医療ミスを訴えるには、まずは医療ミスの問題に詳しい弁護士を探して相談・依頼することが大切になります。
医療ミスは、いつだれが被害に遭うか分かりません。
医療ミスの被害に遭ってしまうと、健康になろうと思って行った治療で逆に健康を損なうことになります。
医療ミスによって重い後遺障害が残ってしまったような場合や被害者が死亡してしまった場合には、本人や家族の生活も大きく変わってしまいます。
そのようなことになれば、病院に対して怒りを覚え、病院を訴えることを考えることも出てくるかと思います。
弁護士に相談・依頼すると、必要な調査を行うなどして「医療ミスによる病院の法的責任が裁判で認められるか、賠償金はどの程度になるか」について見通しを立て、どのような手続きを行えばよいかアドバイスをしてくれます。
そして、そのアドバイスを基に方針を検討します。
そうして医療ミスを訴えることに決まったのであれば、弁護士に訴訟追行を依頼し、訴状を作成・提出してもらって、裁判を始めます。
今回は、医療ミスを訴えるにはどうすればよいのか、医療ミスを訴える際の費用、ポイントなどについて解説していきます。
医療ミスについて病院を訴えることを検討されている方は、ぜひご一読ください。
医療ミスを訴えるには?
「病院で医療ミスの被害に遭った!」
と思った場合、病院を訴えて賠償金の支払い等を求めようと考えるかもしれません。
しかし、患者自身やご家族だけでは、どのようにして病院を訴えればよいのか分からないことがほとんどだと思われます。
ここでは、医療ミスを訴える際の手順について、簡単にご説明します。
医療ミス問題に詳しい弁護士を探そう
医療ミスを訴える際には、まず、医療ミス問題に詳しい弁護士を探すことが重要です。
医療ミスの裁判は、医療と法律の両分野に関する専門知識が必要となる難しい裁判になりますので、医療ミス問題に精通した弁護士のアドバイスを受けられるかどうかが、その後の進行に大きく影響します。
医療ミス問題に詳しい弁護士を探すことの重要性については、後ほど医療ミスに強い弁護士に相談するの項で詳しく解説します。
今後の方針を決めよう
医療ミス問題に詳しい弁護士を見つけることができたら、その弁護士に相談し、
- 病院を訴えて勝訴できる見込みがあるか(医師に過失があったか)
- 訴訟を起こす以外に、示談交渉をする、医療ADR・民事調停を利用するといった方法をとることができるか
- 損害賠償金を請求できる場合、金額はどの程度になるか
といったことについてアドバイスをもらいましょう。
場合によっては、アドバイスを受ける前に、弁護士に依頼して、カルテの開示、協力医との面談、医療文献の収集といった調査を行う必要があるかもしれません。
医療訴訟を起こした場合の見通し、損害賠償金額の見通しなどがついてきたら、弁護士と一緒に、
- 病院の医療ミスを訴えて裁判を起こすか
- 示談交渉をするか
- 医療ADR・民事調停を活用するか
- 病院の責任追及を止めておくか
など、今後の方針について検討しましょう。
訴状を提出する
医療ミスを訴えるという方針に決まったら、弁護士に訴訟追行を依頼し、訴えを起こします。
訴えを起こす際には、弁護士が訴状を作成し、裁判所に提出します。
訴状が提出されると、裁判所は、第一回期日を指定し、被告に訴状を送達します。
その後、被告から答弁書が提出され、裁判手続きが進んでいきます。
医療裁判の進み方については、以下のページでご紹介しています。
医療ミスを訴えるためにかかる費用
医療ミスを訴える際には、弁護士費用と実費が必要になります。
弁護士費用と実費の目安は、それぞれ以下のとおりです。
*以下の金額は一応の目安であり、法律事務所によって異なります。また、以下に挙げた以外の費用が必要になる場合もあります。
弁護士費用
医療ミスを訴えるなどの手続きを弁護士に依頼する場合の弁護士費用は、以下のようになっています。
項目 | 内容 | 金額の目安 |
---|---|---|
法律相談料 | 弁護士に法律相談をする際に支払う費用 | 30分 5500円~ |
調査料 | 医療ミスによる損害賠償請求が認められる見込みがあるかなどを調査するための費用 | 11万円 ~ 44万円程度 *事案の内容などによる |
着手金 | 弁護士に裁判などの各種手続きを依頼する際に最初に支払う費用 | 示談交渉:22万円 ~ 調停・ADR:44万円 ~ 訴訟提起:55万~ |
報酬金 | 手続き終了後に弁護士に支払う費用 | 得られた経済的利益の11% ~ 33%など |
日当 | 弁護士が出張した場合などに支払う費用 | 1日当たり 1万5000円 ~ |
実費
医療ミスを訴える場合などに必要となる実費の目安は、以下のようになります。
項目 | 金額の目安 |
---|---|
カルテ等の開示費用 | 数千円 ~ 10万円程度(量による) |
証拠保全の際のカメラマン費用 | 数万円 ~ 数十万円(撮影する量による) |
カルテ翻訳費用 | 数万円 ~ 数十万円(翻訳する量による) |
訴え提起の申立手数料(印紙代) | 数万円 ~ 100万円程度(請求金額による) |
面談した医師(協力医)に対する謝礼金 | 3 ~ 5万円程度 |
協力医の意見書作成への謝礼金 | 数十万円 ~ |
印刷代 | 1枚10円程度 |
郵送代 | 数千円 ~(郵送回数による) |
弁護士の交通費、宿泊費 | 移動距離による |
医療ミスを訴える際に必要となる費用については、以下のページでも詳しく解説しています。
医療ミスを訴える場合のポイント
医療ミスを訴える際のポイントとしては、次のようなものがあります。
医師のどの行為を「過失」と捉えるか検討する
医療ミスを訴えるには、訴状に、「医師のこの行為は、○○という注意義務に違反しており、過失である」ということを、明確に記載しなければなりません。
これは、思いの外難しいことです。
医師の行為が過失であるというためには、
- 医師にその行為をしてはいけないという注意義務があったこと
を主張、立証する必要があります。
例えば、手足の切断が医療ミスであるとして訴えを起こすには、「このような症状・検査結果などの場合には、手足を切断してはいけない」などという注意義務が医師にあったことを、実際の事案に即して、具体的に主張・立証しなければなりません。
このような主張・立証が可能かを見極め、的確に主張・立証を行っていくためには、医療に関する専門的な知識が必要になります。
医療文献やガイドラインに関する十分な知識、協力医のアドバイスなどがないままに、素人の判断で「過失」の設定をしてしまうと、医療の専門家である病院から思わぬ反論を受け、患者側の主張が成り立たなくなってしまうおそれがあります。
医療ミスを訴える際は、過失をどのように設定するかについて、十分に検討しましょう。
因果関係を押さえる
過失について検討する際には、因果関係についても押さえておくことを忘れてはいけません。
医師に過失があったとしても、その過失と生じた結果との間に因果関係が認められないと、損害賠償は認められない可能性があります。
たとえば、交通事故で運び込まれてきた患者の緊急手術の際、医師の過失により、体内にガーゼが残ったまま閉腹してしまったけれども、手術終了直後に交通事故によるケガが原因で患者が亡くなった、というケースを考えてみましょう。
この場合、「ガーゼの置き忘れという医師の過失はあったけれども、そのことが患者に影響を与える前に、患者が他の原因で死亡してしまった」と考えられます。
そのため、医師の過失と結果(患者の死亡)の間に因果関係が認められず、死亡という結果に対する損害賠償は認められない、ということになる可能性が高くなります(精神的損害に対する慰謝料のみ認められる可能性は、事案によってはあるかもしれません。)。
そうすると、病院側に損害賠償の支払い義務があるとは認められなくなってしまうおそれがあります。
医師の過失について検討する際には、その過失と生じた結果との因果関係が立証できるかにも注意を払いましょう。
和解や示談もありうる
医療ミス問題は、和解や示談によって解決することが多くあります。
実際、医療裁判の半数以上が、和解により決着しています。
参考元:医事関係訴訟事件の終局区分別既済件数及びその割合|裁判所
医療ミスについて和解・示談をすることには、患者側にとって次のようなメリットがあります。
- 裁判をするための時間・費用・労力を省くことができる
- 判決で「病院に過失はなかった」と認定されてしまうリスクを避けることができる
- 謝罪や説明、再発防止策の策定など、判決では得られない内容を盛り込むことができる
一方、病院側にとっても、示談・和解することには、
- 判決で「病院に過失があった」と認定されてしまうリスクを避けることができる
- 裁判の準備や証人尋問による医師、スタッフへの負担をなくすことができる
といったメリットがあります。
そのため、病院側にも、示談や和解を積極的に検討する傾向があります。
医療ミスを訴えることを考えている場合でも、和解や示談によって解決できる可能性があること、和解や示談による解決にもメリットがあることを知っておきましょう。
医療裁判の和解率などについては、以下の記事が参考になります。
医療ミスに強い弁護士に相談する
上に挙げたようなポイントを外すことなく医療ミスを訴えるには、医療ミスに強い弁護士に相談・依頼することが重要になります。
医療ミスに強い弁護士であれば、医療と法律の両方の分野についての専門知識を身に付けています。
そのため、医療ミスに強い弁護士に相談・依頼することができると、
- 医師のどの行為を捉えて「過失」と主張するかを的確に判断できる
- それぞれの事案に合った協力医を見つけられる可能性が高い
- 医療・法律の専門知識が関わる問題を、依頼者に分かりやすく説明することができる
- 医学文献を的確に見つけ出し、内容について裁判官に説明できる
- カルテ、検査結果などを理解し、患者側の主張に合わせる形で説明できる
- 病院側の主張・反論に対して適切に対応できる
- 医療ミスを訴えて勝訴できそうかの見通しについてアドバイスしてくれる
- 損害賠償額がどの程度になりそうかについてアドバイスしてくれる
といったメリットを得られます。
医療過誤に強い弁護士に依頼するメリット、医療過誤に強い弁護士を探すためのポイントなどについてより詳しく知りたい方は、以下のページをご参照下さい。
弁護士や協力医のアドバイスについて考える
弁護士や協力医に相談すると、専門的な見地から、それぞれに様々なアドバイスをしてくれます。
ただ、その中には、依頼者にとって辛い内容が含まれることもあります。
医療ミスによる法的責任を問うことは簡単ではありませんので、「この状況では医師に過失があると認められる見込みが薄い」「医師の過失と結果の間に因果関係が認められそうにない」などと言われることも、決して珍しくはないのです。
病院のせいで健康被害を受けた、大切な人を失ってしまった、というお気持ちがある依頼者の方にとって、こうしたアドバイスは、受け入れがたいものかもしれません。
このような意見が出された場合、もちろん、その弁護士や協力医が言うことが全てではありませんので、他の専門家の意見を求めることも考えられますし、弁護士などの意見に反して訴えを起こすこともできます。
ただ、弁護士や協力医は、ほとんどの場合、専門家として、依頼者に対して誠実に、アドバイスを行っています。
裁判を起こすとなると、当事者は、時間や費用、労力を大きく取られることになりますし、争いの渦中に身を置くことによる精神的な負担も大きくなります。
そのような負担を負いながら裁判を戦ったにもかかわらず、敗訴してしまったとなると、依頼者にとっては大変辛いことになってしまいます。
そうした結果を避けるため、弁護士や協力医は、勝訴できる可能性について厳しい見解も伝えているのです。
もちろん、敗訴の可能性が高くとも裁判で決着を着けたいという方もおられますし、そのような考えが間違っているとはいえません。
意見を聞いた弁護士や協力医が、必ずしも正しいとも限りません。
ただ、敗訴する可能性が濃厚な裁判を起こすと、大きな負担を負ったにもかかわらず、何の成果も得られなかった・・・ということになる可能性もありますので、弁護士や協力医から出た厳しい意見についても、一度は冷静に検討していただくことをお勧めします。
医療ミスを訴えることに関するQ&A
医療ミスの示談の相場はいくらですか?
示談金の額に影響する主な要素としては、
- 病院の法的責任が認められる見込みの程度
- 病院の医療ミスによって引き起こされた被害の程度
があります。
例えば、病院の法的責任が認められる見込みが強く、その医療ミスによって患者が死亡している場合だと、示談金の額は判決で認められる損害賠償額に近いものになり、被害者の年齢、収入などにより、数百万円 〜 数千万円、多い場合だと1億円を超える金額になります。
病院の法的責任が認められる見込みは強くはないけれども、病院の行為(避けられなかった手術の合併症など)によって、失明、両下肢の麻痺など重い後遺障害を負ってしまった場合などには、示談金が数百万円となることもあります。
一方、病院の法的責任が認められる見込みが薄く、生じた被害も一時的な体調不良程度の場合には、示談ができたとしても、示談金は数万円 ~ 数十万円程度になることも考えられます。
医療ミスの裁判の勝率は?
この数字を見ると、医療訴訟で勝訴するのは難しそうだ・・・と感じられるかと思います。
しかし、実は、医療ミスの裁判では、訴えが起こされたうちの半数超が、和解により終局しています。
和解で決着した場合、ほとんどのケースでは病院から和解金が支払われますので、医療ミスの裁判の半数超が、実質勝訴(又は一部勝訴)と同等の成果を収めているともいえます。
ただし、医療ミスに関しては、訴える前の調査などで、弁護士や協力医から、「医師の過失が認められそうもない」との意見が出され、裁判を起こすこと自体を諦めているケースも数多くある、といった実情もあります。
まとめ
今回は、医療ミスを訴える際にはどうすればよいのか、医療ミスを訴える際の費用、ポイントなどについてご説明しました。
医療ミスは、被害者の健康を損ない、場合によっては、重い後遺障害が残る、被害者が死亡する、といった結果をも引き起こす、重大な問題です。
医療ミスが疑われる場合、まずは医療過誤に強い弁護士にご相談ください。
そうすれば、弁護士から、病院側の法的責任が認められる見込みなどについてアドバイスを受けることができ、訴訟を起こす場合にも、代わって手続きを行ってもらうことができます。
当事務所でも、医療知識が関わってくる問題を数多く取り扱ってきた弁護士たちが所属する人身障害部において、医療ミスに関するご相談に対応しております。
電話・オンラインによる全国からのご相談にも対応しております。
医療ミスの被害に遭ったとお考えの方は、ぜひ一度お気軽に、当事務所までご連絡ください。