労災がおりるまで生活費はどうなる?弁護士が解説

労災がおりるまでの生活費は、労災以外の手段によって補う必要があります。

労災保険は、仕事中や通勤中の事故によるケガや病気に対して、治療費や休業中の賃金補償などを行う制度です。

しかし、労災認定には時間がかかることもあり、認定までに時間を要するケースでは、その間の生活費の確保が課題となってきます。

そこでこの記事では、労災がおりるまでの生活費に関して、労災の補償内容や認定までの期間、認定までの対処法などを、弁護士が解説します。

労災事故の被災者とその家族にとって、生活の安定は非常に重要な問題です。

労災がおりるまでの対応を知っておくことで、経済的な不安を軽減し、安心して治療に専念することができます。

労災がおりるまでの生活費についてご不安がおありでしたら、ぜひ最後までお読みください。

労災がおりるまで生活費はどうなる?

病気や怪我が労災(労働災害)と認定されると、被災者の症状や経済状況に応じて、労災保険から治療費や休業補償などの給付を受けることができます。

しかし、労災は申請から認定までに期間を要するため、被災者にとっては認定までの間の生活費をどうするかが問題となります。

労災として認定されるまで労災保険からの給付は受けられませんが、その間の生活費を確保する手段として、次のような対応が考えられます。

 

会社からの休業補償

労災保険による給付は事故の発生によって当然に受けられるわけではなく、労災として申請を行い、調査の結果労災に該当すると認定されて初めて受給できるものです。

このため、労災申請をしてから実際に給付金が支給されるまでは数ヶ月程度かかることもあります。

他方で労働基準法では、会社の業務に関して従業員が負傷し又は病気になったために労働できない場合、休業補償をするものと定めています(労働基準法76条1項)。

参考:労働基準法|電子政府の総合窓口

そこで多くの企業では、就業規則や労働協約に基づいて、労災保険の支給までの期間をカバーするために独自の休業補償制度を設けています。

法律の原則としては、金額が60パーセントにとどまることや、対象が業務災害に限られ通勤災害が含まれない点など不十分な部分もありますが、手続きには労災ほどの時間を要しないのが通常ですので、発災直後のスムーズな支援が期待できます。

もし労災事故によって休業を必要とするようであれば、労災給付の認定申請と並行して、会社に休業補償についても相談するようにしましょう。

 

貯蓄や保険等の活用

労災がおりるまでの生活費としては、個人的な貯蓄や、民間の所得補償保険などを活用することも選択肢の一つです。

また、日数としては必ずしも多くないかもしれませんが、有給休暇が使用できる間は会社から給与を受けながら治療に専念することができます。

これらは、一つ一つは不十分であるとしても、うまく組み合わせることによって、労災がおりるまでの生活費の確保に役立てることができます。

 

 

労災の補償内容と金額

労災保険では、労災事故への補償としてさまざまな保険給付が設けられています。

これらは、あくまで労災がおりてから支給されるものですので、労災がおりるまでの生活費に充てられるわけではありませんが、労災にどのような給付があるかを知っておくことによって、その後の生活の見通しを立てやすくなります。

労災給付としては、次のようなものがあります。

なお、同じ療養に対する給付であっても、会社の業務による業務災害の場合は「療養補償給付」、通勤途上に発生した通勤災害の場合は「療養給付」というように、名称が異なります。

制度上は別の給付ではあるものの、内容的にはおおむね共通していることから、両方を含める意味で「療養(補償)給付」のように表記されることがあります。

 

療養(補償)給付

療養(補償)給付は、労災の治療のための給付であり、業務上・通勤上の負傷や疾病の治療に必要な治療費が支給されます。

療養(補償)給付は原則として医療サービスの現物給付の形となり、被災者は労災の指定医療機関であれば、医療費を負担することなく病院を受診することができます。

 

休業(補償)給付

休業(補償)給付は、休業により賃金の支払いを受けられない場合になされる給付です。

休業(補償)給付の額は、災害発生前3ヶ月間の平均賃金により算定した「給付基礎日額」をベースに、休業の4日目から休業1日につき給付基礎日額の80パーセント(特別支給金20パーセントを含む)が支給されます。

なお、治療を継続してもそれ以上の効果が見込めない状態(症状固定)となった場合は、休業(補償)給付の給付は終了し、条件を満たしていれば障害(補償)給付へと移行します。

症状固定についての詳細は、こちらの記事をご覧ください。

 

障害(補償)給付

業務上・通勤上の負傷や疾病が治ゆ(症状固定)し、一定の障害が残った場合には、その障害等級に応じて年金または一時金が支給されます。

支給される金額は給付基礎日額と障害の等級(1級~14級)に応じて算定され、1級から7級までの場合は年金、8級から14級に該当する場合は一時金形式での支給となります(労働者災害補償保険法施行規則別表第1)。

参考:労働者災害補償保険法施行規則|電子政府の総合窓口

 

遺族(補償)給付

業務上・通勤上の事由で労働者が死亡した場合に、遺族の人数や状況に応じて年金または一時金が支給されます。

遺族(補償)給付の対象となる遺族は、労働者の配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹です。

金額は、遺族がその労働者の収入によって生計を維持していた場合は、年金として給付基礎日額の153日分から245日分(年額)となります(労働者災害補償保険法別表第1)。

遺族がその労働者の収入によって生計を維持していなかった場合は、一時金として給付基礎日額の1,000日分が支給されます(労働者災害補償保険法別表第2)。

参考:労働者災害補償保険法|電子政府の総合窓口

 

傷病(補償)年金

業務上・通勤上の負傷や疾病が療養開始後1年6ヶ月を経過しても治ゆせず、かつ傷病等級に該当する場合に支給されます。

支給金額は傷病の等級を基準として計算され、給付基礎日額の245日分~313日分が支給されます(労働者災害補償保険法別表第2)。

参考:労働者災害補償保険法|電子政府の総合窓口

 

介護(補償)給付

障害(補償)年金または傷病(補償)年金の受給者のうち、一定の障害により常時または随時介護を必要とする状態にある場合に支給されます。

金額は、労働者が「常時介護を要する状態」である場合は約8万円~18万円程度、「随時介護を要する状態」であれば、約4万円~9万円程度です(労働者災害補償保険法施行規則18条の3の4)。
(参考:労働者災害補償保険法施行規則|電子政府の総合窓口)

参考:労働者災害補償保険法施行規則|電子政府の総合窓口

労災保険には、以上のように被災者の状況に応じた様々な給付が用意されており、従業員やその家族の生活を保障するとともに、円滑な社会復帰を促進しています。

労災の補償内容についての詳細は、こちらの記事をご覧ください。

 

 

労災がおりるまでの期間はどれくらい?

労災は、労働基準監督署に対して認定の申請を行った後、労基署によって事故が労災に該当するかの調査が行われ、その結果に基づいて支給の可否が決定されるという流れとなります。

 

労災がおりるまでの期間

審査期間はあくまで目安となりますが、厚生労働省では療養(補償)給付や休業(補償)給付についてはおおむね1ヶ月という目安を公表しています。

ただし、労災であることが明らかな事案では審査がスムーズに進むのに対し、業務と病気・怪我の関連性が微妙な事案では、審査にそれなりの時間を要することになります。

審査に時間を要しない事案であれば認定まで1~2ヶ月程度が目安となりますが、事案が複雑であるなど調査に時間を要するケースであれば、3ヶ月あるいは半年以上かかることもあり得ます。

認定がおりて以降は労災からの給付を受けられますので、労災がおりるまでの生活費をいかに工面するかが鍵となるのです。

労災の休業補償についての詳しい解説は、こちらの記事をご覧ください。

 

 

生活が苦しいとき労災がおりるまでの対処法

生活が苦しいとき労災がおりるまでの対処法

労災がおりるまでの期間は短くても1ヶ月~2ヶ月程度はかかりますので、生活費の確保に苦慮する方は少なくありません。

ここでは、労災がおりるまでの生活が苦しいときの具体的な対処法についてご紹介します。

それぞれに利用条件があるため、常にすべての制度が利用できるわけではありませんが、労災がおりるまでの急場をしのぐ手段として参考になさってください。

 

会社や労働組合への相談

会社や労働組合によっては、労災申請中でも利用可能な独自の休業補償や支援を行っていることがあります。

会社が労働協約や就業規則に基づいて行う補償は、「労災上積み補償制度」などと呼ばれます。

会社の人事部門や労働組合の担当窓口に、一度ご相談されるとよいでしょう。

 

自治体等への相談

自治体や社会福祉協議会では、生活困窮への支援として生活福祉資金の貸し付けなどを実施していることがあります。

制度によっては所得制限などの条件があることもありますが、もし労災がおりるまでの生活費でお困りであれば、相談なさることをおすすめします。

 

金融機関等からの融資

上記のような制度を活用してもなお労災がおりるまでの生活費が不足するようであれば、金融機関等から融資を受けることも一案です。

「借金」というとネガティブなイメージがあるかもしれませんが、労災認定までの期間を考えますと、そこまで多額の借り入れになるわけではありません。

療養に専念して早期に仕事に復帰する目処が立つようであれば、滞りなく返済できると思われますので、療養の質を高める意味でも、ひとつの選択肢として検討に値します。

以上のような対処法を状況に応じて組み合わせることで、労災がおりるまでの期間を乗り越えることができるでしょう。

ただし、各制度には申請条件や期限があるため、早めの情報収集と行動が重要です。

また、一時的な対応と長期的な生活設計を並行して考えることが大切です。

 

 

労災と生活費についてのQ&A

労災のお金はいつ振り込まれますか?

労災の給付が実際に行われる時期はあくまでケースバイケースですが、スムーズに審査が進めば、労災の申請からおおむね1〜2ヶ月以内と考えられます。

ただし、これはあくまで審査が1ヶ月程度で完了する標準的なケースの場合です。

労災の支給は審査が終了し認定がおりてからとなりますので、審査に数ヶ月を要する事案では、その分振り込みが遅れることになる点に注意してください。

 

労災でも傷病手当金を受給できますか?

 労災を原因とする怪我の場合、労災からの給付が優先されるため、傷病手当金は受給できないのが原則です。

ただし、労災に該当するかが微妙な事案では審査に時間を要することも多いため、そのような場合は、ひとまず傷病手当金を受給する方法もあります。

この場合、労災が認定されれば傷病手当金を返還し、認定されなければそのまま傷病手当金を受給することになります。

 

 

まとめ

この記事では、労災がおりるまでの生活費に関して、労災の補償内容や認定までの期間、認定までの対処法などを解説しました。

記事の要点は、次のとおりです。

  • 労災は申請に対する審査を経て支給されるため、労災がおりるまでの生活費の確保には、健康保険の傷病手当金や会社からの休業補償(労災上積み補償)などの活用を検討すべきである。
  • 労災保険は、被災者の状況に応じて、療養(補償)給付や休業(補償)給付など様々な給付があり、具体的な金額は被災者の収入や怪我の程度等に応じて個別に算定される。
  • 労災認定までの期間は、標準的なケースでは1~2ヶ月程度であるが、あくまでケースバイケースであり、認定に時間を要する事案では数ヶ月以上かかることもある。
  • 労災がおりるまでの生活が苦しい場合、社会保障制度の活用や金融機関の利用などを積極的に検討すべきである。

当事務所では、労災問題を多く取り扱う人身障害部の弁護士が相談から受任後の事件処理を行っています。

また、電話相談、オンライン相談(LINE、ZOOM、Meetなど)により、全国対応が可能ですので、お気軽にご相談下さい。

 

あわせて読みたい
ご相談の流れ

 

 

労働者の方へのサポート
企業の方へのサポート
なぜ労災は弁護士に依頼すべき?
弁護士に依頼するメリット

続きを読む

まずはご相談ください
初回相談無料