遺産分割後の強制執行とは
遺産分割で、当事者間に合意が成立した、あるいは審判や訴訟で結論が下されたにも関わらず、相手方が決まった内容に従わないことがあります。
たとえば、遺産分割調停において、①相手方が相続財産の1つである建物を取得すること、②相手方から1000万円の支払いを受けることを合意したとします。
しかし、相手は建物を取得したにもかかわらず、1000万円を支払ってくれないということが考えられます。
その場合、合意した1000万円を強制的に回収する方法として、強制執行が考えられます。
強制執行とは、調停調書や審判調書、あるいは訴訟の判決などを債務名義として、これに従わない相手方に対し、国の権力として強制的に債権の回収を実現させるための制度です。
強制執行には、大きく分けて、直接執行、間接執行、代執行の3種類があります。
直接強制とは
相手方がその義務を履行しない場合に、国家権力を用いて強制的に債権の内容を実現させる制度です。
たとえば、相手方が1000万円を支払うと合意したのにそれを行わない場合に、相手方の財産を差し押さえる方法がこれに当たります。
間接強制とは
相手方が債務を履行しない場合に、金銭的な負荷を与えて債務の履行を心理的に促し、間接的に債務の履行を実現する制度です。
たとえば、相手方が居住する建物を渡すと合意したのにそれに従わない場合、相手方の身体に直接力を加えて出て行かせることは困難です。
そこで、明け渡さない相手方に対し、間接強制金の支払義務を認め、金銭的な負担を与えて出て行くよう仕向けるのがこれに当たります。
代替執行とは
相手方が履行すると合意した内容が第三者によっても実現可能である場合(例:建物の収去)、国が第三者に依頼して債務を履行し、そのためにかかった費用を相手方から取り立てる方法があります。
これを代替執行といいます。
代替執行は他の人でも履行が可能である債務に限って認められることになります。
強制執行は、債務名義に基づき、裁判所に対して執行を申立てます。
しかし、強制執行の手続は非常に複雑であるうえ、専門知識を要します。
そのため、なかなかお一人で行うことは困難です。
強制執行についてお困りの方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
強制執行するために必要な書類
強制執行するためには、「債務名義」と呼ばれる書類が必要となります(民事執行法22条)。
すなわち、強制執行は、執行機関(執行裁判所と執行官)によって行われますが、権利を実現するためには、以下の特定をする必要があります。
①実現されるべき給付請求権
②当事者
③執行対象財産ないし責任の限度
これが特定されたものが債務名義です。
どのような文書が債務名義になるかは民事執行法22条に定められています。
相続問題や遺産分割に関係する債務名義としては、確定判決(同条1号)、遺産分割の調停調書(同条7号)、家事審判調書(同)、執行証書(同条5号)が挙げられます。
したがって、遺産分割調停が成立している場合はその調停調書が債務名義となります。
また、遺産分割の審判が言い渡されている場合は、その審判調書が債務名義となります。
裁判所を介さずに遺産分割を行った場合は強制執行できる?
公正証書がある場合
遺産分割協議を公正証書で締結している場合、通常は上記の執行証書に該当すると考えられます。
すなわち、執行証書とは、公正証書のうちで民事執行法22条5号所定の要件を備えたものをいいます。
その要件は、①公証人がその権限の範囲内で適式に作成した公正証書で、②金銭の一定額の支払またはその他の代替物もしくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求を内容とし、③債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されていることです。
したがって、上記要件を満たす場合、公正証書を債務名義として強制執行が可能です。
遺産分割協議書しかない場合
当事者間で作成した私文書の場合、債務名義とはなりません。
したがって、遺産分割協議書しかない場合、強制執行を行うためには、家裁に調停を申し立てるなどして、債務名義を準備する必要があります。
まとめ
以上、遺産分割後の強制執行について解説しましたが、いかがだったでしょうか?
強制執行は、債務名義の存在を前提として、執行機関に対し、適法に申立てを行う必要があります。
この強制執行手続をスムーズに、かつ、迅速に行うためには、相続問題に対する専門知識と豊富な経験が必要となります。
そのため、相続問題に精通した弁護士への相談を強くお勧めしています。
当事務所の相続対策チームは、相続に注力する弁護士や税理士のみで構成される専門チームです。
遺産分割後の強制執行でお困りの方は当事務所までお気軽にご相談ください。
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