労災申請を本人が行うことには、手統きを進める上での事務的な負担や、治療に専念できなくなるといったデメリットがあります。
労災の申請は、被災した本人が自ら行うことも可能であるため、インターネットなどでやり方を調べて、自分で済ませてしまおうと考える方もいらっしゃるようです。
しかしこの記事でご説明するとおり、労災の本人申請はデメリットが大きいため、あまりおすすめできません。
適切な労災給付を受けるためには、プロの力を借りるのが最善といえます。
この記事では、労災申請を本人が行うことのデメリットや、労災を使った場合の影響、労災申請を弁護士に依頼するメリットなどについて、解説します。
この記事が、労災申請を検討されている方のお役に立てば幸いです。
目次
労災とは
労災とは、「労働災害」を省略した言い方です。
労働災害とは、従業員が会社の業務に関連してけがや病気などを負うことであり、直接会社の業務に起因する「業務災害」と、通勤中の事故である「通勤災害」に分けられます。
労災に遭った従業員は、一定の条件を満たすと、労働者災害補償保険法の定めるところに基づいて、治療費や休業補償などの給付を受けることができます。
このような労災被害に対する補償制度や給付のことを指して、単に「労災」という言い方をすることもあります。
つまり「労災」とは、もともとは労働災害(労災事故)それ自体を指す言葉ですが、労災保険の制度や労災給付のことを指して「労災」ということもあるのです。
単に「労災」とだけ表記するときは、通常は文脈からいずれの意味であるか判別できると思われますので、慣れるまでは両者の区別を意識していただければと思います。
労働災害についての詳しい解説は、こちらの記事もあわせてご覧ください。
労災申請を本人が行うデメリットとは
労災給付の申請手続きは、労災事故に遭ったご本人が行うことも不可能ではありませんが、本人による申請にはデメリットも少なくないため、おすすめはできません。
ここでは、労災申請を本人が行うデメリットをいくつかご紹介します。
もし労災の本人申請を検討されているようであれば、これらの点を考慮して慎重にご検討いただきたいと思います。
労災の本人申請におけるデメリットとしては、たとえば次のようなものが考えられます。
申請の手続きが複雑で負担が大きい
労災の申請は手続きが複雑であり、一般の方にとっては負担が大きいものです。
労災の給付は公的に設けられた制度であるため、申請の書式や方法、添付する資料などについて事細かくルールが定められています。
もしこれらの書類に不備があると、申請が手戻りとなって、いつまで経っても手続きが前に進まないといった事態になることもあり得ます。
そうなると、労災給付の開始時期もどんどん遅れることになり、迅速な救済からはますます遠のいてしまいます。
労災制度に特に詳しいわけではない一般の方が、インターネットなどで調べながら自分で労災の申請手続きをすることは、非常に負担がかかりハードルが高いものといえるでしょう。
適切な給付を受けられないおそれがある
労災の申請を本人が行うと、適切な給付を受けられなくなるおそれがあります。
もちろん、労災の制度を正確に理解した上で適切に申請することができるのであれば、本人による申請だからといって、それで給付の内容が変わるといったことはありません。
しかし、労災の給付は費目や金額などが多岐にわたり、それぞれに給付を受けるための条件や手続きが細かく定められています。
労災の制度に詳しくない一般の方が自分で労災の申請を行うと、受給条件の誤解や手続き上の誤りなどのために、本来受けられるはすの給付を受けられなくなってしまう可能性があるのです。
労災の申請を本人が処理することは、給付までの手続き面だけでなく、給付の内容においてもデメリットをもたらすことが考えられます。
冶療に集中できないおそれがある
労災の申請を本人で行おうとすると、治療に集中できなくなるおそれがあります。
本来、労災事故の直後の期間は、怪我からの回復のために治療に専念すべき時期といえます。
そのような時期に、手続きの煩雑な労災の申請に手間を取られることは、治療の妨げになり得るほか、申請の手続きもスムーズに進まないなど、「ニ兎を追う者は一兎をも得ず」の状態にもなりかねません。
労災事故の被災者を支援するための制度によって治療に差し障わりが出たとなると、まさに本末転倒です。
労災からの給付を速やかに受給して経済的なサポートを受けつつ、自身は治療に専念するという観点からも、本人による労災申請はおすすめできないのです。
労災は使わない方がいい?よくある質問
労災を使うと、ボーナスが減らされるといった不利益を受けるのではないか、あるいは会社に負担が生じるのではないかといった懸念から、労災の申請を躊躇される方もいらっしゃるようです。
実際には、給付の条件を満たすのであれば労災の使用を控えるべき理由はなく、積極的に利用すべきものといえます。
ここでは、労災の使用に関してよくある疑問についてまとめています。
その多くは誤解によるものといえますので、正しい知識を身につけることで不安を解消していただき、労災の使用を前向きに考えていただければと思います。
労災を使うとボーナスが減る?
労災の使用は正当な権利の行使ですので、労災を使ったこと自体を理由として、ボーナスが減ることはありません。
ただし、ボーナスの支給条件は会社の就業規則に定めるところによりますので、労災被害のために欠勤をした場合、勤務日数が不足する関係でボーナスの支給額に影響が出ることはあり得ます。
もっとも、これはあくまで勤務日数の不足による減額ですので、労災を使ったことを理由してボーナスが減るわけではありません。
また、そのようなボーナスの減少が生じた場合は、労災のボーナス特別支給金によって補填される可能性があります。
労災を使うと評価が下がる?
労災を使うことは従業員の権利ですので、労災を使ったからといって、基本的には会社からの評価が下がることはありません。
ただし、労災事故が起こった背景として、決められた作業手順を遵守しなかったといったルール違反が従業員側にあるような場合ですと、服務規程違反などを理由として、評価に悪影響を与える可能性は残ります。
こちらもボーナスの減額と同じく、労災を使用すること自体で評価が下がるわけではありませんので、この点を心配して労災の使用を控える必要はありません。
労災を使うと会社はどうなる?
労災を使うことが、会社にとって何か不利益を及ぼすのではないかと心配される方もいらっしゃいます。
事故が労災として認定されると、会社が支払う労災保険料が増額となる可能性があります。
これは「メリット制」といい、労災の発生状況と保険料をリンクさせることによって、労災予防のための取り組みを促そうという仕組みです。
また、このほかにも、たとえば労基署への報告や調査対応といった業務が生じたり、行政から指導や処分を受けたりといったペナルティの対象となることがあります。
ただし、このようなペナルティは労災という制度に組み込まれたものですので、従業員が労災を使うことによって、会社が特別な不利益を受けるわけではありません。
会社への影響を考慮して労災の使用を思いとどまっても、会社の利益になるわけではありませんし、むしろ労災給付を受けられないことによって、従業員が不利益を受けることになります。
労災を使うべきかについての解説は、こちらの記事を合わせてご参照ください。
労災申請を弁護士に依頼するメリット
労災の申請は、弁護士に依頼することができます。
労災の申請を弁護士に依頼することのメリットは、本人による申請のデメリットを裏返したものといえます。
労災を本人で申請すると、煩雑な手続きのためにスムーズな給付が受けられなかったり、治療に集中できなかったりといったデメリットが想定されます。
その一方、労災の申請を専門家である弁護士に依頼すると、迅速かつ適切な給付が受けられ、本人はけがの治療に専念できるというメリットがあるのです。
そして労災の申請を依頼する際は、弁護士の中でも労働問題に強い弁護士に依頼することをお勧めします。
労災問題は高い専門性が要求され、弁護士の取り扱い分野の中でも特に難しい分野のひとつです。
弁護士の中でも、労災制度を熟知している弁護士に依頼することによって、弁護士に依頼することのメリットを最大限に享受できることが期待できるのです。
労働問題における弁護士選びの重要性については、こちらの記事をご覧ください。
労災発生から解決までの流れ
労災によって従業員が負傷した場合、労災給付を受けるためには、労災の申請手続きが必要です。
労働災害が発生してから労災を申請し、給付を受けるまでの手続きの流れは、次のとおりです。
①労働災害の発生
労働災害が発生すると、負傷した従業員は治療を受ける必要がありますが、通常の怪我と異なり、労災の手続きを進める必要があることを同時に意識しなければなりません。
②従業員が業務災害について会社へ報告
業務災害が発生した場合、速やかに会社に報告します。
労災の申請は会社の方で代行することも多いですし、従業員自身が申請する場合も、会社による証明が必要となりますので、いずれにしても会社の協力は必須です。
③労災申請の必要書類を整える
労災の申請をするための必要書類を整えます。
労災の補償には、療養補償給付や休業補償給付などさまざまな種類があることをご紹介しましたが、労災を申請する際は、それぞれの給付に応じた所定の様式によって申請する必要があります。
また、給付によっては、申請書のほかに別途添付資料を求められることもあります。
申請書の様式については、厚生労働省のホームページのほか、当事務所のホームページからもダウンロードしていただけますので、詳しくはこちらをご覧ください。
④労働基準監督署へ労災の申請
労災の申請は、申請書を労働基準監督署へ提出して行います。
提出するのは、会社の所在地を管轄する労働基準監督署です。
労基署の管轄は、厚生労働省のホームページで確認できます。
参考:厚生労働省ホームページ
⑤労働基準監督署による調査
申請を受けた労基署は、申請が労災保険給付の対象となるかの調査を行います。
調査は提出された書類による書面審査に加えて、必要に応じ追加の資料提出や聞き取りを求められることもあります。
⑥支給・不支給の決定通知
調査を終えて結論が出ると、支給又は不支給の結果が申請者(従業員)に通知されます。
不支給決定が出た場合は、不服申し立ての手続きによって決定を争うことができます。
⑦支給の場合は補償金が支払われる
一方、支給決定が出た場合は、申請書に記載した金融機関に所定の給付額が振り込まれて支給されます。
労災申請の流れについての詳しい解説は、こちらをご覧ください。
労災とデメリットについてのQ&A
労災隠しを本人がするとどんなデメリットがありますか?
労災が使用できませんので、当然労災給付は受けられず、治療費などは自己負担となります。
怪我という身体的な負担を負いながら、さらに治療費などの支払いが生じるとなると、負担はいっそう重いものとなってしまいます。
従業員の立場からすると労災は権利ですので、労災を使用する義務があるわけではありませんが、労災を使用するデメリットも基本的にはありませんので、あえて労災を隠す理由はないといえるでしょう。
なぜ会社は労災を使うのを嫌がるのでしようか?
その理由は、労災の申請手続きが煩雑で事務的な面で負担になることに加え、保険料の増額のようなペナルティが発生することもあるからだと思われます。
労災の申請は会社に迷惑ですか?
しかし、そのような負担は、従業員を雇って事業活動を行っている会社が当然に負うべきものですので、「迷惑」という表現は当たらないといえるでしょう。
まとめ
この記事では、労災申請を本人が行うことのデメリットや、労災を使った場合の影響、労災申請を弁護士に依頼するメリットなどについて解説しました。
記事の要点は、次のとおりです。
- 労災の申請は本人が行うことも可能ではあるが、手続き面での負担や治療への悪影響といった観点から、おすすめできない。
- 労災を使うことは従業員の正当な権利であるため、労災を使用したことでボーナスの減額や評価の低下といった不利益を受けることはない。
- 従業員が労災を使用したことに伴う会社の負担は当然のものであるから、労災の使用を控えるべき理由にはならない。
- 労災の給付を適切に受けるためには、労働問題に強い弁護士に依頼することがおすすめである。
当事務所では、労災問題を多く取り扱う人身傷害部の弁護士が相談から受任後の事件処理を行っています。
また、電話相談、オンライン相談(LINE、Zoom、Meetなど)により、全国対応が可能ですので、お気軽にご相談下さい。