病院を訴えるのにかかる費用は事案によりますが、数十万円〜数百万円は要することが多いでしょう。
「医療ミスの被害に遭ってしまった・・・。病院を訴えたい!」という場合、ほとんどの方は、弁護士に相談し、裁判手続きを依頼します。
弁護士に相談・依頼するとなると、弁護士費用が必要になってきます。
弁護士費用というと「高額だ」というイメージを持っている方が多いので、「病院を訴えるといくらかかるのか・・・」と心配になる方も多いと思います。
また、病院を訴える際には、弁護士費用に加えて、裁判所に納める申立費用、調査費用、カルテ開示に係る費用、協力医への謝礼金などの実費も必要になってきます。
病院を訴える際にはカルテ開示など医療訴訟特有の手続きも必要となってくるので、それらにかかる実費についてもあらかじめ確認しておかないと、予想外に出費がかさむことになる可能性もあります。
今回は、病院を訴える場合に必要となる費用の目安及び内訳、費用を下げるための方策などをご説明し、実際に要する費用について、具体例に基づいてシミュレーションしつつ、ご紹介します。
病院を訴えるのにかかる費用の内訳
病院を訴える際にかかる費用には、大きく分けて、弁護士費用と実費があります。
さらに、弁護士費用にも実費にもそれぞれ内訳があります。
それぞれの内訳について解説していきます。
弁護士費用の内訳
病院を訴える場合の弁護士費用には、法律相談料、調査費用、着手金、報酬金、日当等が含まれます。
それぞれの内容、金額の目安は次のとおりです。
*以下で挙げる金額は目安であり、実際の金額は、事案の内容、法律事務所ごとの規定などによっても異なります。
法律相談料
- 法律相談料 30分5500円~
法律相談料は、病院を訴えることについて弁護士に法律相談をする際に必要となる費用です。
多くの場合、30分5500円~となっています。
法律相談料については、初回無料としている法律事務所もあります。
なお、弁護士に依頼することを決めて委任契約を結べば、その後は、依頼した問題について相談する際に相談料が発生することは、原則としてありません。
調査費用
- 調査費用 11~44万円程度
*証拠保全が必要な場合は、追加で10万円~
病院を訴える場合、事前に綿密な調査が必要になります。
事前の調査としては、例えば、次のようなことを行います。
- カルテ開示の請求
- カルテの証拠保全
- 患者側からの事情の聴き取り
- 医学文献の調査
- 判例調査
- 場合によっては、協力医との面談・意見聴取など
これらの調査を経た上で、損害賠償請求をできるかどうかを検討し、実際に病院を訴えるかどうかなどの方針について、依頼者の方と話し合いながら決めていきます。
こうした事前の調査に要する費用は、事案の複雑さ、治療期間の長さなどによって異なってきますが、おおむね11万円~44万円程度となることが多いです。
証拠保全が必要な場合には、追加で10万円~の弁護士費用が必要となる場合もあります。
また、後ほど解説するとおり、調査の際には、カルテ開示費用、カルテの翻訳費用等の実費も別途発生してきます。
着手金
- 示談交渉 22万円~
- 調停・ADR 44万円~
- 訴訟提起 55万円~
着手金は、弁護士に各種手続き(示談交渉、調停、ADR、裁判等)を依頼するときに、最初に支払う費用です。
裁判で判決が出た後、不服があって控訴(又は上告)する場合も、改めて着手金が必要になります。
着手金の額は、依頼する手続きによって異なり、おおむね上記のようになっています。
報酬金
- 報酬金 得られた経済的利益の11%~33%程度
報酬金は、手続きが終了した時に弁護士に支払うものです。
報酬金は、得られた経済的利益の11%~33%程度とされることが多いです。
そのため、原則的には、訴訟で敗訴した場合など経済的利益が得られなかった場合は、報酬金は発生しません。
ただし、「着手金無料」としている法律事務所など一部の法律事務所では、経済的利益が得られなくとも一定額の報酬金を支払わなければならないとされている場合もあります。
弁護士に依頼する場合には、報酬金の規定についても、しっかりと確認するようにしましょう。
日当
- 日当 1日当たり1万5000円~
弁護士に支払う日当は、弁護士が遠方に出張した場合に必要となる費用です。
事件を審理している裁判所が弁護士の事務所から遠方にあり、証人尋問などのために出張が必要な場合などに発生します。
日当の金額は、距離にもよりますが、1日当たり1万5000円~5万円程度となることが多いです(法律事務所によっても異なります。)。
実費の内訳
病院を訴えるなどする場合に必要となる実費としては、次のようなものがあります。
*以下の金額は目安であり、実際の費用は、弁護士の活動内容、法律事務所ごとの基準などにより異なります。
- カルテ等の開示費用:数千円~10万円程度(量による)
- 証拠保全をした場合のカメラマン費用:数万円から数十万円(撮影する量による)
- カルテの翻訳費用:数万円~数十万円(翻訳する量による)
- 訴え提起の際に納付する申立手数料(印紙代):数万円から100万円程度(請求金額による)
- 協力医との面談の際の謝礼金:3~5万円程度
- 協力医の意見書作成への謝礼金:数十万円~
- 印刷代:1枚10円程度
- 郵送代:数千円~(郵送回数による)
- 弁護士の交通費、宿泊費:移動距離による
医療過誤問題を弁護士に依頼する場合の費用については、以下のページもご参照ください。
病院を訴える費用を下げるには?
上記したように、病院を訴える際にかかる費用は、決して安いものではありません。
病院を訴える費用を下げることは、できないのでしょうか?
ここでは、病院を訴える費用を下げるためのポイント、注意点などについて、ご説明していきます。
無料法律相談を利用する
法律相談は、無料で実施されていることがあります。
例えば、市役所などでは、定期的に無料法律相談を実施しているところがあります。
収入、資産に関する条件を満たせば、法テラスでの無料法律相談も受けられます。
また、各地の弁護士会の中にも、無料法律相談を行っているところがあります。
法律事務所の中にも、初回の法律相談を無料としているところもあります。
こうした無料法律相談を利用することで、法律相談料を節約することができます。
無料法律相談を利用する際には、充実した助言を得るためにも、
- 診療等に関する資料
(例)カルテ、検査結果、診断書、医師等から渡された説明書、同意書、お薬手帳など
- 損害に関する資料
(例)医療費の明細書、通院費等の明細書・領収証、通院日が分かるメモ等、給与明細、源泉徴収票など
などがあれば、持参するようにしましょう。
複数の法律事務所で見積もりをとる
弁護士費用の決め方は法律事務所ごとに異なっていますので、弁護士費用を節約したい場合は、複数の法律事務所の費用を比較してみることが大切です。
ただし、弁護士費用等の内訳は、調査に関する着手金、訴訟等の手続のための着手金、報酬金、日当、実費・・・など多岐にわたり、複雑なものになっていますので、話を聞いただけでは、弁護士費用の比較をすることは難しいです。
病院を訴えることを依頼する弁護士を選ぶために費用について比較したい場合は、法律相談の際に頼んで、きちんと見積もりを出してもらうようにしましょう。
複数の弁護士事務所から見積もりを取り、分からないところ、はっきりしないところは、弁護士にさらに詳しく聞いてみるようにすると、それぞれの法律事務所について、最終的にどの程度の費用がかかりそうか明確になり、依頼する法律事務所を決めやすくなります。
方針を慎重に検討する
後ほど「病院を訴える費用をシミュレーション」の項でもご説明しますが、弁護士費用や実費の金額は、どのような手続きを行うかによって大きく変わってきます。
そのため、費用を抑えることを考える場合は、訴訟を行うか、医療ADR・調停を活用するか、示談交渉で済ませることを優先するか、又は病院の責任追及自体止めておくことにするか、といった手続きに関する方針を慎重に検討することも必要になってきます。
特に、医師の過失が明らかに認められるわけではない、裁判をすると敗訴する可能性が高い、などという場合には、訴訟を起こしても賠償金が得られるとは限らず、費用倒れに終わる可能性もあります。
費用や勝訴の見込みなどについても弁護士とよく相談し、どのような手続きを行っていくかの方針を検討するようにしましょう。
法テラスの弁護士費用等立替制度を利用する
収入・資産、勝訴の見込みなどに関する条件を満たせば、法テラスによる弁護士費用等の立替制度を利用することができます。
この制度を利用すれば、弁護士費用や実費を一時的に立替払いしてもらい、後から無利息で分割返済することができます。
ただし、法テラスを利用することができない事務所もありますので、事前に確認するようにしましょう。
参考:弁護士・司法書士費用等の立替制度のご利用の流れ | 無料法律相談・弁護士等費用の立替 | 法テラス (houterasu.or.jp)
「着手金無料」に注意!
法律事務所の中には、法律相談料だけでなく、着手金を無料にしているところがあります。
着手金は通常数十万円程度必要となりますので、これが無料となると、「大変お得だ」と思われる方も多いかもしれません。
しかし、着手金を無料としている法律事務所では、報酬金、日当その他の費用がどのように決められているかに注意する必要があります。
法律事務所によっては、着手金を無料とする代わりに、
- 報酬金の割合が通常よりも高く設定されている
- 結果的に経済的利益を得られない場合でも、一定額の報酬金の支払い義務が発生することになっている
といった契約になっていることがあります。
そのため、契約内容によっては、着手金を支払う必要のある弁護士の方が、費用負担の総額を抑えられることもあります。
また、弁護士に依頼する時には、「病院から賠償金を取れれば、その中から報酬金を支払えばよい」と考えてしまいがちになります。
しかし、実際には、依頼者が期待していたほどの賠償金を取れないことも多いですし、賠償金を全く取れないこともあります。
そのような場合に、比較的高い報酬金を支払う必要がある、又は、経済的利益の有無に関わらず一定額の報酬金を支払う必要があるとなると、当初思っていた以上の経済的不利益を被るかもしれません。
仮に賠償金が得られなかったとしても報酬金を支払うことができるか、賠償金が少なかった場合に、その多くの部分を報酬金として支払わなければならなくなっても大丈夫か、といった点については、よく確認しておくようにしましょう。
他にも、着手金無料の法律事務所の中には、
- 出張の際の日当が高く設定されている
- 着手金有料の事務所よりも負担しなければいけない実費の範囲が広い
といった事務所もあり、注意が必要です。
費用だけに注目して弁護士を選んでいいの?
ここまで、「病院を訴えたいけれども、費用はそれほどかけたくない」という場合に、費用負担を下げるためのポイントについて解説してきました。
ただ、ここでご注意いただきたいのは、弁護士費用が低くて済む(又はそのように見える)弁護士に依頼することだけで、経済的な面で良い結果につながっていくわけではないということです。
医療訴訟は、医療と法律の両分野に関する専門知識が必要になる、高度に専門的な分野です。
そのため、医療訴訟に詳しい弁護士に依頼できるか否かで、裁判の結果や裁判に要する期間に違いが出てくる可能性があります。
医療訴訟は、弁護士にとっても、特殊かつ高度な知識・経験を要するものですので、残念ながら、全ての弁護士が、医療訴訟に十分に対応できるだけの知識・経験を有しているとは限りません。
そのため、費用の点ばかりに着目して弁護士を選んでしまうと、医療訴訟に詳しくない弁護士に依頼してしまい、結果的に、敗訴して賠償金を得られなかった、賠償金を得られたが少額だった、といったことになってしまう可能性があります。
そうすると、場合によっては、最終的に、想定外の損をしてしまった・・・ということにもなりかねません。
医療訴訟を依頼する弁護士を決める際には、費用に関する話を詳しく聞いたり、見積もりを取ったりすることはもちろん大切ですが、その弁護士が医療訴訟に対応できる知識・経験を有しているかにも注意するようにしましょう。
医療訴訟に強い弁護士を探す際のポイントなどについては、以下のページで詳しく解説しています。
病院を訴える費用をシミュレーション
病院を訴える場合等の費用について、具体例を基にシミュレーションしてみましょう。
調査の上で示談交渉した後、病院を訴えた場合
まずは、初回法律相談をおこなった上で事前調査を行い、示談交渉をしたけれども、決裂し、病院に対して訴訟を起こすことになり、判決で700万円の賠償金を獲得した場合について見てみましょう。
この場合にかかる費用は、以下のようになります。
なお、以下では、初回の法律相談料は無料としています。
項目 | 費用の目安 |
---|---|
法律相談費用 | 1時間半1万6500円(30分5500円)→初回のみ無料 |
調査費用 | 22万円 |
着手金(示談交渉) | 22万円 |
着手金(訴訟提起) | 55万円 |
報酬金 | 210万円(経済的利益の30%) |
実費 | 25万円(訴訟提起のための印紙代等) |
合計 | 334万円 |
調査を行った後示談交渉をし、示談を成立させることができた場合
次に、初回法律相談(無料)を経て調査を行った後、訴えを提起する前に病院側と示談交渉をし、示談金を500万円とするなどの内容で示談が成立し、解決した場合の費用を見てみます。
項目 | 費用の目安 |
---|---|
法律相談費用 | 1時間半1万6500円(30分5500円)→初回のみ無料 |
調査費用 | 22万円 |
着手金(示談交渉) | 22万円 |
報酬金 | 150万円(経済的利益の30%) |
実費 | 2万円(事案によって変動します。) |
合計 | 196万円 |
調査の結果、法的手続きは行わないこととした場合
弁護士に相談(初回無料)し、病院の法的責任の有無について調査をしたけれども、調査結果を聞いて、病院を訴えるのを止めた場合には、費用は以下のようになります。
項目 | 費用の目安 |
---|---|
法律相談費用 | 1時間半1万6500円(30分5500円)→初回のみ無料 |
調査費用 | 22万円 |
実費 | 2万円(事案によって変動します。) |
合計 | 24万円 |
弁護士費用等に影響を与えるのは何か?
弁護士費用等の額に影響を与える要素の一つは、得られた経済的利益の額です。
多くの法律事務所では、裁判・示談交渉などの手続をしたことによって依頼者が得られた経済的利益の額が多いほど、報酬金も多額になる仕組みになっています。
そのため、得られた経済的利益の額(判決で認められた賠償金の額、示談金の額など)が多くなれば多くなるほど、弁護士に支払う報酬金も多額になるのです。
もう一つの要素は、「どのような手続きを行ったか」です。
上でも見たように、訴訟を提起する前に示談で決着すれば、裁判のための着手金や訴え提起のための申立手数料を支払わなくて済みます。
一方、協力医の意見書をもらい、裁判も起こすなど、行う手続が増えてくると、その分費用も増えてきます。
どのような手続きを行うかについては、費用の点も含めて、弁護士とよく相談しましょう。
病院を訴える費用についてのQ&A
裁判に負けたら費用はどちらが負担するのですか?
そのため、裁判を提起した原告側が負けたら、被告側が負担した費用も含めて、原告側が訴訟費用を負担しなければなりません。
実際に訴訟費用を相手方に請求するには、一方の当事者が裁判所書記官に申し立てて、訴訟費用額の確定手続を行う必要があります(民事訴訟法71条)。
ただ、この訴訟費用額の確定手続は、申立てがなく、行われない場合もあります。
その場合には、それぞれの当事者が既に支出した費用については、そのまま支出した側が負担することになります。
なお、弁護士費用は、敗訴者に実際の金額で負担させることはできません。
弁護士費用については、損害賠償の一項目として、相手方に請求することができるにとどまります。
ほとんどの場合、損害賠償請求で認められる弁護士費用は、弁護士費用以外の損害の1割程度となっています。
医療訴訟は難しいですか?
最も大きな理由は、医療訴訟を有利に進めるためには、医療と法律の両分野に関する専門知識が必要になることです。
病院側には、医療の専門家である医師と法律の専門家である弁護士がついているため、どうしても専門知識の点で患者側より有利になる傾向があります。
それに、医療訴訟では、場合によっては、意見書を書いてくれたり、カルテを見るなどしてアドバイスしてくれたりする協力医を探す必要があるのですが、それぞれのケースにふさわしい協力医を見つけることは大変難しいです。
このように、医療訴訟には医療・法律両分野の知識が必要であること、患者側よりも病院側の方がこれらの知識にアクセスしやすいこと、協力医探しも難しいことが、医療訴訟の難しい点になります。
実際、医療訴訟について出された判決の中で、一部でも勝訴できた割合は、2割程度となっています。
ただ、医療裁判の半数程度は和解で終わっています。
和解をする場合、何らかの和解金を受け取っている、患者側の要望(再発防止、説明など)が受け入れられているということがほとんどですので、実質的に一部勝訴の結果を得ることができているといえます。
そのため、実際には、裁判になったケースのうちの半数以上が、少なくとも一部勝訴の成果を得ていると言ってよいでしょう。
とはいえ、訴訟提起前の調査で「勝訴の見込なし」となり、病院を訴えること自体を諦めているケースも多くあることにも注意が必要です。
医療裁判の勝訴率・和解率、医療裁判が難しい理由については、以下のページをご参照ください。
まとめ
今回の記事では、病院を訴える際にかかる費用の目安と内訳、費用を下げるためのポイントなどについて解説しました。
病院を訴えるには、弁護士費用と実費が必要になります。
実際にどのような金額になるかは、事件・手続の内容、依頼する法律事務所によっても変わってきます。
病院を訴えるかを検討する際は、医療訴訟に強い弁護士に相談して賠償金を獲得できるかの見通しをつけること、弁護士費用等の相見積もりを取り、納得できる法律事務所を探すことなどが大切になります。
当事務所では、交通事故事件を多数取り扱うことで医療知識を蓄えてきた弁護士たちによって構成される人身障害部が、病院を訴えることをご検討されている方々のご相談をお受けしております。
もちろん、弁護士費用等に関する見積もりもお出ししております。
電話・オンラインによる全国からのご相談にも対応しておりますので、お困りの方はぜひ一度、当事務所までお気軽にご相談ください。