目次
弁護士の回答
遺産とは、お亡くなりになられた方が残した財産のことをいいます。
財産のすべてが相続の対象となるわけでないため、注意が必要です。
この記事でわかること
- 遺産相続の対象となる財産
- 遺産相続の対象とならない財産
- 遺産分割の対象とならない財産
- 遺産の調査方法
- 相続税の対象となる財産
- 相続税が非課税となる財産
- 遺産の分け方
- 遺産の平均額
遺産と財産の違い
遺産とは、お亡くなりになられた方が残した財産のことをいいます。
財産というと、現金、不動産などを思い浮かべますが、相続の対象(遺産)となるという法的な意味では、亡くなった方の一切の権利義務、すなわち、預貯金債権や借金なども対象となります。
ただし、一身専属権などは除きます。
一身専属権とは、その亡くなった方でなければ、成立しない、又は、認められるべきでないような権利・義務のことをいいます。
例えば、雇用契約における従業員の地位、などがあります。
遺産を考える上で重要なことは、相続の対象となるかどうかです。
「相続の対象となる財産」と「相続の対象とならない財産」の例
財産について、相続の対象となるか否かの具体例を示すと、以下のとおりとなります。
相続の対象となる財産
- 現金、預金
- 債権(貸付金、売掛金、不動産賃借権、損害賠償請求権など)
- 投資信託
- 仮想通貨(暗号資産)
- 自動車・船舶などの動産
- 知的財産権(特許権や著作権など)
- 不動産
- 借金(借入金、ローン、クレジットカードの未払い分など)
- 未払いの税金
- 未払いの家賃や光熱費
- 預り金(敷金など)
- 連帯保証などの債務
- 系譜、祭具及び墳墓の所有権
相続の対象とならない財産
- 遺族給付
- 相続開始後の法定果実(賃貸物件の家賃や株式の配当など)
- 一身専属権・義務(国家資格、年金受給権、身元保証人の地位など)
遺産の種類
上表のとおり、遺産(相続の対象となる財産)の中には、現金などのプラスの財産と、借金などのマイナスの財産があります。
また、遺産には該当するものの、遺産分割が法律上認められていない財産(系譜、祭具及び墳墓の所有権もあります(民法897条)。
参考:民法|電子政府の窓口
遺産相続で重要なもの
以下では、遺産財産において、実務上、問題となりやすい預貯金、現金、不動産、不動産賃借権、投資信託について、解説します。
預貯金
相続が発生したとき、遺産の中に預貯金が含まれていることがほとんどです。
預貯金は、遺産の中でも最も典型的な財産といえます。
したがって、ほとんどのケースでは、ご親族がお亡くなりなったら、遺産分割協議の中で、預貯金をどのように分けるかについて、話し合うこととなります。※
- ※ 実は、預貯金について、従来、裁判所は遺産分割協議の対象とすべきでないと判断していました。
すなわち、従来の裁判所の立場だと、被相続人の預貯金は、相続の対象にはなるものの、遺産分割の対象にはならず、相続開始と同時に当然に相続分に応じて各相続人に分割されるとされていました。
しかし、この考え方は、相続問題の一回的な解決ができないといった不都合が生じる可能性がありました。
そこで、平成28年12月19日、最高裁の大法廷決定により、被相続人の普通預金債権、通常貯金債権、定期貯金債権はいずれも遺産分割の対象になるとの判例変更がなされました。
預貯金については、遺産分割の対象であることから、遺産分割協議が済むまで、相続人であっても、自分の法定相続分に応じた預貯金の払い戻し請求を行うことができません。
しかし、相続が発生すると、葬儀費用や各種支払いなどで、現金が必要な場合が多くあります。
したがって、遺産分割協議をできるだけ早く、円滑に進めることが重要となります。
現金
現金は、亡くなった方の金銭であり、当然、遺産に含まれます。
しかし、現金は、流動性が極めて高いため、それを管理している方(亡くなった方と同居していた方など)の手元にある場合、使われてしまう可能性があります。
ここで注意が必要なのは、現金も上記の預貯金と同じように、遺産分割の対象となるということです。
すなわち、亡くなった方の現金は、遺産分割協議が済むまで、各相続人の共有的な財産であり、他の相続人の方々の同意なく、勝手に使うことはできません。
不動産
不動産は、亡くなった方の土地や建物のことをいい、当然、遺産に含まれます。
したがって、遺言がない場合、不動産については遺産分割協議を行い、誰が相続するかを決めなければなりません。
不動産の遺産分割については、次の3つの方法があります。
換価分割 | 不動産を売却して、現金に変えて遺産分割するという方法です。 |
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代償分割 | 相続人のうちの一人が単独で相続し、それ以外の相続人に当該不動産の価値相当分の現金を代わりに支払う(代償する)という方法です。 |
共有分割 | 相続人全員が共有の状態で相続分を得る方法です。 |
上記の分割方法のメリットとデメリットをまとめると、下表のとおりとなります。
換価分割
メリット | デメリット |
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代償分割
メリット | デメリット |
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共有分割
メリット | デメリット |
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どの方法が最適かは、事案で異なるので、くわしくは相続専門の弁護士にご相談されると良いでしょう。
不動産賃借権
不動産賃借権は、不動産の賃貸借契約に基づき、借り主(亡くなった方)が貸主に対し、当該不動産を使用収益させるように請求できる権利のことをいい、当然、相続の対象となります。
相続が発生すると、遺産分割が済むまで、法定相続分に応じて準共有※となります。
※所有権以外の財産権を複数人が有する場合を準共有といいます。
所有権の場合は共有です。
したがって、不動産賃借権についても、遺産分割協議が必要となります。
投資信託
投資信託とは、運用会社等の専門家が投資家(亡くなった方)に代わって株式や債権などの夕化粧券や不動産等に投資し、その利益の受け取る資産形成・資産運用のための金融商品をいいます。
投資信託において、投資家(亡くなった方)は、受益権(利益の分配を受け取る権利や償還金の受領等)があり、これには財産的価値があるため、当然、相続の対象となります。
相続税の対象となる財産
民法で言うところの相続財産については、上記のとおりです。
相続税の対象となる財産は、民法の相続財産とは一致しないため注意が必要です。
「相続税の対象となる財産」と「非課税となる財産」をまとめると、下記のとおりとなります。
相続の対象となる財産
- 民法上の遺産(上記のとおり)
- 生命保険金
- 死亡退職金
- 個人年金など
非課税となる財産の例
- 生命保険金や死亡退職金のうち「500万円 × 法定相続人の数」の金額
- 不慮の事故による死亡で遺族に支払われる損害賠償金
- 勤務先からの弔慰金で一定額以内の金額
- 国や自治体に寄付されたものなど
①みなし相続財産とは
みなし相続財産とは、死亡時に被相続人に帰属していた財産ではないものの、死亡によって発生し、ほとんど相続財産と変わりない財産のことをいいます。
②相続開始前3年以内の贈与
相続税を少なくするために、被相続人が生前、贈与税の非課税枠(年間110万円)を使って、毎年贈与を行うことがあります。
これを放置すると、納税者間の不公平感が生じるため、相続開始前3年以内の贈与はすべて相続財産に加えて相続税が算出されます。
③相続時精算課税制度が適用される贈与財産
相続時精算課税制度とは、受贈者が2500万円まで贈与税を納めずに贈与を受けることができ、贈与者が亡くなった時にその贈与財産の贈与時の価額と相続財産の価額とを合計した金額から相続税額を計算し、一括して相続税として納税する制度です。
遺産の平均はどれくらい?
遺産の額は、被相続人(亡くなった方)の収入やライフスタイルによって大きく異なります。
したがって、ケース・バイ・ケースの状況です。
ある調査結果では、2100万円程度が平均とも言われています。
しかし、あくまで平均ですので、遺産については確実に調査することをお勧めいたします。
遺産の調査方法
では、どのように調査すればよいでしょうか。
上記のとおり、遺産と一口に言っても様々なものがあります。
相続が発生したら、亡くなった方の遺産を一つ一つ、もれなく調査し、かつ、適切に評価しなければなりません。
遺産の分け方
遺産を調査し、評価したら、次に遺産分割を検討しなければなりません。
遺産分割とは、被相続人(亡くなった方)が死亡時に有していた遺産について、個々の遺産の権利者を確定させるための手続をいいます。
遺産分割の対象となる遺産は、「相続開始時に存在」し、かつ、「分割時にも存在」する「未分割」の遺産となります。
まとめ
以上、遺産について詳しく解説しましたがいかがだったでしょうか。
相続が発生すると、悲しみの中で、法要や役場での手続など多忙な作業に追われることになります。
しかし、適切な相続を行うために、まずは遺産について、確認することが重要となります。
遺産相続のポイントは、「もれなく調査すること」と「適切に評価すること」です。
これらの遺産の調査や評価は、専門的な知識と豊富な経験が必要です。
そのため、素人判断ではなく、相続問題に詳しい弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
この記事が相続人の方にとってお役に立てれば幸いです。