家賃収入(法定果実)の相続について質問です。
私は福岡市博多区に住む者です。
私の夫は、博多区に賃貸用のマンションを所有し、賃借人から月額10万円の賃料収入を得ていました。
1年前に夫がなくなり、夫の死後は私が賃借人から賃料収入を受領しています。
相続人は、妻である私A(62歳)のほか、長男B(29歳)、長女C(24歳)の3人です。
夫の遺産は、以下のとおりです。
- 賃貸用マンション:時価2000万円
- 自宅不動産:時価4000万円
- 預貯金:4000万円
私としては、生活環境をなるべく変えたくないので、自宅不動産に住み続けたいと思っています。
子どもたちも異論はないようです。
賃貸マンションについては長男Bが取得を希望しており、長女Cも異論はないようです。
このようなケースではどのような遺産分割協議書を作成すればよいのでしょうか?
また、上記遺産とは別に、夫の死後受領した賃料合計120万円については、法定相続分に応じて取得する方法が相続人間の公平に資すると考えています。
しかし、この賃料は死後に受領したのであり、遺産そのものではないため、遺産分割の対象となるのか心配です。
法定果実(家賃収入)を相続できる?
相続について、民法は以下のとおり規定しています。
ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
引用元:民法|電子政府の窓口
本件では、賃貸用マンション、自宅不動産、預貯金については、「被相続人の財産」といえるので、相続することが可能です。
しかし、被相続人の死後に発生した賃料については、「被相続人の財産」そのものではなく、「被相続人の財産」から生じた「果実」であるため、遺産分割の対象となるのかが問題となります。
この問題については、積極説、消極説、折衷説がありますが、家裁実務は折衷説に立っています。
判例裁判例:東京高決昭63.1.14
相続開始後遺産分割までの間に相続財産から生ずる家賃は、相続財産から生ずる法定果実であるが相続財産とは別個の共同相続人の共有財産であり、その分割ないし清算は、原則的には民事訴訟手続によるべきものである。
ただし、相続財産と同時に分割することによって、別途民事訴訟手続によるまでもなく簡便に権利の実現が得られるなどの合理性があることを考慮すると、相続財産と一括して分割の対象とする限り、例外的に遺産分割の対象とすることも許容されるが、この場合には、当事者の訴権を保障する観点から、当事者間にその旨の合意が存在することが必要であると解するのが相当である。
上記の裁判例によれば、賃料は、相続人全員の合意があれば、遺産分割の対象とできます。
したがって、本件においても、A、B、Cの全員が合意すれば、賃料を遺産分割の対象とできます。
借地権の遺産分割協議書の記載例
では、具体的に、どのような遺産分割協議書を作成すればよいのか、以下では今回のケースを示します。
【賃料の遺産分割協議書】
第◯条 マンションについて
相続人Bは、別紙目録1記載の不動産(マンション)を相続する。
第◯条 自宅不動産について
1 相続人Aは、別紙目録2記載の不動産(土地)を相続する。
2 相続人Aは、別紙目録3記載の不動産(建物)を相続する。
第◯条 賃料について
AはB及びCに対し、◯年◯月◯日(被相続人の死亡日)から本日までの間に収受した第◯条記載のマンションに係る賃料合計120万円の内金30万円について、それぞれ返還義務のあることを確認する。
第◯条 預貯金について
1 次の預貯金はAが取得する。
◯◯銀行 ◯◯支店 普通 口座番号◯◯◯◯ 4000万円(相続開始日の残高)
2 Aは、前項記載の預貯金を取得する代償として、各相続人に次の価額の債務を負担することとし、それぞれの指定する口座に◯年◯月◯日限り、振り込む方法により支払うものとする。振込手数料はAの負担とする。
Bに対し、金500万円
Cに対し、金2500万円
サンプルの遺産分割協議書のポイント
賃料の返還義務について
本件では、賃料については法定相続分に応じて取得することで相続人全員の同意が得られています。
そのため、遺産分割の対象とすることが可能です。
賃料合計額120万円を法定相続分どおりに分割する場合、それぞれが受け取るべき額は、Aさん60万円、Bさん30万円、Cさん30万円です。
A 120万円 ✕ 1/2 = 60万円
B 120万円 ✕ 1/4 = 30万円
C 120万円 ✕ 1/4 = 30万円
流動資産で調整する
賃料の除く遺産を法定相続分どおりに分割する場合、それぞれが受け取るべき額は、Aさん5000万円、Bさん2500万円、Cさん2500万円です。
- 賃貸用マンション:時価2000万円
- 自宅不動産:時価4000万円
- 預貯金:4000万円
合計 1億円
A 1億円 ✕ 1/2 = 5000万円
B 1億円 ✕ 1/4 = 2500万円
C 1億円 ✕ 1/4 = 2500万円
上記の取得額となるように、預貯金や現金等の流動資産を使って調整します。
本事案では、Aさんが自宅(時価4000万円)を取得しています。
そのため、Aさんは、預貯金から1000万円を取得すれば、5000万円分取得できることとなります。
また、Bさんは、賃貸用マンション(時価2000万円)を取得しています。
そのため、Bさんは、預貯金から500万円を取得すれば、2500万円分取得できることになります。
Cさんは、預貯金から2500万円取得すれば問題ありません。
代償分割について
例では、Aさんが預貯金の全額4000万円を取得し、その代りに、Bさんに400万円、Cさんに2500万円を支払うという内容にしています。
このような記載内容にしているのは、手続の円滑化のためです。
すなわち、相続人間の話合いで、銀行預金を分割すると、遺産分割協議書だけでなく、金融機関の所定の書類にも、AからCさん全員の署名捺印を求められるのが一般的です。
そのため、大変な手間暇を要することとなります。
そこで、Aさんに預貯金を集中して相続させ、そのかわりにBさんとCさんに代償金を支払うという分割協議にしています。
賃料の遺産分割協議の問題点
遺産に賃料があるケースの遺産分割協議には、以下のような問題点が考えられます。
不動産を評価するのが困難?
上記の事案は、賃貸用マンションや自宅の時価について、確定できている前提で解説しています。
しかし、相続実務において、不動産の時価が当初から確定できていることは稀です。
まず、不動産は預貯金等と異なり、景気や売り手買い手の状況など様々な事情によって価額が変動するという問題があります。
なお、不動産について、固定資産税の評価額をもって遺産の評価額と考えている方を見受けますが、これは誤りです。
固定資産税の評価額は、課税の局面での評価額です。
遺産分割協議では、時価が基準となります。
また、固定資産税の評価額は、通常時価よりも価額が低いので、遺産分割協議においては適正額ではないことがほとんどです。
もちろん、当事者全員が納得すれば、固定資産税の評価額を基準として遺産分割協議書を作成してもよいのですが、その場合、不公平な結果となることを覚悟すべきです。
(本事案の場合、自宅については時価よりも低く評価されることでAさんには有利になりますが、BさんとCさんには不利になります。)
まとめ
以上、法定果実(家賃収入)の遺産分割について、詳しく解説しましたがいかがだったでしょうか。
被相続人の死後に生じた家賃収入であっても、相続人全員の合意があれば遺産分割の対象となります。
遺産分割については、トラブルを避けるために、遺産分割協議書の作成をすべきです。
また、不動産の評価についても注意が必要です。
これらをスムーズに行うためには相続税法に対する専門知識と豊富な経験が必要となるため、相続問題の専門家に相談されることをお勧めいたします。
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