医療ミスとは?訴訟の流れや賠償金について弁護士が解説

医療ミスとは、病院などの医療機関において、医師や看護師等の不注意によって患者の症状を悪化させることをいいます。

医師や看護師も人である以上、重大なミスをしてしまうことがあります。

医療ミスで被害を受けた患者の方は、病院などを相手にして損害賠償請求ができる可能性があります。

このページでは、医療ミスで被害を受けた患者の方向けに、医療ミスに関する基本的知識、訴訟の流れなどを弁護士が解説しています。

医療ミスでお困りの方は、本記事をぜひ最後までお読みください。

医療ミスとは?

医療ミスとは、病院などの医療機関において、医師や看護師等の不注意によって患者の症状を悪化させることをいいます。

患者の症状の悪化とは、死亡したり、後遺障害が残ったり、治療期間が必要以上にのびてしまったりすることを指します。

医療ミスと似た言葉として、医療過誤(いりょうかご)というものがありますが、医療ミスと医療過誤は、基本的には同じ意味になります。

 

医療事故と医療ミスの違い

医療事故とは、医療機関内で患者、医師、看護師等の医療従事者が負傷したり病気の発症・悪化してしまうことをいいます。

こうした医療事故のうち、病院側(医師、看護師等)の落ち度によって患者の症状を悪化させたり、ケガをさせたりすることが医療ミスです。

つまり、医療ミスは、医療事故の中に包含される概念ということになります。

 

 

医療ミスの具体例|どこまでが医療ミス?該当しない例も

医療ミスの具体例としては、以下のようなものが挙げられます。

医療ミスの具体例
  • 病院側が寝具を適切なものを使用しなかったり、適切な監視をしなかったために、健康上問題のなかった乳児がうつぶせ寝をして窒息死して死亡したケース
  • レントゲン等の画像上、ガンの診断が容易であったにもかかわらず、担当医がガンの見落としてをして、患者が早期に死亡してしまったケース
  • 手術の不手際で重要な器官を傷つけてしまい、後遺障害が残ってしまったケース
  • 看護師が正しい使用方法で医薬品を使用せず、重大な副作用を生じさせてしまったケース
  • アレルギー体質であるとの患者からの申告がありながら、薬剤投与後に十分な経過観察をせず、その結果としてアナフィラキシーショック症状を引き起こしてしまったケース

 

裁判例

医療ミスの裁判例としては、以下のような事例があります。

投薬ミスの事例(最高裁平成14年11月8日集民第208号465頁)

精神科治療において投与された向精神薬の副作用によって失明した事案において、以下のように判示して医師の過失を認めました。

「本件においては、3月20日に薬剤の副作用と疑われる発しん等の過敏症状が生じていることを認めたのであるから、テグレトールによる薬しんのみならず本件薬剤による副作用も疑い、その投薬の中止を検討すべき義務があった。すなわち、過敏症状の発生から直ちに本件症候群の発症や失明の結果まで予見することが可能であったということはできないとしても、当時の医学的知見において、過敏症状が本件添付文書の(2)に記載された本件症候群へ移行することが予想し得たものとすれば、本件医師らは、過敏症状の発生を認めたのであるから、十分な経過観察を行い、過敏症状又は皮膚症状の軽快が認められないときは、本件薬剤の投与を中止して経過を観察するなど、本件症候群の発生を予見、回避すべき義務を負っていたものといわなければならない。」

引用元:最高裁判所ホームページ

 

医療事故ではあるが医療ミスには該当しない例

医療ミス以外の医療事故の例としては、以下のようなものが考えられます。

  • 病院内で専ら患者の不注意で転倒しケガをした場合
  • 手術中に医師が誤って自分の手を切ってしまった場合
  • 医師や看護師が適切な処置をしたが患者に合併症が発症した場合

 

 

医療ミスにあったらどうすればいい?

自分や家族が医療ミスではないかと思われたら、その原因や理由を病院に確認するべきでしょう。

また、医療ミスによって症状が悪化しているのであれば、適切な治療を受けるべきです。

その場合、事案によっては転院しての治療も考えるべきでしょう。

医療ミスである疑いが強い場合には、弁護士に相談して病院に責任追及をすることも検討すべきです。

医療ミスにあった場合の対応について、詳しくは、以下のページをご覧ください。

 

 

医療ミスで生じる責任とは?

医療ミスで生じる責任には、大きく分けて3つあります。

 

①民事責任

医師等や病院側が損害賠償義務(金銭の支払い義務)が生じるのが民事責任です。

そして、この民事責任は、医療ミスを受けた患者や遺族に対して負うものです。

つまり、民事責任が認められる場合には、医師等や病院側が患者や遺族に対して一定の金銭を支払わなければならなくなります。

 

②刑事責任

医師や看護師について、患者を負傷させた場合は業務上過失傷害罪(刑法211条)、患者を死亡させた場合は業務上過失致死罪(刑法211条)が成立する可能性があります。

参考:刑法|e−Gov法令検索

 

③行政責任

医療ミスをして刑事責任を負った医師は、次のような行政責任を負う可能性があります。

  1. ① 戒告
  2. ② 3年以内の医業の停止
  3. ③ 免許の取消し
医師法第7条1項

第七条 医師が第四条各号のいずれかに該当し、又は医師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。
一 戒告
二 三年以内の医業の停止
三 免許の取消し

医師法第4条
第四条 次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。
一 心身の障害により医師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
二 麻薬、大麻又はあへんの中毒者
三 罰金以上の刑に処せられた者
四 前号に該当する者を除くほか、医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者

引用元:医師法|e−Gov法令検索

 

 

医療ミスの損害賠償請求のための要件

医療ミスの損害賠償請求をするにあたっては、以下の2つの考え方があります。

 

債務不履行に基づく損害賠償請求

病院と患者との間には、診療契約が成立しています。

この診療契約により、医師は、その当時の医療水準に照らして適切な医療行為をする義務(債務)を負っています。

医療ミスがあった場合には、この義務に違反しているとして、債務不履行に基づく損害賠償請求ができるのです。

債務不履行に基づく損害賠償請求をするには、以下の4つの要件を満たす必要があります。

  1. ① 診療契約の成立
  2. ② 医療ミスがあったこと
  3. ③ 損害が発生したこと
  4. ④ ②と③に因果関係があること

 

不法行為に基づく損害賠償請求

医師や看護師が故意・過失によって、患者の症状を悪化させたり、病気を発症させたような場合には、不法行為が成立し、損害賠償請求することができます。

不法行為に基づく損害賠償請求をするには、以下の要件を満たす必要があります。

  1. ① 故意過失による医療ミスがあったこと
  2. ② 患者の権利を侵害していること
  3. ③ 損害が発生していること
  4. ④ ①と③の因果関係が認められること

 

 

医療ミスの損害賠償項目

医療ミスの代表的な損害賠償の項目をご紹介いたします。

 

通院交通費

医療ミスによって、更なる通院が必要になった場合に、その通院に必要な交通費を損害として請求できます。

公共交通機関で通院する場合は、その実費相当額を請求できます。

車通院の場合は、1㎞あたり15円で計算することが一般的です。

タクシー通院は、症状によりタクシー利用が相当であると判断される場合に限り、タクシー代を請求できます。

 

入通院慰謝料

入通院慰謝料とは、医療ミスによって通院や入院をしなければならなくなった場合に発生する精神的苦痛に対する賠償のことです。

入通院慰謝料は、入院期間や通院期間をもとに、以下の表(交通事故の裁判基準)を参考に算出することが多いです。

 

重傷の場合

重傷の場合の慰謝料早見表

例えば、医療ミスによって入院1ヶ月、通院4ヶ月が必要になった場合、表が交わるところを見ると130万円となっていますので、このケースの入通院慰謝料は130万円になります。

なお、画像所見がないような軽傷の場合は、以下の表を用います。

 

軽傷の場合

軽傷の場合の慰謝料早見表

 

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料とは、医療ミスによって後遺障害が残ってしまった場合に発生する精神的苦痛に対する賠償のことです。

後遺障害慰謝料は、どのような後遺障害が残ったかによって交通事故の1〜14級を参考に、以下のような相場になります。

 

後遺障害慰謝料の相場
後遺障害等級 慰謝料
1級 2800万円
2級 2370万円
3級 1990万円
4級 1670万円
5級 1400万円
6級 1180万円
7級 1000万円
8級 830万円
9級 690万円
10級 550万円
11級 420万円
12級 290万円
13級 180万円
14級 110万円

 

死亡慰謝料

死亡慰謝料とは、医療ミスによって死亡した場合に発生する精神的苦痛に対する賠償のことです。

死亡慰謝料には、被害者本人の慰謝料と被害者遺族固有の慰謝料がありますが、以下の相場はその2つの合計額の相場になります。

 

死亡慰謝料の相場
被害者の立場 死亡慰謝料の相場
一家の支柱 2800万円
母親・配偶者 2500万円
その他(独身の男女・子ども・幼児) 2000万円〜2500万円

 

休業損害

医療ミスによって仕事を休み、減収した場合の損害のことを休業損害といいます。

休業損害の計算方法の例としては、以下のようになります。

計算方法 会社員の場合

医療事故が起こる前の3ヶ月間の給料 ÷ その3ヶ月の稼働日数 × 休業日数

なお、医療ミスの治療のために有給休暇を使用した場合も、損害に含めて考えるべきです。

 

計算方法 自営業の場合

1日あたりの基礎収入 × 休業日数1日あたりの基礎収入は、さらに以下のように算出するのが一般的です。1日あたりの基礎収入 =(事故前年の確定申告所得額+一定の固定経費)÷ 365日

 

計算方法 主婦の場合

主婦の場合も家事労働分の休業損害の請求余地があります。主要な計算式は以下のようになります。賃金センサス女性労働者全年齢平均賃金額(年収)÷ 365日 × 休業日数

※ただし、家事がどれくらいできるかで、上記の計算式から一定程度の減額はあり得ます。

休業損害全般について、詳しくは以下のページをご参照ください。

 

逸失利益

逸失利益とは、医療ミスによって後遺障害が残ったり、死亡した場合に将来の収入が得られなかった分の補償のことをいいます。

逸失利益の計算方法は、それぞれ以下のとおりです、

計算方法

後遺障害の逸失利益
基礎収入 × 労働能力喪失率 × 喪失期間に対応するライプニッツ係数
死亡の逸失利益
基礎収入 × (1 – 生活費控除率) × 就労可能年数に対応するライプニッツ係数

医療ミスの賠償金の相場について、詳しくは以下をご覧ください。

 

 

医療ミス訴訟の流れ

医療ミス訴訟の場合も、一般の訴訟と基本的には同様の流れです。

医療ミス訴訟の流れ

 

交渉

医療ミスが起こり、原因の調査などが終わった後は、多くの場合は訴訟を提起する前に医療機関側と交渉をします。

交渉がうまくいけばそこで何らかの合意をして終了することになりますが、交渉が決裂した場合は訴訟移行を検討していくことになります。

 

訴状等を作成し裁判所へ提出

訴訟を提起することになったら、訴状を作成し提出します。

訴状とは、当事者や請求の内容、請求に必要な事実(主要事実や間接事実といいます)などを記載する書面になります。

訴状の他には、証拠や証拠説明書などを提出します。

訴状等は、管轄の裁判所に持参する方法や、郵送する方法で提出します。

 

弁論期日

訴状提出後は、被告(医療機関側)から答弁書が裁判所に提出されます。

その後に、第1回、第2回・・・と弁論期日が開かれます。

それぞれの弁論期日では、原告や被告から準備書面が提出されたり、証拠が取り調べられたりします。

なお、実務上、尋問前に裁判所から和解の提案がなされることが多いです。

 

尋問

書証が一通り取り調べられた後は、尋問をしていくことになります。

尋問の対象としては、当事者やその関係者、具体的には被害者本人とそのご家族、担当医、協力医などが考えられます。

尋問は、主尋問(証人を申請した側が行う尋問)→反対尋問(相手方の尋問)→補充質問(裁判官の行う尋問)の流れで行われていきます。

 

最終の弁論期日

最終の弁論期日では、それまでの主張・立証をまとめた最終準備書面を提出することになります。

なお、尋問が終わった後や弁論の終結後に裁判所から和解の提案がある場合があります。

 

判決・控訴・上告・終結

全ての期日が終了したら、裁判官から判決の言い渡しがされます。

判決に不服がある当事者は、控訴することができます。

控訴審で納得のいかない当事者は、一定の要件の下、上告をして最高裁判所で判断してもらうことも可能です。

判決が出て期限までに控訴や上告がなされなかった場合は、判決が確定して終結となります。

 

医療ミス訴訟にかかる弁護士費用とは?

医療ミス訴訟における弁護士費用の相場は、数十万円〜数千万円程度になります。

弁護士費用の他に、事案に応じてカルテの取得費用や医師の意見書作成代などの実費もかかることがあります。

 

 

医療ミスの責任追及をする際の重要ポイント

医療ミス問題のポイント

 

時系列を整理する

治療行為やその行為によってどういった症状が生じたか等、時系列を整理することは重要です。

特に、複雑に医療行為が絡む事案では、いつ、どこで、誰のどのような行為の責任を問えるかを検討する上で、時系列がまとまっていなければ話になりません。

時系列は、カルテなどの医療記録を入手して、その記録を元に作成するのが良いでしょう。

 

調査をしっかり行う

医療ミスの責任追及は、立証上のハードルがあり、簡単ではありません。

そのため、医療機関側に責任追及できるかどうかについて、事前にしっかりとして調査をする必要があります。

ここでいう調査とは、以下のようなものが挙げられます。

(医療ミスの調査の具体例)
  • カルテの内容の精査
  • 医学文献の内容の検討
  • 類似事案の裁判例の調査
  • 協力医の意見聴取

このような調査を通じて、法的に責任追及ができるかどうかの見通しを立て、次の取るべき行動を考えていくことになります。

 

和解案については判決の見通しを踏まえて慎重に検討する

交渉段階や訴訟移行後に、医療機関側や裁判所から和解案が提示されることがあります。

その提示された和解案を受け入れるかどうかについては、「判決までいった場合の見通し」と比較して決断することになります。

例えば、判決の見通しが現時点で提示がある和解案の内容よりも劣ることが予想される場合は、和解案を受諾することに合理性がありますし、その逆であれば和解案を受け入れず判決まで粘るという方向性が考えられます。

ただし、判決の見通しを立てるためには、法的知識と証拠状況の正確な把握が必要となりますので、専門家の弁護士に検討してもらうのが一番でしょう。

 

謝罪や再発防止を求める場合は交渉で打診する

医療ミスの被害者が、医療機関側に対して、謝罪や再発防止を求めたいという感情はごく自然なものだと思われます。

医療機関側が医療ミスを認めているケースでは、交渉段階で謝罪や再発防止をするよう打診し、それを実現させることもあります。

具体的には、示談書(合意書)の中に謝罪条項や再発防止条項を記載することなどが考えられます。

 

医療ミスに強い弁護士に相談する

医療ミスで交渉や訴訟をする場合、専門的知識が必要となり、専門家の力を借りずに納得にいく結果となることは非常に困難であると思います。

医療ミスが起きた場合は、迷わず、医療ミス事案に強い弁護士に相談をしてアドバイスをもらいましょう。

弁護士に相談すれば、事案の見通しやその後の流れなどを教えてもらえるはずです。

また、実際に弁護士に依頼した場合は、医療ミスの調査、書面の作成、交渉、訴訟提起などの大変な作業を全て弁護士に任せることができます。

 

 

まとめ

  • 医療ミスとは、病院などの医療機関において、医師や看護師等の不注意によって患者の症状を悪化させることをいう。
  • 医療ミスで生じる責任には、金銭の支払い義務が生じる民事責任、刑罰が課せられる刑事責任、医師としての活動を制限する行政責任などがある。
  • 医療ミスの賠償の相場は、交通事故賠償の基準を参考に判断される。
  • 医療ミス問題のポイントは、①時系列を整理する、②調査をしっかり行う、③和解案については判決の見通しを踏まえて慎重に検討する、④謝罪や再発防止を求める場合は交渉で打診する、⑤医療ミスに強い弁護士に相談するなどが挙げられる。

医療ミスで適切な賠償を受けるためには、専門家のサポートが不可欠だと考えています。

医療ミスで賠償請求を考えられている方は、まずは弁護士にご相談ください。

デイライト法律事務所は、医療ミスを含む、人が怪我をするような事故の法律問題を重点的に扱う人身障害部があります。

対面相談はもちろんのこと、電話相談、LINE・FaceTime・Zoomなどを用いたオンライン相談も受け付けており、全国的に対応しておりますので、ぜひ一度お問い合わせください。

あわせて読みたい
相談の流れ

 

 

なぜ医療過誤は弁護士に相談すべき?

続きを読む

まずはご相談ください
初回相談無料