労災認定されない例とは、労災の認定基準を満たさない怪我や病気であり、業務と怪我等の因果関係がない場合や、従業員の体質が主な原因である病気などが考えられます。
病気や怪我が会社の業務や通勤に起因するものと認められないケースでは、労災と認定されません。
この記事では、労災が認定されない例について、労災が認定される条件や認定されない場合のデメリット、対処法などを弁護士が解説します。
労災が認定されない例とは?
労災認定されない例とは、労災の認定基準を満たさない怪我や病気であり、業務と怪我等の因果関係がない場合や、従業員の体質が主な原因である病気などが考えられます。
労災(労働災害)とは、業務上の事由または通勤による労働者の負傷や疾病のことを指します。
しかし、職場での事故や病気がすべて労災として認定されるわけではありません。
後に解説するとおり、労災には認定基準があります。
病気や怪我がこの条件を満たした場合にのみ労災と認められ、これに該当しない場合は、従業員の個人的な病気・怪我(私傷病)となります。
労災が認定されない例
労災の認定は、一定の判断基準に則ってなされます。
このため、仕事に関連しているように思える事故であっても、すべてが労災として認定されるとは限らず、中には労災の基準を満たさないとして労災認定されない例も生じ得ることになります。
労災認定されない可能性が高い例としては、たとえば以下のようなケースが挙げられます。
- 私的な活動中の事故
就業時間外のプライベートな活動中の事故 - 業務との関連性が低い疾病
従業員の持病や個人的素因による疾病であって、業務との関連性が低いもの - 通勤経路を著しく逸脱した場合の事故
通常の通勤経路から大きく外れて買い物に行き、その途中で遭った事故
これらは労災認定されないと考えられる一般的な例であり、実際の認定においては個別の状況を詳細に検討した上で労災と認定するかが判断されます。
労災が認定される条件
労災の認定は、法律の定める一定の条件を満たすかによって判断されます。
労災(労働災害)には、業務上の事由による「業務災害」と通勤途上で発生する「通勤災害」があり、両者は認定される条件が異なります。
それぞれの認定される条件は、次のとおりです。
業務災害
業務災害とは、業務上の事由によって従業員が病気や怪我をすることをいいます。
病気や怪我が業務上の事由によるものといえるかは、「業務遂行性」と「業務起因性」の2つの要件の有無によって判断されます。
事故が業務災害といえるためには、業務遂行性と業務起因性の双方を満たす必要があります。
業務遂行性
業務遂行性とは、災害が発生した際に労働者が事業主の指揮命令下で業務を遂行中であったことをいいます。
労働者が事業場内で業務に従事している際の事故が典型的ですが、休憩時間中であっても、事業場内で行動している場合、事業主の支配下にあると認められる可能性があります。
また、出張中や配送業務のように事業場の外での作業中であっても、会社の指示に基づいて行っているであれば、事業主の管理下にあると判断されるのが基本です。
業務起因性
業務起因性とは、業務と傷病等との間に一定の因果関係があることを指します。
つまり病気や怪我が、業務によって引き起こされたものであることが必要ということです。
たとえば、作業中の事故によって怪我をしたような場合であれば、それが業務に起因するものであることの認定はさほど難しくありません。
しかし病気の場合は、それが業務によって引き起こされたものか、業務とは関連しない持病の悪化であるのかは、慎重な判断を要します。
業務起因性が認められるためには、単に病気や怪我が業務中に発生したしたというだけでは足りず、業務の内容や時間、環境といった要素を考慮し、怪我等の発生と業務が具体的に関連しているといえるかを判断することになります。
通勤災害
通勤災害は、通勤に起因して病気や怪我をすることをいいます。
通勤災害でいう「通勤」とは、合理的な経路及び方法によって、就業に関して次の移動を行うことをいうものとされています(労働者災害補償保険法7条2項)。
- 住居と就業の場所との間の往復
- 就業の場所から他の就業の場所への移動
- 住居と就業の場所の往復に先行し、又は後続する住居間の移動(単身赴任の場合)
これらの移動が「通勤」ですので、その経路を逸脱したり、または移動を中断したりした場合は、その後の移動は通勤とならないのが原則です(労働者災害補償保険法7条3項)。
ただし、逸脱又は中断が日用品の購入など日常生活上必要な行為でやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、逸脱・中断が終了した以降は、通勤と認められる可能性があります(労働者災害補償保険法施行規則8条)。
実際の認定は事例ごとの個別判断となりますが、たとえば帰宅途中のコンビニでの日用品の購入や、通勤経路上の銀行でのATM利用、保育園での子供の送迎、クリーニング店での衣類の受け取りなどは、日常生活上必要な行為の例として挙げられることが多いです。
労災の認定基準についての詳しい解説は、以下のページをご覧ください。
労災が認定されない例のデメリット
労災保険は、仕事に関連する怪我や病気に対して公的な補償を行うことにより、労働者の生活を保障する制度です。
事故が労災(労働災害)として認定されると、労働者災害補償保険法に基づき、労災保険から給付を受けられるというメリットがあります。
逆に言えば、事故が労災と認定されなければ、労災保険からの給付は受けられないため、これが労災認定されない例のデメリットといえます。
このように、労災認定されるかによって労災給付が受けられるかが左右されるため、メリットとデメリットが表裏一体の関係にあるといえるのです。
ここで、労災認定されない例で発生する具体的なデメリットを考えてみます。
労災が認定されない例のデメリットとしては、次のようなものがあると考えられます。
医療費が自己負担となる
怪我や病気が労災として認定されれば、治療に要する医療費は労災保険によってカバーされます。
これを療養(補償)給付といい、労災給付の中でも中心的な給付のひとつです。
しかし、労災として認定されない例では労災からの給付がありませんので、治療費の自己負担が発生します。
健康保険を使用する場合、通常3割の自己負担がありますので、治療が長期化するなどで高額な治療費がかかるケースでは、経済的な負担が大きくなります。
労災認定の結果しだいで治療費の負担が変わってきますので、この点で労災認定されないデメリットは大きいといえるでしょう。
休業補償が支給されない
労災保険では、労働災害の治療のために休業を余儀なくされ、その間の賃金を受けられない場合に、休業に対する補填のための給付を受けられます。
これを休業(補償)給付といい、休業4日目から給付基礎賃金の80パーセント相当額(特別支給金を含む)が支給されます。
労災として認定されない例では、この補償を受けることができません。
災害に関して会社や第三者の責任を追及できるケースでは損害賠償を請求できることもありますが、請求が必ず認められるわけではない上、訴訟などの法的手続きを取る場合は時間や労力などの負担も無視できません。
健康保険からの給付として傷病手当金を受給できる可能性はあるものの、支給額は標準報酬日額の3分の2相当額であるため、労災補償と比べると少額となります。
また、傷病手当金には支給期間の制限(最長1年6ヶ月)がありますので、長期の療養が必要な場合に不利になります。
その他の労災給付も支給されない
労災事故に伴って生じ得るさまざまな不利益に対応するため、労災保険では、上記の療養(補償)給付や休業(補償)給付以外にも多様な給付が設けられています。
たとえば、労災によって後遺障害が残った場合の障害(補償)給付や、介護を要する状態となった場合の介護(補償)給付、被災者が死亡した場合の遺族(補償)給付などがあります。
事故が労災として認定されない例では、労働者の怪我や病気は会社の業務とは無関係の私傷病という扱いとなるため、これに対して労災給付を受けることはできません。
事故に関する経済的な不利益が原則として自己負担となりますので、労災認定されない例の大きなデメリットとなり得ます。
デメリットは重複することも
以上のように、労災認定されない例の主なデメリットは労災からの給付が受けられない点にあるといえますが、このようなデメリットは複合的に生じることもあります。
たとえば、労災の治療のために休業を要する場合、療養(補償)給付によって治療費の給付を受けることができず、かつ休業(補償)給付による休業補償も受けられないといった具合です。
このような経済的な打撃は、怪我や病気の程度が深刻であればあるほど重いものとなってきます。
症状が重篤な場合、治療のための休業期間が長引き、かつ治療費も高額になるという事態が想定されるためです。
労災認定されないことによるデメリットは時に非常に大きなものとなりますので、労災の可能性がある事案では、できるだけ早い段階で適切な対応を取ることが重要です。
次に、労災が認定されない場合の対処法について見ていきましょう。
労災が認定されない場合の対処法
以上のとおり、労災が認定されない場合のデメリットは時に大変な負担となりますので、労災が認定されない場合の対処法を知っておくことは重要です。
労災認定されなかった場合でもそこで終わりではありませんので、以下で対処法をご紹介します。
①不支給決定を争う
労災が認定されなかった場合、不支給決定に対して不服を申し立てて争う途があります。
労災を認定しないという決定を争う方法としては、審査請求、再審査請求、取消訴訟が考えられます。
審査請求
審査請求とは、行政機関の決定に対する不服申し立ての手続きであり、決定の妥当性についての審査を請求するものです。
労災の不支給決定に対して不服がある場合は、労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をすることが認められています(労働者災害補償保険法38条1項)
再審査請求
労働者災害補償保険審査官に対して審査請求を行い、これに対する決定になお不服がある場合は、労働保険審査会に対して再審査請求を行うことができます。
取消訴訟
労災の不支給決定に不服がある場合、審査請求や再審査請求だけでなく、裁判所に対して決定の取り消しを求める取消訴訟を提起するという方法もあります。
審査請求や再審査請求と異なり、取消訴訟は「訴訟」です。
このため、審査請求が労働者災害補償保険審査官、再審査請求が労働保険審査会に対してなされるのに対して、取消訴訟は裁判所で訴えを提起することになります。
ただし、労災給付の決定に対する取消訴訟はいきなり提起することはできず、まずは審査請求の手続きを行って、労働者災害補償保険審査官の決定を得る必要があります。
これを、審査請求前置主義といいます(労働者災害補償保険法40条)。
審査請求によって審査官の決定を得て、なお不服があるときは、再審査請求によって労働保険審査会の判断を仰ぐこともできますし、取消訴訟を提起することも可能となります。
②労災に強い弁護士に相談する
労災認定の判断に不服がある場合、専門知識を持つ弁護士に相談することが有効です。
労災が認定されない場合これを争う手段はあるものの、審査請求にしても訴訟にしても法的な手続きとなりますので、高い専門性が要求されます。
審査請求は、訴訟と比較すれば簡易的な手続きという位置づけであるため、本人で手続きを進めること自体は不可能ではありません。
ただし、労災の認定は法に則ってなされるものですので、単に労災と認定されないことへの不平不満を言い立てるだけでは、ほとんどのケースで望んだような結果とならないと考えられます。
一度下された不支給の決定を覆すためには、当初の決定の違法性を丁寧に論じる必要があり、この点は訴訟でも審査請求でも異なりません。
労災の認定を争うためには、どのような手続きを選択するにせよ、労災に関して高い専門性を身につけている労災に強い弁護士に相談することが重要になるといえるでしょう。
労災の問題を弁護士に相談するメリットについては、以下のページをご覧ください。
労災認定についてのQ&A
労災になるかどうかの判断は誰がするのですか?
労災の申請は、多くの場合、会社が行ってくれますが、会社が協力してくれない場合には、被災者またはその遺族が労働基準監督署に保険給付を請求して行います。
労働基準監督署が請求内容について調査を行い、調査結果に基づいて、労働基準監督署長が支給・不支給を決定します。
労災に申請期限はありますか?
労災の給付請求権は、障害(補償)給付や遺族(補償)給付などでは5年、それら以外の療養(補償)給付や休業(補償)給付などでは2年で時効により消滅します(労働者災害補償保険法42条1項)。
給付請求権の消滅時効期間が経過すると、以降は労災として認定されないのが原則となりますので、迅速に申請するよう注意する必要があります。
派遣社員やアルバイトでも労災は認定されますか?
労災保険の対象である「労働者」とは、「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」とされています(労働基準法9条)。
引用元:労働基準法|電子政府の総合窓口
このため、派遣社員、パートタイマー、アルバイトの従業員であっても、これに当たれば労働者として労災保険の対象となります。
自分に過失があっても労災は認定されますか?
労災に関して労働者になんらかの過失があるケースも稀ではなく、これを理由に労災の対象から除外してしまうと、労働者の保護として十分でないためです。
ただし、労働者の過失が重大である場合は、給付に一定の制限がされる可能性があります(労働者災害補償保険法12条の2の2第2項)。
また、労働者の故意によって災害が引き起こされた場合は、労災は認定されません(同条1項)。
まとめ
この記事では、労災が認定されない例について、労災が認定される条件や認定されない場合のデメリット、対処法などを解説しました。
記事の要点は、次のとおりです。
- 労災認定されない例とは、労災の認定基準を満たさない怪我や病気であり、業務と怪我等の因果関係がない場合や、従業員の体質が主な原因である病気などが考えられる。
- 労災には業務災害と通勤災害があり、それぞれに認定されるための条件がある。
- 労災認定されない場合のデメリットとして、医療費の自己負担、休業補償の不支給、障害補償や遺族補償が受けられないといった経済的な負担がある。
- 労災認定の判断は労働基準監督署長が行い、不服がある場合は審査請求や取消訴訟が可能である。
- 労災認定されない場合の対処法として、労災問題に強い弁護士への相談が有効である。
当事務所では、労災問題を多く取り扱う人身障害部の弁護士が相談から受任後の事件処理を行っています。
また、電話相談、オンライン相談(LINE、ZOOM、Meetなど)により、全国対応が可能ですので、お気軽にご相談下さい。