労災で後遺障害9級に認定された場合、慰謝料690万円+数百万円〜数千万円の逸失利益を受け取れる可能性があります。
もっとも、被害者自身だけが原因となっている労災事故の場合(会社に責任のない場合)には、慰謝料は請求できない上に休業補償や逸失利益についても労災保険の定める範囲でしか受け取ることができません。
これから、労災で後遺障害9級の金額について解説をしますので、ご参考にされてください。
目次
労災で後遺障害9級|取得できる損害費目
労災で後遺障害9級に認定された場合に取得できる損害費目のうち、代表的なものを以下の表に示します。
項目 | 金額 |
---|---|
治療費 | 治療費の金額 |
休業損害 | 収入の全額 |
慰謝料 | 9級の場合、690万円 |
逸失利益 (将来の収入減少に対する補償) |
将来の減収に応じた金額(数百万円〜数千万円) |
この表は代表的なものを記載しているものであるため、そのほかにも請求できる賠償項目がある場合もあります。
後遺障害9級の労災保険からの支給
後遺障害9級の場合、労災保険から支給される項目を以下の表にお示しします。
項目 | 請求できるケース | 金額 |
---|---|---|
療養(補償)等給付 | 労災事故で通院をした場合 | 治療費の額 |
休業(補償)等給付 | 労災事故が原因で4日以上休業した場合 | 休業4日目以後の収入の60% |
休業特別支給金 | 労災事故が原因で4日以上休業した場合 | 休業4日目以後の給付基礎日額の20% |
障害特別支給金 | 後遺障害に認定された場合 | 9級の場合は、50万円 |
障害(補償)等一時金 | 前年度給与の391日分 | |
障害特別一時金 | 前年度賞与を日割りして、その391日分 |
これから、それぞれの項目について解説します。
療養(補償)等給付
療養(補償)等給付は、労災事故による怪我や病気の治療費を支給するものです。
治療費には、具体的に、診断料、薬代、ギプス費用などが含まれます。
この療養(補償)等給付には、治療そのものを窓口での負担なく受けられる「療養の給付」と治療にかかった費用を労災保険が後払いで支払う「療養の費用の給付」があります。
労災病院や指定医療機関で治療を受けた場合には療養の給付を受けることができ、労災被災者は実質的な負担なく、治療を受けることができます。
労災指定医療機関等以外の医療機関や薬局等で治療を受けた場合には、労災被災者が一時的に治療費を負担し、労災から、療養の費用の給付として治療費の返金を受けることになります。
労災被災者にとっては、一時的な立替の負担がない、療養の給付を受ける方がメリットが大きいので、可能な限り、労災病院や労災指定病院で治療を受けることをお勧めします。
休業(補償)等給付
休業(補償)等給付とは、労災事故が原因の怪我や病気によって仕事ができなかった場合、その給料についての補償です。
労災休業(補償)等給付は、労災事故から4日目以後に申請をすることができ、4日目以後の休業について請求することができます。
支給される金額は、労災被災者の1日あたりの給付基礎日額の60%の金額になります。
休業特別支給金
休業特別支給金とは、休業(補償)等給付のほかに、労働者の福祉のために支給される給付金をいいます。
休業(補償)等給付と同様に、労災事故から4日目以後に申請をすることができ、4日目以後の休業について請求することができます。
支給される金額は、労災被災者の1日あたりの給与の20%の金額になります。
障害特別支給金
障害特別支給金とは、労災保険から後遺障害認定がなされた際に、支給される一時金をいいます。
9級に認定された場合には、50万円が支給されます。
障害(補償)等一時金
障害(補償)等一時金は、等級に応じて定められる日数に給付基礎日額を掛けた金額で算出される一時金です。
9級に認定された場合、等級に応じて定められる日数は、391日となり、これに、給付基礎日額を掛けた金額支給されます。
給付基礎日額とは?
給付基礎日額とは、労災被災者の1日分の給与を労災保険所定の計算で算出したものになります。
給付基礎日額は、原則として労働基準法の平均賃金に相当する額を基準とします。
平均賃金とは、原則として、事故が発生した日(賃金締切日が定められているときは、その直前の賃金締切日)の直前3か月間にその労働者に対して支払われた金額の総額を、その期間の日数で割った、一日当たりの賃金額のことです。
なお、給付基礎日額においては、賞与は計算に含まれません。
具体例 1月に労災事故に遭い、直近3か月の給料が毎月30万円だった場合
- 3か月の賃金の総額 30万円 × 3 = 90万円
- 暦日数 10月:31日、11月:30日、12月:31日
→合計92日 - 90万 ÷ 92 ≒ 9783(小数点以下切り上げ)
よって、上記のケースでは、9783円が給付基礎日額になります。
また、労災保険の9級に認定された場合、給付基礎日額の391日分の382万5153円が一時金として支給されます。
障害特別一時金
障害特別一時金は、等級に応じて定められる日数に算定基礎日額を掛けた金額で算出される一時金です。
労災で後遺障害9級に認定された場合、等級に応じて定められる日数は、391日となり、これに、算定基礎日額を掛けた金額支給されます。
算定基礎日額とは?
算定基礎日額とは、労災被災者の1日分の賞与(ボーナス)を労災保険所定の計算で算出したものになります。
算定基礎日額は、原則として、事故が発生した日の直前1年間にその労働者に対して支払われた金額の総額を、365で割った、一日当たりの賃金額のことです。
ただし、給付基礎日額に365を乗じて得た額の20%に相当する額又は150万円のいずれか低い方の額が上限とされています。
具体例 1月に労災事故に遭い、事故直近のボーナスが合計50万円だった場合
- 直近1年のボーナス金額 50万円
- 50万 ÷ 365 ≒ 1370(小数点以下切り上げ)
よって、上記のケースでは、1370円が給付基礎日額になります。
また、労災保険の9級に認定された場合、給付基礎日額の391日分の53万5670円が一時金として支給されます。
9級以外の等級に認定された場合に受け取れる金額について詳しくは以下ページをご覧ください。
労災の後遺障害9級の慰謝料はいくら?
労災の後遺障害9級の慰謝料は、後遺障害慰謝料690万円+入通院慰謝料です。
後遺障害慰謝料とは、事故の後に治療を行ったにもかかわらず、症状が残ってしまい、日常生活や仕事に支障を来すという精神的苦痛に対する賠償金です。
労災に後遺障害慰謝料は、交通事故事案における後遺障害慰謝料を参照しますが、9級の場合には、690万円となります。
入通院慰謝料は、労災事故の結果、入院や通院を余儀なくされた精神的苦痛に対する賠償金です。
入通院慰謝料の金額は、交通事故事案における入通院慰謝料を参照して入院や通院の期間に応じて計算されます。
例えば、骨折などの重症になって6か月通院した場合には、116万円が入通院慰謝料の相場になります。
こちらのページは、交通事故事案における入通院慰謝料の計算になりますが、ご参考にされてください。
労災の後遺障害9級の逸失利益はいくら?
労災の後遺障害9級の逸失利益は、概ね数百万円〜数千万円です。
具体的には、以下の計算によって算出されます。
これから各項目について説明いたします。
基礎収入
基礎収入とは、労災被災者が将来どれほどの収入を見込めるかという金額をいいます。
したがって、労災被災者がどのような職業についていたか、年収はどの程度あったのかということがポイントになります。
基本的には、事故前の現実の収入を基礎とします。
主婦(夫)や学生、求職者のように、事故前の現実の収入を基礎とできない場合には、賃金センサスという平均賃金を基準に計算をすることもあります。
労働能力喪失率
労働能力喪失率とは、将来、後遺障害の影響による労働能力喪失の程度を示すものです。
交通事故事案の労働能力喪失率については、労働基準局長通牒(昭 32.7.2 基発第 551 号)を参照することが多いです。
労働基準局長通牒によると、交通事故における後遺障害9級の労働能力喪失率は35%基準とされていますので、労災の事案においても、同額が基準とされることが多いです。
労働能力喪失期間に応じたライプニッツ係数
労働能力喪失期間
労災事故がなく、健康なまま仕事を続けたとしても、いつかは仕事を引退する人がほとんどです。
そのため、期間を区切る必要があります。
労働能力喪失期間は、67歳までもしくは平均余命の2分の1のどちらか長い方を基準にします。
ライプニッツ係数
逸失利益を含む賠償金は、事故の後に一括で受け取ります。
もし、この受け取ったお金を運用した場合、通常は利息がつきます。
公平の観点から、この将来の利息による増額分は控除すべきと考えられています。
控除の金額は、労働能力喪失の年数によって変わりますので、年数に応じたライプニッツ係数が存在します。
具体例 事故前年の収入500万円、治療終了時35歳、後遺障害9級の場合の逸失利益
- 基礎収入 前年度の収入500万円
- 労働能力喪失率 35%
- 労働能力喪失期間 32年
- 32年に対応するライプニッツ係数 20.3888
- 500万 × 35% × 20.3888 = 3568万0400
したがって、上記の例では、逸失利益は、3568万0400円となります。
逸失利益の計算について詳しくはこちらをご覧ください。
労災の後遺障害9級でもらえるその他の賠償金
労災の後遺障害9級に認定される場合、会社に安全配慮義務違反があるケースでは、休業損害も賠償金として請求できます。
もっとも、請求できるケースでも労災保険から、休業(補償)等給付を受領している場合には、金額調整が行われます。
例えば、休業期間中に受け取れなかった給与が100万円、そのうち、労災保険から、休業(補償)等給付として60万円を受領している場合、加害者に請求できるのは40万円になります。
なお、上記の例では、休業特別支給金として20万円支給されますが、休業特別支給金は、調整の対象外になりますので、加害者等に請求できる金額から差し引く必要はありません。
労災の後遺障害9級で賠償金を受け取るポイント
労災の後遺障害9級で賠償金を受け取るための5つのポイントを解説します。
①労災事故後、体の異常を感じたら、すぐに病院で診察を受ける
労災事故直後に、体の異常を感じたら、すぐに病院で診察を受けるべきです。
例えば、上司から「大した事故ではないから病院なんか行かなくても良い。」と言われて、病院に行かないケースもあります。
労災事故から数週間経っておかしいと思って、病院で診察を受けても、労基署から「事故と怪我や治療の関係性が認められない」として労災の認定がされない可能性があります。
そうならないためにも、事故直後に体の異常を感じたらすぐに病院で診察を受けるべきです。
また、早期に症状を発見することによって適切な治療を受けることにもつながります。
②適切な治療を継続して行う
病院で診察を受けた後には、必要に応じて適切な治療を受けることが肝心です。
主治医の指示に従って、継続して治療を行うことが何よりも回復につながります。
また、入通院慰謝料は、治療の期間が長期になるほど高額になるため、適切な額の慰謝料を獲得するためにも、しっかりと治療を行う必要があります。
もっとも、治療は、身体の回復のために行うものですので、賠償金を目的に、必要がないのに通院を続けることはやめておくべきです。
③適切な賠償金の金額を算定する
適切な賠償金を獲得するためには、適切な金額がいくらか算定する必要があります。
治療終了後、労災の後遺障害認定結果が決定した後には、会社や加害者に対して賠償金を請求することになります。
どのような損害に対してどのような項目で賠償金が請求できるのか、それぞれの項目の金額がいくらかを計算しないと、何が適切な賠償金かを把握することができません。
そのため、適切な賠償金額がいくらになるかについて、場合によっては、労災事故に詳しい弁護士が代理人として交渉を行うべきか確認された方が良いでしょう。
④加害者側が提示する示談内容は専門家に確認してもらう
治療終了後、労災の後遺障害認定結果が決定した後には、会社や加害者などから和解案の連絡があることがあります。
会社や加害者としては、安く和解をしたいと考えるのが通常ですので、適切な金額を提示されているかどうかを確認する必要があります。
そのため、合意前に一度は、賠償金が適切かどうか、場合によっては、労災事故に詳しい弁護士が代理人として交渉を行うべきか確認された方が良いでしょう。
しかし、和解書にサインをして、会社などに送付している場合には、弁護士が代理人となって交渉を行うことは不可能となります。
そのため、加害者側が提示する示談内容は専門家に確認してもらい、場合によっては、労災事故に詳しい弁護士に依頼をすべきでしょう。
⑤労災事故に詳しい弁護士に早い段階で相談する
労災事故に詳しい弁護士に早い段階で相談することも適切な賠償金を獲得するために大事です。
早い段階で後遺障害に詳しい弁護士に相談しておくと、早い段階から、今後の流れや、適切な治療や適切な賠償金を受けるための方針を打ち合わせることができます。
そのため、後遺障害に詳しい弁護士に早い段階で相談するべきでしょう。
労災の後遺障害9級についてのQ&A
労災の後遺障害9級で一時金はいくらもらえる?
50万円については障害特別支給金として、受領することができます。
また、391日分の給与については、障害(補償)給付として、賞与については、障害特別一時金として受領することができます。
後遺障害9級16号の慰謝料はいくらですか?
労災の慰謝料の場合、交通事故の慰謝料の相場とされる赤い本を参照することが多いです。
赤い本によると、交通事故における後遺障害9級の慰謝料は690万円が基準とされていますので、労災の事案においても、同額が基準とされます。
もっとも、労災事故の原因が被害者自身だけにある場合には、慰謝料を受け取ることはできません。
また、690万円は、あくまで基準の金額ですので、何度も手術をしたり、死の危険に淵に立たされたりしたなどの事情があれば増額が認められることもあります。
その他、入通院の期間に応じた傷害慰謝料を請求することもできます。
後遺障害9級で労働能力がなくなる割合は?
労災事故の労働能力喪失率については、労働基準局長通牒(昭 32.7.2 基発第 551 号)を参照することが多いです。
労働基準局長通牒によると、後遺障害9級の労働能力喪失率は35%基準とされています。
もっとも、後遺障害9級には、視力に関するものから、足の動きに関するものまで様々な症状が規定されており、また、被害者がどのような仕事をしているかも様々です。
例えば、足が動きにくくなったケースでは、力仕事とデスクワークの方を比較すると影響の程度は違います。
そのため、具体的にどれくらいの影響があるかは、労災被災者の仕事内容など仕事への支障具合によって異なります。
なお、労災事故の発生について、被害者本人以外にも原因がある場合には、将来の労働能力の喪失に関する賠償請求もできます。
まとめ
ここまで、労災で後遺障害9級に認定された場合に受け取れるお金について解説いたしました。
後遺障害9級の事案は、かなりの重傷ですので労災保険への請求を正確に行い、しっかりと労災保険からの支払いを受けるべきです。
労災の原因が、第三者や会社にある場合は、会社に賠償請求をすることができる可能性があります。
そのような場合には、労災への対応について詳しい弁護士に相談をすべきです。
デイライト法律事務所では、人身障害部を設け、労災事故をはじめとする人身障害に特化したチームを編成していますので、ご相談から事件解決までの力強いサポートをすることができます。
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労災被害に遭った方は、お気軽にご相談いただければと思います。