相続税の申告とは、人が亡くなった際に相続等により財産を取得した人が、相続人や財産の情報を税務署に申告することです。
相続税は自分で税額を計算する申告納税方式であるため、相続人が相続税額まで計算する必要があります。
自身が引き継いだ財産を報告するだけではなく、他の相続人が引き継いだ財産も含めて、相続人どうしが共同で申告します。
「相続税申告にあたって必要な手続きや書類を知りたい」
「必要な書類を収集した後の相続税申告のスケジュールを知りたい」
こういった方に向けて、相続税申告の手続きや必要書類、流れについて解説致します。
目次
相続税申告とは
相続税の申告とは、亡くなった人から財産を受け継いだ人が、「亡くなった人から相続で取得した財産はこれだけで、相続税を計算するといくらの相続税になります」という申告書を税務署に提出することをいいます。
この場合の亡くなった人を被相続人といいます。
相続税は固定資産税と同様に資産にかかる税金ですが、賦課課税方式である固定資産税のように自動的に税金の納付書が送られてくるわけではなく、申告納税方式で相続人が自主的に申告をする必要があります。
そのため、相続人が相続税の申告が必要かどうか、自分で判断する必要があるので、注意が必要です。
相続税申告が必要なケース
相続税の申告が必要なケースは、被相続人から相続、遺贈により財産を取得した各人の課税価格の合計額が、遺産に係る基礎控除額を超える場合です。
遺産に係る次の算式で計算します。
3,000万円 +(600万円 × 3)= 4,800万円上の例の場合、基礎控除額は4,800万円となります。
なお、被相続人から相続時精算課税贈与による贈与を受けた場合には、精算課税による贈与を含めた課税価格の合計額が基礎控除以下であっても、相続税の申告が必要となります。
相続税申告の要否の判定方法
相続税の申告は、相続税の課税価格(相続税評価額)が基礎控除額を超える場合に必要となります。
したがって、相続税申告の要否を判定するためには、相続税の課税価格を知る必要があります。
相続税の課税価格は以下の算式で計算します。
上記の遺産総額は以下の算式で計算します。
遺産総額 = 相続財産(預貯金・不動産など)+ みなし相続財産(生命保険金、死亡退職金など)+ 生前贈与により贈与された財産※ + 相続時精算課税制度による贈与財産
※税制改正により相続開始時期に応じて相続開始前3年~7年以内の贈与が対象となります。
相続税の申告の要否を判定するには、以下のような方法を利用すると便利です。
①国税庁のサイトで申告の要否を判断する
以下の国税庁のサイトでは、質問に答えて必要事項を埋めることにより、相続税の申告が必要かどうか判断できます。
しかし、こちらのサイトでは、相続税の対象となる財産の価格は相続税評価額で集計する必要があり、正しい相続税評価額を集計しなければいけないため、ある程度の相続税の知識が必要になります。
あとで説明する税務署からの相続税についてのお尋ねが届いた方が、税務署への回答を作成する場合にも利用することができます。
②国税庁のセルフチェックシートで判定する
国税庁のサイトにはセルフチェックシートも用意されています。
こちらは手書きで作成することができます。
こちらも相続税の申告要否判定コーナーと同様に相続税の対象となる財産の価格は相続税評価額で集計する必要がありますので、やはり相続税の基礎的な知識がないと申告の要否の判断を誤る可能性があります。
③相続専門の税理士に相談して申告の要否を判定してもらう
上記の国税庁のサイトやチェックシートでは、判断が難しかったり、相続税の基礎知識がない方については、相続専門の税理士に相談することをおすすめします。
税理士は相続人に必要な情報をヒアリングし、かなり正確に相続税の申告の要否を判断してくれるでしょう。
また、相続税額の概算も算定してもらえる場合もあります。
その場合の相談料は、相続税申告が発生すれば、無料としてくれる事務所が多いはずです。
相続税要否の判定に必要なもの
相続税の申告の要否を判断するためには、以下のような情報が必要です。
①法定相続人の数を確認する
まずは被相続人の相続人が誰で何人いるのか把握する必要があります。
相続人の確認には、被相続人の出生から亡くなるまでの戸籍が必要となります。
結婚などの理由により、新しい戸籍を作った場合、結婚前の戸籍にさかのぼり、その戸籍の中に相続人となる人がいないか確認します。
また、遺産に係る基礎控除額を計算する場合の法定相続人の数には、養子の算入制限があり、複数の養子がいる被相続人については、実子がいる被相続人の場合は1人まで、実子がいない被相続人の場合は2人までという制限があります。
②預貯金、上場株式などの残高を確認する
亡くなった方の銀行などの預貯金の口座残高や証券口座内に保有している上場株式の株数、投資信託の口数などの残高を確認します。
預貯金については普通預金の場合、口座残高がそのまま相続税評価額となりますが、上場株式や投資信託については、財産評価基本通達により評価額を算定します。
③不動産の所有状況を確認する
亡くなった方が所有していた不動産について確認をします。
所有していた不動産について確認する方法は、被相続人宛てに届いていた市町村からの固定資産税納税通知書を確認するのが効率的です。
市町村からの固定資産税納税通知書には、その市町村内に被相続人が所有していた不動産が一覧で載っています。
複数の市町村から納税通知書が届いている場合には、そのすべてを確認します。
不動産を共有している場合には、共有者のもとに納税通知書が届いていることがあるので注意が必要です。
納税通知書から所有している不動産を確認したら、それぞれについて相続税評価額を確認しますが、土地の場合には路線価方式や倍率方式により相続税評価額を算定し、家屋など建物は固定資産税評価額により相続税評価額を算定します。
④みなし相続財産を確認する
みなし相続財産とは、本来相続の対象となる財産でないもので、相続税の対象とみなされるものをいいます。
例えば、受取人が相続人となっている、生命保険金については、本来は相続の対象ではありませんが、死亡を原因として相続人に現金などが引き継がれることから、相続税の対象とされています。
生命保険金の他には死亡退職金や信託の受益権もみなし相続財産とされます。
⑤その他の財産を確認する
預貯金や不動産以外にも財産的価値のあるものについては、相続財産として相続税の課税対象となります。
例えば車、書画骨董、貴金属、宝飾品なども相続税の対象となるので、注意してください。
これらも時価を相続税評価額として算定します。
⑥生前贈与による贈与財産、精算課税制度による贈与財産を集計する
被相続人が生前に相続人あてに贈与を行っていた場合、相続開始から一定期間内(相続開始時期に応じて相続開始前3年〜7年)の贈与については相続税の対象となりますので、生前贈与についても考慮しなければいけません。
これを、生前贈与加算といい、すでに贈与した財産を相続財産に加算することから持ち戻しと言われます。
相続時精算課税制度を利用した贈与については一定期間の縛りがなく、相続時に生産課税制度を選択した年以降の贈与については、全てこの持ち戻しの対象となります。
⑦債務・葬式費用を確認する
債務、葬式費用については、相続財産から控除することができるため、これらの金額についても集計する必要があります。
- アパートローンなど金融機関からの借入金
- 事業の買掛金
- 未払いの公租公課(所得税・固定資産税)
- 未払いの医療費
- 未払いの公共料金
- その他の未払債務
- お通夜、告別式の費用
- 葬儀の通夜振る舞いなどの料理代
- 火葬料、埋葬料、納骨料
- 遺体の搬送費用
- 葬儀場までの交通費
- お布施、読経料、戒名料
- その他通常葬儀に伴う費用
相続税申告の期限は10ヶ月以内
相続税の申告には期限があります。
亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に、税務署に申告書を提出する必要があります。
例えば、お父様が1月1日に亡くなった場合、相続税の申告期限は、その年の11月1日になります。
ただし、11月1日が土日祝日の場合は、その次の平日が期限になります。
期限内に申告できない場合は、災害など一定のやむを得ない理由が認められた場合に限り、申告期限の延長が認められる場合がありますが、やむを得ない理由が認められることは極めて限定的な場合に限られます。
また、期限内に申告しないと適用されない相続税の特例などもありますので、申告期限内に申告書を提出しないと相続税の負担が増えることもあります。
加えて期限内に申告しないと、延滞税や加算税などのペナルティが課される場合があるので、注意が必要です。
相続税申告の手続き
相続税の申告期限である10ヶ月は思いのほか早く過ぎます。
相続開始直後は葬儀や諸々の手続きで忙しいと思われます。
四十九日が終わり、落ち着いた頃には、約2ヶ月過ぎています。
それから戸籍の収集などで1ヶ月以上かかることがあるため、猶予はあまりありません。
気付いた頃には期限直前になっており、慌てることが無いようスケジュールしなければいけません。
相続税申告の流れ
相続税の申告期限は10ヶ月です。
ここでは、相続開始からの主な手続きの流れを図でお示しします。
相続税申告に必要な書類
相続税申告で一般的に必要な書類は相続税の申告書と添付書類であり、詳細は以下のとおりです。
相続税申告書の様式は国税庁のホームページよりダウンロードが可能です。
相続税の申告書には第1表から第15表まであります。
すべて必要なわけではなく、ご自身の相続税申告に必要な帳票を選択して、相続税申告書を作成します。
参考:相続税の申告書等の様式一覧(令和5年分用)|国税庁ホームページ
相続税の申告では、申告内容の確認のために様々な添付書類が必要となります。
下表はこの添付書類をまとめたものです。
必要書類は多岐にわたり、過不足なく収集するのはとても面倒です。
難しいと感じたら、専門家にご依頼されることをお勧めいたします。
必要書類の区分 | 必要書類の名称 |
---|---|
戸籍関連 | 被相続人の戸籍謄本・改正原戸籍 (出生から死亡まで) |
被相続人の住民票の除票 | |
相続人全員の戸籍謄本 | |
相続人全員の住民票 | |
相続人の本人確認書類 | 相続人全員のマイナンバーカード(裏面)・通知カード |
相続人全員の身元確認書類 (マイナンバーカード(表面)、運転免許証、パスポート、在留カードなど) |
|
遺産分割関連 | 遺言書 |
遺言書の検認証明書(自筆証書遺言などの場合) | |
遺産分割協議書 | |
相続人の印鑑証明書 | |
特別代理人選任の審判の証明書(相続人に未成年者がいる場合) | |
相続放棄受理証明書 | |
相続時精算課税制度 | 被相続人の戸籍の附票 |
遺産未分割での申告 | 相続税の申告期限後3年以内の分割見込書 |
小規模宅地等の特例 | 相続人の戸籍の附票 |
賃貸借契約書又は登記事項証明書 (相続人が持ち家を保有していないことがわかる書類) |
|
老人ホーム等の入居時の契約書 | |
賃貸借契約書 | |
被相続人の過去3年分の確定申告書等 | |
不動産評価関連 | 登記簿謄本 (全部事項証明書) |
公図・地積測量図 | |
固定資産税評価証明書 | |
名寄帳 | |
住宅地図(不動産の場所がわかる資料) |
相続税申告に必要な費用
相続税申告に必要な費用は、大きく分けると戸籍などの取得に必要な実費と税理士に依頼した際の報酬が挙げられます。
実費
戸籍などの取得のための費用は市区町村によっても異なるため、目安の金額としてお考えください。
また、市区町村によってはマイナンバーカードがあれば、一部の書類はコンビニエンスストアのマルチコピー機から発行することが出来ます。
実費の内容 | 目安 |
---|---|
各市区町村役場への交通費、郵送費 | 必要な市区町村の数、遠近により増減 |
戸籍謄本 | 1通 450円 × 市町村数 |
改製原戸籍謄本 | 1通 750円 × 市町村数 |
除籍謄本 | 1通 750円 |
戸籍の附票の写し | 1通 300円 |
住民票の除票 | 1通 300円 |
相続人の住民票 | 1通 300円 × 相続人の人数分 |
相続人の印鑑証明書 | 1通 300円 × 相続人の人数分 |
固定資産税評価証明書 | 1通 400円 × 市町村数 |
固定資産税名寄帳 | 1通 300円 × 市町村数 |
税理士の費用
相続税申告で最も費用がかかるのが税理士報酬です。
税理士に相続税の申告を依頼する場合の費用は、一般的に遺産総額(債務控除、小規模宅地等の特例を適用する前の金額)の0.8%〜1.5%が相場と言われています。
例えば、遺産総額が1億円の場合、80万円〜150万円程度が目安となります。
ただし、この目安はあくまで相場であり、土地の筆や区画が多数ある場合や、相続税評価額を下げるために特別な評価を要する場合など、追加の費用が必要になる場合もありますのでご注意ください。
相続税申告を自分でするのは難しい
相続税の申告を税理士に依頼せず自分で行うのは、以下のような理由から難しい場合があります。
専門知識が必要である
相続税の計算には、専門的な法律や税制の理解が必要です。
財産の評価も、不動産や株式など種類によって方法が異なり、専門的な知識が必要です。
自分で申告する場合、これらの知識を自分で習得する必要があります。
特に難しいと感じる点
- 不動産の評価:自宅や土地など、不動産の評価は特に難しく、専門的な知識が必要です。
- 非上場株式の評価:非上場株式の評価も複雑で、専門家による評価が必要になる場合があります。
- 特例や控除の適用:様々な特例や控除がありますが、適用要件や計算方法が複雑で、理解するのが難しい場合があります
手続きが複雑
申告書の作成だけでなく、戸籍謄本や財産評価に関する資料など、多くの書類を収集・準備する必要があります。
手続きの順番や提出期限など、複雑なルールを理解する必要があります。
税務調査のリスク
申告内容に誤りがあると、税務調査が入る可能性があります。
税務調査が入ると、修正申告や追徴課税を求められる場合があります。
税理士に依頼して相続税申告を行う場合、税理士の署名をした状態で申告書を提出しますが、一般の方がご自身で申告する場合、税理士の署名がなく、税務署側は税理士が作成した申告書ではないことを認識します。
そのため、一般の方が提出した申告書にはどこか誤りがあるのではないかと税理士の署名のない申告書は税務調査の対象になりやすいと考えられます。
節税の機会を逃す
税理士は、相続税の専門家として、様々な節税対策を知っています。
自分で申告する場合、最適な節税対策を見つけることが難しく、結果的に多くの税金を支払うことになりかねません。
逆に税額を過少に申告した場合も過少申告加算税や延滞税などのペナルティの対象となるリスクがあり、ご自身で申告する場合も正しい申告が求められます。
国税庁のe-Taxソフトでは相続税額の自動計算に対応していない
実は国税庁のe-Taxソフトでは相続税額の自動計算には対応していません。
所得税の確定申告の際に利用する確定申告書等作成コーナーのように、画面の案内に従って金額等を入力することにより税額等が自動計算されるものではなく、相続税のe-Taxソフトは利用者自身が計算した金額等を直接入力するものになっています。
そのため、e-Taxを利用しても、e-Taxを利用せず紙の申告書に記載して提出する場合でも、申告をする相続人自ら相続税の計算をする必要があり、相続税の専門的な知識を必要とします。
相続税を専門とする税理士ですら、民間のシステム会社の税務申告ソフトを利用しているため、一から相続税を手計算することは多くありません。
初めて相続税申告をする人が、正しく手計算で相続税を計算するのは至難の業ではないでしょうか。
相続税申告の11の注意点
相続税の申告における注意点は多岐にわたりますが、特に重要なものを以下に挙げます。
①申告期限を必ず守る
相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内が申告期限です。
遺産分割が未了の場合には、原則として配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用できません。
「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出することにより、これらの特例を申告期限後でも適用できることがありますが、この「申告期限後3年以内の分割見込書」を期限内に提出する必要があります。
このような制限があるため、相続税の申告書の提出期限は必ず守らなければいけません。
また、期限内に申告しないと延滞税や加算税が発生する可能性があります。
②財産評価が複雑である
財産評価は相続税額に大きく影響します。
特に不動産や非上場株式の評価は難しいため、専門家による評価が必要となる場合があります。
計算した評価額が本来の評価額より低いと税務調査で指摘される可能性があるため、適切な評価を行うことが重要です。
③財産の申告漏れに注意が必要
預貯金や生命保険金、不動産、株式など、すべての相続財産を漏れなく申告する必要があります。
一定の期間内の生前贈与や相続時精算課税による贈与財産、海外資産も申告対象となるため、注意が必要です。
申告漏れがあると、税務調査で指摘され、追徴課税やペナルティが課される可能性があります。
④名義財産に注意が必要
名義預金や名義株などの名義財産(名義は被相続人だが実質的に相続人が所有していた財産)は、相続財産に含まれます。
名義預金とは、口座の名義は子や孫であるけれど、口座内の現金は被相続人のものである場合の預金のことを言います。
子や孫が預かり知らぬところで被相続人が子や孫名義の預金口座を作成し、管理しながら、贈与したつもりで口座に現金を貯めているため、こういったことが起こります。
子や孫の将来のためにと貯めている現金ですが、被相続人の管理下を離れていないため、贈与を受ける子や孫が贈与を認識していないため、贈与は成立せず、名義預金として被相続人の財産となります。
税務調査で指摘を受けるのは、ほとんどがこの名義財産に関するものです。
名義財産の扱いを誤ると、税務調査で問題となる可能性があります。
⑤相続税の特例や控除の適用要件が複雑である
相続税には、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減など、様々な特例や控除があります。
適用要件を満たしていれば、これらの特例や控除を活用することで、相続税額を大幅に減らせる可能性があります。
しかし、安易に適用した結果、適用要件を満たしていなかった場合、修正申告等により余分な税額を負担することがあります。
⑥納税資金を準備しなければいけない
相続税の納税資金は、相続税の申告期限と同様に相続開始から10ヶ月以内に用意する必要があります。
相続税の申告期限にも注意しながら、納税資金の準備も考える必要があります。
納税資金が不足する場合は、延納や物納の制度を利用できる場合があります。
⑦相続税額を正しく計算しなければいけない
申告書に記載する相続税は正確に計算する必要があります。
申告書内の計算を誤ると、税務調査の対象になりやすいためです。
おおまかな相続税については、以下の相続税の自動計算機を用いてチェックすることもできます。
⑧相続税申告は税務調査のターゲットになりやすい
相続税申告は他の税目と比較しても、税務調査の実施率が高くなっています。
実際の調査実施率という統計はなく、税務署が公表している年度ごとの申告件数と同年度の実地での税務調査実施件数から調査実施率を求めたものが以下のとおりです。
実際には申告後、1年~2年経って税務調査が行われるため、同じ年度では比較できないのですが、毎年の申告件数、調査件数には大きな変動がないため、参考としてお考えください。
令和4事務年度 | 申告件数 | 税務調査 | 調査実施率 |
---|---|---|---|
法人税 | 約3,128千件 | 約62千件 | 約1.9% |
所得税 | 約2,295万件 | 約46千件 | 約0.2% |
相続税 | 約189千件 | 約8千件 | 約4.2% |
相続税はそもそもの申告件数が少ないため、調査件数も少ないですが、全体の申告に占める割合は高く、税務調査の対象になりやすいと言えます。
⑨相続人どうしの連帯納付義務
相続税の支払いについては、申告をした相続人どうしに連帯納付義務が発生します。
連帯納付義務とは、「各相続人がお互いに連帯して、相続税を納付しなければならない」という相続税法のルールです。
被相続人が母で、相続人が長男と次男である場合、もし長男が相続税を納付しなければ、長男が納めるべき相続税についても次男が納付しなければなりません。
相続税の連帯納付義務は、契約や同意は不要で、相続税額が生じている相続税の申告書を共同で提出した相続人間に自動的に生じます。
相続した財産の中に現預金が少ない相続人については、自身の財産の中から納税をしなければならず、自身の相続税を納付できないと他の相続人に迷惑をかけることになります。
⑩申告前に相続にくわしい弁護士に相談する
相続税の申告の際には、相続人が2人以上いる場合、遺産分割協議が必要になります。
遺産分割協議は法律知識のない相続人の間で進めることは難しく、相続に詳しい弁護士に相談することも重要です。
生前に多額の贈与を受けた相続人がいる場合の特別受益に伴う遺留分の問題や不動産など評価の難しい財産の適正な評価などは専門的な法律知識が必要になります。
また、相続放棄や遺留分侵害額請求には期限があり、あとから弁護士に相談しても期限後で手続きできないことがあります。
これらの問題を起こさないよう相続税の申告前から相続に強い弁護士に相談することは重要です。
⑪間違って多く税金を支払っても、請求しなければ還付されない
相続税は申告納税方式であるため、基本的には申告された財産額や相続税額が正しいものとされています。
そのため、税務署が相続税の申告書をチェックして相続税額が本来の税額より多かったとしても、税務署から積極的に税金が還付されることはありません。
しかし、税務署のチェックの結果、財産の評価や相続税額の計算などに誤りがあり、相続税額に不足があったとしたら、税務署は相続税申告をした方や相続税申告書を作成した税理士に連絡をして、不足分の税額を納付するために修正申告をするよう依頼をします。
相続税を払い過ぎたと気づいた場合、「更正の請求書」を作成して、税務署に提出することにより、税務署に還付してもらうよう依頼するかたちになります。
相続税申告についてのQ&A
相続税の申告は必ず必要ですか?
基礎控除額は、「3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)」で計算されます。
例えば、法定相続人が配偶者と子供2人の場合、基礎控除額は4,200万円となります。
この場合、被相続人の遺産の総額(債務がある場合には控除した金額)が4,200万円を超えなければ相続税の申告は不要です。
相続税がかからない場合でも、申告が必要なケースがあります。
例えば、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を受けるためには、相続税の申告が必要です。
また、被相続人から相続時精算課税贈与による贈与を受けた場合には、精算課税による贈与を含めた遺産の総額が基礎控除以下であっても相続税の申告が必要となります。
相続税を申告しないとバレますか?
主な理由としては以下の点が挙げられます。
市区町村からの情報提供
市区町村は、住民の死亡届を受理すると、税務署にその情報を通知する義務があります。
これにより、税務署は誰がいつ亡くなったのかを把握し、相続税の申告が必要かどうかを判断します。
金融機関からの情報提供
マイナンバー制度により、金融機関は預金口座や証券口座の情報などを税務署に提供することが義務付けられています。
これにより、税務署は亡くなった方の預金口座や証券口座を把握し、相続税の申告漏れがないかチェックすることができます。
不動産登記情報
不動産の相続が発生した場合、相続人は法務局で相続登記を行う必要があります。
令和6年4月1日から相続により取得した不動産の登記が義務化されているため、今後は不動産登記情報から相続が発生していることを補足しやすくなります。
税務署は、相続登記の情報から不動産の相続を把握することができます。
税務調査
税務署は、申告内容に不審な点がある場合や、無申告が疑われる場合に、税務調査を実施することがあります。
税務調査では、預金通帳や不動産の売買契約書など、様々な資料を提出するよう求められることがあります。
税務署のネットワーク
税務署は、国税総合管理(KSK)システムという全国規模のデータベースを保有しており、個人の所得や資産に関する情報を集約しています。
このシステムを活用することで、税務署は亡くなった方の生前の所得情報や財産状況を詳細に把握することができます。
これらの情報網により、税務署は相続税の無申告を高い確率で発見することができます。
無申告が発覚した場合、延滞税や加算税などのペナルティが課される可能性があるため、注意が必要です。
申告期限ギリギリになったらどうしたらよいでしょうか?
申告期限ギリギリになってしまった場合、期限後申告をすると無申告加算税などのペナルティの対象となるので、現時点で把握できている情報で申告書を作成し、税務署に提出したほうがよいです。
その後、追加の財産が発見されたり、評価額に誤りがあり申告した税額が多すぎた場合などには、修正申告や更正の請求をする必要があります。
「相続税についてのお尋ね」という書類が税務署から届いたのですが、申告義務があるということですか?
税務署から「相続税についてのお尋ね」という書類が届き、ご自身が相続税の申告が必要で、税務署はそのことを知っていると驚かれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
税務署からの書類ですから驚かれるのも無理はありません。
しかし、過度に心配する必要はありません。
この「相続税についてのお尋ね」は死亡届が市区町村に提出された際、市区町村が税務署に死亡した方の情報を提供しており、この情報を元に送られているものです。
そのため、相続税の申告が必要ない方についても送られています。
この「相続税についてのお尋ね」は大まかな財産額を集計して、相続税の申告義務があるのか報告させるための書類になっています。
こちらで申告義務ありとなった方は、申告期限までに相続税の申告書を提出すれば、お尋ねは返信しなくて良いのですが、申告義務なしとなった方は、ご自身が相続税の申告が不要であることを税務署に伝えるためもこのお尋ねを返信した方が良いかもしれません。
申告が必要な方についても、相続税の申告期限は10ヶ月以内であり、お尋ねが送られてきた時点で申告期限が近い場合もあります。
相続税の申告が必要であれば、急いで準備をしましょう。
相続税申告について税務署に相談することはできますか?
しかし、代わりに相続税の申告書を作成してくれるわけではないので、あくまで財産の評価方法や相続税の計算方法を尋ねるだけの相談になります。
個別具体的なケースや税務上の判断については、明確に回答がもらえない場合もあります。
このような場合には、相続専門の税理士に相談する方が良いかもしれません。
まとめ
相続税の申告に必要な手続きや流れについて解説しました。
ご自身で申告の準備を考えている場合も、一度税理士や弁護士にご相談頂いた方が良いかもしれません。
ご自身の申告が税務的にリスクが高いのか、低いのか判断してもらえます。
税務的にリスクが高いのであれば、申告後の税務調査なども見据えて、税理士に依頼したほうが良いです。
また、ご自身で申告される場合も、ご自身の仕事が忙しかったり、相続税の基礎知識の習得などいろいろな調べ物をする時間も考慮して申告期限に間に合うのかどうか、考えなければいけません。