医療ミスの訴訟|解決までの流れ・時効を弁護士が解説

医療ミスの訴訟は、通常の訴訟に比べて、判決までいかずに和解で終結するケースが多いです。

これは、患者側が一部でも勝訴する可能性がある場合には、病院側が積極的に和解に応じていることが一因と考えられます。

その結果、判決に至るのは患者側が敗訴の可能性が高い事案が比較的多くなり、医療訴訟の勝訴率は通常事件と比べて低くなっていると考えられます。

この記事では、医療訴訟の流れ、費用、相談先などについて、解説していますので、医療訴訟を検討されている方はご参考にされて下さい。

医療ミスの訴訟

医療ミスの訴訟とは、病院に医療ミスがあったことを主張して起こす裁判のことです。

病院側に過失が有るかどうかは、当時の医療水準に沿った医療行為が行われていたかどうかが争点になります。

そのため、医療水準について知見が必要で、さらに医療行為がその水準に達しているかどうかを判断する必要があります。

医療訴訟では、こうした判断が必要となるため医学に関する知識が重要になります。

 

医療ミス訴訟の勝率は?

医療ミスの訴訟で判決が出されたケースのうち、勝訴又は一部勝訴の判決を得られる確率(勝訴率。「認容率」ともいいます。)は、他の事件と比較して、低いものになっています。

裁判所が公表している認容率(勝訴率)をみると、以下のようになっています。

通常事件の認容率 医事関係訴訟の認容率
通常事件のうち人証調べを実施したものの認容率
令和2年 86.7% 61.0% 22.2%
令和3年 84.3% 60.3% 20.1%
令和4年 84.3% 59.9% 18.5%

参考元:地裁民事第一審通常訴訟事件・医事関係訴訟事件の認容率|裁判所

上の表を見ると、通常事件の認容率は85%前後(人証調べを実施したものの場合は60%程度)ですが、医事関係訴訟の場合、認容率は20%前後となっています。

このように、医療ミスの訴訟で判決をするとなった場合に、勝訴(又は一部勝訴)判決を得られる割合は、通常よりもかなり低くなっています。

 

和解・示談での解決が多い

下表は、通常の訴訟と医療訴訟の和解が成立した割合をまとめたものです。

医療訴訟は、通常の訴訟と比べて、和解が成立する割合が約20%多いです。

和解の割合 全体の件数 和解した件数
通常の訴訟 32.8% 13万1794件 4万3264件
医療訴訟 52.7% 797件 420件

引用元:令和4年司法統計年報民事・行政編の第20表|裁判所

引用元:医事関係訴訟事件の終局区分別既済件数及びその割合|裁判所

 

 

医療ミス訴訟の解決までの流れ

医療ミス訴訟の解決までの流れ

 

①証拠収集

裁判では、争いのある事柄は証拠を持って証明しなければなりません。

医療訴訟では、医学的問題が争点になるため、診断書やカルテなどの医療記録や、医師の意見書など、争点となりうる事柄を踏まえて証拠収集することになります。

 

②証拠検討

想定される争点(病院側の過失や損害との因果関係など)について、収集した証拠から証明できる見通しがあるかを検討します。

医療訴訟は、長期化する傾向にある上に、弁護士費用などコストもかかります。

争点について、立証できる見通しが乏しい場合には、訴訟提起を断念することも検討します。

 

③訴訟提起の決定・④訴状の作成

立証の見込みが一定程度あり、患者側にも訴訟提起する意向がある場合には、訴訟提起への準備を進めていきます。

 

⑤第1回期日の決定

裁判所に訴状を提出して、形式面の審査が終了した後、第1回の裁判期日が決まります。

 

⑥病院側の答弁書提出

病院側は、第1回の裁判期日までに訴状に対する答弁書を提出します。

答弁書には、訴状に対する認否(認める、否認するなど)や病院側の反論が記載されます。

もっとも、病院側の弁護士が就任して間もない場合には、簡単な答弁にとどまり、実質的な認否・反論などは、その次の期日までに提出することになることが多いです。

 

⑦争点整理

2回目以降の裁判期日では、双方、相手方の提出した書面に対して、証拠を踏まえて反論をしていくことになります。

これを繰り返して、双方ともに主張立証が尽きた段階で、裁判所から和解できないか打診があることが多いです。

その時点での裁判官の考えが当事者に伝えられ、具体的な金額を示しながら和解できるか協議します。

和解ができない場合には、次の証人尋問・本人尋問に進んでいきます。

 

⑧証人尋問・本人尋問

尋問では、争点となっている事柄について、患者や医師、その他関係者に対して質問を行います。

尋問は、主尋問(味方からの質問)、反対尋問(相手からの質問)、再主尋問(味方からの質問)、補充尋問(裁判官からの質問)があります。

尋問が終わった後に、尋問を踏まえて、再度、和解できないか協議することもあります。

 

⑨判決

尋問後にも和解ができない場合には、裁判官が判決をくだします。

医療訴訟の解決までの流れは、以下のとおりです。

 

和解・示談について

以上に挙げた手続きの流れのどの時点でも(訴え提起前でも)、病院側との間で合意することにより問題を解決する「和解・示談」をすることが可能です。

上でもご説明したとおり、医療ミスに関する紛争の多くは、和解・示談で決着しています。

訴訟になったケースでも半数以上が和解により解決するため、医療訴訟では、一度は裁判所から和解の意向について打診されるケースが多いです。

医療ミス訴訟の手続の流れについては、以下のページもご参照ください。

 

 

医療ミス訴訟の時効

医療ミスの訴訟を起こす際には、時効に気を付ける必要があります。

医療ミスの被害に遭った場合、不法行為に基づく損害賠償、又は、債務不履行に基づく損害賠償のいずれか一方を請求することができます。

しかし、一定の期間が経過してしまうと、時効(消滅時効)が成立し、損害賠償を請求することができなくなります。

時効が成立するまでの期間は、以下のとおりです。

医療ミスがあった日 時効
不法行為に基づく損害賠償請求権 2020年3月31日以前 以下の①、②の短い方

  1. ① 損害及び加害者を知ってから3年
  2. ② 医療過誤の日から20年
2020年4月1日以降 以下の①、②の短い方

  1. ① 損害及び加害者を知ってから5年
  2. ② 医療過誤の日から20年
債務不履行に基づく損害賠償請求権 2020年3月31日以前 権利を行使できる時から10年
2020年4月1日以降 以下の①、②の短い方

  1. ① 権利を行使できると知った時から5年
  2. ② 権利を行使できる時から20年

*債務不履行に基づく損害賠償請求権の時効期間の開始時点となる「権利を行使できる時」は、医療過誤があった日になります。

医療ミスの訴訟を起こすには、事前の調査などで時間がかかりますので、時効成立前ギリギリに弁護士に相談しても、訴訟提起が間に合わない、又は、十分な準備ができないままに訴訟を起こす必要に迫られて不利な訴訟進行を強いられるといったことになりかねません。

医療ミスの被害に遭ったと思われる場合は、なるべく早く、医療過誤問題に詳しい弁護士にご相談ください。

 

 

医療ミスの相談先

医療ミス問題については、以下のような窓口に相談することが考えられます。

 

病院の相談窓口

医療ミスがあったと思われる場合、まずは、問題の病院に苦情を申し立てることが多いでしょう。

医療ミスに関する苦情の申入れを病院に対してする際は、

  • 問題が起こった原因・経緯
  • 院内調査(又は調査の予定)の有無及び手順
  • 法的責任の有無に関する病院側の見解
  • 損害賠償を支払う意思の有無
  • 謝罪・再発防止策の策定などを行う意思の有無

などについて説明を求めるようにしましょう。

 

医療ミス問題に強い弁護士

医療ミスの被害に遭ったとお考えの場合は、なるべく早く、医療過誤問題に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。

病院が責任を認めない場合や、病院に損害賠償を請求するつもりである場合は、特に、早めに弁護士に相談すると良いでしょう。

医療ミスに強い弁護士に相談すれば、病院の行為について「医療ミス」として法的責任を問うことができるか、どのような手続が必要となるか、損害賠償額の見込みはいくらか、といったことについてアドバイスしてもらうことができます。

 

医療事故情報センターで紹介されている相談窓口

医療事故情報相談センターは、患者側に立って活動する全国の弁護士により組織されている団体です。

以下の医療事故情報センターのHPには、医療ミスの問題を取り扱っている各地の弁護士による相談窓口が紹介されています。

参考:各地相談窓口|医療事故情報センター

その他の相談機関

医療ミスの訴訟について相談する窓口としては、他に、

  • 医療安全支援センター
  • 消費生活センター

が考えられます。

消費生活センターでは、相談者に対し、解決のための助言をする、弁護士など他の適切な相談窓口を案内する、といった業務を行っています。

参考:国民生活センター

全国の保健所などに設置されている医療安全支援センターでも、医療に関する不満、心配、疑問などの相談に乗ってくれます。

ただ、医療安全支援センターは、あくまで中立の立場で相談を受ける機関ですので、医療ミスについて相談しても、病院の行為が医療ミスに当たるかどうかについて判断してはくれませんし、病院の責任を追及してくれることもありません。

参考:医療安全支援センター総合支援事業

病院へのクレームをどこに入れたらよいかについては、以下のページもご参照ください。

 

 

医療ミス訴訟にかかる弁護士費用

医療ミスについての訴訟を起こす場合、患者やご遺族本人では難しいので、医療ミスの訴訟に詳しい弁護士に依頼することがほとんどです。

弁護士に依頼する場合、弁護士費用と実費が必要になります。

それぞれの内容、金額の目安についてご紹介します。

 

実費

医療ミスの訴訟の際に必要となる実費の目安は、次のようになります。

項目 金額の目安
カルテ等の開示に要する費用 数千円 ~ 10万円程度(量による)
証拠保全の際のカメラマン費用 数万円 ~ 数十万円(撮影量による)
カルテ翻訳の費用 数万円 ~ 数十万円(翻訳する量による)
訴え提起の申立手数料(印紙代) 数万円 ~ 100万円程度(請求金額による)
医師(協力医)の面談に対する謝礼金 3 ~ 5万円程度
協力医の意見書作成に対する謝礼金 数十万円 ~
印刷代 1枚10円程度
郵送代 数千円 ~(郵送回数による)
弁護士の交通費、宿泊費 移動距離による

 

弁護士費用

弁護士に依頼する場合には、以下のような実費がかかります。

医療訴訟は法的知識に加え、医学的な知見も必要になりますので、弁護士への依頼を検討することをお勧めします。

項目 内容 金額の目安
法律相談料 弁護士への法律相談の際に支払う費用 30分 5500円~
調査料 医療ミスの訴訟で損害賠償請求が認められる見込みの有無などを調査するための費用 11万円 ~ 44万円程度
*事案の内容などによる
着手金 弁護士に裁判手続を依頼する際に最初に支払う費用 55万~
なお、
示談交渉の場合は 22万円 ~
調停・ADRの場合は 44万円 ~
報酬金 手続が終了した後に弁護士に支払う費用 得られた経済的利益の11% ~ 33%など
日当 弁護士が出張した場合などに支払う費用 1日当たり 1万5000円 ~

医療ミスの訴訟のために必要となる費用については、以下のページで、具体例とともにより詳しく解説しています。

 

 

医療ミス訴訟のポイント

医療ミス訴訟のポイント

 

医師のどの行為を「過失」と捉えるか検討する

医療訴訟では、医師をはじめとした病院側のいかなる作為あるいは不作為を過失として主張するのか特定する必要があります

過失があるとして特定した行為について、患者側で過失と評価できることを証明しなければならないため、その点について立証の見込みがあるか十分に検討します。

また、特定する行為によって、その行為からどこまでの損害(症状の悪化なのか、死亡までなのか等)が認められるのか変わってくるため、損害論の部分も意識して特定する必要があります。

 

因果関係についても忘れずに主張・立証する

過失をどのように主張するかを検討する際には、因果関係についても注意しなければなりません。

医師に過失があったと認められても、その過失と生じた結果の間に因果関係が認められなければ、損害賠償は認められない(又は精神的損害に対する慰謝料のみに減額される)ことになってしまいます。

 

医療ミスに強い弁護士に相談する

医療ミスの被害に遭ったと思われる場合には、なるべく早く、医療ミスに強い弁護士を探し、相談・依頼しましょう。

医療ミスに強い弁護士に相談・依頼すれば、次のようなメリットがあります。

  • 医師の行為が法的に「医療ミス」に当たるかアドバイスしてくれる
  • 請求できる損害賠償額の金額の見込みについてアドバイスしてくれる
  • 依頼をすれば、医師に過失があったかの調査を行ってくれる
  • 必要なカルテ、診断書等や、医学文献などを揃えてくれる
  • それぞれのケースに合った協力医を探し出してくれる可能性が高い
  • 医療ミスの責任を追及するための方法についてアドバイスしてくれる
  • 依頼すれば、訴訟・示談交渉を代わりに行ってくれる
  • 精神的な負担が軽くなる

医療ミスについては弁護士に相談すべきこと、医療ミスに強い弁護士を選ぶ際のポイントについては、以下のページでも詳しく解説しています。

 

和解・示談についても検討する

既にご説明したとおり、医療ミスの訴訟は、和解・示談によって解決することも多いです。

和解・示談によって解決することには、患者側にとって、以下のようなメリットがあります。

  • 裁判のための時間、労力、費用を費やすことなく解決できる
  • 敗訴するリスクを無くすことができる
  • 判決では得られない、謝罪、説明、再発防止策の策定などの成果を得られる可能性がある

医療ミスの訴訟を起こすことを考えている場合も、和解・示談による解決もできることも知っておくと良いでしょう。

 

専門家のアドバイスを受けとめる

医療ミスの裁判をしようという場合には、弁護士や協力医からさまざまなアドバイスを受けることになります。

その中には、「これは医療ミスとは認められない可能性が高い」「裁判をしても勝訴する見込みがない」など、患者側の依頼者にとっては辛くなるようなものもあるかもしれません。

ただ、ほとんどの場合、専門家は、依頼者の利益を守るためにそうしたアドバイスをしています。

敗訴するおそれが大きいことを知らないまま裁判を起こしてしまうと、依頼者の方は、費用、時間、労力を無駄にしてしまうおそれがあるので、そうしたことにならないよう、専門家としての立場からお話をさせていただいています。

もちろん、相談した専門家の意見が必ずしも正しいとは限りませんので、他の弁護士などに相談してみることも考えられます。

とはいえ、裁判を起こして実際に敗訴してしまうと、そこまでに要した弁護士費用を回収できない、費やした時間や労力も報われず、逆に精神的に大きな打撃を受ける、ということにもなりかねません。

方針を決める際は、弁護士・協力医の意見についても、よく考えてみてください。

医療ミスを訴える際のポイントについては、以下のページでも詳しく解説しています。

 

 

医療ミス訴訟についてのQ&A

医療ミスの賠償金はいくらですか?

医療ミスの賠償金は、どのような結果が生じたかによって大きく異なります。

医療ミスによって被害者が死亡した場合や後遺障害を負った場合には、被害者の年齢、収入、家族構成、想定された余命などにより、賠償金は、数百万円から数千万円になるでしょう。

場合によっては、賠償額が1億円を超えることもあります。

一方、医療ミスによって生じた被害が治療可能なものであった、一時的な体調不良が生じたのみだった、というような場合は、賠償額は、数十万円から数百万円にとどまるでしょう。

 

医療ミス訴訟の和解金に相場はある?

医療ミス訴訟の和解金の金額は、病院側の過失が判決で認められそうかどうか、と、生じた結果がどのようなものであったか、によって大きく変わってきます。

医師の過失が認められる見込みが強い場合、前の質問への答えでご紹介したように、

  • 生じた結果が死亡・後遺障害であれば数百万 ~ 1億円程度
  • 一時的な体調不良、完治できるケガ・症状の場合には数十万円 ~ 数百万円程度

となることが多いです。

医師の過失が認められる見込みが薄い場合は、

  • 死亡・後遺障害が生じた場合、事案に応じて数十万円 ~ 500万円程度
  • それ以外の場合には、事案に応じて、数十万円 ~ 150万円程度

となることが多いと思われます。

 

 

まとめ

今回の記事では、医療ミスの訴訟の特徴、手続きの流れ、注意すべきポイントなどについて解説しました。

医療ミスの訴訟は、法律と医療の両方に関する知識が必要になる高度に専門的なものです。

そのため、医療ミスの訴訟を起こすことを考えている場合は、医療過誤に強い弁護士を探し、相談・依頼することが大変重要です。

当事務所でも、各種事件の対応で医療の知識を蓄積してきた弁護士が、医療ミスの訴訟に関するご相談をお受けしております。

オンライン、電話による全国からのご相談にも対応しております。

お困りの方はぜひ一度、当事務所までご連絡ください。

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