労災の症状固定とは?補償内容や仕事への影響を解説


労災の症状固定とは、労災によって負った怪我や病気に対して、それ以上治療を続けても症状の改善が期待できない状態になることをいいます。

症状固定は、医学的な観点からそれ以上の症状改善が見込めない状態であり、一般的な表現をすれば、「怪我が完治せずに後遺症が残った状態」ということができます。

労災で症状固定となると、給付の内容に変更が生じ、それに伴って必要な手続きなども発生してきます。

そのため、労災事故で怪我を負った場合、どのようにして症状固定となるのか、症状固定となった後の手続きはどうなるのか、といったことを正しく知っておく必要があります。

この記事では、労災の症状固定について、症状固定の意味や、基準や時期等の内容、症状固定に関連する労災給付や手続きの流れなどについて、弁護士が解説します。

 

労災の症状固定とは

症状固定

労災の症状固定とは、労災によって負った怪我や病気に対して、それ以上治療を続けても症状の改善が期待できない状態になることをいいます。

特に労災の場合には、「治ゆ」という表現が使われることがありますが、これも症状固定と意味は同じです。

症状固定の意味

症状固定とは、医学上一般に認められている治療を継続したとしても、それ以上症状が改善することが見込めない状態に達することをいいます。

一般論として、怪我や病気は、医学的な治療を加えることで状態が軽快する方向に向かうと考えられます。

治療によって、症状が完全に解消、すなわち完治すればよいのですが、怪我や病気の程度しだいでは、一定の水準までは症状が改善したものの、医学的にそれ以上は改善が見込めないという場合もあり得ます。

例えば、治療によって傷口が冶癒したり骨折が癒合したりといった成果は見られたものの、痛みや痺れのような症状が残ってしまい、そのような症状の解消を目指すことが医学的には難しいといったケースが考えられます。

このような医学的に完治しきれない症状のことを一般に「後遺症」といいます。

その後遺症が、法令によって定められた後遺障害等級に当てはまる場合、その後遺症は後遺障害ともいうことができます。

そして、症状の改善が見込めず医学的にそれ以上の変化がないと診断されることを、症状が固定したという意味で「症状固定」といいます。

後遺症が残らずに労災による怪我が完治した場合や、症状は残っているものの治療の効果が見られ改善傾向にある間などは、症状固定とはいいません。

 

労災で症状固定が重要とされている理由

労災における症状固定とは、労災事故によって何らかの障害が残り、後遺障害の審査の対象となる障害が確定することを意味します。

この症状固定がなぜ労災で重要とされているのかというと、症状が固定された時点を基準として、その前後で労災保険の給付内容が変わるからです。

症状固定までの間は、症状を改善するために治療をしていく段階であるのに対して、症状固定後は、医学的にそれ以上改善が期待できなくなった症状と後遺症として付き合っていくという、次の局面に移行しているといえます。

このような被災者の状況の変化に対応して、症状固定の前と後では、労災の給付内容に変更があります。

症状固定前は、治療によって症状の改善が見込める段階ですので、治療費や治療のための休業が必要となってきます。

このため、症状固定前の労災給付としては、療養(補償)給付や休業(補償)給付などの治療を支えるための給付が中心となります。

他方で症状固定後は、それ以上治療を継続する必要性がなくなる一方で、後遺症を抱えて生活していかなければならないという別の苦労が生じます。

このような状況の変化に対応して、症状固定後は療養(補償)給付や休業(補償)給付が停止する一方、後遺障害の認定を受け条件を満たせば、障害(補償)給付が受給できるようになります。

このように、症状固定はそこを境に労災給付の内容が変わるという基準の時点としての意味を持っていることから、労災では症状固定が重要となるのです。

 

労災の症状固定は誰が決める?

労災の症状固定は、医師による判断となります。

症状固定は、医学的に見て、治療をさらに継続してもこれ以上の症状改善が望めないという状態を指します。

症状固定の判断は医学的な観点からの判断となりますので、主治医によって判断されることになります。

医師が症状固定の判断を下していない場合は、治療の継続によってさらなる症状の改善が期待できますので、自分の判断で勝手に治療を打ち切るべきではありません。

逆に、医師が症状固定と判断したときには、たとえ治療を続けたいという気持ちがあったとしても、医学的にはそれ以上の改善が望めないということですので、あとは後遺症とどのように付き合っていくかということになります。

【ワンポイント:症状固定における「医学上一般に承認された治療」について】

症状固定とは、治療をつづけてもこれ以上は症状の改善が期待できないことをいいますが、ここでいう「治療」とは、「医学上一般に承認された治療」であるとされています。

「医学上一般に承認された治療」とは、医学の世界において有効性が認められている治療のことをいい、エビデンスが十分でない研究途上の治療や、いわゆる民間療法といったものは除かれます。

このような治療法のすべてが有効でないとは言い切れませんし、それで気分が晴れて前向きになれるようであれば、後遺症との付き合い方のひとつとして、あながち無意味ではないと考えることもできます。

ただし、症状固定は、労災給付との関係では給付内容が切り替わる基準としての意味を持っており、効果があやふやな治療方法まで視野に入れてしまうと、症状が固定したといってよいのか、判断が不明瞭になってしまいます。

このようなことから、症状固定の判断においては、医学上一般に承認された治療によって症状の改簸が期待できるかが判断基準となっているのです。

 

症状固定の時期

症状固定の時期は、治療の効果がなくなりそれ以上の症状の改善が期待できないと医師に判断された時期となります。

「受傷から何か月で症状固定とする」といったことが制度上決められているわけではなく、あくまで個々の事案において症状の改善が見られなくなった時期が、症状固定の時期となります。

そのため、比較的早期に症状固定に至るケースもあれば、長期にわたって少しずつの改善が見られ、なかなか症状固定と判断されないケースもあります。

労災における症状固定の期間の目安

症状固定とは、上記のとおり治療の効果が見込めなくなり後遺症が確定する時期ですので、症状固定までの期間はケースバイケースというほかありません。

そのため、症状固定までの具体的な期間は個々の事案によることになりますが、極端な事例を除いた一般的なケースで目安を考えますと、数ヶ月から1年6ヶ月程度の期間で症状固定となることが多いようです。

 

 

症状固定と賠償金の関係について

症状固定となった後の労災給付や損害賠償については、次のような点にご注意ください。

症状固定による労災保険の補償内容

症状固定に至ったということは、怪我が完治せず後遺症が残ったということであり、治療としてはそこで終了となります。

したがって、治療の必要性を前提とした給付である療養(補償)給付や休業(補償)給付は、症状固定の段階をもって終了となります。

その反面、症状固定によって後遺障害の内容が確定することから、後遺障害等級に認定されれば、これに対する労災給付として障害(補償)等給付が支給されます。

受けられる障害(補償)等給付の内容は後遺障害の程度によって異なり、症状が国の定める等級のうちいずれに該当するかによって決まります。

後遺障害の等級は、重いほうから順に第1級から第14級までの14段階に分けられており、第1級から第7級までに該当する場合は年金、第8級から第14級に該当する場合は一時金として、障害(補償)等給付が支給されます。

 

労災保険以外で検討すべき賠償金

労災で症状固定となった場合、改善が難しい症状とずっと付き合っていくことになりますので、金銭面で十分な補償を受けることはとても重要なことといえます。

しかし、労災給付は法令の定めに従って算定・給付されるものですので、従業員の被った損害がすべて補償されるわけではありません。

労災事故で被った損害を十分にカバーするためには、会社から適切な賠償金の支払いを受けることが必要となるのです。

具体的には、次のような費目の請求を検討することになります。

 

休業損害

休業損害とは、労災事故による怪我のために仕事を休んだことで、給料が減ってしまったことに対する補償です。

休業損害に対する補償としては、労災給付から、休業補償給付が支給されます。

ただし、休業補償給付の金額は給付基礎日額(おおむね給与の1日分)の60パーセントですので、本来の給与額に満たない額です。

このため、労災事故がなければ受け取れたであろう給与額との差額である40パーセント分については、労災給付によっても補えていない損害となります。

この部分は休業損害となりますので、会社に安全配慮義務違反が認められれば、損害賠償として会社に請求することができます。

 

慰謝料

慰謝料は、労災事故によって被災者が受けた精神的な苦痛に対して支払われるものであり、損害賠償の項目の1つです。

労災事故によって負傷すると労災保険からの給付がありますが、労災給付は治療費や体業損害といった実際に生じた財産上の損害を埋め合わせるものであり、慰謝料は労災の給付対象に含まれていません。

このため、労災事故で負傷した場合、会社に対して入通院慰謝料(傷害慰謝料)を請求することが考えられますが、症状固定によって後遺障害が残った場合は、さらに後遺障害慰謝料を請求することも検討することになります。

 

 

症状固定後の損害暗償に関するポイント

このように、労災給付はすべての損害を補償するものではないため、労災によって賄われない損害については、会社に対して賠償を請求する必要があります。

ただし、損害賠償の請求が認められるためには、会社の側に法的責任があることが前提となります。

法的責任とは、会社が従業員に対する安全配慮義務に違反したという事実を指します。

労災事故の発生について会社に責任がない場合、たとえ従業員に後遺障害が残っても、会社は賠償責任を負うことはありません。

つまり、労災慰謝料の請求では、労災を防止するような措置を会社の側で怠っていなかったかが問題となるのです。

会社が責任を認めない場合、最終的には従業員の側が会社の責任を裁判で立証しなければなりません。

損害賠償は、労災給付のように申請すれば給付が受けられるというものではない点に注意が必要です。

そこで、労災の症状固定後に適切な賠償を受けるためには、労災問題に強い弁護士に相談することをおすすめします。

症状固定の後は、後遺症と付き合いながら労災の手続きも進めなければならず、本人にとっても非常に大変な時期です。

そのような中で、さらに会社に対しても損害賠償を請求していくとなると、その負担はかなりのものとなります。

また、上記のとおり損害賠償請求は法的な問題に発展するケースもあり、会社の対応しだいでは、適切な金額の支払いを受けるまでに想像以上の時間と労力を要することもあり得ます。

労災問題に強い弁護士であれば、後遺障害が残った案件への対応経験も豊富ですので、適切な賠償を得ることを目指す上で力強いサポートが可能です。

後遺障害を抱えた新しい日常への適応に専念するためにも、ぜひ労災問題に強い弁護士の相談をご検討ください。

労災問題を弁護士に相談するメリットについては、こちらをご覧ください。

 

 

症状固定にデメリットはある?

労災で症状固定したら解雇される?

労災で症状固定すると、解雇される可能性があります。

もう少し厳密にいいますと、症状固定前(治療中と治療終了後の30日間)は労働基準法により従業員の解雇が制限されているのに対し、症状固定後(治療終了から30日経過後)はこの制限が解除されるため、解雇の可能性が出てくるということです(労働基準法19条1項)。

参考:労働基準法|電子政府の総合窓口

ただし、症状固定から30日経つと自動的に解雇されるというわけではなく、実際に解雇されるかは、就労の継続が可能かという観点から判断されることになります。

つまり、症状固定それ自体が解雇の原因となるわけではありません。

なお、上記の解雇制限は労災が業務災害の場合であり、通勤災害については適用されないため、通勤災害のケースでは、症状固定の前後を問わず解雇の可能性があります。

 

症状固定前であれば解雇されることはない?

上記のとおり、労災が業務災害であれば、従業員の治療が継続している間、すなわち症状固定前については、法律上解雇が制限されています。

ただし、少しずつでも症状の改善がみられるようなケースですと、いつまで経っても症状固定とならないため、会社はその間ずっと解雇せずに雇用しつづけなければならないことになってしまいます。

そこで、療養開始から3年が経過し、かつ1200日分の平均賃金を支払う「打切補償」という措置を行った場合については、会社はそれ以上の補償をする必要ないとされています(同法81条)。

打切補償のイメージ図

それ以上の補償をする必要がないということには、解雇が可能となることも含まれると考えられており、打切補償を行った場合には、たとえ症状固定前であっても従業員を解雇することができることになります。

参考判例:東京高裁平成22年9月16日|最高裁ホームページ

 

労災で症状固定したら退職しなければならない?

労災で症状固定したからといって、必ず退職しなければならないということはありません。

後遺障害といってもその程度はさまざまですので、後遺症の症状が就労可能な程度にとどまるのであれば、引き続き勤務をつづけることもできます。
ただし、重い後遺障害が残り、担当できそうな代替業務もないという状況であれば、退職するのもやむを得ないといえます。

 

 

症状固定後の必要な手続き

労災の後遺障害の給付は、症状がどの等級に当たるかによって給付内容が変わります。

そのため、労災で後遺障害に対する給付を受けるには、後遺障害の等級に該当することを判断してもらう必要があります。

症状固定後の必要な手続きは、次のとおりです。

症状固定後の必要な手続き

①症状固定の診断

症状固定とは、医学的な治療を継続してもそれ以上症状の軽快が望めない状態に至ることをいいます。

治療によって症状が改善している間は、最終的にどのような後遺症が残るのか不透明なため、後遺障害の認定を受けることはできません。

症状固定は、治療を継続しても症状が改善しないという医学的な判断であるため、医師の診断が必要です。

後遺障害の認定を受けるためには、まず症状固定の状態となる必要があり、そのことを主治医に診断してもらわなければなりません。

 

②必要書類をそろえる

労災で後遺障害の認定は所定の書式によって申請する必要があります。

具体的には、業務災害の場合は障害補償給付支給請求書(様式第10号)、通勤災害の場合は障害給付支給請求書(様式第16号の7)という様式を使用します。

また、申請書の様式のほかに、主治医の後遺障害診断書や、必要に応じて後遺障害の状態を示すレントゲンやMRIなどの資料をそろえます。

 

③労働基準監督に後遺障害の申請する

所定の様式に添付資料を添えて、管轄の労働基準監督署に後遺障害の認定を申請します。

 

④労働基準監督署による調査

後遺障害の認定の申請を受けた労働基準監督署は、申請者の後遺障害が等級表の何級に該当するのかの調査を行います。

調査は、提出された資料に基づく書面審査のほか、調査官との面談を行います。

 

⑤審査結果の通知

調査の結果、後遺障害の等級が判定されると、その結果が申請者に通知されます。

 

 

労災の症状固定についてのQ&A

労災で症状固定後のリハビリはどうなる?

労災からの給付はありませんが、ご自身の健康保険を利用するなどして、リハビリを継続していくことになります。

労災で症状固定となった場合、主治医としては、治療を継続しても現状以上に症状が改善することはないと判断していることになります。

症状固定によって、医学的には治療を継続する合理性がなくなるため、労災の療養(補償)給付は支給が打ち切られることになります。

とはいえ、コツコツとリハビリを継続して、完治しないまでも何とか改善を目指していきたいと考えられる方もいらっしゃることと思います。

そのような場合は、労災からの給付はありませんが、ご自身の健康保険を利用するなどして、リハビリを継続していくことになります。

 

労災で症状固定せず1年半経過したらどうなる?

労災で症状固定せずに1年半経過した場合、障害の程度等が傷病等級の第1級から第3級に該当すると、休業(補償)等給付が傷病(補償)等年金に切り替わります(労働者災害補償保険法12条の8第3項、23条1項)。

参考:労働者災害補償保険法|電子政府の総合窓口

一方、傷病等級の第1級から第3級までに該当しない場合は、傷病(補償)等年金に切り替わることはなく、引き続き休業(補償)等給付が支給されます。

 

症状固定後に労災の症状が再発したらどうなる?

発認定の申請を行い、治療の再開によって症状の改善が見込まれると判断されれば、療養(補償)給付や休業(補償)給付を受給することができます。

 

症状固定でいったん後遺障害の内容が確定したものの、その後状態が悪化し症状が再発することがあります。

このような場合は、再発認定の申請を行い、治療の再開によって症状の改善が見込まれると判断されれば、療養(補償)給付や休業(補償)給付を受給することができます。

 

 

まとめ

この記事では、労災の症状固定について、症状固定の意味や、基準や時期等の内容、症状固定に関連する労災給付や手続きの流れなどについて解説しました。

記事の要点は、次のとおりです。

  • 労災の症状固定とは、労災によって負った怪我や病気に対して、それ以上治療を続けても症状の改善が期待できない状態になることをいう。
  • 労災の症状固定前は、療養(補償)給付や休業(補償)給付が支給されるのに対し、症状固定後はこれらの給付が支給されなくなる代わりに、後遺障害の等級に応じて障害(補償)等給付が給付される。
  • 労災の給付は損害のすべてを補填するものではないため、休業損害の不足分や、後遺障害慰謝料等の慰謝料の請求を検討するべきである。
  • 労災の症状固定後に適切な補償を受けるためには、労災問題に強い弁護士に相談することが重要である。

当事務所では、労災問題を多く取り扱う人身傷害部の弁護士が相談から受任後の事件処理を行っています。

また、電話相談、オンライン相談(LINE、Zoom、Meetなど)により、全国対応が可能ですので、お気軽にご相談下さい。

 

 

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