病院で誤診されたらどうすればいい?医療ミスに強い弁護士が解説

病院で誤診されて適切な治療を受けられなかった、という事態は、残念ながら、いつでも、誰にでも、起こり得ることです。

このようなことがあると、「病院に責任を取ってもらいたい!」という思うことも当然あるでしょう。

そのような場合には、

  • 当の病院に苦情を申し立てること
  • 医療過誤問題に詳しい弁護士に相談すること

などを考える必要があります。

今回は、病院で誤診された場合にどうすればよいのか、病院が誤診を認めない場合はどう対処すればよいのか、病院に請求できる賠償金の内訳はどのようなものか、医療過誤に対応する場合のポイントは何か、などの点について解説してきます。

病院で誤診されたらどうする?

病院で誤診された場合の対処法としては、次のようなものが挙げられます。

 

病院に苦情を言う

病院で誤診があった場合、まずはその病院に苦情を言い、事情について説明するよう求めることが多いです。

病院に説明を求める際には、

  • 誤診が起こった理由・経緯
  • 誤診による法的責任(賠償責任)があることを認めるか否か
  • 院内調査の有無(今後予定している場合を含む)
  • 今後の治療等の予定

などといった点について尋ねるとよいでしょう。

また、もし転院を希望する場合には、転院先の紹介、紹介状の作成を依頼することも考えられます。

 

治療費の返金について

病院で誤診があった場合に、治療費を返金するよう求める方がおられます。

確かに、誤診があり、有効な治療を受けられなかったとなると、「治療費を払ったが無駄だった!治療費を返してほしい」と思われるのも当然でしょう。

治療費の返金を求めたい場合は、病院に苦情を申し入れる際に、治療費の返還についても請求してみましょう。

病院側が応じてくれるようであれば、治療費の返還を受けることができます。

病院側が応じてくれない場合は、弁護士に返金の交渉を依頼することを検討すべきでしょう。

弁護士に依頼して法的措置をとる場合は、治療費の返金だけでなく、誤診により生じた損害全体について、損害賠償を請求するのが通常です。

その損害賠償請求の中で、誤診により生じた治療費などの請求も行っていくことになります。

 

医療ミス問題に詳しい弁護士に相談する

誤診が医療ミスではないかとお考えの場合には、一度、医療ミス問題に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。

医療ミス問題に詳しい弁護士に相談すれば、問題の誤診が医療過誤に当たるか(医師の過失が認められるか)、損害賠償額の見込みはいくらか、誤診について損害賠償を請求するにはどのような手続きが必要か、といったことについてアドバイスしてくれます。

早いうちに弁護士に調査・交渉などを依頼すれば、病院に苦情を申し入れる際にも、代理人となって同席してもらうことができます。

弁護士に相談するメリットについては、後ほど、医療過誤に強い弁護士に相談するの項で詳しくご説明します。

 

 

病院が誤診を認めない場合の対処法

弁護士に依頼して調査を行う

病院が誤診を認めない場合は、医療過誤に強い弁護士に相談・依頼し、調査をしてもらうことが考えられます。

弁護士に依頼して行う調査では、次のようなことを行います

  • カルテ、検査結果、画像検査の結果等を取り寄せる
  • 場合によっては、証拠保全の申立てを行い、カルテ等を確保する
  • 患者側に事情を聞く
  • 必要な場合には、病院側からも話を聞く
  • 必要に応じて、協力医を探し、意見を聴く
  • 医学文献、ガイドライン等を調査・収集する

こうした調査を行った後、弁護士から、誤診について医療ミス(過失)があったかどうか、損害賠償額はどの程度になるか、といったことについての見込みをご説明します。

その上で、今後の方針について、

  • 訴訟を起こすか
  • 示談交渉の申入れをするか
  • 病院の責任追及はしないこととするか

といったことを検討していきます。

一般に、病院の誤診が医療ミス(過失)であると認められる可能性が高いケースで、病院が責任を認めていない場合は、訴訟を起こすことになります。

訴訟を起こす前に示談交渉を行うことも考えられますが、病院が誤診を否定している場合は、病院側を納得させるだけの証拠を提示できない限り、示談交渉が頓挫する可能性が高く、時間を無駄にしてしまうおそれがあります(医療ADR・民事調停も同様です。)。

ただし、弁護士が付いたことで病院の対応が変わる場合もありますので、試しに示談交渉の申し入れをしてみる場合もあります。

 

弁護士に調査を依頼する費用

以上のような調査は、通常、弁護士に調査費用と実費を支払って依頼します。

調査費用は、事案にもよりますが、11万円 ~ 44万円程度です。

裁判所に証拠保全の申立てをする必要もある場合は、追加で10万円〜の弁護士費用が必要になります。

実費については、ケースバイケースになりますが、

  • カルテ等の開示費用(数千円 ~ 10万円程度)
  • カルテの翻訳費用(数万円 ~ 数十万円程度)
  • 協力医の面談について支払う謝礼金(3 ~ 5万円程度)

などが必要になります。

 

 

病院に請求できる賠償金の内訳

  • 慰謝料
  • 逸失利益
  • 積極損害

病院側の過失により誤診された場合には、病院側に対し、誤診によって生じた損害を賠償するよう請求することができます。

請求できる賠償金の費目の内訳は、以下のようになります。

 

慰謝料

慰謝料は、によって生じた健康被害による精神的苦痛に対する償いとして支払われるものです。

慰謝料には、主に、次の3種類があります。

  • 死亡慰謝料
  • 後遺障害慰謝料
  • 入通院慰謝料(傷害慰謝料)

上記のほかに、医療過誤事件に特有の慰謝料もあります。

これらについて、簡単にご説明します。

 

死亡慰謝料

死亡慰謝料は、被害者が死亡した場合に支払われる慰謝料です。

死亡慰謝料の額は、交通事故の場合に準じて、家族内での立場(一家の経済的支柱かどうかなど)などにより、2000万円 ~ 2800万円程度で算定されます。

 

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料は、被害者に「これ以上治療を施しても改善が見込めない症状」(後遺障害)が残った場合に支払われる慰謝料です。

後遺障害には、症状の程度に応じて後遺障害等級が定められています。

後遺障害慰謝料は、この後遺障害等級に応じて、110万円から2800万円程度の範囲で算定されています。

 

入通院慰謝料(傷害慰謝料)

入通院慰謝料(傷害慰謝料)は、被害者が入通院をした場合に支払われる慰謝料のことです。

入通院慰謝料の額は、実際に入院・通院した期間に応じて算定します。

死亡慰謝料、後遺障害慰謝料、入通院慰謝料の具体的な金額の目安は、以下のページをご覧ください(なお、以下のページの解説は、交通事故を前提としたものになっています。)

 

医療過誤に特有の慰謝料

以上の慰謝料は、交通事故で発生するものと共通する慰謝料になりますが、そのほかに、医療過誤に特有の慰謝料もあります。

その一つは、「医師の過失と結果の間の因果関係が証明されない場合」にも認められる慰謝料です。

この慰謝料は、たとえば、「病院の過失で誤診されたことは確かで、それにより適切な治療がされず、患者が死亡したけれども、最初に診察・検査した時点で患者は重篤な状態であり、適切な治療が行われたとしても、救命できた可能性は低かった(医師の過失と死亡の間に因果関係が認められない)」という場合に認められることがあります。

このような慰謝料を始めて認めた最高裁判決(最判平成12年9月22日民集54巻7号2574頁)は、以下のように述べています。

判例(過失があった)医療行為と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないけれども、医療水準にかなった医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときは、医師は、患者に対し、不法行為による損害を賠償する責任を負うものと解するのが相当である。

引用元:裁判例結果詳細 | 裁判所 – Courts in Japan

このように、適切な治療が行われていたのであれば、実際に死亡した時点でもまだ患者が生きていた相当程度の可能性があった、と証明できれば、医師の過失と結果の因果関係までは証明できなくとも、病院側に対して慰謝料を請求することができます。

後遺障害が残ったケースでも、適切な治療が行われていれば重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性がある場合に、慰謝料の請求を認める判決が出されています(最判平成15年11月11日民集57巻10号1466頁)。

ほかに、医師の説明が不十分であった場合にも、慰謝料を請求することができます。

医師には、患者が治療について自分で決定する権利(自己決定権)を保障するため、治療に当たって、患者に対して治療方針等について説明し、患者の同意を得る(インフォームドコンセントを行う)義務があります。

これが十分に行われていない場合、医師に義務違反があったとして、慰謝料の請求をすることができます。

インフォームドコンセントについて、詳しくは、以下のページをご覧ください。

 

逸失利益

病院の誤診等がなく、適切な治療が行われて健康が回復していれば得られたはずの収入を、逸失利益といいます。

逸失利益も、病院の誤診による損害賠償の対象となります。

逸失利益は、誤診の結果死亡したとき、又は、後遺障害が残ったときに発生します。

逸失利益の額は、職業、収入、年齢、後遺障害の程度などによって変わってきます。

逸失利益の計算式は、以下のようになります。

  • 後遺障害が残った場合
    基礎収入 × 労働能力喪失率 × 喪失期間に対応するライプニッツ係数
  • 死亡した場合
    基礎収入 ×(1-生活費控除率)× 就労可能年数に対応するライプニッツ係数

逸失利益のより詳しい計算方法については、以下のページで解説しています(なお、以下のページの説明は、交通事故のケースを前提としたものとなっています。)

 

積極損害

病院の誤診があったことにより出費を余儀なくされた費用を積極損害といいます。

積極損害も、損害賠償の対象となります。

積極損害には、治療費、付添費用、介護費用、雑費、通院交通費、バリアフリー化などのリフォーム費用、葬儀費用、弁護士費用などが含まれます。

積極損害についての詳しい説明は、以下のページをご覧ください。

 

素因減額が行われる場合があることに注意!

医療過誤の損害賠償のケースでは、被害者(患者)は、病院で診察を受ける前から既に何らかの傷病を有していることが多いです(例:がん、交通事故被害など)。

そのために、損害賠償額について、「元から病気やケガがあったのだから、そうした元からのケガや病気が寄与して生じている損害の部分については、賠償額も減額される」とする考え方(素因減額)により、賠償額が減らされることがあります。

そのため、医療過誤事件では、最終的に受け取ることができる損害賠償額が低く見えるケースが生じてきます。

 

 

医療過誤への対応のポイント

医療過誤への対応ポイント

医師の過失が認められるかを慎重に検討する

医療過誤があった、と思った場合にも、まずは、医師に過失があると言えるのか、慎重に調査・検討しましょう。

「結果的に誤診だったのだから、医師に過失があるだろう」と思う方もおられるかもしれませんが、実はそうとは限りません。

医療の現場では、一つの症状からさまざまな疾患の可能性が考えられるので、特に初期対応の段階では、十分に注意を尽くしていても、正しい診断ができるとは限りません。

たとえば、同じ腹痛といっても、感染症による胃腸炎、便秘といったものもあれば、虫垂炎、腹膜炎などより重い疾患の場合もあります。

そのため、医師も、患者の症状を見ただけでは、その原因をすぐに判断することができるわけではありません。

症状に加えて検査結果、投薬等の処置に対する反応等を見て、原因を一つ一つ絞り込み、正しい診断へと近づいていくのです。

この過程で、「医療水準に照らせば、○○という症状・検査結果等が出ている時点で○○という診断・治療をするべきであった」という基準(注意義務)があり、医師がそうした対応を行っていなかったのであれば、誤診等について医師に過失がある、ということができます。

しかし、このような注意義務があると認められる場合ばかりではありません。

医学は未だに発展途上のものであり、人体・病気についてはまだまだわからないことが多いだけに、上のような注意義務が成り立つことばかりではないのです。

注意義務が成り立たなければ、医師の過失も認められませんので、まずは、各種ガイドライン、医学文献などを収集し、注意義務が成り立つことを立証することができるか、十分に検討しましょう。

 

因果関係についても考える

医療過誤問題に対応する際には、医師の過失と結果の間の因果関係にも注意しましょう。

たとえ医師に過失があったと認められても、その過失と結果の間に因果関係があると認められなければ、損害賠償が認められなくなるおそれがあります。

ただ、上でもご説明した通り、因果関係が認められない場合でも、「過失がなければ結果が発生しなかった相当程度の可能性」があれば、慰謝料請求が認められる可能性があります。

詳しくは、一度弁護士にご相談ください。

 

和解・示談も検討する

医療過誤に関する紛争は、和解や示談で決着するケースも多いです。

特に、病院が責任を認めている場合は、訴訟をせずとも、示談交渉によって賠償金の支払等を受けられるケースが多いです。

病院が責任を認めていない場合でも、訴訟を起こした後、裁判所からの説得を受けるなどして、和解に応じるケースも多くあります。

実際、裁判となった医療関係事件の半数以上が、和解によって決着しています。

医療過誤に関して病院の責任を追及する場合、和解、示談の可能性があることは、考慮に入れておきましょう。

なお、医療関係事件の和解率については、以下のページをご参照ください。

 

医療過誤に強い弁護士に相談する

誤診などの医療過誤に直面したときは、医療過誤に強い弁護士に相談しましょう。

医療過誤問題は、医療と法律の両方の分野に関する専門知識が必要となる特殊なものなので、医療過誤問題に力を入れている弁護士に相談することがとても重要になります。

医療過誤に強い弁護士に相談・依頼すると、次のようなメリットがあります。

  • 医師の行為が法的に見て「医療過誤」に当たるかどうかについてアドバイスしてくれる
  • 損害賠償額の相場について教えてくれる
  • 病院の責任を追及するために適切な方法(訴訟、医療ADR・民事調停、示談交渉など)を教えてくれる
  • 依頼すれば、カルテ、検査結果、画像検査結果、医療文献などを収集してくれる
  • 適切な協力医を探し、アドバイスを聴いたり、意見書を作成してもらったりできる可能性が高まる
  • 依頼すれば、訴訟、示談交渉などの窓口となって、代わりに活動してくれる
  • 精神的負担を軽くしてくれる

医療過誤を弁護士に相談するメリット、弁護士を選ぶ際のポイントについては、以下のページをご参照ください。

 

 

病院の誤診についてのQ&A

診断ミスは医療過誤に当たりますか?

診断ミスも、医療過誤に当たる可能性があります。

診断ミスが医療過誤に当たるというためには、診断当時の医療水準にかんがみて、「○○という症状・検査結果が出ていた場合は、△△という病気を疑う必要がある」という注意義務があったと認められる必要があります。

こうした注意義務と、医師がそれに違反したことが認められるのであれば、医師に法的な「過失」があったこととなり、医療過誤となります

 

誤診の慰謝料の相場は?

誤診の慰謝料の相場は、生じた結果によって大きく変わります。

誤診により患者が後遺障害を負った場合、慰謝料は、後遺障害の重さに応じて110万円から2800万円となっています。

死亡した場合の慰謝料は、家族内での立場によって、2000万円 ~ 2800 万円程度となります。

これらの慰謝料のほかにも、逸失利益(誤診がなければ得られたであろう収入・利益)、積極損害(治療費、入院雑費、葬祭費など)を請求することができます。

具体的な金額は、患者の年齢、家族構成、収入、入院期間、後遺障害の程度などによって変わってきます。

誤診はあったけれども、その後治療して無事に回復できた場合は、誤診があったことにより余計に必要になった入通院期間に応じて、入通院慰謝料(傷害慰謝料)が算定されることになります。

入通院慰謝料の算定には、「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(日弁連交通事故センター東京支部編)(通称「赤い本」)に掲載されている算定表を用います。

この算定表によると、例えば、1か月の通院を要した場合は28万円程度、1か月入院した後2か月間通院した場合は98万円程度の入通院慰謝料となります。

この場合も、慰謝料に加えて、積極損害(治療費、休業損害、通院交通費など)を請求することもできます。

なお、入通院慰謝料は、入通院の後に死亡した、後遺障害が残ったという場合にも、死亡慰謝料・後遺障害慰謝料と合わせて請求することができます

ほかに、上でもご説明した通り、医療過誤に特有の慰謝料として、

  • 病院側の過失がなければ、結果が生じていなかった相当程度の可能性がある場合の慰謝料
  • 病院側の説明義務違反があった場合の慰謝料

があります。

これらの慰謝料額は、事案によって異なりますが、数十万円から500万円程度となることが多いです。

慰謝料の相場、入通院慰謝料の算定表については、以下のページでも解説しています(なお、以下のページは、交通事故に関するものになります。)。

 

まとめ

今回は、病院に誤診された場合の対処法、医療過誤の賠償金の内訳、医療過誤に対応する際のポイントなどについて解説しました。

病院での誤診により健康被害を受ける可能性は、誰にでもあります。

そのような被害にあった場合は、なるべく早く、医療過誤に強い弁護士に相談することをお勧めします。

当事務所でも、各種事件においてケガ等の医療に関わる問題を多数取り扱い、医学的知識を蓄積してきた人身障害部所属の弁護士たちが、医療過誤問題にお悩みの皆様のご相談をお受けしております。

電話、オンラインによる全国対応も可能です。

病院の誤診などの医療過誤問題でお困りの方は、ぜひ一度、当事務所までお気軽にご相談ください。

あわせて読みたい
相談の流れ

 

 

なぜ医療過誤は弁護士に相談すべき?

続きを読む

まずはご相談ください
初回相談無料