遺産分割のやり直しはできる?裁判例や時効も解説

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

遺産分割のやり直しは、①遺産分割に参加していない相続人がいるケース、②判断能力のない相続人が単独で参加していたケース、③相続人全員がやり直しに合意しているケース、④新たな遺産が見つかったケース、⑤詐欺・脅迫・重大な勘違いによって合意したケースで可能です。

ただし、その前提として一定の条件を満たしていることが必要となります。

この記事では、遺産分割のやり直しができるケースやその条件について、遺産分割にくわしい弁護士がわかりやすく解説します。

遺産分割に関する裁判例や時効についてもあわせて解説しますので、参考にしただければ幸いです。

遺産分割のやり直しはできる?

条件を満たす場合には、遺産分割のやり直しができます。

そもそも遺産分割(協議)とは、相続人全員で被相続人(亡くなった方のことです。)の遺産をどのように分けるのかを話し合って決めることをいいます。

遺産分割(協議)は相続人全員が合意したときに成立します。

遺産分割のやり直しができる条件については、次の項目で詳しく解説します。

 

 

遺産分割のやり直しができる5つのケース

遺産分割のやり直しができるのは、次の5つのケースです。
遺産分割のやり直しができる5つのケース以下ではそれぞれのケースについて解説します。

 

遺産分割に参加していない相続人がいるケース

遺産分割に参加していない相続人が1人でもいるケースでは、遺産分割をやり直す必要があります。

遺産分割は相続人全員で行う必要があり、1人でも参加していない場合は無効となるためです。

典型例としては、被相続人に認知された非嫡出子(隠し子など)や養子、異母(異父)兄弟姉妹が遺産分割に参加していないケースです。

遺産分割が終わった後に知られていなかった相続人の存在が発覚してやり直しが必要になるケースもあることから、遺産分割前に相続人の調査をしっかりと行うことが大切です。

相続人が不仲で遺産分割に協力してくれない場合には、最終的に裁判所の調停や審判を利用するなどの対応が必要になることから、遺産分割に強い弁護士に相談されるのがおすすめです。

 

判断能力のない相続人が単独で参加していたケース

判断能力のない相続人が単独で遺産分割に参加していた場合、その遺産分割は無効であり、やり直す必要があります。

判断能力のない相続人は単独で遺産分割に合意することができず、代理人(法定代理人)の関与が必要とされているためです。

例えば、未成年者や重度の認知症の方には十分な判断能力がないため、法定代理人(親権者や成年後見人)によって遺産分割を行う必要があります。

また、未成年者と親権者の両方が相続人になるケースや、認知症の方と成年後見人の両方が相続人となるケースなど、両者の利益が衝突するケースでは「特別代理人」を選任しなければなりません。

特別代理人を選任せずに行った遺産分割は無効であり、やり直しが必要となります。

 

相続人全員がやり直しに合意しているケース

判例は、有効に成立している遺産分割(協議)について、その全部または一部を相続人全員の合意によって解除した上で、改めて遺産分割をすることができるとしています(参考判例:最判平成2年9月27日|最高裁ホームページ)。

引用:最高裁判所判例集|裁判所

有効に成立した遺産分割については、相続人全員が合意すればやり直すことができますが、1人でも合意しない(反対している、協力してくれない)相続人がいる場合、やり直すことはできません。

 

新たな遺産が見つかったケース

遺産分割が成立した後で合意に含まれていない新たな遺産が見つかったケースでは、新たに見つかった遺産について遺産分割のやり直しをできる場合があります。

ただし、前に行った遺産分割において、新たに遺産が見つかった場合の取扱いについて合意をしていたとき(例えば、「新たに見つかった遺産は長男が取得する」などの合意をしたとき)には、遺産分割のやり直しには改めて相続人全員の合意が必要となります。

 

詐欺・強迫・重大な勘違いによって合意したケース

詐欺、脅しや強制(強迫)、あるいは重大な勘違いをしたことによって遺産分割に合意をした相続人がいる場合、その相続人は遺産分割についての合意の取消しをした上で、遺産分割のやり直しを求めることができます。

裁判例の中には、相続人がすべての遺産が遺産分割協議書に記載されていると誤解して遺産分割に合意したものの、実際には遺産分割協議書に記載されていない高額の預貯金や株式があったという事案について、遺産分割(協議)を無効としたものがあります(参考判例:東京地判平成27年4月22日。

この裁判例は、相続人が預貯金や株式の存在に関する重大な勘違いをしていたことを理由としています。

参考:相続の無料相談|よつば総合法律事務所

参考:遺産相続専門サイト|弁護士法人朝日中央綜合法律事務所

 

 

遺産分割のやり直しはいつまでできる?時効はない!?

「時効」とは、一定の期間を過ぎると一定の行為をすることができなくなるという期間制限のことです。

以下では、遺産分割のやり直しと時効について解説します。

 

時効があるケース

5つのケースのうち、詐欺・強迫・重大な勘違いによって遺産分割に合意をしたケースについては、取消しできるとき(騙されたことに気づいたとき、強迫を受けたとき、重大な勘違いに気づいたとき)から5年以内に合意の取消しをしなければならないという時効(期間制限)があります。

5年の時効期間内であれば合意を取り消した上で遺産分割をやり直すことができますが、5年を過ぎると合意の取消しが認められなくなり、詐欺・強迫・重大な勘違いを理由とする遺産分割のやり直しはできなくなってしまいます。

 

時効がないケース

詐欺・強迫・重大な勘違いによって遺産分割に合意をしたケース以外の4つのケース(相続人全員がやり直しに合意しているケースなど)については、時効がありません(いつでもやり直しをすることができます)。

ただし、それぞれのケースについてやり直しをするための条件を満たすことは必要です。

 

特別受益・寄与分の主張には時効がある

遺産分割のやり直しが認められる場合でも、特別受益・寄与分の主張には10年の時効があります。

特別受益の主張とは、一部の相続人だけが被相続人から特別の利益を受けていた場合(例えば、一部の相続人が住宅購入資金の援助を受けていた場合など)に、その利益を考慮して遺産の取り分を決めるべき(特別受益を受けた相続人の取り分を減らすべき)、という主張です。

寄与分の主張とは、一部の相続人が被相続人に特別の貢献をした場合(例えば、一部の相続人が献身的に被相続人の介護を行ったために介護サービスを利用せずに済んだ場合など)に、その貢献分を考慮して遺産の取り分を決めるべき(遺産の取り分を増やしてほしい)、という主張です。

2023年の民法改正によって、2023年4月1日以降は、相続の発生(被相続人が亡くなったとき)から10年を過ぎると特別受益・寄与分の主張をすることができなくなりました。

 

 

遺産分割をやり直す場合の注意点

遺産分割をやり直す場合の注意点

完全なやり直しはできない可能性がある

遺産分割のやり直しをすることができるケースでも、完全なやり直しはできない可能性があります。

遺産分割が一度成立した後に、相続人が別の人に財産を売ったりあげたりした場合、遺産分割のやり直しによってその財産を受け取った第三者の利益を害することはできません。

例えば、次男が土地Xを相続するという遺産分割が成立し、その後に次男が土地Xを相続人以外のAさんに売却したというケースで考えてみましょう。完全なやり直しはできない可能性がある

このケースで遺産分割のやり直しを行った結果、長男が土地Xを相続することになったとしても、長男は原則としてAさんから土地Xを取り戻すことはできません(ただし、Aさんが次男と共謀して他の相続人を騙したなどの事情がある場合には、例外的に取り戻せる可能性があります)。

このように、遺産分割の完全なやり直しをできない場合があることには注意が必要です。

 

やり直しをしたら遺産分割協議書も作り直しが必要

遺産分割のやり直しをしたら、遺産分割協議書を作り直す必要があります。

「遺産分割協議書」とは、遺産分割で相続人全員が合意した内容を書面にしたもののことです。

遺産分割協議は合意した内容の証拠になるため、「言った」「言わない」のトラブル防止に役立ちます。

また、相続した不動産の名義変更(相続登記)や預貯金・株式等の名義変更、相続税の申告などを行う際には遺産分割協議書の提出が必要となります。

したがって、遺産分割のやり直しをして合意内容が変わった場合には遺産分割協議書の作り直しが必要となります。

 

贈与税や所得税に注意する

相続人全員の合意で遺産分割をやり直すケースでは、贈与税や所得税が発生する可能性があるため注意が必要です。

遺産分割のやり直しをした結果、当初の相続人とは別の相続人が遺産を取得することになった場合、税法上は「新たな財産の移転」があったものとみなされて、贈与税や所得税(譲渡所得税)の対象になります。

新たに遺産を取得した相続人が取得の対価を支払わない場合には、「贈与」を受けたものとして「贈与税」の対象となります。

新たに遺産を取得した相続人が対価を支払う場合には、「売買」が行われたものとして「(譲渡)所得税」の対象となります。

例えば、被相続人の妻、長男、次男が相続人になる場合において、以前の遺産分割では次男が土地Yを取得することになったが、全員の合意で遺産分割をやり直した結果、長男が土地Yを取得することになったという事例で考えてみましょう。贈与税や所得税に注意する

この事例で、長男が次男に金銭等を払わずに土地Yを取得した場合には、長男が贈与税を負担する可能性があります。

長男が次男に金銭を支払って土地Yを取得した場合には、次男が(譲渡)所得税を負担する可能性があります。

なお、やり直し前に当初の相続人(上の事例では次男)が相続税を支払っていたとしても、その相続税が返還されることはありません。

 

不動産については相続登記のやり直しが必要

遺産の中に不動産がある場合、遺産分割のやり直しによって当初の相続人とは別の相続人が不動産を取得することになったときは、相続登記のやり直しが必要になる可能性があります。

相続登記とは、不動産の名義人を被相続人から相続人に変更する手続きのことをいいます。

やり直し前に不動産を取得した相続人がすでに相続登記を完了させていた場合には、やり直し後に新たに不動産を取得した相続人が相続登記をやり直す必要があります。

相続登記をやり直す際には再度、登録免許税がかかります。

 

 

遺産分割をやり直したいときのポイント

遺産分割をやり直したいときのポイント

まずは再度の話し合いによる解決を目指す

遺産分割のやり直しをしたいときには、まずは他の相続人がやり直しに合意してくれるように説得することが大切です。

相続人同士での話し合いではらちがあかない場合には、弁護士に交渉の代理を依頼するのもおすすめです。

他の相続人がどうしても話し合いに応じてくれない場合には、家庭裁判所の調停や審判で解決することになります。

しかし、調停や審判は解決までに長い時間がかかってしまうことから、遺産分割のやり直しに向けてまずは話し合いでの解決を目指しましょう。

 

税金の負担についてよく確認する

上で解説したように、遺産分割のやり直しによって税金の負担が発生する場合があります。

やり直しによって取得する遺産の価値(金額)によっては高額の税金を課されるケースもあるため、注意が必要です。

税金の負担について事前によく確認した上で、それでも遺産分割のやり直しをするのかどうかを検討しましょう。

 

遺産分割に強い弁護士に相談する

遺産分割をやり直したいときには、遺産分割に強い弁護士に相談されることを強くおすすめします。

この記事で解説してきたように、遺産分割のやり直しができるケースであっても一定の条件を満たす必要があります。

また、遺産分割のやり直しにはメリットだけでなくデメリット・注意点(例えば、税金の負担が発生する可能性など)もあります。

遺産分割に強い弁護士に相談することで、そもそも遺産分割のやり直しができる場合なのか、やり直しをするのが適切な場合なのか、等について適切なアドバイスをもらえることが期待できます。

さらに、相続人同士の話し合いでトラブルになりそうな場合には、交渉の代理を依頼することもできます。

相続人同士のトラブルは一度こじれると長期化する傾向にあることから、遺産分割のやり直しを検討されている場合には、できるだけ早い段階で弁護士に相談されることをおすすめします。

なお、弁護士にはそれぞれ専門分野があり、遺産分割などの相続分野は高度の専門知識を要する分野であることから、弁護士の中でも「遺産分割に強い弁護士」に相談することが大切です。

 

 

遺産分割のやり直しについてのQ&A

遺産分割の一部をやり直せますか?


新たな遺産が見つかったことにより遺産分割のやり直しをするケースでは、新たに見つかった遺産についてのみ遺産分割のやり直しをすることができます。

また、その他のケースについても相続人全員が合意していれば、遺産分割の一部だけをやり直すことができます。

 

遺産分割をやり直せないケースはありますか?


調停や審判などの家庭裁判所での手続きを利用して遺産分割をしたケースでは、相続人の合意で遺産分割のやり直しをすることはできません。

より具体的には、すでに成立した遺産分割調停にもとづいて遺産分割をしたケースや、確定した遺産分割審判にもとづいて遺産分割をしたケースなどです。

調停や審判は裁判所という公的な機関を利用した手続きであるため、相続人の合意によっても結論を覆すことができません。

 

相続人が義務を果たさないない場合、遺産分割をやり直せますか?


特定の相続人が遺産分割で取り決めた義務を果たさなかったとしても、そのことを理由に遺産分割をやり直すことはできません。

一定の義務を果たすことを条件として、特定の相続人に財産を取得させるという遺産分割(協議)を成立させることがあります。

例えば、被相続人の妻(母親)と長男、次男、三男が相続人となる場合において、母親と同居して世話をする義務を果たすこと等を条件に、長男に土地や工場等を相続させるという遺産分割を成立させるようなケースです。

判例は、このようなケースで相続人が実際に義務を果たしてくれなかった(上の事例で、長男が母親との同居や世話などを一切行わなかった場合など)としても、そのことを理由に遺産分割を解除してやり直すことはできないとしています(参考判例:平成元年2月9日|最高裁ホームページ)。

参考:裁判例結果詳細|裁判所

このようなケースにおいて遺産分割をやり直すためには、相続人全員がやり直しに合意することが必要です。

 

 

まとめ

  • ①遺産分割に参加していない相続人がいるケース、②判断能力のない相続人が単独で参加していたケース、③相続人全員がやり直しに合意しているケース、④新たな遺産が見つかったケース、⑤詐欺・脅迫・重大な勘違いによって合意したケースでは、遺産分割のやり直しができます。
  • ⑤詐欺・脅迫・重大な勘違いによって合意したケースについては5年の時効がありますが、それ以外のケースについては時効がありません。
    ただし、遺産分割の中で行う特別受益や寄与分の主張については、相続の発生(被相続人の死亡)から10年の時効があるため注意が必要です。
  • 遺産分割のやり直しは相続人同士のトラブルにつながるリスクがあることから、やり直しを検討される際には遺産分割に強い弁護士に相談されることを強くおすすめします。
  • 当事務所では、遺産分割などの相続問題に強い弁護士で構成する相続対策専門チームを設置しています。

遺産分割に関するご相談はもちろんのこと、遺言書の作成、交渉の代理、調停・審判の対応、相続登記、相続税の申告、その他の税金対策など、幅広いご相談に対応させていただきます。

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