医療過誤では、①刑事責任、②民事責任、③行政上の責任が問題となり得ます。
そして、これらの責任を負う可能性があるのは、(a)病院、(b)医師、(c)看護師などの医療スタッフ、(d)医療機器製造メーカーです。
民事責任では、債務不履行責任(民法415条)や不法行為責任(民法709条)・使用者責任(民法715条)を根拠に責任追及していきます。
この記事では、医療過誤で、誰が、どのような責任を負い、どのような損害を請求できるかについて、詳しく解説しておりますので、ぜひご覧ください。
医療過誤で責任を負うのは誰?
医療過誤とは、医療事故のうち、「病院側の過失」によって患者がケガをしたり、死亡したりすることをいいます。
医療過誤における「病院側の過失」には、例えば、診断・診療ミス、手術ミス、医師の説明不足、医療スタッフ間の連携ミスなどがあります。
医療過誤が起きてしまった場合、以下の者がその医療過誤について法的責任を負う可能性があります。
- 病院
- 医師
- 看護師
- 医療機器を製造したメーカー
- 病院
医療過誤が発生した病院は、ミスをした医師の使用者として、使用者責任(民法715条)または債務不履行責任(民法415条)を負う可能性があります。
医師
ミスをした医師は、不法行為・安全配慮義務違反を行なった当事者として、不法行為責任(民法709条)を負う可能性があります。
看護師
ミスをした看護師は、医師と同様、不法行為・安全配慮義務違反を行なった当事者として、不法行為責任(民法709条)を負う可能性があります。
医療機器を製造したメーカー
医師等が使用した医療機器に欠陥があった場合、医療機器を製造したメーカーは、患者の生命・身体を侵害した製造業者として、製造物責任(製造物責任法3条)を負う可能性があります。
なお、製造物責任については、以下の記事で詳しく解説しておりますので、製造物責任について確認されたい場合は以下の記事をご参照ください。
病院など医療機関の責任
医療機関が負う3つの責任とは?
医療機関が負う可能性のある3つの責任には、次のような責任が考えられます。
- 刑事責任
- 民事責任
- 行政上の責任
刑事責任
刑事責任とは、医療機関の故意または過失によって、患者がケガ、病気、障害、死亡等した場合に、医療機関が刑罰を負うことをいいます。
刑事責任は、国(警察等の捜査機関)が、医療機関に対して、責任を問うことになります。
具体的には、医療機関は、業務上過失致死傷罪(刑法211条)に問われる可能性があります。
第二百十一条 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。
重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。
引用元:刑法|電子政府の窓口
民事責任
民事責任とは、医療機関の過失によって、患者がケガや病気、障害・死亡等した場合に、医療機関が賠償金を支払う責任を負うことをいいます。
刑事責任との大きな違いは、刑事責任が医療機関に刑罰を求めるのに対し、民事責任は医療機関に金銭的な請求をする点になります。
民事責任は、被害にあった患者が、医療機関や医師等に対して、責任を問うことになります。
具体的には、医療機関は、不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)または債務不履行に基づく損害賠償責任(民法415条)を負う可能性があります。
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。
ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
2 省略
引用元:民法|電子政府の窓口
行政上の責任
行政上の責任とは、医療過誤によって、患者がケガや病気、障害・死亡等した場合に、医療機関側(通常、医師個人が行政上の責任を負うことが多いです。)に対して、行政処分(戒告、3年以内の医業の停止、免許の取消し)がなされることを言います。
行政上の責任は、国の機関が、医療機関や医師等に対して、責任を問うことになります。
具体的には、医師は、戒告(医師法7条1項1号)、3年以内の医業停止(同項2号)、医師免許の取消し(同項3号)の処分を受ける可能性があります。
第四条 次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。
一〜三 省略
四 前号に該当する者を除くほか、医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者
第七条 医師が第四条各号のいずれかに該当し、又は医師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。
一 戒告
二 三年以内の医業の停止
三 免許の取消し
2 省略
引用元:医師法|電子政府の窓口
患者が直接請求できるのは民事上の損害賠償請求
前述のように、刑事責任や行政上の責任を追及することができるのは、国の機関となります。
そのため、被害にあった患者が、医療機関側に対して、直接請求できるのは民事上の損害賠償請求だけとなります。
責任の種類 | 責任を問う主体 | 責任を負う対象 |
---|---|---|
刑事責任 | 国(警察等の捜査機関) | 医療機関や医師、看護師 |
民事責任 | 被害にあった患者 | 医療機関や医師、看護師 |
行政上の責任 | 国の機関 | 医療機関や医師、看護師 |
以下では、患者が、医療機関側に対して請求できる民事上の損害賠償請求について、詳しく解説していきます。
債務不履行に基づく損害賠償請求とは?
債務不履行に基づく損害賠償請求とは、病院などの医療機関が、病院と患者との間で締結した契約の義務に違反して、これによって患者に損害が発生した場合に請求できる賠償請求のことをいいます。
患者は、通常、病院との間で診療契約(医療契約)を締結しています。
そのため、患者が、医療機関に対して、債務不履行に基づく損害賠償請求をするためには、この診療契約(医療契約)違反を主張していく必要があります。
具体的に、患者が、医療機関に対して、債務不履行に基づく損害賠償請求をするためには、次の条件をすべて満たさなければなりません。
- ① 医療機関に診療契約(医療契約)違反があること
- ② 患者に損害が発生していること
- ③ ①と②の間に因果関係があること
医療機関の診療契約(医療契約)違反とは、通常、医療機関の注意義務(善管注意義務)違反を主張・立証する必要があります。
医療機関の注意義務(善管注意義務)とは、例えば、薬剤の種類を十分確認して投与すべき義務などがあります。
なお、医療機関の注意義務(善管注意義務)の基準については、「診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準」とされています(最判昭和57年3月30日)。
そのため、医師が、医療スタッフの間で行われていた慣行に従って医療行為をしたからといって、臨床医学の実践における医療水準に従った注意義務を尽くしていたとは限りません(最判平成8年1月23日)。
患者の損害とは、具体的には次のようなものが考えられます。
- 治療費
- 慰謝料
※慰謝料には、(a)傷害慰謝料、(b)後遺障害慰謝料、(c)死亡慰謝料の3種類があります。
- 休業損害
- 通院交通費
- 入院雑費
- 付添看護費
- 逸失利益
※逸失利益には、(a)後遺障害逸失利益、(b)死亡逸失利益の2種類があります。
- 葬儀費用
など
※具体的に請求可能な損害項目は事案によって異なります。
診療契約(医療契約)違反(①)と患者の損害(②)との間に因果関係が認められる必要があります。
因果関係とは、診療契約(医療契約)違反(①)によって、患者の損害(②)が発生することが社会通念上相当といえることをいいます。
そのため、診療契約(医療契約)違反(①)による患者の損害(②)の発生が、社会通念上相当と認められる場合には、因果関係が認められるでしょう。
不法行為に基づく損害賠償請求とは?
不法行為に基づく損害賠償請求とは、「不法行為」によって、患者の生命や身体を侵害した場合に、これによって生じた患者の損害を補償してもらうために賠償請求することをいいます。
通常、診療ミスや手術ミスなどの「不法行為」を直接行ってしまうのは医師や看護師になります。
そのため、不法行為に基づく損害賠償責任を直接負うのは医師や看護師等の医療スタッフであり、病院などの医療機関は以下で述べる使用者責任を負うことになります。
使用者責任とは?
使用者責任とは、医師や看護師などの医療スタッフを使用する者として、病院などの医療機関が負う責任のことをいいます(使用者責任。民法715条)。
2、3 省略
引用元:民法|電子政府の窓口
患者が、医療機関に対して、使用者責任に基づく損害賠償請求をするためには、以下の条件をすべて満たす必要があります。
- ① 医師・看護師等の医療スタッフに故意または過失があること
- ② 患者に損害が発生していること
- ③ ①と②の間に因果関係があること
故意とは、損害が発生すると分かっていたのにわざと損害を発生させることをいいます。
過失とは、損害の発生を予見できたにもかかわらず、注意を怠ったことで損害を発生させてしまったことをいいます。
言い換えれば、過失とは、「診療結果や診察結果から、〇〇ということを予見できたにもかかわらず、〇〇という措置を怠ったこと」をいいます。
※医療過誤の多くの事案では、医師等の過失が争われることが多いです。
患者としては、医師・看護師等の医療スタッフに故意または過失があったことを、カルテや医療記録等から立証する必要があります。
患者の損害には、前述の「債務不履行に基づく損害賠償請求とは?」で解説したように、治療費、慰謝料((a)傷害慰謝料、(b)後遺障害慰謝料、(c)死亡慰謝料)、休業損害、後遺障害逸失利益・死亡逸失利益などがあります。
医師・看護師等の故意または過失(①)と患者の損害(②)との間に因果関係が認められる必要があります。
医療過誤を行った医師個人の責任とは?
医療過誤を行った医師は、次のような責任を負う可能性があります。
責任の種類 | 責任の内容 |
---|---|
刑事責任 | 業務上過失致死傷罪(刑法211条) |
民事責任 | 不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条) |
行政上の責任 |
|
刑事責任
医療過誤を行った医師は、業務上過失致死傷罪(刑法211条)として処罰を受ける可能性があります。
業務上過失致死傷罪とは、医師が、業務上の過失によって、患者にケガをさせたり、死亡させたりした場合に問題となる罪です。
医療過誤を行った医師が業務上過失致死傷罪として処罰された場合、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金となります(なお、別途執行猶予が付く可能性があります。)。
民事責任
医療過誤を行った医師は、不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)を負う可能性があります。
そのため、医療過誤によってケガや死亡等した患者は、医師に対して、不法行為に基づく損害賠償請求をすることができます。
患者が、医師に対して、不法行為に基づく損害賠償請求をするためには、以下の全ての条件を満たす必要があります。
- ① 医師に故意または過失があること
- ② 患者に損害が発生していること
- ③ ①と②の間に因果関係があること
患者は、医師に故意または過失があったことを、カルテや医療記録等から立証する必要があります。
医療過誤のケースでは、医師の過失の立証が困難な場合が多いため、専門家である弁護士にご相談されることをおすすめいたします。
患者の損害としては、以下のようなものが挙げられます。
- 治療費
- (a)傷害慰謝料、(b)後遺障害慰謝料、(c)死亡慰謝料などの慰謝料
- 休業損害
- 通院交通費
- 入院雑費
- 付添看護費
- (a)後遺障害逸失利益または(b)死亡逸失利益
- 葬儀費用
など
※具体的に請求可能な損害項目は事案によって異なります。
医師の故意または過失ある医療過誤によって、患者に損害が発生したことを立証する必要があります。
行政上の責任
医療過誤を行った医師は、以下の処分のうち、いずれかの処分を受ける可能性があります。
- 戒告(医師法7条1項1号)
- 3年以内の医業停止(同項2号)
- 医師免許の取消し(同項3号)
医師に対してどの処分を行うかは、厚生労働大臣が事案に応じて判断して処分を行います。
医療過誤を行った看護師など医療スタッフの責任とは?
医療過誤を行った看護師などの医療スタッフについても、医師と同様、以下の責任を負う可能性があるでしょう。
責任の種類 | 責任の内容 |
---|---|
刑事責任 | 業務上過失致死傷罪(刑法211条) |
民事責任 | 不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条) |
行政上の責任 |
|
刑事責任
看護師などの医療スタッフが医療過誤を行った場合、医師と同様、業務上過失致死傷罪(刑法211条)として、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金を受ける可能性があります。(なお、別途執行猶予が付く可能性があります。)。
民事責任
看護師などの医療スタッフが医療過誤を行った場合についても、その医療スタッフは、不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)を負う可能性があるため、患者は、その医療スタッフに対して、不法行為に基づく損害賠償請求をすることができます。
損害賠償請求をするための条件や請求できる項目等については、医師の場合と同様なため、前述した「医療過誤を行った医師個人の責任とは?・民事責任」をご参考ください。
行政上の責任
看護師などの医療スタッフも、戒告(保健師助産師看護師法14条1項1号)、3年以内の業務停止(同項2号)、免許の取消し(同項3号)のいずれかの処分を受ける可能性はあります。
これらの処分は、医師の行政上の責任と同様、厚生労働大臣の裁量によって判断されます。
第九条 次の各号のいずれかに該当する者には、前二条の規定による免許(以下「免許」という。)を与えないことがある。
一 罰金以上の刑に処せられた者
二 前号に該当する者を除くほか、保健師、助産師、看護師又は准看護師の業務に関し犯罪又は不正の行為があつた者
三、四 省略
第十四条 保健師、助産師若しくは看護師が第九条各号のいずれかに該当するに至つたとき、又は保健師、助産師若しくは看護師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。
一 戒告
二 三年以内の業務の停止
三 免許の取消し
医療過誤の責任追及のポイント
主治医に説明を求める
医療過誤が起こってしまった場合、患者やそのご家族からすれば、「なぜこのような事故が起こってしまったのか説明をしてほしい」と思われると思います。
主治医や治療に関わった医師に「なぜ今回の事故が起こってしまったのか」「本来であればどのように対処すべきだったのか」などの説明を求めることは、法的に賠償金を請求していくうえでも重要なことです。
可能であれば、医師に説明を求めた際に、録音して証拠として保存しておくとより良いでしょう。
医師や病院等に責任追及をしていくためには、以下で述べる客観的証拠だけでなく、医師の主観(認識)も重要になってくるため、医師に説明を求めることも大切です。
カルテなどの開示を求める
医療過誤の責任を病院や医師等に追及するためには、「病院側の過失」によって、患者がケガをしたり、死亡したりしたことを立証する必要があります。
そして、その立証するための証拠は、ほとんどの場合、病院側が保管・把握していることが多いです。
そのため、責任の所在を明らかにし、適切な賠償金を請求していくためにも、病院側が保管しているカルテや医療記録などの開示を求めていくことが大切になってきます。
医療過誤にくわしい弁護士に相談する
医療過誤の事案では、①誰に、②どのような請求ができ、③適切な金額がどのくらいかなどについて、専門家でなければ把握が困難な場合が多いです。
そのため、ご自身やご家族が医療過誤の被害にあわれた場合には、専門家である弁護士に相談されることをおすすめいたします。
詳しくは以下の記事でも解説しておりますので、ご覧ください。
まとめ
以上、医療過誤で問題になり得る法的責任について解説いたしましたが、いかがだったでしょうか。
医療過誤が起こった場合、大きく分けると①民事責任、②刑事責任、③行政上の責任の3つの責任が問題となり得ます。
また、これらの責任を負う可能性があるのは、病院、医師、看護師または医療機器製造メーカーとなります。
具体的にどのような法的根拠に基づいて責任追及をできるかは、誰に対して請求できるかによって異なりますが、通常、民事責任として損害賠償請求をしていくことになるでしょう。
民事上の損害賠償請求では、医師の説明やカルテなどの客観的証拠をもとに、適切な慰謝料や逸失利益などを主張していくことが大切です。
「具体的にどのような準備をしたらいいか」、「今後どのよう手続きの流れになるか」などについて少しでも疑問がある場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。
当法律事務所には、医療過誤などの人身障害の分野に精通した人身障害部があり、人身障害に関する事案を多数扱っております。
当法律事務所では、初回無料で、様々な相談方法(弁護士のお顔を見ながらのオンライン相談や電話相談など)を用いてご相談をお受けしているため、お気軽にご相談ください。