通勤災害の休業補償とは、従業員が通勤中の事故が原因で仕事を休まなければならなくなった場合に、仕事ができなかった分の給料の一部の補償のことをいいます。
通勤中に事故にあわれた場合、休業補償を受け取ることができます。
休業補償は、休業補償として給付基礎日額(≒1日あたりの給料)の60%、特別支給金として給付基礎日額(≒1日あたりの給料)の20%、合計80%の補償が仕事を休んだ分だけ支給されます。
ここでは、通勤災害や休業補償の全体像について説明したうえで、休業補償を受け取るための手続きや労災保険から補償されなかった場合の対処法などを詳しく解説しておりますので、ご参考にされてください。
目次
通勤災害の休業補償とは?
通勤災害とは?
通勤災害とは、従業員が、出勤または退勤の途中の事故が原因で、負傷、病気、障害、死亡することをいいます。
具体的には、次のようなケースが通勤災害にあたります。
具体例
- 自宅から勤務先に自家用車で通勤している途中で、加害者の車両と衝突し交通事故にあったケース
- 勤務先から帰宅している途中に、建設現場に積み上げられていた鉄筋が落ちてきて負傷、障害、死亡したケースなど
ただし、仕事帰りに、パチンコに寄ったり、プライベートの飲み会に行ったりした場合には、原則として、その後の帰宅途中で事故にあったとしても通勤災害にはあたりません。
通勤災害の概要や補償内容、手続き等について詳しく確認されたい方は以下の記事をご確認ください。
休業補償とは?
休業補償とは、事故にあったことが原因で仕事を休まざるを得なくなり、これによって、会社から給料を受け取ることができなくなった場合に受け取ることができる補償のことをいいます。
休業補償を支給してもらうためには、以下の①〜③のすべての条件を満たす必要があります。
- ① 業務上の理由や通勤によって負傷したり、疾病にかかったりしたこと
- ② 通勤災害にあったことが原因で労働できないこと
- ③ 会社から賃金を支払ってもらっていないこと
労災(業務災害と通勤災害)の休業補償については、下記の記事でも解説しておりますのでご覧いただければと思います。
休業補償には、①休業給付と②休業特別支給金の2種類があります。
休業給付
休業給付は、「給付基礎日額」の60%にあたる金額になります。
「給付基礎日額」の60%にあたる金額を算定した後、休業日数を乗じることで補償される休業給付の金額を計算することができます。
詳しくは、以下の「休業補償の計算方法」をご参照ください。
休業特別支給金
休業特別支給金は、「給付基礎日額」の20%にあたる金額を受け取ることができます。
「給付基礎日額」の20%にあたる金額が算定できたら、その金額に休業日数を乗じることで、受け取ることができる休業特別支給金の金額を算定することができます。
詳しくは後述する「休業補償の計算方法」をご確認ください。
休業補償の計算方法・金額については以下の記事でも解説しておりますので、気になる方は以下の記事もご覧ください。
通勤災害の休業補償はいくらもらえる?
休業補償の自動計算ツール
当事務所では、通勤災害にあわれた方が、休業補償としてどのくらいの金額を受け取ることができるのか知りたい場合にお使いいただける自動計算ツールをご準備しております。
ただし、休業補償の具体的な金額は、厳密には複雑な計算が必要になってきますので、自動計算ツールで算出できるのはあくまでも概算となります。
そのため、専門家である弁護士に相談する時間がなかったり、相談することまでは考えていないが休業補償のだいたいの金額が知りたい方は、遠慮なく以下の自動計算ツールをお使いください。
休業補償の計算方法
休業補償には、(a)休業給付と(b)休業特別支給金の2種類があります。
(a)休業給付は、「給付基礎日額」の60%にあたる金額が支給されます。
そのため、休業給付の金額は以下の計算式によって算出します。
(b)休業特別支給金は、「給付基礎日額」の20%にあたる金額が支給されます。
よって、休業特別支給金は、以下の計算式で計算します。
具体的に、休業補償の金額を出すためには次のようなステップを踏みます。
①「給付基礎日額」を計算する
「給付基礎日額」は以下の計算式によって計算します。
事故直前3ヶ月間の給料の総額について、例えば、令和5年9月15日に通勤災害にあった場合、令和5年6月、7月、8月の給料(本給+付加給)を総じて足した金額が事故直前3ヶ月間の給料の総額となります。
また、事故直前3ヶ月の暦日数について、例えば、令和5年9月15日に通勤災害にあった場合、令和5年6月、7月、8月の暦日数を足すため、事故直前3ヶ月の暦日数は、30日(6月)+ 31日(7月)+ 31日(8月)= 92日となります。
従業員が、令和5年9月15日に通勤災害にあったとします。
この従業員は、給料として、令和5年6月〜8月まで毎月27万円を受け取っていました。
この場合、「給付基礎日額」は以下の金額となります。事故直前3ヶ月間の給料の総額
= 27万円 × 3ヶ月
= 81万円事故直前3ヶ月の暦日数
= 30日(6月)+ 31日(7月)+ 31日(8月)
= 92日「給付基礎日額」
= 81万円 ÷ 92日
= 8913円
②「給付基礎日額」の80%にあたる金額を算出する
休業補償には、休業給付と休業特別支給金の2種類があります。
休業給付は、「給付基礎日額」の60%に相当する金額が給付されます。
休業特別支給金は、「給付基礎日額」の20%に相当する金額が給付されます。
そのため、休業補償として補償されるのは、「給付基礎日額」の80%に相当する金額となります。
③②で算出した金額に休業日数を乗じる
休業日数とは、通勤災害が原因で仕事を休むことになった日数(土日祝日、会社の所定休日も含まれます。)の合計のことをいいます。
ただし、通勤災害の場合、休業1日目から3日目までは「待機期間」と呼ばれ、休業日数としてカウントしませんので、注意しましょう。
そのため、休業4日目からカウントし、通勤災害が原因で仕事を休んだ日数を出します。
通勤災害の場合、休業1日目は、通勤災害にあった日のことをいいます。
例えば、令和5年7月20日に通勤災害にあった場合、休業1日目は令和5年7月20日になるため、令和5年7月20日、21日、22日が待機期間となります。
なお、業務災害の場合、休業1日目は事案によって異なるため、注意するようにしましょう。
上記②で計算した金額に休業日数を乗じて出た金額が休業補償となります。
上記具体例を前提に、従業員が、令和5年9月15日に通勤災害にあったことが原因で、令和5年9月15日から令和5年10月31日まで仕事を休んだとします。この場合、令和5年9月18日から休業日数をカウントするため、休業日数は44日となります。
④休業補償の金額を算定する。
【休業給付】以上の具体例を前提にすると、休業給付の金額は以下のようになります。
8913円×60%×44日=23万5304円(1円未満は切り上げ)
【休業特別支給金】
また、休業特別支給金の金額は以下のようになります。
8913円 × 20% × 44日 = 7万8435円(1円未満は切り上げ)
通勤災害の休業補償については、以下の記事でもご説明しておりますので、以下の記事もご参照ください。
通勤災害の休業補償はいつもらえる?
通勤災害の休業補償は、通常、申請をしてから約1ヶ月ほどで支払われます。
ただし、通勤災害の発生状況や労働基準監督署の対応等によっては、休業補償の支払時期が前後する可能性があります。
このように、通勤災害の休業補償の支払いは、申請から時間がかかることが一般的であるため、できるだけ早く休業補償の申請をすることをおすすめいたします。
休業補償の支払い期間については、以下の記事でも分かりやすく解説しておりますので、ぜひご確認ください。
通勤災害の休業補償はいつまでもらえる?
通勤災害の休業補償は、次の条件をすべて満たす限り、休業4日目から治療終了日(症状固定日)まで受け取ることができます。
- ① 業務上の理由や通勤によって負傷したり、疾病にかかったりしたこと
- ② 通勤災害にあったことが原因で労働できないこと
- ③ 会社から賃金を支払ってもらっていないこと
休業補償の支払い期間については、以下の記事で分かりやすく解説しておりますので、ご覧ください。
通勤災害の休業補償の必要な手続き
通勤災害の休業補償を支給してもらうためには、次のような手続きをする必要があります。
①請求書(様式第16号の6)を入手する
休業補償を受け取るための請求書の入手方法は、以下の2つが考えられます。
お近くの労働基準監督署にお問い合わせいただき、労働基準監督署で受け取ることができます。
以下の厚生労働省のダウンロードページからダウンロードして入手することもできます。
②必要事項を記載の上、会社と医師の証明をもらう
休業補償を受け取るために必要な手続きとなっています。
会社からは、記載内容に間違いがないことの証明をもらう必要があります。
医師からは、傷病の部位及び傷病名や療養の期間などを記入してもらった後、記入した内容に間違いがないことを証明してもらうために署名をもらう必要があります。
具体的には、以下の記入例をご参照ください。
③労働基準監督署に請求書を提出する
②で作成した請求書を被災事業場の所在地の労働基準監督署に提出する必要があります。
提出方法としては、次の2つの方法がありますので、いずれかの方法で提出してください。
- 従業員が、労働基準監督署に直接提出する。
- 会社を通じて、労働基準監督署に提出する。
なお、休業補償の申請は、給料を受けられなくなった日の翌日から計算して2年を超えてしまうと、時効によって請求できなくなってしまいます。
そのため、休業補償の申請は、できる限り早めにするようにしましょう。
④労働基準監督署が書面審査・調査を行う
被災事業場の所在地の労働基準監督署が、②の請求書を受け取った後、②の請求書をもとに審査や調査を行います。
具体的には、労働基準監督署が労働災害として認定すべきかどうか、休業補償としていくら支給すべきかなどを判断することになります。
そして、労働基準監督署の書面審査・調査の結果に従い、休業補償の支給または不支給の決定がなされます。
支給の決定がされた場合、従業員は、休業補償を受け取ることができます。
不支給の決定がされた場合、従業員は、通常、休業補償を受け取ることができません。
ただし、不支給の決定に不服がある場合には、もう一度審査してもらうように審査請求をすることができます。
※審査請求は、休業補償給付の決定があったことを知った日の翌日から3か月以内に行わなければならないため、注意しましょう。
審査請求が認められれば、従業員は、休業補償を受け取ることができます。
通勤災害の必要書類や手続き等について、さらに詳しく知りたい場合は、以下の記事もご参照ください。
通勤災害の休業補償のポイント
労災で支給されるのは損害の一部である
労災で支給される可能性がある項目には、次のようなものがあります。
- 療養補償
- 休業補償
- 傷病(補償)年金
- 障害補償
- 遺族補償
- 介護補償
- 葬祭給付
このように、慰謝料や逸失利益については、労災保険から支給されるものに含まれていません。
そのため、労災保険から支給されない慰謝料や逸失利益については、従業員が、会社に対して請求していくことになります。
具体的には、次のような項目を会社に対して請求できる可能性があります。
- ① 慰謝料
- ② 休業損害(休業補償)の一部
- ③ 逸失利益
- ④ その他の損害
①慰謝料
慰謝料とは、従業員が労災にあわれたことで精神的に受けた苦痛に対する補償のことをいいます。
慰謝料は大きく分けて(a)入通院慰謝料、(b)後遺障害慰謝料、(c)死亡慰謝料の3種類があります。
(a)(b)(c)いずれの慰謝料も、労災保険からは支給されないため、従業員が、会社に対して請求することができます。
②休業損害(休業補償)の一部
休業損害とは、従業員が、労災にあったことが原因で会社を休まざるを得なかった場合に支給される休業分の補償のことをいいます。
労災保険からは、(a)休業補償として「給料」の60%、(b)特別支給金として「給料」の20%を受け取ることができます。
特別支給金とは、文字通り、労災保険から特別に支給される補償であるため、休業損害は、通常、労災保険から休業補償として「給料」の60%、会社から休業損害として「給料」の40%を受け取ることができる可能性があります。
(a)休業補償(休業損害) | (b)特別支給金 | |
---|---|---|
労災保険から給付 | 会社から給付 | 労災保険から給付 |
「給料」の60% | 「給料」の40% | 「給料」の20% |
※「給料」とは、厳密には、給付基礎日額というものを算出して休業補償の金額を計算します。詳しくは以下の記事で解説しておりますので、ご確認ください。
労災の休業補償について、詳しくはこちらになります。
③逸失利益
逸失利益とは、労災にあったことが原因で後遺障害が残ったり、死亡してしまったりした場合に、将来得られるはずだった収入が減少してしまったことに対する補償のことをいいます。
逸失利益には、(a)後遺障害逸失利益と(b)死亡逸失利益の2種類があります。
労災によって、後遺障害が残ってしまった場合には(a)後遺障害逸失利益を、死亡してしまった場合には(b)死亡逸失利益を、会社に対して、請求していくことになります。
逸失利益は、労災保険からだけでは十分な補償を受けられない可能性があるため、適切な補償を受けるために、従業員が、会社に対して、逸失利益を請求することができます。
④その他の損害
慰謝料、休業損害の一部、逸失利益以外にも、付添看護費、諸雑費、通院交通費などの項目を会社に対して請求できる可能性があります。
「労災保険から支給されない項目がある場合、会社に対して何を請求できるのか?」、「どのような場合に会社に対して請求することができるのか?」などの疑問をお持ちの場合には、以下の記事で詳しく解説しておりますので、ご覧ください。
労災に強い弁護士に相談する
労災にあわれてしまった場合、事案によっては、労災保険から補償される部分もありますが、会社に対して請求する必要がある部分もあります。
そのため、どの部分は労災保険から給付を受けて、どの部分については会社に対して請求する必要があるかなど、専門的な判断が必要となりますので、労災にあわれた場合には労災に強い弁護士に相談されることをおすすめします。
また、従業員またはそのご家族が、適切な補償を受けようとした場合、これまで勤めていた会社に対して賠償金を請求する必要があります。
労災にあわれてお辛い中、従業員やご家族の方が、ご自身で会社と直接やり取りすることは大きな負担となります。
ケースによっては、これまで勤めていた会社だからこそ交渉しにくかったり、会社から適切な賠償金を受け取ることができなかったりします。
労災に強い弁護士にご相談・ご依頼された場合、会社との交渉の窓口はすべて弁護士になるため、従業員やそのご家族が会社とやり取りすることはなくなり、負担も軽くなります。
また、労災に強い弁護士であれば、会社からの賠償金が法的に適切な金額であるかどうかも判断することができます。
労災でお困りの方は、一度、労災に強い弁護士にご相談されることをおすすめします。
通勤災害の休業補償のよくあるQ&A
通勤災害で休業補償がもらえる条件は?
通勤災害にあった場合、無条件で休業補償がもらえるというわけではありません。
通勤災害にあった従業員が、休業補償を受け取るためには、次の条件を満たす必要があります。
- ① 「通勤災害」に該当すること
- ② 通勤中に負傷、疾病したこと
- ③ 通勤災害にあったことが原因で労働できないこと
- ④ 会社から給料を支払ってもらっていないこと
例えば、仕事が終わった後に、プライベートの飲み会に行った場合には、通常、飲み会後の帰り道で事故にあったとしても、通勤災害にはあたりません。
また、従業員が、通勤の時に利用する合理的な経路と交通手段を利用していたときに事故にあったことが必要になります。
例えば、プライベートの用事のために遠回りをしている場合には、合理的な経路とはいえません。
また、従業員が、飲酒運転や無免許運転をしている場合には、合理的な交通手段とはいえません。
詳しくは以下でも解説しておりますので、以下の記事もご参照ください。
従業員が、通勤中の出来事が原因で、ケガや疾病の治療をする必要があることが条件となります。
従業員が、仕事中にケガや死亡等した場合には、通勤災害ではなく、業務災害となります。
休業補償とは、従業員が通勤災害にあって仕事を休まざるを得なくなった場合に、休業分の給料を補償するものです。
そのため、通勤中に事故にあったことによって、従業員が、労働できなくなったことが必要となります。
会社によっては、従業員が仕事を休んでいる間も給料を支払ってくれる会社があります。
会社から給料を受け取っているにもかかわらず、休業補償を受け取ると、二重に利益を得ていることになるため認められません。
そのため、従業員が、会社から給料を支払ってもらっていないことが休業補償(休業給付と休業特別支給金のいずれも含みます。)を受け取る条件になります。
通勤災害の補償範囲はどこまでですか?
通勤災害の補償範囲は、「通勤中」に生じたケガや病気の治療のために従業員が負担することになる損害となります。
そのため、「通勤中」といえない移動中にケガや病気になってしまった場合には、補償範囲に含まれません。
「通勤中」といえるためには、以下の①~③のいずれかの移動を、合理的な経路及び方法でしている必要があります。
- ① 自宅と仕事場との間の移動
- ② 仕事場から他の仕事場への移動
- ③ 自宅と仕事場との間の移動に先行する住居間の移動または自宅と仕事場との間の移動に後続する住居間の移動
例えば、土日祝日などの休日に会社に出勤する必要があった場合、仕事を行うために出勤している以上、①自宅と仕事場との間の移動に該当します。
まとめ
以上、通勤災害の休業補償について、手続の流れや支給金額などについて解説してきましたが、いかがだったでしょうか。
休業補償を受け取るためには、前提として、「通勤災害」に該当する必要があります。
①自宅と仕事場との間の移動、②仕事場から他の仕事場への移動、③自宅と仕事場との間の移動に先行し、または後続する住居間の移動のいずれかに該当し、合理的な経路及び方法で移動していたときのケガや病気である場合には、「通勤災害」に該当するでしょう。
そして、通勤災害に該当する場合には、必要書類に会社と医師の証明をもらった後、請求書等を労働基準監督署に提出することで休業補償を受け取ることができます。
休業補償の金額は、休業補償として「給付基礎日額」の60%、特別支給金として「給付基礎日額」の20%となるため、給料の約80%を受け取ることができます。
当法律事務所には、労災事件を多数取り扱う人身障害部があり、ご相談から事件解決まですべてを労災事件に精通した弁護士がサポートすることができます。
労災にあわれた従業員またはそのご家族からのご相談は、一部、初回1時間無料で全国対応させて頂いておりますので、お気軽にご相談ください。