるものの、遺産分割協議書をどのような内容にすべきか、等の相談に対する具体的なアドバイス(法律相談)をすることは法律により原則として禁止されています。
そのため、相続について総合的なアドバイスを受けるためには、相続を専門分野とする弁護士に依頼するのがおすすめです。
スマホで簡単、遺産分割協議書の自動作成!
当事務所では、遺産分割協議書のサンプルを素早く手軽に確認したいという方のために、オンラインで、かつ、無料で自動作成できる遺産分割協議書シミュレーターをご提供しています。
まとめ
- 遺産分割協議書とは、誰がどの遺産を相続するのかを話し合い、相続人全員が合意した内容を記載した文書をいいます。
- 遺産分割協議書の作成は、①相続人の調査・確定、②遺言書の調査、③相続財産の確定、④相続放棄の検討、⑤遺産分割協議といったプロセスを経て行います。
- 遺産分割協議書を間違いなく作成するためには、各作成プロセスの中で様々な書類を集める必要があります。
- 遺産分割協議書は、各種の相続手続(不動産の名義変更や預貯金等の解約・名義変更、相続税の申告等)を進めるために必要となります。
- 相続人の数が多い場合や、相続人が不動産や預金など複数の財産を相続する場合には、法務局で法定相続情報一覧図を作成・保管し、その写しを使用するのが効率的です。
- 遺産分割協議書は、相続人自身で作成することもできますが、漏れなく正確に作成するには専門知識が必要となります。
- 遺産分割協議書の内容に抜け漏れや間違いがあった場合にはやり直しが発生する可能性があること、資料の収集には時間や手間がかかることなどをふまえると、遺産分割協議書の作成は相続を専門とする弁護士に依頼するのがおすすめです。
当事務所には相続に注力する弁護士や税理士で構成される相続チームがあり、遺産分割を強力にサポートしています。
全国対応も行っていますので、遺産分割でお困りの方は、お気軽にご相談ください。