私は福岡市に住む者です。
先日、父が亡くなりました。相続人は、私の母であるAのほか、私の兄(長男)のB、私(長女)Cの3人です。
父の遺産は、福岡市にある自宅不動産(時価4000万円)のほか、預貯金3000万円があります。
私は父の生前、約5年間にわたって献身的に介護を行ってきました。
父は約5年前から脳梗塞を発症して介護が必要な状態となりました。
母Aも高齢と持病のため父の世話をできる状態ではなかったため、私が父母と同居して父の世話を独りで行っていました。
このような場合に、遺産相続において考慮してもらうことは可能なのでしょうか?
寄与分とは
寄与分とは、相続人の中に、亡くなった方の財産の維持又は増加について特別の貢献をした人がいる場合、他の相続人との公平を図るために、その増加をさせた相続人に対して、相続分以上の財産を取得させる制度です。
具体的には、寝たりきり状態の親を自宅で介護をして親の財産の減少を防いだ、親の家業に従事して親の財産を増やした場合など、被相続人(亡くなった方)の財産の維持又は増加に特別の寄与をしたと評価できる場合に「寄与分」として、貢献した方の相続する財産を増やすことができます。
相談事例においては、長女Cさんが献身的に、5年にもわたって介護を行っていたとあります。
もし、Cさんの介護がなければ、専門の業者に介護を依頼して介護料を支払わなければならなかったと考えられます。
したがって、Cさんの介護によって、被相続人の財産の減少を防いだと評価できるので、介護料相当の寄与分が認められると考えられます。
寄与分については、こちらをご覧ください。
寄与分があるとき、いくら遺産をもらえる?
寄与分があるときの相続分の計算方法は、次の順序で行うと良いでしょう。
①遺産の範囲を確定し金銭に評価する
②寄与分を金銭に評価する
③遺産(①)から寄与分(②)をいったん控除してみなし遺産を算出する
④みなし遺産(③)を法定相続分に従い分配した後、寄与が認められる相続人の相続分に上乗せする
相談事例に具体的にあてはめてみましょう。
具体例
①遺産の範囲を確定し金銭に評価する
自宅不動産:4000万円
預貯金:3000万円
合計:7000万円
②寄与分を金銭に評価する
5年間の介護料相当額
600万円(争いがないものとします。)
③遺産(①)から寄与分(②)をいったん控除してみなし遺産を算出する
7000万円 − 600万円 = 6400万円
④みなし遺産(③)を法定相続分に従い分配した後、寄与が認められる相続人の相続分に上乗せする
【法定相続分】
6400万円
配偶者A・・6400万円 × 1/2 = 3200万円
長男B・・6400万円 × 1/4 = 1600万円
長女C・・6400万円 × 1/4 = 1600万円
【長女の寄与分を加える】
1600万円 + 600万円(寄与分) = 2200万円
以上から、それぞれの具体的相続分は、
妻(配偶者)A:3200万円、長男B:1600万円、長女C:2200万円となる。
介護の寄与分においても遺産分割協議が重要?
遺産の範囲や額を確定したり、寄与分を金銭に換算したりするためには、相続人間での協議が必要です。
また、具体的相続分だけではなく、誰がどのような遺産を取得するのかも決めなければなりません。
すなわち、相談事例の場合、自宅不動産を誰が取得するのか、などです。
例えば、自宅不動産については妻Aさんが取得する場合、Aさんは具体的相続分(3200万円)を上回る遺産(4000万円)を取得することとなります。
したがって、Aさんから代償金として、800万円をBさんやCさんに各々400万円ずつ支払うなどの分割方法が考えられます。
このような柔軟な解決に導くために、遺産分割協議は極めて有効です。
遺産分割協議書の記載例
では、具体的に、どのような遺産分割協議書を作成すればよいのか、以下では今回のケースの例を示します。
【介護の寄与分がある場合の遺産分割協議書】
第◯条
Aは、B及びCは、別紙遺産目録記載の財産が被相続人の遺産であることを相互に確認し、本件相続開始時における価額を金7000万円と評価した上、被相続人に対し療養看護に努めたことによるCの寄与分を600万円と定める。
第◯条
Aは、別紙遺産目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)を取得する。
第◯条
Aは、B及びCに対し、本件不動産取得の代償として、各400万円の支払債務を負担することとし、これを◯年◯月◯日限り、B及びCの指定する口座に振り込む方法により支払う。ただし、振込手数料はAの負担とする。
第◯条
B及びCは、前条の支払いを受けるのと引き換えに、Aに対し、本件不動産について、遺産分割を原因とするの持分の持分移転登記手続を行うものとする。ただし、登記手続費用はAの負担とする。
第◯条
Bは、別紙遺産目録記載2の預貯金1200万円を取得する。
第◯条
Cは、別紙遺産目録記載3の預貯金1800万円を取得する。
第◯条
Cは、第◯条記載の寄与行為について、今後A及びBに対して不当利得返還請求その他財産上の請求をしないことを約束する。
遺産分割協議の書式のダウンロードは「遺産分割関連書式集」からどうぞ。
介護の寄与分があるケースの遺産分割協議の問題点
介護の寄与分があるケースの遺産分割協議には、以下のような問題点が考えられます。
①不動産の時価算定は困難?
本ケースでは、自宅不動産の価値を4000万円と決めつけていましたが、実務では、この価額をめぐって争いとなります。
なぜならば、不動産の時価は、固定資産税の評価額や相続税の評価額とは異なり、確定していないため「評価」が必要となるからです。
また、不動産を取得する側(相談事例だとAさん)にとっては、安いほうがメリットがあり、その他の相続人にとっては高いほうが代償金の額が高くなるというメリットがあるため、利害衝突が起こる可能性があります。
②介護の寄与分の金銭評価が難しい?
「介護」などの役務は、それを具体的な金額に換算するのが容易ではありません。
また、上記のケースでは、介護を行ったCさんにとっては寄与分を高く評価した方が有利ですが、その他の相続人にとっては安く評価したほうが有利であるため利害衝突が起こる可能性があります。
③遺産分割協議書の作成は簡単ではない?
遺産分割協議書は、後々のトラブル防止のために、適切な内容のものを作成すべきです。
素人判断で適当に作成すると、法的有効性を欠き、後日トラブルとなって、不利益を被るということも考えられます。
そのため、遺産分割協議書作成については、相続問題に詳しい弁護士にご相談の上、進めていかれることをおすすめします。
関連Q&A