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脳性麻痺とは、出生前から生後4週間までの間に、脳に形成異常や損傷が起こり、筋肉がこわばる、筋力が低下する、自分の意思と関係なく身体が動く、身体が震える、身体のバランスが悪くなる、といった症状が起こるものです。
どのような症状が出るかは、脳のどの部位に損傷・形成異常があるかによって違ってきます。
加えて、脳性麻痺があると、上記のような症状のほかにも、成長・加齢に伴い、頸椎症性脊髄症、変形性頸椎症、脊柱側弯症、股関節障害などの二次障害が出てくるおそれもあります。
ここでは、脳性麻痺について、原因や症状、気が付くタイミング、症状改善の方法などをご紹介し、医療事故で脳性麻痺となった場合の対処法についても解説していきます。
目次
脳性麻痺とは?
脳性麻痺とは、胎児のころから生後4週間までの間に、脳細胞に形成異常や損傷が起こり、運動機能の障害、姿勢の制御に関する機能の障害などが引き起こされる病気です。
脳のどの部分が損傷しているかによって脳性麻痺の症状は変わり、程度も、具体的な症状も様々です。
脳性麻痺の原因とは?
脳性麻痺は、以下のいずれかの時期に脳に形成異常が生じたり、損傷が起こったりすることが原因で発生します。
- 胎児の時期
- 出生時(周産期)
- 出生後(生後4週間まで)
それぞれの時期で、脳性麻痺が生じる原因にも違いがあります。
まず、胎児の時期に脳性麻痺が生じる原因としては、遺伝子異常による脳の形成異常、感染症(風疹、トキソプラズマ症、サイトメガロウイルス感染症、ジカウイルス感染症など)、酸素欠乏、胎児期の血管障害などがあります。
次に、出生時(周産期)に脳性麻痺が生じる原因には、酸素欠乏、脳血管障害、臍帯の異常、早産によって起こる脳室内出血や脳室周囲白質軟化症などがあります。
ほかにも、核黄疸(新生児に強い黄疸が生じた場合に、黄疸の原因となるビリルビンが脳にダメージを与える病気)が原因で脳性麻痺になることもあります。
そして、出生後の脳性麻痺の原因としては、頭部の外傷、低酸素、重度の脱水、髄膜炎、敗血症などがあります。
以上のように、脳性麻痺の原因には様々なものが見られます。
ただし、脳性麻痺の中には、何が原因なのか分からない原因不明のケースも少なからずあります。
脳性麻痺はいつ頃わかる?
赤ちゃんが脳性麻痺であることは、すぐに分かるとは限りません。
症状が重いわけではない場合には、脳性麻痺であることが気づかれないままに成長し、その過程で、
- 首がすわらない
- 1人で座れない
- はいはいや寝返りができない
といったことから、検診などで脳性麻痺を疑われ、診断に至るということもあります。
脳性麻痺はどのような症状?
小児の脳性麻痺の症状
脳性麻痺の症状は、脳のどの部位を損傷しているかによって、以下のように異なるパターンを示します。
アテトーゼ型
アテトーゼ型の脳性麻痺では、手足や体幹が自分の意思と関係なく勝手に動いてしまう不随意運動の症状があります。
痙直型
痙直型の脳性麻痺では、筋肉がこわばり(痙直)、筋力が低下することが主な症状となります。
筋肉のこわばりは、四肢(両手両足)に現れることもありますが、片方の手足だけ、両足だけなどに現れることもあります。
運動失調型
運動失調型では、身体の動きを調整する機能に障害が現れます。
その影響で、身体や手足が震える、身体のバランスが悪くなる、早い動作や細かい動作などが困難になる、歩調が不安定になる、といった症状が現れます。
混合型
痙直型、アテトーゼ型、運動失調型のうちの2つ以上の型の症状があらわれている場合は、混合型と言われます。
脳性麻痺の知能指数
脳性麻痺であっても、必ずしも知的障害を伴うわけではありませんし、知能指数が低くなっているわけでもありません。
ただ、痙直型で四肢に麻痺がある場合、知的障害を伴うことが多くあるようです。
脳性麻痺の顔つき
脳性麻痺の場合に顔つきに特徴があるということはないようです。
大人の脳性麻痺の症状
脳性麻痺の原因となる脳の損傷は、時間がたっても修復されることはありません。
ただ、リハビリテーションにより症状が軽快し、日常生活に支障がない程度になる方もおられます。
一方、成長・加齢に従い、次のような二次障害があらわれることもあります。
- 頚椎症性脊髄症
- 変形性頚椎症
- 股関節障害
- 脊柱側彎症
- 胃食道逆流症
- 呼吸障害
脳性麻痺は治る?
脳性麻痺の原因は、脳細胞の損傷です。
この脳細胞の損傷は、それ自体を治療することが困難であり、根本的な治療を行うことは残念ですが難しいです。
しかし、リハビリテーションにより症状を改善・緩和することは可能な場合もあり、実際にも行われています。
脳性麻痺であっても、症状の程度とリハビリテーションの成果によっては、自立して生活を送ることができる可能性もあります。
患者の症状によって必要なリハビリテーションの内容は変わってきますので、詳しくは、医師などにご相談ください。
医療事故で脳性麻痺となったとき対処法
脳性麻痺は医療事故で起こることもある
脳性麻痺は、医師などのミスによる医療事故で起こることもあります。
脳性麻痺を引き起こす医療事故には、例えば以下のようなものがあります。
- 医師が妊婦の感染症を見逃し、投薬などの適切な対処が遅れたため、胎児に感染して脳性麻痺が生じてしまった
- 早産の徴候に対する適切な措置が行われず、そのせいで早産で生まれた子に脳性麻痺が生じた
- 分娩時の子宮破裂に対する対処が遅れ、胎児が子宮から脱出して胎児機能不全(低酸素状態)となってしまい、脳性麻痺になった
- 子宮収縮薬を使用したところ、陣痛が強すぎて胎児機能不全が生じたが、適切な対応が行われず、生まれた子が脳性麻痺となった
- 生後助産師がミルクを与えていた際、子どもが吐き戻してのどに詰まらせてしまったが、適切な対応がなく、低酸素脳症となって脳性麻痺になってしまった
出産時の医療事故、脳性麻痺につながる医療事故については、以下のページでもご紹介しています。
医療事故によって脳性麻痺が生じてしまった場合には、以下のような対処を行っていきます。
病院に説明・院内調査を求める
医療事故が疑われる場合には、まず、病院に説明を求め、必要に応じて院内調査も行うよう求めることが考えられます。
病院の説明を聞く際、自分たちだけでは不安な場合には、医療事故に強い弁護士に依頼し、同席してもらうことも考えられます。
カルテ開示を求める
病院からの説明だけでは納得できない場合などには、カルテ等の開示を求めることが考えられます。
カルテ等の開示を受けることができれば、弁護士や協力医に見てもらい、事案に即した意見をもらうことができます。
証拠保全を行うことも考える
カルテ等の開示を受けるために、裁判所に証拠保全の申立てをすることもあります。
特に、病院が責任を否定していたり、不合理な弁解をしていたりする場合には、カルテの改ざんが行われるおそれもあるため、証拠保全を積極的に検討します。
証拠保全の申立ては、通常弁護士に依頼して行います。
証拠保全の際の様子については、以下のページをご参照ください。
病院側の責任を追及する
病院側の処置に過失があり、その過失と脳性麻痺の発症の間に因果関係もある、と考えられる場合には、病院側の法的責任を追及することが考えられます。
法的責任を追及する方法としては、次のようなものがあります。
和解交渉をする
医療事故の問題は、病院との和解交渉によって解決することも多いです。
和解交渉では、損害賠償の金額だけでなく、謝罪や再発防止策についても話し合うことができます。
お互いに納得できる内容で合意ができれば、和解を成立させ、病院側への責任追及を終えることができます。
医療事故では和解による解決が多くなっていることについては、以下のページもご参照ください。
訴訟を提起する
和解交渉では納得できる解決ができそうにない場合には、訴訟を提起し、病院の責任を追及することが考えられます。
医療事故の訴訟では、医療と法律の両分野に関する専門知識が重要になりますので、医療事故に強い弁護士を探し、依頼することをお勧めします。
医療ミスに関する訴訟については、以下のページで詳しく解説しています。
民事調停・医療ADRを活用する
訴訟以外にも、民事調停・医療ADRを活用し、損害賠償などを求めることもできます。
これらの手続では、裁判よりも低い費用で、迅速・柔軟な解決を得ることができる可能性があります。
ただ、民事調停・医療ADRでは、いずれの手続きでも、最終的に病院側と患者側が合意して紛争を解決する必要があります。
そのため、病院が責任を負うこと自体を争っているような場合には、民事調停・医療ADRでは解決が難しいかもしれません。
それぞれのケースでどの手続きを行うことが最適かについては、医療事故にくわしい弁護士にご相談ください。
訴訟、民事調停・医療ADRについては、以下のページの解説もご参照ください。
刑事告訴する
捜査機関に刑事告訴を行い、医師の刑事責任を追及することも考えられます。
刑事告訴を行うためには、医師の過失、過失と結果の因果関係などを記載した告訴状を提出しなければなりません。
説得力のある告訴状を作成するには、医療・法律両方の専門知識が必要となりますので、刑事告訴をする場合には、医療事故にくわしい弁護士に相談してみましょう。
なお、医師が有罪となった場合、行政処分(医師免許取消し、医業停止など)が行われる可能性があります。
医師の刑事責任、行政責任については、以下のページの解説もご参照ください。
今後の生活やリハビリテーションについて考える
子どもが脳性麻痺である場合、今後の生活(介護の要否、世話をする人、必要な器具の購入・レンタルなど)のことやリハビリテーションについて検討する必要があります。
担当医や病院の医療ソーシャルワーカーと相談し、リハビリテーションの進め方、介護サービス、公的な援助について相談していきましょう。
産科医療補償制度の申請をする
出産時に脳性麻痺が生じてしまった場合は、産科医療補償制度により補償を受けることができる可能性があります。
産科医療補償制度の対象となれば、医師の過失があったか否かに関わりなく、最大で合計3000万円(一時金600万円、子どもが20歳になるまで月額10万円)の補償を受けることができます。
産科医療保障制度の対象となるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- ① 在胎週数が28週以上あること(2022年1月1日以降に出生した子の場合)
- ② 先天性の要因や新生児期等の要因によらない脳性麻痺であること
- ③ 身体障害者手帳1・2級相当の脳性麻痺であること
*なお、生後6か月未満で子どもが死亡した場合は、補償対象とならない
産科医療補償制度で補償を受けるためには、分娩した医療機関を通じて申請をしなければなりません。
申請期限は満5歳の誕生日までとされていますので、お心当たりのある方は、期限に間に合うように申請手続きを行いましょう。
医療過誤に強い弁護士に相談する
病院側の法的責任を追及することもあるかもしれない・・・とお考えの場合には、なるべく早いうちに、医学的専門知識と法的専門知識の両方を併せ持つ医療過誤に強い弁護士を探し、相談・依頼することを強くお勧めします。
医療過誤の問題では、病院側に法的責任が認められる見込みがあるか、法的責任を認めさせるためにはどのような主張・立証が必要か、といったことを見極めて対応に当たる必要があります。
こうした見極めを適切に行うには、医療過誤に強い弁護士のサポートを受けることが重要です。
この見極めを誤ると、多くの時間、労力を無駄に費やしてしまうことになりかねません。
医療過誤に強い弁護士に相談・依頼することにより、以下のようなメリットも得られます。
- 医師・病院に法的責任が認められるか否かに関する見解を教えてもらえる
- 補償を受けるために必要な手続きについてアドバイスしてもらえる
- 病院との交渉、裁判所などとの折衝の窓口を任せることができる
- 損害賠償額の相場についてアドバイスしてくれる
- 適切な協力医を探し出せる可能性が高くなる
- 必要な資料(カルテ、医学文献など)を揃えてくれる
ご家族の負担をできるだけ軽くし、お子様のリハビリテーションや生活の立て直しに力を振り向けるためにも、早めに医療過誤に強い弁護士を探し、相談することをお勧めします。
医療過誤に強い弁護士に相談するメリット、弁護士選びのポイントについては、以下のページをご覧ください。
脳性麻痺についてのQ&A
脳性麻痺の寿命はどれくらいですか?
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脳性麻痺を患っていても、長生きをしている方もおられます。
ただ、一日中介護が必要とされるほど脳性麻痺の症状が重い場合や、寝たきり状態の場合には、寿命が短くなってしまうケースもあります。
脳性麻痺が寿命に与える影響については、以下のサイトもご参照ください。
アテトーゼ型脳性麻痺はどのようなタイプですか?
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そのため、アテトーゼ型脳性麻痺の方には、左右対称の姿勢が取りにくい、姿勢を保つことが困難である、といった症状があります。
知的障害はないケースが多いのですが、構音障害(言葉の発音が上手くできない障害)や難聴(核黄疸が原因の場合)がある方もおられます。
脳性麻痺の有名人の方はいますか?
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寺田氏は、生まれつき脳性麻痺を患っている、元芸人の車いすYouTuberです。
寺田氏は、日本全国車いすヒッチハイクの旅をし、その模様を動画配信するなどの活動をしてきました。
現在も、障害の有無や年齢に関係なく観光できる「ユニバーサルツーリズム」を広める活動などをしておられます。
まとめ
今回は、脳性麻痺の症状や原因、医療事故で脳性麻痺になった場合の対処法について解説しました。
脳性麻痺は、根本的な治療法がなく、子どもの一生に大きな影響を与えかねない疾患です。
脳性麻痺が医療ミスによって生じたことが疑われる場合には、ご両親とお子様のこれからの生活への不安を少しでも取り除くため、適切な補償を求めることを検討することも考えられます。
もし医療ミスが原因で脳性麻痺となってしまったのではないかとの思いがおありであれば、なるべく早いうちに、一度、医療ミスに強い弁護士にご相談ください。
当事務所でも、人身障害部の弁護士が、人身障害が関わる事件を多数扱う中で培った医学的知識を活かし、脳性麻痺や医療事故についてのご相談に対応しております。
電話・オンラインによる全国からの相談もお受けしています。
お困りの方はぜひ一度、当事務所までお気軽にご連絡ください。