労災の後遺障害でもらえる金額は後遺障害の程度や治療日数等の要素によって変動します。
労災で後遺症が残った場合、その後の生活を安心して送っていく上でも、適切な金額の補償を受けることは、とても重要なことです。
そして労災の後遺障害でもらえる金額を正確に把握するためには、補償の金額がどのようにして算定されるのか、計算のルールを正しく知っておく必要があります。
この記事では、労災の後遺障害でもらえる金額について、後遺障害の等級や請求できる費目、後遺障害の等級ごとの給付金額の計算などについて、弁護士が解説します。
労災の後遺障害でどの程度の金額が補償されるのかをお調べであれば、ぜひ最後までお読みください。
労災の後遺障害とは?
労災の後遺障害とは、労働災害で負った怪我や病気を治療したにもかかわらず完治せず、後遺障害の等級表に該当する症状が残った場合をいいます。
怪我や病気を治療しても完治せずに何かしらの症状が残ることを、一般に「後遺症」といいますが、なんらかの症状が残れば、そのすべて労災制度における後遺障害となるわけではありません。
労災の後遺障害といえるためには、単に何らかの症状が残るだけでなく、その症状が厚生労働省令の定める等級表の基準に該当する必要があります。
労災の後遺障害に対する給付も、後遺障害の等級に該当することが前提となり、該当する等級によって支給される金額が変わってきます。
このように、後遺障害の等級と後遺障害に対する労災給付は不可分の関係にありますので、後遺障害に対する労災給付の金額を知るためには、前提知識としてまず等級の仕組みを理解しておく必要があります。
そこでまずは、後遺障害の等級について簡単に概要をご紹介します。
後遺障害の等級とは?
労災の後遺障害となるのは、治療しても完治することのできない後遺症が残り、かつその後遺症状が、国の定める等級のいずれかに当てはまる場合です。
国の定める等級とは、労働者災害補償保険法施行規則という規則に定められている、「別表第1 障害等級表」のことを指します。
後遺障害の等級表には、症状の重い方から順に、第1級から第14級までの14段階の等級が定められています。
ここで、実際の等級表をご紹介します。
各等級の具体的な症状は、次のように定められています。
障害等級 | 身体障害 |
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第1級 |
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第2級 |
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第3級 |
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第4級 |
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第5級 |
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第6級 |
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第7級 |
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第8級 |
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第9級 |
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第10級 |
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第11級 |
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第12級 |
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第13級 |
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第14級 |
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等級表をご覧になって、おおまかなイメージはつかんでいただけたでしょうか。
中には、専門的な医学用語で難解に見える表現もありますが、たとえば両眼の失明や常時の介護を要するものといった、より症状が重篤なものほど等級表の上位に位置づけられていることがご確認いただけるかと思います。
後遺障害に対する労災給付は、後遺症状がこの14段階のどれに該当するのかによって給付内容が変わります。
当然ながら、症状がより重い第1級に近くなるほど、給付の内容もより手厚くなるような制度設計となっています。
当てはまる等級によって給付の内容が決まってきますので、後遺症がどの等級に当たるのかは、労災の給付を受けるにあたって重要な意味を持つといえます。
労災の後遺障害に関する詳しい解説については、こちらの記事も合わせてご参照ください。
労災の後遺障害でもらえるお金や補償内容
労災事故で従業員が損害を受けた場合、労災制度から給付が受けられます。
労災事故によって後遺障害が残った場合も労災給付の支給対象であり、補償内容としては、次のようなものがあります。
給付 | 内容 |
---|---|
障害(補償)等給付 | 後遺障害の等級に応じて支給される給付。1級~7級は年金、8級~14級は一時金。 |
障害特別支給金 | 社会復帰促進等事業の一種として、障害(補償)等給付に上乗せして支給される。 |
障害特別年金 | ボーナスのような特別給与に対応する給付を、所定の日数分支給するもの。 |
障害特別一時金 |
ただし、労災の給付は、必ずしも従業員の受けた損害のすべてをカバーしているわけではありません。
たとえば、労災から給付されない費目としては次のようなものがあります。
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 逸失利益
労災の後遺障害で十分な補償を得るためには、このような損害についても会社に対して賠償を求めていく必要があります。
以下では、労災からの給付と損害賠償の金額がそれぞれどの程度になるか、等級ごとの金額のイメージをご紹介します。
実際に受け取れる金額は、被災者の年齢や収入、怪我の程度などによって異なりますので、もしご自身の受け取れる金額の目安をお知りにない場合は、労災に詳しい弁護士にご相談ください。
ここでは、次のようなモデルケースを想定して金額を例示します。
ケース
- 災害の種類:業務災害
- 年齢:47歳
- ケガの内容:骨折などレントゲンで確認できる障害を負っている
- 収入:年収800万円(月収50万円 × 12ヶ月 + ボーナス100万円 × 年2回)
給付基礎日額:1万6500円(※分かりやすくするために数字を丸めています)
算定基礎日額:5,500円(※分かりやすくするために数字を丸めています)
労災の後遺障害14級の金額等
労災保険からの給付
労災の後遺障害14級に該当すると、労災保険から次のような給付があります。
支給項目 | 支給日数・金額 |
---|---|
障害補償等給付 | 56日 |
障害特別支給金 | 8万円 |
障害特別一時金 | 56日 |
障害補償等給付 1万6500円 × 56日 = 92万4000円
障害特別一時金 5,500円 × 56日 = 30万8000円
労災からの支給額 92万4000円 + 8万円 + 30万8000円 = 131万2000円
後遺障害慰謝料、逸失利益
労災の後遺障害14級に該当した場合の賠償金は、次のとおりです。
損害項目 | 賠償額 |
---|---|
後遺障害慰謝料 | 110万円 |
逸失利益 | 595万1000円 |
合計額 | 705万1000円 |
後遺障害14級の後遺障害慰謝料の相場は、110万円です。
逸失利益は、後遺障害による労働能力の喪失に対応した慰謝料であり、次のような計算式で計算します。
①1年あたりの基礎収入は、原則として労災事故が発生した前年の収入であり、上記の事例では800万円となります。
②労働能力喪失率は、従業員の本来の労働能力が労災事故によってどの程度損なわれたのかを、後遺障害の等級に応じてパーセンテージで表したものです。
労働能力喪失率は次のとおりとされており、後遺障害14級では5%の喪失率となります。
後遺障害等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
1級 | 100% |
2級 | 100% |
3級 | 100% |
4級 | 92% |
5級 | 79% |
6級 | 67% |
7級 | 56% |
8級 | 45% |
9級 | 35% |
10級 | 27% |
11級 | 20% |
12級 | 14% |
13級 | 9% |
14級 | 5% |
③労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数は、従業員の残りの稼働期間に対応した係数であり、原則として67歳まで稼働する想定で設定された数値となっています。
逸失利益を慰謝料として今の時点で一括して受け取れると、67歳になるまでの時間をかけて稼いだ場合と比べて、有利な条件となってしまいます。
そこで逸失利益の計算では、単純に67歳までの年数をかけるのではなく、この点を調整した「ライプニッツ係数」という係数をかけることとされているのです。
このような計算方法は、慰謝料を早く受け取れるとその後の運用によって利息相当の利益を得られるはずだという発想によるものであり、「中間利息控除」とも呼ばれます。
従業員の被災時の年齢が47歳である場合(労働能力喪失期間としては20年)のライプニッツ係数は14.8775ですので、上記の事例で後遺障害の等級が14級の場合の逸失利益は、次のようになります。
但し、最も認定されることが多い14級9号の場合、労働能力喪失期間は5年間に限定される傾向にあります。
この場合、逸失利益は以下の金額になります。
労災の後遺障害で14級となった場合に支給される金額の詳細については、こちらをご覧ください。
労災の後遺障害13級の金額等
以降の計算例も、基本的な考え方は14級の場合と共通しています。
後遺障害の等級に応じて計算に用いる値が異なることにより、支給額が変わってきます。
労災保険からの給付
労災の後遺障害13級に該当すると、労災保険から次のような給付があります。
支給項目 | 支給日数・金額 |
---|---|
障害補償等給付 | 101日 |
障害特別支給金 | 14万円 |
障害特別一時金 | 101日 |
障害補償等給付 1万6500円 × 101日 = 166万6500円障害特別一時金 5,500円 × 101日 = 55万5500円
労災からの支給額 166万6500円 + 14万円 + 55万5500円 = 236万2000円
後遺障害慰謝料、逸失利益
労災の後遺障害13級に該当した場合の賠償金は、次のとおりです。
損害項目 | 賠償額 |
---|---|
後遺障害慰謝料 | 190万円 |
逸失利益 | 1071万1800円 |
合計額 | 1261万1800円 |
後遺障害13級の後遺障害慰謝料の相場は、190万円です。
逸失利益の計算は、次のとおりです。
労災の後遺障害で13級となった場合に支給される金額の詳細については、こちらをご覧ください。
労災の後遺障害12級の金額等
労災保険からの給付
労災の後遺障害12級に該当すると、労災保険から次のような給付があります。
支給項目 | 支給日数・金額 |
---|---|
障害補償等給付 | 156日 |
障害特別支給金 | 20万円 |
障害特別一時金 | 156日 |
障害補償等給付 1万6500円 × 156日 = 257万4000円
障害特別一時金 5,500円 × 156日 = 85万8000円
労災からの支給額 257万4000円 + 20万円 + 85万8000円 = 363万2000円
後遺障害慰謝料、逸失利益
労災の後遺障害12級に該当した場合の賠償金は、次のとおりです。
損害項目 | 賠償額 |
---|---|
後遺障害慰謝料 | 290万円 |
逸失利益 | 1666万2800円 |
合計額 | 1956万2800円 |
後遺障害12級の後遺障害慰謝料の相場は、290万円です。
逸失利益の計算は、次のとおりです。
労災の後遺障害で12級となった場合に支給される金額の詳細については、こちらをご覧ください。
労災の後遺障害11級の金額等
労災保険からの給付
労災の後遺障害11級に該当すると、労災保険から次のような給付があります。
支給項目 | 支給日数・金額 |
---|---|
障害補償等給付 | 223日 |
障害特別支給金 | 29万円 |
障害特別一時金 | 223日 |
障害補償等給付 1万6500円 × 223日 = 367万9000円
障害特別一時金 5,500円 × 223日 = 122万6500円
労災からの支給額 367万9000円 + 29万円 + 122万6500円 = 519万6000円
後遺障害慰謝料、逸失利益
労災の後遺障害11級に該当した場合の賠償金は、次のとおりです。
損害項目 | 賠償額 |
---|---|
障害補償等給付 | 420万円 |
逸失利益 | 2380万4000円 |
合計額 | 2800万4000円 |
後遺障害11級の後遺障害慰謝料の相場は、420万円です。
逸失利益の計算は、次のとおりです。
労災の後遺障害で11級となった場合に支給される金額の詳細については、こちらをご覧ください。
労災の後遺障害10級の金額等
労災保険からの給付
労災の後遺障害10級に該当すると、労災保険から次のような給付があります。
支給項目 | 支給日数・金額 |
---|---|
障害補償等給付 | 302日 |
障害特別支給金 | 39万円 |
障害特別一時金 | 302日 |
障害補償等給付 1万6500円 × 302日 = 498万3000円
障害特別一時金 5,500円 × 302日 = 166万1000円
労災からの支給額 498万3000円 + 39万円 + 166万1000円 = 703万4000円
後遺障害慰謝料、逸失利益
労災の後遺障害10級に該当した場合の賠償金は、次のとおりです。
損害項目 | 賠償額 |
---|---|
後遺障害慰謝料 | 550万円 |
逸失利益 | 3213万5400円 |
合計額 | 3633万5400円 |
後遺障害10級の後遺障害慰謝料の相場は、550万円です。
逸失利益の計算は、次のとおりです。
労災の後遺障害で10級となった場合に支給される金額の詳細については、以下ページをご覧ください。
労災の後遺障害9級の金額等
労災保険からの給付
労災の後遺障害9級に該当すると、労災保険から次のような給付があります。
支給項目 | 支給日数・金額 |
---|---|
障害補償等給付 | 391日 |
障害特別支給金 | 50万円 |
障害特別一時金 | 391日 |
障害補償等給付 1万6500円 × 391日 = 645万1500円
障害特別一時金 5,500円 × 391日 = 215万0500円
労災からの支給額 645万1500円 + 50万円 + 215万0500円 = 910万2000円
後遺障害慰謝料、逸失利益
労災の後遺障害9級に該当した場合の賠償金は、次のとおりです。
損害項目 | 賠償額 |
---|---|
後遺障害慰謝料 | 690万円 |
逸失利益 | 4165万7000円 |
合計額 | 4855万7000円 |
後遺障害9級の後遺障害慰謝料の相場は、690万円です。
逸失利益の計算は、次のとおりです。
労災の後遺障害8級の金額等
労災保険からの給付
労災の後遺障害8級に該当すると、労災保険から次のような給付があります。
支給項目 | 支給日数・金額 |
---|---|
障害補償等給付 | 503日 |
障害特別支給金 | 65万円 |
障害特別一時金 | 503日 |
障害補償等給付 1万6500円 × 503日 = 829万9500円
障害特別一時金 5,500円 × 503日 = 276万6500円
労災からの支給額 92万4000円 + 65万円 + 30万8000円 = 1171万6000円
後遺障害慰謝料、逸失利益
労災の後遺障害8級に該当した場合の賠償金は、次のとおりです。
損害項目 | 賠償額 |
---|---|
後遺障害慰謝料 | 830万円 |
逸失利益 | 5355万9000円 |
合計額 | 6185万9000円 |
後遺障害8級の後遺障害慰謝料の相場は、830万円です。
逸失利益の計算は、次のとおりです。
労災の後遺障害で8級となった場合に支給される金額の詳細については、こちらをご覧ください。
労災の後遺障害で必要となる手続き
労災の後遺障害に対する給付は、症状がどの等級に当たるかによって給付内容が変わります。
そこで、労災で後遺障害に対する給付を受けるためには、どの等級に該当するかの認定を受けなければなりません。
労災の後遺障害で必要となる手続きは、次のとおりです。
①症状固定の診断
労災で後遺障害に対する給付を受けるには、残った後遺症が、国の定める後遺障害の等級に該当する必要があります。
その前提として、これ以上治療しても後遺症の症状に変化がないという状態に至ることが必要であり、これを「症状固定」といいます。
治療によって症状が改善している間は、最終的にどのような後遺症が残るのか不透明なため、症状固定の診断が下るまでは、後遺障害の認定を受けることはできません。
症状固定は、治療を継続しても症状が改善しないという医学的な判断であるため、医師の診断が必要です。
後遺障害の認定を受けるためには、まず症状固定の状態となる必要があり、そのことを主治医に診断してもらわなければなりません。
②必要書類をそろえる
医師から症状固定の診断を受けると、後遺障害の内容が判明しますので労災の申請に向けて手続きを進めることができます。
労災で後遺障害の申請をする際は、所定の書式を使用する必要があります。
具体的には、労災が業務災害の場合は障害補償給付支給請求書(様式第10号)を使用し、通勤災害であれば、障害給付支給請求書(様式第16号の7)という様式によって申請します。
この申請書の様式のほかに、医師による後遺障害診断書や、後遺障害の程度を示すための資料として、MRIやレントゲンといった医学的な資料も準備します。
③労働基準監督に申請する
所定の様式や添付資料を準備できれば、実際に後遺障害の認定を申請します。
後遺障害の認定申請は、管轄の労働基準監督署に対して行います。
④労働基準監督署による調査
後遺障害の認定申請をすると、申請を受けた労働基準監督署は、申請者の後遺障害が等級表の何級に該当するのかを調べるための調査を実施します。
調査は、申請者が提出した資料に基づく書面審査に加えて、調査官による面談調査が実施されます。
⑤審査結果の通知
調査の結果に基づき、労働基準監督署は後遺障害の等級が判定し、その結果が申請者に通知されます。
後遺障害がある方へのサポート内容
以上のように、労災の後遺障害で労災給付を受けるためには必要な手続きがありますが、後遺症が残っているなかでこのような手続きを自身で進めていくことは、非常に負担のかかる作業となります。
もし、労災の後遺障害における手続きでご苦労やご不安がおありの場合は、労災問題に注力している弁護士に手続きを依頼することをおすすめします。
当事務所では、後遺障害申請のサポートはもちろんのこと、損害賠償の請求や会社との交渉など、労災問題について全面的なバックアップを行っております。
このようなリーガルサービスをご利用いただくことで、労災関連の煩雑な手続きや見通しの不安などから解放され、後遺症を抱えた中での新たな生活のスタートに専念していただくことが可能となります。
労災問題でお困りの方にトータルサポートを提供していますので、お気軽にご相談いただければと思います。
詳しいサポート内容は、こちらをご覧ください。
まとめ
この記事では、労災の後遺障害でもらえる金額について、後遺障害の等級や請求できる費目、障害等級ごとの給付金額の計算などについて解説しました。
記事の要点は、次のとおりです。
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- 労災の後遺障害とは、労働災害で負った怪我や病気を治療したにもかかわらず完治せず、後遺障害の等級表に該当する症状が残った場合をいう。
- 労災の後遺障害には、後遺症の程度に応じて、重い方から順に第1級から第14級までの14段階の等級が設けられている。
- 労災の後遺障害では、労災からの各種給付が受けられるほか、会社に対して後遺障害慰謝料や逸失利益を損害賠償として請求することが考えられる。
- 労災給付と損害賠償のいずれについても、金額は被災者の年収や年齢、後遺障害の等級などの要素に基づいて計算される。
- 労災関係の手続きは複雑であり、労災の後遺障害で適切な補償を受けるためには、労災問題に強い弁護士に相談することが効果的である。
当事務所では、労災問題を多く取り扱う人身傷害部の弁護士が相談から受任後の事件処理を行っています。
また、電話相談、オンライン相談(LINE、Zoom、Meetなど)により、全国対応が可能ですので、お気軽にご相談下さい。