労基署から、労働安全衛生法違反を指摘されるのは、例えばどのような場合ですか?
安全衛生管理体制整備の違反、労基署への報告違反、労働者の心身の健康管理の違反、就業制限に関する違反などです。
労基署の姿勢
厚生労働省は、「平成29年度地方労働行政運営方針」の中の、労働基準担当部署の重点施策の1つとして、「労働者が安全で健康に働くことができる職場づくり」をあげています。
そのため、労働安全衛生問題は、労基署が非常に重視する事項といえます。
そして、この中に記載されている「イ 第12次労働災害防止計画の最終年度における労働災害を防止するための安全対策」の項目の中で、下図の業種について言及されている点(重点業種への取組み)が注目されます。
重点業種への取組みの概要(平成29年度地方労働行政運営方針より)
① 第3次産業
労働災害発生件数の多い小売業、社会福祉施設及び飲食店を最重点業種として労働災害防止のための周知、指導を行うこと等
例:安全衛生方針の作成、作業マニュアルの作成・周知
各店舗・施設で行う安全衛生管理活動(4S活動、KY活動、ヒヤリハット活動、危険箇所の「見える化」等)の決定
② 陸上貨物運送事業
陸上貨物運送事業における荷役作業の死亡災害の約8割を占める5大災害(①墜落・転落、②荷崩れ、③フォークリフト使用時の事故、④無人暴走及び⑤トラック後退時の事故)を防止するために、「陸上貨物運送事業における荷役作業の安全対策ガイドライン」の中の重点実施事項について陸上貨物運送事業者 に対し、周知、指導を行うこと等
③ 製造業
製造業の労働災害の約3割を占める「はさまれ・巻き込まれ」災害等の労働災害を 防止するために、災害を発生させた機械を使用する事業者に対して当該災害に係る再発 防止対策の指導を行うこと等
④ 建設業
建設業の労働災害の約4割を占める「墜落・転落」災害を防止するために、足場からの墜落防止措置の強化等に係る改正労働安全衛生規則の周知徹底を図ること等
労働安全衛生法
労働安全衛生法は、労働基準法と相まって、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化および自主的活動の促進の措置を講ずるなど、その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的としています(安衛法第1条)。
本法は、
① 事業場の安全管理衛生体制の整備
② 労働者の危険・健康障害を防止するために事業者の行う措置
③ 危険・有害物の規制
④ 労働者の就業に当たっての措置(安全衛生教育、就業制限)
⑤ 心身の健康の保持促進のための措置(作業環境測定、健康診断、ストレスチェックなど)
⑥ 快適な職場環境の形成のための措置
⑦ 罰則
等が規定されています。
また、労働安全衛生法に関する数多くの規則によって、支えられています。
労基署が注目するものには、例えば、安全衛生管理体制整備の違反、労働者危険等防止の違反、労基署への報告違反、労働者の心身の健康管理の違反等があります。
安全衛生管理体制の整備
労働安全衛生法は、労働者の安全と健康を確保するために、事業者に対して事業場ごとに安全衛生管理体制の整備を求めています。
具体的には、業種や常時使用する労働者数等によって、①総括安全衛生管理者、②安全管理者、③衛生管理者、④安全衛生推進者、⑤産業医、⑥作業主任者、⑦安全委員会、⑧衛生委員会の設置・選任義務があります。具体的には、下図のとおりです。
安全衛生管理体制
① 総括安全衛生管理者
ⅰ 建設業、運送業、清掃業
⇒ 常時使用する労働者が100人以上
ⅱ 製造業、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、
各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等小売業
各種商品小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業
自動車整備業、機械修理業
⇒ 常時使用する労働者が300人以上
ⅲ その他の業種
⇒ 常時使用する労働者が1000人以上
② 安全管理者
①のⅰ・ⅱの業種で、かつ常時使用する労働者が50人以上
③ 衛生管理者
常時使用する労働者が50人以上
④ 安全衛生推進者
常時使用する労働者が10~49人
⑤ 産業医
常時使用する労働者が50人以上
⑥ 作業主任者
危険有害作業及び作業主任者の資格(図表74)
⑦ 安全委員会
屋外作業的業種または工業的業種において、常時使用する労働者がそれぞれ50人以上、または100人以上
⑧ 衛生委員会
常時使用する労働者が50人以上
危険有害作業及び作業主任者の資格
一 高圧室内作業(高圧室内作業主任者免許) |
二 アセチレン溶接装置又はガス集合溶接装置を用いて行う金属の溶接、溶断又は過熱の作業(ガス溶接作業主任者免許) |
三 機械集材装置若しくは運材索道の組立て、解体、変更若しくは修理の作業又はこれらの設備による集材若しくは運材の作業(林業架線作業主任者免許) |
四 ボイラー(小型ボイラーを除く。)の取扱いの作業(取り扱うボイラーの電熱面積等により、特級・1級・2級ボイラー技士免許、ボイラー取扱技能講習) |
五 放射線業務に係る作業(エックス線作業主任者免許) |
六 ガンマ線照射装置を用いて行う透過写真の撮影の作業(ガンマ線透過写真撮影作業主任者免許) |
七 木材加工用機械を5台以上有する事業場において行う当該機械による作業(木材加工用機械作業主任者技能講習) |
八 動力により駆動されるプレス機械を5台以上有する事業場において行う当該機械による作業(プレス機械作業主任者技能講習) |
九 危険物等に係る乾燥設備等による物の加熱乾燥の作業(乾燥設備作業主任者技能講習) |
十 コンクリート破砕器を用いて行う破砕の作業(コンクリート破砕器作業主任者技能講習) |
十一 掘削面の高さが2メートル以上となる地山の掘削(地山の掘削及び土止め支保工作作業主任者技能講習) |
十二 土止め支保工の切りばり又は腹おこしの取付け又は取りはずしの作業(地山の掘削及び土止め支保工作業主任者技能講習) |
十三 ずい道等の掘削の作業又はこれに伴うずり積み、ずい道支保工の組立て、ロックボルトの取付け若しくはコンクリート等の吹付けの作業(ずい道等の掘削等作業主任者技能者) |
十四 ずい道等の覆工の作業(ずい道等の覆工作業主任者技能講習) |
十五 掘削面の高さが2メートル以上の岩石の採取のための掘削の作業(採石のための掘削作業主任者技能講習) |
十六 高さが2メートル以上のはいのはい付け又ははいくずしの作業(はい作業主任者技能講習) |
十七 船舶に荷を積み、船舶から荷を卸し、又は船舶において荷を移動させる作業(船内荷役作業主任者技能講習) |
十八 型わく支保工の組立て又は解体の作業(型わく支保工の組立て等作業主任者技能講習) |
十九 つり足場、張出し足場又は高さが5メートル以上の構造の足場の組立て解体又は変更の作業(足場の組立て等作業主任者技能講習) |
二十 高さが5メートル以上の建築物の骨組み又は塔で、金属製の部材で構成されるものの組立て、解体又は変更の作業(建築物等の鉄骨の組立て等作業主任者技能講習) |
二十一 金属製の橋梁の上部構造(高さが5メートル以上又は橋梁の支間が30メートル以上)の架設、解体又は変更の作業(鋼橋架設等作業主任者技能講習) |
二十二 軒の高さが5メートル以上の木造建築物の構造部材の組立て又はこれに伴う屋根下地若しくは外壁下地の取付けの作業(木造建築物の組立て等作業主任者技能講習) |
二十三 高さが5メートル以上のコンクリート造の工作物の解体又は破壊の作業(コンクリート造の工作物の解体等作業主任者技能講習) |
二十四 コンクリート造の橋梁の上部構造(高さが5メートル以上又は橋梁の支間が30メートル以上)の架設又は変更の作業(コンクリート橋架設等作業主任者技能講習) |
二十五 第一種圧力容器の取扱いの作業
イ 化学設備に係る第一種圧力容器の取扱いの作業(化学設備関係第一種圧力容器取扱作業主任者技能講習) ロ イ以外のもの(特級・1級・2級ボイラー技士免許、化学設備関係第一種圧力容器取扱作業主任者技能講習、普通第一種圧力容器取扱作業主任者技能講習) |
二十六 特定化学物質等を製造し、又は取り扱う作業(特定化学物質及び四アルキル鉛等作業主任者技能講習) |
二十七 鉛業務に係る作業(鉛作業主任者技能講習) |
二十八 四アルキル鉛等業務に係る作業(特定化学物質及び四アルキル鉛等作業主任者技能講習) |
二十九 酸素欠乏危険場所における作業
イ 酸素欠乏危険作業場所における作業(酸素欠乏危険作業主任者技能講習又は酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者技能講習) ロ 酸素欠乏症、硫化水素中毒の危険場所における作業(酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者技能講習) |
三十 屋内作業場、タンク、船倉、坑の内部その他一定の場所において有機溶剤を製造し、又は取り扱う作業(有機溶剤作業主任者技能講習) |
三十一 石綿等を取り扱う作業又は石綿等を試験研究のため製造する作業(石綿作業主任者技能講習) |
労基署への報告違反
労働安全衛生法上、常時使用する労働者が50人以上の際に必要な管理者等の報告、健康診断(定期健康診断・特殊健康診断)の結果報告、事故の際の報告(労働者死傷病報告)が義務づけられています。
特に労働者死傷病報告書の提出義務違反は、いわゆる労災かくしとして、労基署は厳しい対応で臨んでいます。
総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告
労働者の心身の健康管理
労働者の心身の健康管理については、健康診断とストレスチェック制度が重要です。
就業制限に関する違反
就業制限に関する違反とは、例えば、免許や必要な技能講習を受けていないにもかかわらず、これが必要な業務に従事させることをいいます。
労働安全衛生に関する問題では、専門化弁護士によるサポートが必要不可欠なこともあります。
こうした問題でお悩みの方は労働問題に精通した弁護士にご相談されることをお勧めします。