医療過誤の時効とは?弁護士が解説

医療過誤の時効とは、医療過誤によって後遺症が残った場合や死亡した場合の医療従事者や医療機関に対する責任追及の期間制限のことを意味します。

医療過誤によって後遺症が残った場合や死亡した場合には、医療従事者や医療機関に対して法的責任を追求することができます。

法的責任の追求には民事責任追及と刑事責任追及がありますが、そのどちらも期間制限があります。

民事責任追及に関しては、最短で3年、最長で20年期間制限があります。

刑事責任追及に関しては、5年もしくは10年の期間制限があります。

これから、医療過誤の時効について解説いたします。

時効とは

時効とは、請求する権利があったとしても、一定期間その権利を行使しない場合には、請求できなくなるという時間制限に関する制度です。

医療過誤の場合の時効については、医療過誤の発生から一定の期間が経過すると責任追及をすることができないというものになります。

医療過誤における時効には、民事の時効刑事の時効があります。

医療過誤における民事の時効は、医療過誤から一定期間経過すると、民事上の責任追及(賠償請求)ができなくなる制度です。

刑事の時効は、医療過誤から一定期間経過すると、刑事罰を受けることがないという制度です。

時効はなぜ存在するの?

時効の期間が経過すると、責任追及ができなくなります。

民事の場合、時効の期間が経過すると、もはや賠償請求も認められず、賠償してもらえないことになります。

なぜこのような制度があるのでしょうか。

それには、2つの理由はありますが、一つは証拠を集めるのが困難となってしまうこと、もう一つは、一定期間権利を行使しなかったことです。

証拠を集めるのが困難となってしまうこと

医療過誤から時間が経過するほど、証拠を集めるのは難しくなったり、関係者の記憶が薄れたりして、証拠を集めるのが困難となってしまいます。

例えば、医療機関は医療記録を保存しないといけませんが、その期間は法律によって定められています。

その期間が経過するとすぐに破棄するかどうかは、医療機関の運用次第とはなりますが、時間が経過するほど医療記録が破棄される可能性が高まります

また、医療過誤の関係者や被害者の関係者の供述を証拠とする場合にも、時間が経つほど、記憶が薄れていったり、無意識のうちに間違った記憶と変化したりする危険性もあります。

このように、時間が経過すると、証拠を集めるのが困難となってしまいます。

一定期間権利を行使しなかったため

正当な権利を行使する機会があったのに、これを一定期間放置していた場合、その権利を行使できなくなっても仕方ないという考えです。

場合によっては、被害者や遺族にとって酷な結果と繋がってしまいますが、早めに弁護士に相談するなどして、早めに対応をすべきです。

 

 

医療過誤の時効は

医療過誤を起こした医療従事者には、民事上の責任刑事上の責任行政上の責任があります。

それぞれの責任の内容ごとに時効が異なりますので、これからそれぞれの内容ごとに説明いたします。

民事上の責任

医療過誤における民事上の責任とは、被害者が医療従事者や病院に対して請求する賠償請求のことを指します。

民事上の責任追及の法的根拠には、不法行為に基づくものと、債務不履行に基づくものの2つがあり、その法的根拠ごとに時効の期間が違います。

また、医療従事者を雇用している病院に対しても使用者責任の追求ができる可能性もありますが、その民事上の時効は不法行為に基づくものと同様です。

時効は、法的根拠、医療過誤のあった日によって違いますが、その内容は以下の表のとおりです。

法的根拠 医療過誤のあった日 時効
不法行為に基づく賠償請求
(使用者責任に基づく賠償請求)
2020年3月31日以前※ ①、②の短い方

  1. ① 損害及び加害者を知ってから3年
  2. ② 医療過誤の日から20年
2020年4月1日以後 ①、②の短い方

  1. ① 損害及び加害者を知ってから5年
  2. ② 医療過誤の日から20年
債務不履行に基づく賠償請求 2020年3月31日以前※ 権利を行使できる時から10年
2020年4月1日以後 ①、②の短い方

  1. ① 権利を行使できると知った時から5年
  2. ② 権利を行使できる時から20年

※2020年4月1日以降に発生した医療過誤については、損害および加害者を知ってから5年、医療過誤の日から20年で時効が成立します。

不法行為

不法行為とは、他人の権利を不当に侵害したことを言います。

故意(わざと)もしくは過失(うっかり)により他人の権利を不当に侵害をした場合には、不法行為として賠償責任が発生します。

医療行為であっても医療従事者に過失がある場合には、不法行為に基づく賠償請求の対象となります。

不法行為の時効開始時期

時効の開始時期は、「損害及び加害者を知った」時と「医療過誤のあった日」の2種類あります。

「損害及び加害者を知った」とは、判例(最判昭和48年11月16日民集27.10.1374)では、「加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知った時」を意味するとされています。

医療過誤においては、「損害を知ったとき」とは、症状固定時(治療を継続しても改善の見込みがない状況となった時)を基準とするケースがほとんどです。

また、「加害者を知ったとき」とは、医療記録などから医療従事者や病院への責任追及の可能性を具体的に認識した時点です。

そのため、抽象的に医療過誤があったかもしれないと疑っている時点では、「損害および加害者を知った」とはいえません。

医療過誤の可能性を疑っているだけは、「損害および加害者を知った」とはいえません。

使用者責任

使用者責任とは、会社などの使用者は、労働者の不法行為について共同で責任を負うことを意味します。

医療過誤においては、医療従事者を雇用している病院に、使用者責任が発生することになります。

債務不履行

債務不履行とは、要は契約違反のことを言います。

医療行為の場合、医療従事者や病院には、患者の具体的状況に応じて適切な治療を行う契約上の義務が課されます。

医療従事者や病院にその義務違反がある場合には、債務不履行に基づく賠償請求の対象となります。

債務不履行の時効開始時期

2020年3月31日までの医療過誤であれば、「権利を行使できる時」から10年で時効となります。

2020年4月1日からの医療過誤であれば、「権利を行使できると知った時」から5年、権利を行使できる時から20年で時効となります。

「権利を行使できる」とは、医療過誤の日と言い換えても良いです。

また、「権利を行使できると知った時」とは、医療記録などから医療従事者や病院への責任追及の可能性を具体的に認識した時点です。

そのため、消滅時効の起算点は、不法行為と共通といえるでしょう。

どちらの法的根拠で請求すべき?

医療過誤における民事の責任請求医療過誤に対する民事の責任追及は、不法行為を根拠とするもの、債務不履行を根拠とするものがありますは、どちらの法的根拠で請求すべきでしょうか?

結論として、多くの場合では、医療従事者に対しては、不法行為と債務不履行の両方を根拠に請求し、病院に対しては、使用者責任を根拠に請求するという形で賠償請求を行うことになります。

不法行為の場合、被害者が病院側の「故意・過失」を主張・立証することになり、債務不履行の場合、病院側の「契約上の義務違反」を主張・立証することになります。

もっとも、医療過誤の訴訟においては、「過失」と「契約上の義務違反」は同様のものと考えられていますので、被害者が主張・立証する内容は同様です。

すなわち、被害者側は、どちらの法的根拠で請求をする場合にも医療従事者の注意義務(その当時、何をすべきであったか)を特定して主張し、その義務違反を証明することが必要になります。

不法行為を根拠に賠償請求をしても、債務不履行を根拠に賠償請求をしても、同じ内容を主張・立証する必要がありますので、あえてどちらかだけを根拠とする必要性はあまりありません。

 

刑事責任

医療過誤における刑事責任とは?

医療過誤における刑事責任とは、被害者が死亡したり、怪我を負ったりした場合に、裁判所が医療従事者に対して、刑事罰を下すことです。

刑事責任に関する捜査は警察が行い、刑事裁判の提起は検察官が行います。

被害者となった場合には、警察官や検察官に被害届を出すなどをして、刑事責任を求めるという意思を表明することができますが、直接裁判所に対して、医療従事者の処罰を求めることはできません。

医療過誤の場合、医療従事者は、業務上過失致死傷罪に該当して刑事責任を負うことになる可能性があります。

業務上過失致死傷罪は、「5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金」と規定されています(刑法211条)。

警察による捜査が行われ、検察官によって刑事裁判を起訴するかどうかが判断されます。

その際には、捜査の結果犯罪に該当するとは断言できないとして検察官が起訴をしないという判断(証拠不十分)、略式起訴をして罰金刑に課すという判断(略式起訴)、あるいは、今回限りは起訴(起訴猶予)をしないという判断があり得ます。

被害者は、検察官の判断が不当に軽いと思った場合には、検察審査会に不服を申し立てることも可能です。

刑事事件の流れについて、詳しくはこちらをご覧ください。

刑事責任の時効は?

刑事責任の追及にも時効があります

刑事責任について時効が成立すると、罪に問われることはなくなります。

刑事裁判を起こすことを公訴提起と言いますので、刑事裁判の時効は、正式には、公訴時効と呼ばれます。

刑事責任の時効は、以下の表のとおり、被害者が怪我や後遺症を負った場合と死亡した場合とで異なります。

被害者が怪我や後遺症を負った場合 5年
被害者が死亡した場合 10年

 

 

医療過誤の時効の注意点

医療過誤について、裁判などを起こすことなく時間が経過してしまい、時効が近くなってしまうケースもあります。

そのまま対処をしないで放置しておくと時効が完成して責任追及することができなくなります。

民事上の責任追及については、緊急で時効の完成を一時的に防ぐ方法や再度時効を0からスタートさせる方法があります。

民事の時効が完成しそうになったときの対処法をご説明します。

医療過誤の責任追及の時効完成が近くなった時の対処法

医療過誤の責任追及の時効が近くなった時には、時効の完成を一時的に防いだり、方法や再度時効を0からスタートさせたりする必要があります。

時効の完成を防ぐ方法は、時効の完成を一時的に止める「完成猶予」再度時効を0からスタートさせる「更新」があります。

まずは時効の完成猶予を行い、更新を目指すことになるケースが多いです。

これから、時効の完成猶予と更新の方法の代表的なものをご紹介します。

医療過誤の責任追及の時効完成が近くなった時の対処法

内容証明郵便で催告をする

実務上は、まずは、内容証明郵便を病院に発送をして、賠償金の支払いを催促することが多いです。

催告とは、医療従事者や病院に対して、医療過誤の賠償請求をしていることを通知することです。

催告をすることによって、賠償請求の時効の完成が6か月間猶予されます(民法150条1項)。

催告の方法には制限はありませんが、「●年●月●日に催告をした。」という証拠を残すために、内容証明郵便を送付するべきでしょう。

もっとも、催促を行っても時効の完成猶予しかできませんので、一時しのぎにしかなりません。

そのため、6か月間の猶予期間中に民事裁判の準備を進めて、民事裁判の判決や裁判上の和解による時効の更新を目指すことになります。

医療従事者や医療機関から協議を行う旨の合意を得る

協議とは、被害者(の代理人弁護士)と医療従事者や病院とで賠償金について話し合うことを言います。

医療従事者や病院が賠償金について話し合うことを合意すると、時効の完成は猶予されます。

合意については、書面で行わないと、時効の完成の猶予の効果はありませんので注意が必要です。

猶予の期間は以下の表のとおり状況によって異なります(民法151条1項)。

状況 期間
期間を定めなかった場合 1年
1年以内の期間を定めた場合 その定めた期間
協議を行うことを拒絶した場合 拒絶してから6か月

時効の完成の猶予は再度行うことも可能ですが、最大でも合意がなかった場合に時効が完成するときから5年間です(民法151条2項)。

医療従事者や病院から権利の承認を得る

権利の承認を得るとは、医療従事者や病院に損害賠償請求を支払う責任があると認めてもらうことを言います。

権利の承認を得たときには時効が更新されます。

承認を得たことを証明する方法や形式に決まったルールはありませんが、以下の場合には権利の承認を得たと言える可能性が高いでしょう。

  • 医療従事者などによって賠償金を支払う旨の書面が作成された
  • 医療従事者などから賠償金の一部として被害者に対する支払いがあった
  • 医療従事者などから賠償に関する示談金額を提示している

どの場合であっても、医療従事者や病院が医療過誤を認めているということを意味しますので、多くのケースでは、弁護士にご依頼されてすぐに権利の承認を得ることは期待できないです。

弁護士が詳細について交渉を行った結果、権利の承認を得ることになったというケースが考えられます。

民事訴訟を提起する

病院に対して内容証明郵便を発送しても回答がない場合、権利の承認が得られない場合には、民事訴訟を提起することになります。

医療過誤の責任追及を行うために裁判所に民事訴訟を提起すると、訴訟が終了するまでは、時効の完成は猶予されます(民法147条1項1号)。

その後、裁判が終了して、判決となった場合、裁判上の和解が成立すると、その時点で、時効が更新されます(民法147条2項)。

また、判決となった場合や裁判上の和解が成立すると、賠償金の額が確定しますので、時効の完成が近い場合には、まずは時効の期間内に裁判を起こすことができないかを最優先に考えるべきでしょう。

なお、判決や裁判上の和解によって時効が更新された場合には、時効の期間は、新たに時効が進み始めてから10年となります(民法169条1項)。


 

強制執行を申し立てる

強制執行とは、医療従事者や病院が賠償金を支払わない場合に、裁判所が医療従事者や病院の財産を差し押えてお金に換えて、被害者にそのお金を渡す手続きです。

医療従事者や病院に対して、強制執行の申立を行うと、強制執行の手続きが終了するまで、時効の完成が猶予されます(民法148条1項1号)。

強制執行の手続が完了すると、その時点で時効が更新されます(民法148条2項)。

強制執行を行うには、債務名義が必要になります。

債務名義とは、強制執行をするために必要な一定の証書を指します。

債務名義の代表的なものは、判決、裁判上の和解調書、公正証書などがあります。

債務名義のいずれもが弁護士が介入していないと発行されていることはほとんどあり得ないので、最初から強制執行を行うケースはないと言っても良いでしょう。

また、時効の完成の完成猶予・更新を目的として強制執行することはほとんどありませんので、賠償金を獲得する際に、合わせて時効の完成猶予・更新が行われるというイメージです。

 

できるだけ早く医療過誤にくわしい弁護士に相談する

医療過誤の被害にあった場合、もしくはその可能性があると考えた場合は、できる限り早く医療過誤にくわしい弁護士に相談するべきです。

医療過誤の日時がわからない場合には、そもそもいつまで時効になってないのかわからないことがあります。

医療過誤のあった日時を正確に記憶していない場合、思ったよりも早く時効が完成してしまうことになりかねません。

また、弁護士は、早めに相談を受ければ、より万全の準備を整えて裁判を起こしたり、交渉をしたりすることができます

そのため、医療過誤の被害にあったかもしれないと思ったら、早めに医療過誤に詳しい弁護士に相談をすることを強くお勧めします。

医療過誤について弁護士に相談するメリットについて詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

医療過誤の時間経過に関する注意点

医療過誤の賠償請求に関して、時効以外にも、時間が経過すると賠償請求が難しくなる理由があります。

どのような理由によって賠償請求が難しくなるか、解説いたします。

医療過誤の時間経過に関する注意点

時間が経つと記憶が薄れる

医療過誤から時間が経つと、被害者自身も含む医療過誤関係者の記憶が薄れる危険性があります。

例えば1か月前の事故について医療従事者が「一切覚えていない」と言われた場合「そんなすぐに忘れるわけはない」という反論もできますが、10年前の事故について「一切覚えていない」と言われても仕方のない場合もあるかもしれません。

さらには、事情をよく知る関係者がどこにいるかわからなくなったり、亡くなったりすることも考えられます。

そのような状況に陥ることなく、医療過誤に関して正確かつ詳細な話を聞くためにも早めに賠償請求の準備を進めるべきでしょう。

 

医療記録には保管期限がある

医療過誤の場合には、当時どのような症状が発見されて、その症状に対してどのような治療をしたのかを明らかにする資料として、医療記録が重要な証拠になります。

しかし、医療記録には、保管義務の期間が定められており、その期間以後は、病院は、医療記録を処分しても問題ありません。

そのため、可能な限り早く医療記録を入手する、もしくは、処分されないように対策する必要があります。

保管義務期間は、カルテについては5年間、その他医療記録については3年間となっています(保険医療機関及び保険医療養担当規則第9条)。

そのため、一つの目安として、3年という期間が目安になるでしょう。

また、保管期限内であっても、災害などで医療記録がなくなることもあり得ますので、保管期限内だからと油断せずに、早めに準備を進めるべきでしょう。

 

責任追及先がなくなる危険がある

医療過誤から時間が経過すると、責任追及先がなくなる危険性があります。

例えば、担当に当たった医師がどこにいるかわからなくなったり、医療過誤のあった病院が閉院したりしている危険性があります。

特に、医療過誤を頻繁に起こすような病院であれば、経営状況も悪い可能性が高いですので、泣き寝入りにならないためにも早めに賠償請求の準備を進めるべきです。

 

 

まとめ

これまで医療過誤の時効について解説しました。

医療過誤の被害に遭ってしまった場合、当事者や病院に対して、賠償金を請求できる可能性があります。

もっとも、賠償金の請求には専門家の手助けを得つつ準備を行う必要がある上、時間制限もあります。

そのため、医療過誤の被害に遭った場合には、可能な限り速やかに医療過誤について詳しい弁護士に相談をすべきです。

デイライト法律事務所では、人身障害部を設け、労災被害をはじめとする人身障害に特化したチームを編成しています。

また、zoomやLineでの相談についても初回無料で対応しており、ご相談の予約は24時間受け付けております。

医療過誤の被害に遭った方は、お気軽にご相談いただければと思います。

なぜ医療過誤は弁護士に相談すべき?

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