労災で給料はどうなる?何割減る?弁護士が解説

労災で休業する場合でも、会社からの休業補償や、給料に代わる給付として労災保険から休業(補償)給付の支給を受けられます。

労災のために仕事ができない状況になった場合、その間の給料がどうなるのか、労災からどの程度の給付がされるのかといったことで不安を感じられる方も多いようです。

労災で給料がどうなるかを知っておくことにより、そのような不安を解消し、仕事に復帰するまでの期間を有意義に過ごすことも可能となります。

そこでこの記事では、労災で給料がどうなるかについて、労災と給料の関係や労災による給付の内容、給料以外の補償などにも触れながら、弁護士が解説します。

適切な補償を受け労災による被害を回復するには、これらについての正しい知識を身に付けておくことが重要です。

労災で給料がどうなるかについて関心がおありでしたら、ぜひ最後までお読みください。

労災で給料はどうなる?

労災で休業する場合でも、会社からの休業補償や、給料に代わる給付として労災保険から休業(補償)給付の支給を受けられます。

一般的には、何らかの事情によって出勤できない場合には給料はゼロとなるのが普通です。

民法は、「労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。」と定めており、これを「ノーワーク・ノーペイの原則」といいます(民法624条1項)。

参考:民法|電子政府の総合窓口

これは、給料は労働の対価として支払われるものであるため、労働していないのであれば給料が発生する余地はないという考えに基づくものです。

ただし労働基準法では、労働者が業務災害の療養のために出勤できない場合は、会社はその間平均賃金の60パーセントの休業補償を行うことが義務づけられています(労働基準法76条1項)。

参考:労働基準法|電子政府の総合窓口

また、労災として認定されると、労災保険から休業給付として給料の80パーセント相当額の給付を受けることができます(休業特別支給金20パーセントを含む)。

 

 

労災と給料の関係

労災で出勤できない場合、会社からの休業補償や、労災給付としての休業補償給付が支給されると解説しました。

ここでは、労災と給料の関係について、もう一歩踏み込んで解説します。

 

労災の休業補償とは?

労働者が業務上の事由による負傷や疾病による療養のために労働することができず、賃金を受けられない場合に支給されるのが、労災の休業補償給付です。

前記のノーワーク・ノーペイの原則は、働かなければ給料がもらえないというある意味で当然のことを言っているにすぎませんが、労災を原因として仕事ができない場合にまったくの無給となる状況を容認してしまうと、労災のリスクをすべて労働者に負わせることになりあまりに酷といえます。

そこで、労災によって給料の支払いを受けられない場合のために、労災保険からの給付として休業補償給付という制度が設けられているのです。

休業補償給付の額は給料の60パーセントですが、別途休業特別支給金として20パーセント相当額が支給されるため(労働者災害補償保険特別支給金支給規則3条1項本文)、合算すると給料の8割相当額がカバーされることになります。

参考:労働者災害補償保険特別支給金支給規則|電子政府の総合窓口

なお、労災事故が会社の業務を原因とする業務災害ではなく、通勤中の事故である通勤災害の場合は、「休業給付」の支給となりますが、給付内容は休業補償給付と変わりません。

また、休業補償給付が支給されるのは、休業4日目以降です(労働者災害補償保険法14条1項)。

参考:労働者災害補償保険法|電子政府の総合窓口

労災の支給対象とならない最初の3日間は「待機期間」と呼ばれ、この間は、災害が会社の業務を原因とする「業務災害」である場合に限り、会社から休業補償として給料の60パーセントが支給されます(労働基準法76条1項)。

参考:労働基準法|電子政府の総合窓口

「休業補償」を、字面の印象だけで休業に対する補償と漠然と捉えてしまうと、以上のような細かな違いを混同してしまいますので注意してください。

支給元 対象災害 対象時期 支給割合
労働基準法の休業補償 会社 業務災害 休業開始から3日間 60パーセント
休業補償給付 労災保険 業務災害 休業4日目以降
休業給付 通勤災害
休業特別支給金 労災法による社会復帰促進等事業 業務災害、通勤災害 20パーセント(休業(補償)給付に上乗せ)

労災の休業補償についての詳細は、こちらの記事をご覧ください。

 

休業補償は給料をもらっていると支給されない!?

労災の休業補償は、給料をもらっていると支給されません。

休業補償は労災による収入減を補うためのものであり、給料が支給されているのであれば補償の必要がないためです。

このことは法律の条文上も、「労働することができないために賃金を受けない日の第四日目から支給する」として明記されています(労働者災害補償保険法14条1項)。

参考:労働者災害補償保険法|電子政府の総合窓口

給料をもらっているのに休業補償まで支給されると二重取りのような形となってしまうため、重複支給されない制度設計となっているということです。

なお、半日だけ出勤するなどして1日の給料の一部が支給されたような場合では、部分算定といって支給を受けた給料を除外した部分に対して休業補償給付を受けることができます(同項ただし書)。

 

 

給料が減った分を会社に請求できない?

ここまでご紹介してきたとおり、労働災害により給料の支払いを受けられない場合は、労災による休業補償給付として、給料の約6割相当額が補償されます。

これは給料の支払いを受けられない状況にある労働者にとってはありがたい反面、労災に遭わなければ給与の満額が支払われていたわけですので、差額分の減収が生じているということができます。

このような減収は一種の損害といえますので、会社の法的責任を追及することによって回復できる可能性があります。

会社の負っている法的責任とは、従業員に対する「安全配慮義務」のことを指します。

なお、減収について会社に損害賠償請求する場合、休業特別支給金が支給されていることは考慮されませんので、労災からは給与の6割相当額が給付されていることになり、給料の4割に当たる額が損害となります。

 

会社の安全配慮義務違反とは?

会社の安全配慮義務とは、会社が従業員を働かせるにあたって、その身体生命等の安全を確保するように配慮する義務のことをいいます。

このような配慮は会社からのサービスではなく、労働契約法という法律によって定められた法的義務なのです(労働契約法5条)。

参考:労働契約法|電子政府の総合窓口

つまり、労働災害に関して会社が安全配慮義務を十分に尽くしていなかった場合、会社は法律上の義務を遵守しなかったことになるのです。

これが会社の「安全配慮義務違反」と呼ばれるものです。

労災において会社が負担すべき損害賠償等の詳細については、こちらの記事をご覧ください。

 

安全配慮義務違反に基づく休業損害の請求

労災によって4割の減収が生じ、その原因として会社の安全配慮義務違反がある場合、被災した従業員は、会社の義務違反によって金銭的な損害を被っているということができます。

このような場合、その損害については、会社の法的責任を追及して損害賠償として請求することが可能です。

損害賠償を請求するにあたっては、会社側に義務違反があったことを立証する必要があるため、それなりのハードルはありますが、業務に起因して発生するという労働災害の性質上、会社側になんらの責任もないというケースはさほど多くないと考えられます。

実際、法的責任を否定することの難しさや、従業員に対する補償を十分に果たしたいといった理由から、自主的に満額の補償を行っている会社もあります。

会社が安全配慮義務を尽くしてもなお労災が発生したという事案もないわけではないため、すべての事案で満額の補償を受けられるとは限りませんが、実際には多くのケースで、労災の6割に上乗せして、勤務先からの補償を受けられることがあります。

もし、会社に責任があると思えるにもかかわらず、そのような補償をしてくれないといった事情がおありの際は、労災に強い弁護士に相談されることをおすすめします。

労災問題を弁護士に相談するメリットについては、こちらの記事をご覧ください。

 

 

減った給料以外の補償も重要!

労災からの6割給付に、会社の安全配慮義務違反に基づく補償を合わせると、給料の満額が補償されることになります。

ここに別途休業特別支給金として給料の20パーセントが支給されるため、法律は労災による休業に対して手厚い給付を設けているといえます。

 

労災による休業補償給付以外の給付内容

労災保険では、休業補償給付以外にも、労働者のおかれた状況に対応するための様々な給付が用意されています。

休業補償給付以外の労災給付としては、次のようなものがあります。

それぞれの給付の詳細については、別記事でご紹介しています。

労災による休業補償給付以外の給付内容

療養(補償)給付

労災による負傷や疾病の治療に必要な治療費が支給されます。

支給は原則として医療サービスの現物給付となりますので、自己負担なく医療機関を受診
することができます。

 

障害(補償)給付

労災のために一定の後遺障害が残った場合、障害の程度(等級)に応じて、年金又は一時金が支給されます。

 

遺族(補償)給付

被災者が死亡した場合、その遺族に対して年金又は一時金が支給されます。

 

葬祭料・葬祭給付

被災者が死亡した場合、葬祭を行う者に対して葬儀費用が支給されます。

 

傷病(補償)年金

療養開始後1年6か月を経過しても症状が治ゆせず、その症状が所定の等級に該当する場合に支給されます。

 

介護(補償)給付

障害(補償)年金又は傷病(補償)年金の受給者のうち、一定の障害により常時又は随時介護を要する状態にある場合に支給されます。

労災の詳しい補償内容については、こちらの記事をご覧ください。

 

慰謝料等の損害賠償請求について

以上のように、労災給付には休業に対する補償以外にも多種多様な給付が設けられています。

ただしその中には、労災被害に遭ったことによる精神的苦痛に対する慰謝料は含まれていません。

たとえば、労災によって治療費や休業などで50万円の損害が発生し、これに対して50万円の給付がされたとします。

この場合、金銭的に見れば生じた損害はすべて償われてはいますが、それによって労災による被害がすべて解消されたということはできません。

金銭的にプラスマイナスゼロなのであればはじめから事故に遭わない方がよく、痛い思いをした分だけ「損」をしている、といった感覚はご理解いただけるかと思います。

このような精神的苦痛という「損」についても、法律上は「財産以外の損害」として賠償の対象に位置付けられており、「慰謝料」と呼ばれます(民法710条)。

参考:民法|電子政府の総合窓口

精神的苦痛も法的には損害の一種であって賠償されるべきものではあるのですが、労災制度はあくあまで経済的な損失を補填するための制度であることから、慰謝料については給付対象とされていません。

このため、慰謝料については、会社に対して損害賠償の形で支払いを求めることになります。

労災での会社の損害賠償責任についての解説は、こちらの記事をご覧ください。

 

 

労災と給料についてのQ&A

労災の休業補償はいつもらえる?

労災の休業補償が支給されるのは、労災を申請してから1~2か月後が目安となります。

労災給付は、労働災害に遭った場合に自動的に支給されるわけではなく、労働基準監督署に対して申請を行い、事故が労働災害に該当することの認定を受ける必要があります。

その調査に時間を要することから、実際の給付は労災の申請から1~2か月後となるケースが多いです。

なお、これは標準的な目安であり、調査が長期化するような事案ですと、その分支給開始時期も後ろにずれ込むこととなります。

労災の休業補償について、さらに詳しい解説はこちらの記事をあわせてご覧ください。

 

 

まとめ

この記事では、労災で給料がどうなるかについて、労災と給料の関係や労災による給付の内容、給料以外の補償などを踏まえて解説しました。

記事の要点は、次のとおりです。

  • 労災で休業すると会社からの休業補償のほか、労災保険からの給付によって、休業4日目以降は給料の8割相当額が支給される。
  • 労災給付では休業特別支給金を除くと給料の60パーセントしか支給されないほか、慰謝料が支給対象とならないなど不十分な側面もあり、会社の安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求することが考えられる。
  • 損害賠償の請求など、労災に関して法的な対応が必要な場合は、労災に強い弁護士に相談することが効果的である。

当事務所では、労災問題を多く取り扱う人身障害部の弁護士が相談から受任後の事件処理を行っています。

また、電話相談、オンライン相談(LINE、ZOOM、Meetなど)により、全国対応が可能ですので、お気軽にご相談下さい。

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