医療過誤の和解金の相場は、死亡あるいは後遺症の有無・程度によって大幅に変わり、数万円から数億円の幅があります。
近年、手術のミスによって患者が死亡したといったケースが報道されています。
事故や病気によって病院に通院・入院した際に、医療従事者のミスによって怪我の悪化や死に至った場合、被害者やその遺族は病院に対して損害賠償請求をすることができます。
もし、被害者やそのご遺族が病院に対して訴訟を起こした場合、最終的な判決が出るまで年単位の時間がかかります。
もっとも、被害者及びその遺族の早期救済の点からも病院側と和解となるケースが多くあります。
この和解金は、被害者の状況によって大幅に変わるため注意が必要です。
このページでは、医療過誤の和解金の相場について、解説していますので、参考にされてください。
医療過誤の和解金とは
医療過誤の和解金とは、医療過誤によって患者に生じた損害を補填し解決するために病院や医師が支払うお金のことです。
和解金の金額の妥当性を考える際には、裁判になるとどの程度の金額になるかを考えることが大切です。
裁判になった場合に補償してもらえる金額とかけ離れている場合には、裁判をして適切な補償をしてもらうべきです。
他方で、裁判をした場合と同水準か、それに近い水準の金額であれば、和解して和解金として受領し早期解決することも検討すべきでしょう。
こうした判断は専門知識を要しますので、和解金の妥当性については専門の弁護士に相談されることをお勧めします。
医療過誤の賠償金とは
医療過誤の賠償金とは、加害者側から被害者側に対して医療過誤によって発生した各損害項目に応じて支払われるお金です。
医療過誤の賠償金として受け取れる可能性のある損害は以下の通りです。
- 治療費
- 通院交通費
- 入通院付添費
- 入院雑費
- 休業損害
- 後遺障害逸失利益
- 死亡逸失利益
- 葬儀費用
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 死亡慰謝料
なお、医療過誤により被害者が亡くなってしまった場合には、被害者のご遺族が被害者本人の加害者側に対する損害賠償請求権を相続したものとして、上記損害を請求することになります。
他にも、被害者のご遺族自身にも損害賠償請求権が認められています。
具体的には、医療過誤によって親族が亡くなった場合に、ご遺族が受けた精神的苦痛について被害者本人とは別に遺族固有の損害賠償請求権が認められています。
交通事故と同様に計算する
医療過誤の上記損害は、交通事故で発生する損害とほとんど同じです。
なぜなら、交通事故も医療過誤も加害者側による過失という点で民事上の責任を負うことになるからです。
そのため、交通事故の損害額の計算方法を参考にすると良いでしょう。
賠償金の自動計算機
医療過誤の損害額計算は交通事故の損害額計算が参考になります。
慰謝料、休業損害、逸失利益については計算方法が決まっていることから加害者側にいくら請求できるかについて被害者の方々がご自身で計算することができます。
とはいっても、被害者の方々が計算方法に関する情報を収集して計算するには手間と時間がかかると思われます。
弊所では、慰謝料、休業損害、逸失利益について計算シミュレーターをご用意しております。
既にご説明した通り、医療過誤の場合も交通事故の損害額計算は参考になりますので、ぜひご活用いただければと思います。
慰謝料・休業損害・逸失利益の自動計算機については下記のページをご覧ください。
医療過誤の慰謝料の相場とは?
医療過誤の慰謝料には相場が存在します。
この相場はもし訴訟を起こした際に判決という形で認められる可能性がある金額という意味です。
死亡慰謝料の相場
死亡慰謝料の相場としては、2000万円 〜 2800万円です。
死亡慰謝料は、亡くなられた被害者の方の属性によって金額が異なります。
- 一家の支柱:2800万円
- 母親、配偶者:2500万円
- 独身の男女、子供、幼児等:2000万円 〜 2500万円
個別具体的な事情を踏まえて慰謝料が増減します。
後遺障害慰謝料の相場
後遺障害慰謝料の相場は、110万円 〜 2800万円です。
後遺障害慰謝料の相場は、後遺障害として認定された際の等級によって決まります。
後遺障害等級 | 慰謝料 |
---|---|
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
なお、認定された等級に応じて必ず等級に応じた慰謝料が出るという訳ではなく、上記慰謝料は目安であり、個別具体的な事情によって増減します。
入通院慰謝料の相場
入通院慰謝料は、症状怪我の程度と入通院期間の長さをもって計算されます。
入通院慰謝料の相場としては、通院1日あたり2711円 〜 9333円、入院1日あたり7555円 〜 1万7666円です。
そして、入院・通院期間に応じて慰謝料の金額が定められています。
例えば、症状が軽い場合であって、通院期間が1ヶ月の場合には、19万円の通院慰謝料といった形で定められています。
また、医療過誤の慰謝料の計算方法は交通事故の慰謝料計算と同じです。
そこで、交通事故における慰謝料の計算方法を参考にすると良いでしょう。
積極損害とは?
積極損害とは、下記損害項目のことをいいます。
- ① 治療関係費
- ② 付添費用
- ③ 将来介護費用
- ④ 雑費
- ⑤ 通院交通費・宿泊費等
- ⑥ 学生・生徒の学習費用
- ⑦ 家屋・自動車改造費
- ⑧ 葬祭関係費
- ⑨ 弁護士費用
- ⑩ 遅延損害金
①治療関係費
治療関係費とは、病院での治療にかかった費用をいいます。
ただ、無制限に認められるというものではなく、事故と相当因果関係が認められる範囲に限られます。
②付添費用
付添費用には、入院付添費と通院付添費の2つがあります。
入院付添費とは、医療過誤の結果、入院を余儀なくされた場合、被害者の家族等の付添が必要となった場合に認められる可能性がある費用のことをいいます。
入院付添費が認められる可能性がある場合は、医師から入院中は被害者に付き添うように指示があった場合や被害者が幼児や児童である場合です。
通院付添費とは、病院に通院するにあたって、幼児や児童の場合、一人で通院することができないため付き添った家族等の付添費用をいいます。
③将来介護費用
医療過誤によって後遺障害が残ってしまい将来的に介護が必要となる場合に、この介護費用について病院側に請求できる可能性があります。
金額については、交通事故の場合、職業的な看護・介護者の付添人の場合は実費全額、近親者付添人の場合は1日8000円と設定されていることが参考になります。
④雑費
雑費には、大きく分けて入院雑費と将来発生する雑費2つがあります。
入院雑費については、交通事故の場合、日額1500円と設定されているため、この金額が参考となります。
将来発生する雑費については、重い後遺障害が残ってしまい、衛生用品等が将来的に継続して必要となった場合に発生する費用です。
将来発生する雑費についてはどのようなものが必要でどれくらいの費用となるのかを主張立証する必要があります。
⑤通院交通費
通院交通費として認められる場合としては、公共交通機関を利用した場合、タクシーを利用した場合(ただし、症状の程度や交通機関の便を考慮し、タクシーが相当である場合)、自家用車を利用した場合です。
⑥学生・生徒の学習費用
医療過誤による入院等によって進級が遅れてしまった場合、学費等が余計にかかってしまうことがあります。
そうした場合に、上記費用について加害者側に請求することができます。
⑦家屋・自動車改造費
医療過誤によって身体に障害が残った場合、かかる障害の程度が重たい場合、家屋や自動車をバリアフリー化が必要となる場合があります。
そこで、上記バリアフリー化のために発生した費用について加害者側に請求することができます。
⑧葬祭関係費
医療過誤の結果、被害者が亡くなってしまった場合、葬祭関係費用が発生します。
葬祭関係費用として加害者側に認められる可能性のある金額は150万円程度です。
もっとも、個別具体的な事情を踏まえて上記金額は増減することがあります。
⑨弁護士費用
被害者の方々が弁護士を通じて加害者側に賠償金を請求する場合、弁護士費用が発生します。
仮に、加害者側に訴訟を提起した場合には、裁判所が認める損害額の約10%が弁護士費用となります。
⑩遅延損害金
医療過誤を始めとした不法行為について、加害者側は医療過誤が発生した時点から被害者に対して損害を賠償する義務があります。
遅延損害金について民法改正前は年5%、民法改正後は3%の割合で加害者側に請求することができます。
消極損害とは?
消極損害とは、下記損害項目のことをいいます。
- ① 死亡による逸失利益
- ② 後遺障害の逸失利益
- ③ 休業損害
死亡による逸失利益
死亡による逸失利益とは、医療過誤が原因で亡くなってしまった場合、将来得ることができたはずの収入が得られなくなったことに対する補償のことをいいます。
死亡による逸失利益が具体的にいくらになるかについては、計算式が下記の通り定まっています。
死亡逸失利益の詳細につきましては下記のページをご覧ください。
後遺障害の逸失利益
医療過誤が原因で、体に後遺障害が残ってしまった場合、その後遺障害が原因で労働能力が低下した結果、将来の収入が減少してしまう可能性があります。
そこで、後遺障害による将来の収入の減少を補償するものとして逸失利益があります。
後遺障害の逸失利益についても具体的にいくらになるかについては、計算式が下記の通り定まっています。
休業損害
医療過誤の結果、入院や通院のために仕事を休まざるを得なかったことによる収入減収のことをいいます。
休業損害の計算方法は下記のとおりです。
収入日額と休業日数を確認するために休業損害証明書、医療過誤が発生した年の前年度の源泉徴収票、所得証明書を用意する必要があります。
また、個人事業主の場合は、医療過誤が発生した年の前年度の確定申告書が必要となります。
なお、個人事業主については会社員とは異なり、給料という形で継続的に会社から支払われるものではなく、月毎に売り上げがばらつく場合があります。
そうなると、将来的な個人事業主の売り上げがどのくらい減るのかについて事前に予測を立てて算定することは非常に困難なので、請求が難しい場合もあります。
そこで、一度弁護士に相談すると良いでしょう。
休業損害の詳細につきましては下記のページをご覧ください。
医療過誤の賠償金請求のポイント
①損害の証明資料を集める
医療過誤を証明するには、その証拠を集めなければなりません。
証拠の例としては、病院が作成した診断書、診療録(カルテ)、検査画像、医師の意見書などです。
訴訟を起こす場合には、被害者あるいはその遺族のお話だけでは医療従事者のミスを立証することは難しいです。
そこで、客観的な証拠である診断書等を提出する必要があります。
ここで注意しなければならないのは、上記証拠はほとんどの場合病院側が持っているということです。
そのため、病院側が自身に不利となるような証拠を隠したり、捨てたりしてしまう可能性があります。
このような病院の対応を阻止するための方法として、証拠保全(民事訴訟法234条)という手続き
があります。
引用元:民法|e-Gov法令検索
裁判所を通して病院側が持っている被害者の医療記録を抑えることができます。
また、証拠保全手続において、病院側がわざと証拠を隠していることが後々ばれた場合は、裁判官は隠している証拠から認定できる事実について存在するものとして扱うことができます。
以上の通り、医療過誤においては、証拠保全が重要となります。
②医療過誤にくわしい弁護士に相談する
医療過誤は法的観点からの医学的な知識が必要となります。
そこで、医療過誤に詳しい弁護士に相談することで法的に何が重要なポイントであるかを知ることができます。
具体的には、加害者側に対する請求が認められるか否かのポイントである①加害者側の注意義務違反の有無と②注意義務違反と損害発生との間の因果関係について的確なアドバイスを受けることができます。
- ① 加害者側の注意義務違反
- ② ①と損害発生との因果関係
①加害者側の注意義務違反とは、加害者側にどのような落ち度があったかということです。
手術する患者を取り違えたといった明らかなミスであれば分かりやすいですが、投薬の量が間違っていたというような医学的知識が必要となるミスとなると一般人では判断がつきにくいところです。
そこで、弁護士が被害者の方々の代わりに調査をし、場合によっては専門医の話を聞いた上で法的に加害者側に注意義務違反があることを主張することになります。
②①と損害発生との因果関係とは、上記注意義務違反によって被害者に後遺障害が残ってしまった、あるいは亡くなってしまったといえる関係にあることが必要です。
この因果関係についても、医学的知識がなければ関係性を判断できない場合には、弁護士が被害者の方々の代わりに調査をし、場合によっては専門医の話を聞いた上で法的に②①と損害発生に因果関係があると主張することになります。
また、既にご説明した通り、医療過誤においては病院の診断書等の証拠が非常に重要になってきます。
もっとも、重要なことは分かっているもののいざ取得しようと思ってもどうすれば良いか分からない場合が多いかと思われます。
そのような時は是非一度医療過誤に詳しい弁護士に相談して頂ければと存じます。
また、弁護士に依頼することによって加害者側とのやりとりを任せることができ、精神的な負担が軽減されます。
医療過誤に詳しい弁護士に相談すべき理由についての詳細については下記のページをご覧ください。
まとめ
以上の通り、医療過誤の和解金・賠償金の相場について解説をいたしました。
医療過誤の和解金・賠償金の相場及び計算方法については交通事故の損害計算が参考となります。
弊所では交通事故に関する損害計算に関する多数のWEB記事を掲載しておりますのでご参考にしていただければと思います。
また、既にご説明した通り、医療過誤においては病院側が持っている診断書等の客観的な証拠が非常に重要となります。
治療後に後遺障害や亡くなられた原因として医療過誤が疑われる場合には、病院側が上記証拠を捨てたり隠したりする前に早急に保全をする必要があります。
そこで、医療過誤に強い弁護士に一度ご相談ください。
当事務所には、医療過誤に対応できる弁護士が所属しております。
そのため、医療過誤によって後遺障害が残ってしまった方々や被害者のご遺族を強力にサポートすることができます。
LINE等のオンラインや電話相談を活用して全国対応も行っていますので、お困りの方は、お気軽にご相談ください。