遺産分割協議証明書とは、遺産分割協議の結果、どのような内容で合意が成立したのかを証明する書面です。
それぞれの相続人が単独で1通ずつ作成し、1通の書面に署名押印するのは一人です。
不動産の名義変更や自動車の名義変更などの手続きを行うときに使用できます。
このページでは、遺産分割協議証明書はどのような場合に必要なのか、遺産分割協議証明書を使用する場合のメリットやデメリット、ひな形について詳しく解説いたします。
目次
遺産分割協議証明書とは
遺産分割協議証明書とは、遺産分割協議の結果、どのような内容で合意が成立したのかを証明する書面です。
「遺産分割」とは、被相続人(亡くなった方)の遺産について、誰が何を相続するのかを確定させる手続きをいいます。
「遺産分割協議」とは、相続人(相続をする人)たちで遺産分割について話し合うことをいいます。
「遺産分割協議証明書」と似ている文書として「遺産分割協議書」があります。
どちらの文書も遺産分割協議の結果を記載したものであり、法的な効果は同じです。
両者の違いについては後記でくわしく解説しますが、遺産分割協議証明書の方は、相続人が多数で遠方に居住している場合や、非協力的な人(対応が遅い人・連絡が取りにくい人など)がいる場合に選択すると良いでしょう。
遺産分割協議証明書はどういうときに必要?
遺産分割協議証明書は、以下のような相続手続きを行うときに必要になります。
- 不動産の名義変更
- 自動車・船舶の名義変更
- 預金の解約払い戻し・名義変更
- 株式の名義変更
- 相続税の申告
遺産分割協議証明書と遺産分割協議書の違いは?
遺産分割協議証明書と遺産分割協議書の違いをまとめると、下表のようになります。
項目 | 遺産分割協議証明書 | 遺産分割協議書 |
---|---|---|
署名押印する人 | 1人 | 全員 |
署名押印する用紙 | それぞれ別の用紙 | 同じ用紙 |
作成日 | 署名押印した日 | 遺産分割の合意日 |
作成数 | 相続人の人数分 | 1通でも良い |
遺産分割協議書とは
「遺産分割協議書」とは、遺産分割協議の結果、どのような内容で合意が成立したのかが記された書面をいいます。
その記載内容や必要となる場面は、遺産分割協議証明書とほとんど同じです。
遺産分割協議書の作成方法・提出先はこちらのページをご覧下さい
作成する人(署名押印する人)が全員か一人か
遺産分割協議書と遺産分割協議証明書で大きく違うのは、「相続人全員で1通の書面を作成するのか」、「それぞれの相続人が単独で1通ずつ書面を作成するのか」、というところです。
「1通の書面に相続人全員が署名押印をするのか」、「1通の書面にはそれぞれの相続人が単独で署名押印するのか」が違う、と言い換えることもできます。
遺産分割協議書は、相続人全員で作成します(1通の書面に全員が署名押印します)。
遺産分割協議書は、相続人全員が話し合いの内容に合意したことを証明する書面だからです。
他方、遺産分割協議証明書は、それぞれの相続人が単独で1通ずつ作成します(1通の書面に署名押印するのは一人です)。
遺産分割協議証明書は、それを作成した相続人(それに署名押印した相続人)の認識のみを証明するものだからです。
相続手続きには全員分の遺産分割協議証明書が必要
遺産分割協議証明書は、「遺産分割協議書を各相続人ごとに分けたもの」といえます。
相続人全員分の遺産分割協議証明書が集まってはじめて遺産分割協議書と同じ役割を果たします。
相続手続きを行う際は、相続人全員の認識を証明しなければならず、相続人全員分の遺産分割協議証明書が必要になりますので、ご注意ください。
項目 | 遺産分割協議書 | 遺産分割協議証明書 |
---|---|---|
作成する人 | 全員が署名 | 単独で署名 ただし全員分の書面が必要 |
遺産分割協議証明書の場合、単独で作成可能なため、遺産分割協議書と異なり、「署名押印する相続人が相続する内容についてしか記入しなくてもかまわない」と説明するWEBサイトもあるようです。
しかし、いずれの書面も遺産分割協議の内容を確定させることが目的ですので、そのような方法はお勧めできません。
トラブル防止の観点からは、遺産分割協議証明書であっても、協議内容すべてを記載すべきと考えます。
遺産分割協議証明書のメリットとデメリット
遺産分割協議証明書のメリット
メリット①相続人が多数・遠方に居住していても簡単に作成できる
遺産分割協議書には、1通の書面に相続人全員の署名押印が必要です。
相続人全員が一つの場所に集まり一度に署名押印できればよいですが、相続人の数が多い場合や、相続人同士が遠方に居住している場合、それは難しいでしょう。
このような場合は、遺産分割協議書を郵送で回しあい、相続人各自が順番に署名押印していくことになります。
しかし、この方法では、相続人の数が多ければ多いほど、相続人全員が署名押印を完了するまでに時間がかかります。
他方、遺産分割協議証明書は、相続人各自が単独で作成することができます。
相続人各自が署名押印した遺産分割協議証明書を代表者(通常は相続手続きをする方)に送ればよく、順番に回し合う必要はありません。
そのため、遺産分割協議証明書の方が遺産分割協議書よりも簡単に作成でき、時間を節約することができます。
メリット②対応してもらえる人から書類を集めることができる
遺産分割協議書を郵送で回し合う場合、非協力的な人(対応が遅い人・連絡が取りにくい人など)がいると、完成するまでに時間がかかります。
他方、遺産分割協議証明書は、相続人各自が単独で作成できるため、非協力的な人がいる場合でも、取り敢えずその人以外から集めていくことができます。
遺産分割協議書証明書のデメリット
デメリット① 偽造の可能性
遺産分割協議証明書は、各相続人が単独で作成するものです。
そのため、中身(協議内容)や署名について偽造される可能性が考えられます。
偽造を防ぐために、中身をしっかりと確認し、作成者に実印の押印と印鑑登録証明書の提出をお願いするなどされることをお勧めいたします。
デメリット② 1人でも証明書を提出しないと遺産分割できない
遺産分割協議証明書は単独で作成できますが、相続人の中の1人でも遺産分割協議証明書を提出しないと結局は遺産分割できません。
このような事態を防ぐために、事前に遺産分割についてよく話し合いをし、その上で遺産分割協議証明書の案分を作成して確認してもらい、相続人全員の了承を得た上で、署名押印してもらうようにしましょう。
遺産分割協議証明書の案分の作成方法は後記の「書き方」をご参考にされてください。
メリット | デメリット |
---|---|
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遺産分割協議証明書の作成を検討したほうがいい4つのケース
遺産分割協議証明書のメリット・デメリットを踏まえて、遺産分割協議証明書の作成を検討した方が良いケースをご紹介します。
遺言書がないケース
遺言書があるケースでは、基本的にはその遺言書に従って相続するため、遺産分割の必要がありません。
したがって、遺産分割協議証明書の作成は、遺言書がないケースであることが前提となります。
遠方に居住する相続人がいるケース
遺産分割協議書の場合、相続人が集まって遺産分割協議を行い、協議がまとまったら遺産分割協議書に全相続人が署名押印します。
相続人の中で遠方に居住している相続人がいるケースでは、協議のための移動時間や交通費等の負担が発生します。
そのため、各自が作成できる、遺産分割協議証明書を作成する方が合理的とも考えられます。
相続人が多人数のケース
最近では、LINEのビデオ通話やZoomなどのオンラインツールによって、遠方の相続人と遺産分割協議を行うこともできます。
そして、遺産分割協議の内容がまとまったら、遺産分割協議書を作成して、遠方の相続人に順次郵送して署名押印してもらうこともできます。
しかし、遠方の相続人が複数の場合、遺産分割協議書の署名押印に時間がかかってしまうことがあります。
例えば、A、B、C、D、Eの5名が遠方に居住している場合で、Aさんが遺産分割協議書を作成したとします。
この場合、Aさんは、B、C、D、Eの4名から署名押印をもらわなければならず、全員が署名押印するまで時間が掛かるでしょう。
これに対し、遺産分割協議証明書であれば、各自バラバラに作成できますので、時間を大幅に短縮できます。
遺産分割に非協力的な相続人がいるケース
相続人の中に、遺産分割協議に非協力的な方がいる場合、遺産分割協議書は作成できません。
このような場合、遺産分割協議証明書であれば、まずは協力的な相続人から遺産分割協議証明書を取得することができます。
連絡がつかない相続人がいるケース
相続人の中に、非協力的とまではいかないものの、連絡がつきにくい方がいるケースがあります。
この場合も、遺産分割協議証明書であれば、まずは連絡がとれる相続人から遺産分割協議証明書を取得することができます。
遺産分割協議証明書のひな形(ダウンロード)
遺産分割協議証明書には、「全相続人の相続財産を証明する場合」と「自分の取得する財産のみを証明する場合」の2パターンがあります。
ここでは、それぞれのパターンのひな形をダウンロードすることが可能です。
全相続人の相続財産を証明する場合
このパターンの場合、記載内容は遺産分割協議書とほぼ同じになります。
遺産分割協議証明書の具体例を示します。
自分の取得する財産のみを証明する場合
このパターンの場合、記載内容は作成者である相続人1人の相続財産に限定されるため、遺産分割協議書と内容が異なります。
遺産分割協議証明書ひな形のダウンロード
遺産分割協議証明書の書き方と注意点
作成時の注意点
日付(作成日)
日付(作成日)は、各相続人ごとに異なっていても相続手続きに問題はありません。
ただし、各相続人ごとに異なる場合は、記載された日付のうち一番遅い日付で遺産分割協議が成立したことになります。
各相続人間で遺産分割協議の成立日について認識を合わせたい場合などは、全員で同一の日付にするとよいでしょう。
押印
押印は、「実印」を用いて行います。
また、相続登記などの際には印鑑登録証明書の提出も必要になりますので、各自に用意してもらうようにしましょう。
捨印
捨印をもらっておけば、軽微な訂正が生じた場合に、再作成や訂正印をもらう手間を省くことができます。
中身の具体的な書き方(相続財産の記載方法)
相続財産の記載方法は、遺産分割協議書を作成する場合と同じです。
遺産分割協議書のひな形・テンプレートはこちらのページをご覧ください。
遺産分割協議書の書き方・見本等はこちらのページをご覧ください。
遺産分割協議証明書の署名押印を集める方法
遺産分割協議証明書の集め方は、直接会う方法と郵送の2つの方法があります。
直接会う場合は、その場で遺産分割協議証明書の用紙を提示し、確認してもらって署名押印をもらうこととなります。
この場合、事前に遺産分割協議証明書の内容を伝えておくと、スムーズに署名押印をもらうことができるでしょう。
実印と印鑑登録証明書については、当日持参してもらうように連絡しておきましょう。
郵送の場合は、遺産分割協議証明書のほかに、返信用封筒も同封しておくと、相手は返信しやすいでしょう。
署名は自署、押印は実印が必要なことと、印鑑登録証明書も同封してもらうように伝えましょう。
遺産分割協議証明書についてよくある相談
ここでは遺産分割協議証明書について、ご質問が多いものをご紹介します。
遺産分割協議証明書が送られてきたらどうすればいい?
遺産分割協議証明書にサインをすると、基本的に後から取り消すことはできません。
そのため、慎重に対応すべきです。
まず、遺産の内容が正しいか(遺産分割協議書名所に記載されていない遺産がないか等)、遺産の分け方が適切か(自分の法定相続分を目安にして、取得したい遺産を受け継ぐことができる内容となっているか等)をよく確認しましょう。
そして、少しでも納得できないと思ったら、相続に強い弁護士に相談しましょう。
そもそも、遺産の内容や遺産の分け方について、適否を判断できない場合も同様に弁護士に相談すると良いでしょう。
相続人が一人の場合、遺産分割協議証明書は必要?
相続人が一人だけの場合、遺産分割協議証明書を作る必要はありません。
また、相続人全員が相続放棄した場合、有効な遺言書があってその内容に従う場合にも同様に、遺産分割協議証明書は不要です。
まとめ
以上、遺産分割協議証明書について作成メリットや書き方など解説しましたが、いかがだったでしょうか。
遺産分割協議証明書は、それぞれの相続人が単独で作成することができるので、遺産分割協議書を作成するよりも手間や時間を節約することが可能です。
遺産分割協議書と遺産分割協議証明書の使い分けや、詳しい記載方法などについては、具体的なケースに応じた判断も必要になりますので、お困りの場合は、相続専門の弁護士に相談されることをお勧めします。
この記事が遺産分割協議証明書に関する疑問の解消にお役に立てば幸いです。