労災で後遺障害12級が認められている場合、入通院慰謝料として約100〜200万円、後遺障害慰謝料として290万円を請求できる可能性があります。
ただし、通院期間・入院期間やケガの内容・程度によっては金額が異なってきます。
さらに、後遺障害逸失利益としては、後遺障害の内容が神経症状である場合、事故前年度の収入の約119%の金額(労働能力喪失率14%、喪失期間10年とした場合)を会社に対して請求することができる可能性があります。
ただし、後遺障害の内容や症状固定時の年齢等によっては、後遺障害逸失利益の金額が変動する可能性があります。
この記事では、労災で後遺障害12級に認められた場合の金額や計算方法について、分かりやすく解説しておりますので、少しでもお役に立てればと思います。
目次
労災で後遺障害12級|取得できる損害費目
労災保険から後遺障害12級が認められている場合、労災保険から補償してもらえる損害と会社から賠償してもらえる損害の2種類が存在します。
具体的には、以下のようになります。
- 療養(補償)等給付(治療費等)
- 休業(補償)等給付(休業損害の一部)
- 障害(補償)等給付(後遺障害に関する賠償の一部)
- 傷病(補償)等年金
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 後遺障害逸失利益
※上記以外の賠償金については、下記「労災の後遺障害12級でもらえるその他の賠償金」をご参照ください。
以下では、このような損害費目について、具体的に解説していきます。
後遺障害12級の労災保険からの支給
後遺障害12級に認定されている場合、労災保険から以下の給付を受けることができます。
- 療養(補償)等給付(治療費等)
- 休業(補償)等給付(休業損害の一部)
- 障害(補償)等給付(後遺障害に関する賠償の一部)
- 傷病(補償)等年金
療養(補償)等給付(治療費等)
療養(補償)等給付とは、労災事故が原因で治療の必要があるケガや病気に対する治療費等を支払うものになります。
具体的には、以下のような費用が療養(補償)給付の対象になります(労働者災害補償保険法13条2項、22条参照)。
- 病院での診察、リハビリ、入院、手術などにかかる治療費
- 処方された薬代
- 整骨院での施術費用
- 松葉杖(歩行補助器)、義足・義手・義眼・義歯、コルセット、ギプスなどの器具代
- 療養に伴う看護費
- 条件を満たす通院費
※補償の対象となる通院交通費について、詳しくは以下の厚生労働省の資料をご参照ください。
なお、業務災害の場合、「療養補償給付」と呼びます。
他方、通勤災害の場合、「療養給付」と呼びます。
このように、労災保険においては、業務災害の場合には支給項目の名称に「補償」がつき、通勤災害の場合には支給項目の名称に「補償」がつかないことが一般的です。
休業(補償)等給付(休業損害の一部)
休業(補償)等給付とは、労災事故によって仕事を休業せざるを得なくなった場合に、休業による減収分に対する補償のことをいいます。
休業(補償)等給付には、①休業(補償)給付と②休業特別支給金の2種類があります。
- ① 休業(補償)給付は、「給付基礎日額」(給与を1日あたりに換算したもの)の60%の金額になります。
- ② 休業特別支給金は、「給付基礎日額」(給与を1日あたりに換算したもの)の20%の金額です。
休業(補償)給付については、以下の記事で具体例を示しながら詳しく解説しておりますので、ぜひご覧ください。
傷病(補償)等年金
傷病(補償)等年金とは、①労災事故によるケガ等の治療を継続して1年6ヶ月を経過してもそのケガ等が治らず、かつ、②そのケガ等の程度が国が定める「傷病等級表」にあたる場合に支給されるものです。
なお、傷病(補償)等年金が支給される場合、休業(補償)等給付が支給されなくなるため注意が必要です。
また、国が定める「傷病等級表」については以下をご参照ください。
引用元:厚生労働省│傷病等級表
障害(補償)等給付(後遺障害に関する賠償の一部)
障害(補償)等年金とは、労働基準監督署から後遺障害の等級が認められた場合に、その後遺障害の等級に応じて給付される補償のことをいいます。
障害(補償)等年金は、後遺障害の等級によって、①障害補償年金(後遺障害等級:1級~7級)と②障害補償一時金(後遺障害等級:8級~14級)に分けられます。
※①障害補償年金は、「年金」なので、毎年支給されるものです。他方、②障害補償一時金は、「一時金」なので、1回限りの支給となります。
後遺障害12級の場合には、労災保険から②障害補償一時金が支給されます。
具体的には、以下のような一時金が支給されます。
障害補償一時金 | 障害特別一時金 | 障害特別支給金 (一時金) |
|
---|---|---|---|
金額 | 「給付基礎日額」の 156日分 |
「算定基礎日額」の 156日分 |
20万円 |
※障害特別一時金、障害特別支給金(一時金)は、社会復帰促進等事業から支給されます。
「給付基礎日額」とは、休業(補償)等給付の計算の際にも用いる日額で、労災事故からさかのぼって直近3ヶ月の給与をもとに1日あたりの給与金額を出したものです。
「算定基礎日額」とは、労災事故の日または診断で病気になったことが分かった日からさかのぼって、過去1年間に従業員が会社から受けたボーナスなどの特別給与(臨時に支払われた賃金は除きます。)の総額を365日で割って出た金額のことをいいます。
労災事故で後遺障害に認定された場合の補償内容や金額等については、下記記事でも分かりやすく解説しておりますので、ご参考にされてください。
労災の後遺障害12級の慰謝料はいくら?
労災で後遺障害12級が認められている場合、会社に対して、以下のような慰謝料を請求できる可能性があります。
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
ただし、会社に対して入通院慰謝料と後遺障害慰謝料を請求するためには、会社に安全配慮義務違反が認められる必要があります。
安全配慮義務とは、従業員の生命や健康、安全に配慮した環境で働かせなければならないという会社が負う義務のことをいいます。
安全配慮義務の具体的な内容については、以下の記事も参考になるため、ぜひご確認ください。
入通院慰謝料
入通院慰謝料とは、労災事故によって負傷してしまったことで受けた精神的苦痛に対する賠償金のことをいいます。
入通院慰謝料の金額は、原則として通院期間・通院日数やケガの程度を考慮して算出します。
具体的には、入通院慰謝料の金額としては、以下の表のとおりとなります。
※縦軸が通院期間、横軸が入院期間となります。
ここでは、いくつか具体例を紹介します。
ケース1
この場合、従業員は右手親指を骨折しているため、ケガの程度が重症の場合の表を用いて計算します。
そして、従業員は210日間(=7ヶ月間)通院が必要だったため、表の縦軸(通院)7ヶ月、横軸(入院)0ヶ月が交差するところをみます。
したがって、入通院慰謝料の金額は124万円となります。
ケース2
この場合、従業員が人差し指の先端を切断してしまうという重症を負っているため、ケガの程度が重症の場合の表を参考に算出します。
従業員は、1ヶ月の入院と300日間の通院をしているため、表の横軸(入院)1ヶ月と表の縦軸(通院)10ヶ月(=300日)が交差するところの金額が入通院慰謝料の金額となります。
そのため、ケース2における入通院慰謝料の金額は175万円となります。
なお、労災事故の場合であっても、不法行為(安全配慮義務違反)や過失によって従業員がケガをしてしまったという点では交通事故と共通するため、労災事故の場合の入通院慰謝料の計算方法は、基本的に交通事故の場合の入通院慰謝料の計算方法と共通します。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、従業員が労災事故にあったことで、従業員の身体等に一定の障害が残ってしまった場合に請求できる慰謝料のことをいいます。
後遺障害には1級〜14級までの等級があり、後遺障害慰謝料の金額はその等級に応じて決まっています。
後遺障害12級の場合、後遺障害慰謝料の金額は290万円となります。
※弁護士基準が前提となります。
労災の後遺障害12級の逸失利益はいくら?
逸失利益とは、従業員に後遺障害が残ってしまったことで、将来における労働能力が低下してしまうことに対する補償のことをいいます。
逸失利益は以下のような計算式で計算することができます。
逸失利益の計算の際に用いる「基礎収入」は、原則として、労災事故が起きた日の前年の収入となります。
従業員の場合、「基礎収入」は源泉徴収票や給与明細の支払金額に記載されていることが多いでしょう。
「労働能力喪失率」は、原則として、後遺障害等級に応じて一律に定まっています。
後遺障害12級の場合、労働能力喪失率は14%となります。
労働能力喪失期間は、原則として、症状固定時点の従業員の年齢から67歳までの期間となります。
ただし、症状固定時点の従業員の年齢が59歳の場合など、67歳までの期間が短い場合には、国が定める簡易生命表の平均余命の2分の1を労働能力喪失期間とする場合があります。
また、後遺障害12級であっても、後遺障害12級13号の場合には、労働能力喪失期間が10年間に制限されることがあります。
このような労働能力喪失期間を求めたうえで、その労働能力喪失期間に応じたライプニッツ係数を算出することになります。
ライプニッツ係数についても、労働能力喪失期間に応じて一律に決まっております。
例えば、以下のような従業員が労災事故にあったとします。
- 従業員の年齢:45歳
- 事故前年の収入:500万円
「1年あたりの基礎収入」は500万円となります。
「労働能力喪失率」は14%です。
労働能力喪失期間は22年間(67歳ー45歳)となるため、「労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数」は15.9369となります。
そのため、逸失利益は
500万円 × 0.14(14%) × 15.9369
= 1115万5830円
となります。
労災の後遺障害12級でもらえるその他の賠償金
上記で解説した賠償金以外には、次のような賠償金を受け取ることができる可能性があります。
- 休業損害の一部
- 入院雑費
- 入院付添費・通院付添費
休業損害の一部
労災保険からは、休業損害のうち約60%(休業特別支給金は除きます。)ほどしか補償されません。
そのため、会社に安全配慮義務違反が認められる場合には、残りの約40%分の休業損害を会社に対して請求することができます。
入院雑費
入院雑費とは、労災事故にあってしまい入院が必要になった場合に、入院中に支出した費用のことをいいます。
例えば、入院中に使用する衣類、寝具、おむつ代、洗面具、食器などが考えられます。
入院雑費は、入院1日あたり1500円を請求することができます。
入院雑費に関して詳しくは以下の記事もご参照ください。
入院付添費・通院付添費
入院付添費・通院付添費とは、入院や通院にともない、ケガの内容や程度を考慮し、ご家族(近親者)の付き添いが必要な場合に、被災者本人の損害として請求できるものになります。
入院付添費は、付き添い1日あたり6500円となります。
通院付添費は、付き添い1日あたり3300円となります。
労災の後遺障害12級の解決事例
当法律事務所で実際に労災の後遺障害12級が認められた事例を紹介いたします。
事例
- 従業員は、建物の解体工事などの仕事をしており、現場作業員として勤務していました。
- 従業員は、仕事中、鋭利になった鉄筋で指を切ってしまいました。
- 切ってしまった指を縫合してもらい、リハビリを継続していましたが、しびれや可動域制限が残ってしまいました。
従業員にはしびれや可動域制限が残ってしまったため、当法律事務所で後遺障害申請のサポートをさせていただき、結果として、後遺障害12級が認定されました。
当法律事務所では、従業員に後遺障害12級が残ってしまったことについて、会社にも責任があると考え、会社に対して慰謝料や逸失利益の支払いを求め訴訟提起を行いました。
会社としては、一切の責任を否定しておりましたが、会社の落ち度を具体的に主張立証した結果、裁判所からは会社に賠償責任が認められるとの判断を受けることができました。
これによって、裁判所から約500万円の和解案が提示されたため、従業員は和解で解決することとし、約500万円の賠償金を受け取ることができたのです。
上記事例について、詳しくは以下の記事にまとめておりますので、ぜひご覧いただければと思います。
労災の後遺障害12級についてのQ&A
労災の後遺障害12級で一時金はいくらもらえる?
労災で後遺障害12級に認定された場合、労災保険から受け取ることができる一時金には、①障害補償一時金、②障害特別一時金、③障害特別支給金(一時金)の3種類があります。
それぞれ受け取ることができる金額は次のとおりです。
- ① 障害補償一時金:給付基礎日額の156日分
- ② 障害特別一時金:算定基礎日額の156日分
- ③ 障害特別支給金(一時金):20万円
詳しくは前述した「障害(補償)等給付(後遺障害に関する賠償の一部)」で解説しておりますので、ご参照ください。
まとめ
労災保険で後遺障害12級の認定を受けられた場合、労災保険からは、①療養(補償)等給付、②休業(補償)等給付、③傷病(補償)等年金、④障害(補償)等給付が補償される可能性があります。
また、会社からは、①入通院慰謝料、②後遺障害慰謝料、③後遺障害逸失利益、④その他の賠償金(休業損害の一部など)を受け取ることができる可能性があります。
入通院慰謝料は、通院(入院)期間やケガの程度によって金額が異なってきますが、後遺障害12級が認められている場合、100万円〜200万円ほどになることが多いでしょう。
後遺障害慰謝料は、290万円となります。
後遺障害逸失利益は、ケガの内容や程度によって変わってきますが、神経症状で後遺障害12級が認められた場合には、事故前年度の収入の約119%ほどになることが多いでしょう。
当法律事務所では、労災事故を多数取り扱っており、労災事故などの人身障害に詳しい弁護士が在籍しております。
労災事故の被害にあって後遺障害等でお困りの方のために、当法律事務所では、対面でのご相談だけではなく、オンライン相談や電話相談でも相談を受け付けております。
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