労働安全衛生法違反となるケースと罰則とは?【弁護士が解説】

 

  • 職場で作業中に事故が起こった場合、経営者は罰せられますか?
  • 労災で送検されるのはどんな場合ですか?
  • 会社や経営者が受ける罰則の内容を教えて下さい。

デイライト法律事務所の労働事件チームには、このような労働安全衛生法違反に関するご相談が多く寄せられています。

労働安全衛生法違反にした場合、以下の罰則が定められています。

  • 3年以下の懲役又は300万円以下の罰金
  • 1年以下の懲役又は100万円以下の罰金
  • 6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金
  • 50万円以下の罰金

このページでは、労働安全衛生法違反となるケースと罰則について、労働事件に精通した弁護士が解説しますので、ご参考にされてください。

労働安全衛生法の規制

労働安全衛生法は、労働災害を防止し、労働者の安全と健康を守るために、労働災害の防止のための危害防止基準を確立し、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的としています(安衛法1条)。

このような目的を背景として労働安全衛生法では様々な規制がされており、規制に違反した場合の罰則が定められています。

労働安全衛生法に関する主な罰則は、下表のとおりです。

なお、労働安全衛生法における多くの罰則は、両罰規定になっています。

両罰規定とは、違反した行為者はもちろんのこと、その事業主体である法人や人も罰せられるというものです。

 

主な罰則一覧

3年以下の懲役又は300万円以下の罰金

  • 何らの許可を受けずに、労働者に重度の健康障害を生ずるもので、政令で定めているものを製造・輸入・譲渡・提供・使用した場合。(安衛法55条、116条)

1年以下の懲役又は100万円以下の罰金

  • 許可を得ずに特に危険な作業を必要とする機械等として別表第1で定められているものを製造した場合。(安衛法37条1項、117条)
  • 各種免許試験における指定試験機関の役員や免許試験員などが、試験事務に関して知り得た秘密を洩らした場合。(安衛法75条の8、117条)
  • 労働安全コンサルタント、労働衛生コンサルタントがその業務において知り得た秘密を洩らし、あるいは盗用した場合。(安衛法86条2項、117条)
  • 登録製造時等検査機関等が、業務の停止命令に違反した場合。(処罰対象は役員や職員、安衛法53条1項、54条の6第2項、575条の11第2項、118条)

6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金

  • 高圧室内作業、その他労働災害を防止するための管理を必要とする作業にあたり、作業主任者を選任しなかった場合。(安衛法14条、119条)
  • 労働者の危険又は健康障害を防止するための措置を講じなかった場合。(安衛法20条~25条、119条)
  • 政令で定められた機械を他の労働者に貸与する場合に労働災害を発生させないために必要な措置を講じなかった場合、また、貸与を受けた事業者が操作による労働災害を防止するために必要な措置を講じなかった場合。(安衛法33条1項、2項、119条)
  • 一つの貨物で1トン以上のものを発送しようとする場合に、見やすく、かつ、容易に消滅しない方法で当該貨物の重量を表示しなかった場合。(安衛法35条、119条)
  • 有害な業務を行う屋内作業場その他の作業場で、必要な作業環境測定を行わなかった場合、また、その結果を記録していなかった場合(安衛法65条、119条)
  • 伝染性の疾病で厚生労働省令に定められている疾病に罹患した従業員の就業を禁止しなかった場合(安衛法68条、119条1号)

50万円以下の罰金

  • 総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医、統括安全衛生責任者、安全衛生責任者を選任すべきである事業者が選任をしていなかった場合(安衛法10条、11条、12条、15条、16条、120条1号)
  • ボイラー等の政令で定められている機械に対して、政令で定められた通りの検査の実施、記録を行わなかった場合(安衛法45条1項、120条1号)
  • 厚生労働省令の定めに沿って、安全衛生教育を実施しなかった場合(安衛法58条1項、120条1号)

 

 

具体的な送検事例

虚偽報告事案(労災かくし)

【送検事例】福岡労働局管轄平28.7.7

(事案の概要)

土木工事現場において、労働者とドラグ・ショベルとが接触する労働災害(休業災害)が発生した。この労働災害に関して現場監督者はドラグ・ショベルと接触するおそれのある範囲に労働者が立ち入らないようにするための措置を講じていなかった。

さらに、会社代表者は、労働者死傷病報告に「被災労働者が自ら転倒して負傷した。」旨の事実と異なる発生状況を記載して労働基準監督署に提出し虚偽の報告をした事案。

 

(適用される罰則)

労働災害が発生した場合には、労働者死傷病報告書を労働基準監督署に提出しなければなりません(安衛法100条1項、安衛則97条1項)。

内容に関しては、当然ですが真実を記載しなければなりませんので、上記ケースでは罰金50万円以下の罰則が科されることになります(安衛法120条5号)

さらに、事業者は、車両系建設機械を用いて作業を行うときは、運転中の車両系建設機械に接触することにより労働者に危険が生ずるおそれのある箇所に、労働者を立ち入らせてはなりません(安衛法20条1号、安衛則158条1項)。

上記ケースでは、この点についても違反していますので、6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されることになります(安衛法119条1号)。

 

高所作業における墜落災害

【送検事例】福岡労働局管轄平28.7.13

(事案の概要)

2階建木造家屋の解体工事において、2階屋根上で瓦の除去作業を行っていた労働者が屋根の端から地上へ約6メートル墜落して死亡した。

この労働災害に関し、個人事業の代表者は、作業箇所に親綱を張り労働者に安全帯を使用させる等の墜落防止措置を講じていなかった。

(適用される罰則)

事業者は、労働者が作業にあたり、墜落の危険がある場合には、労働者に安全帯を使用させるなど墜落による労働者の危険を防止するための措置を講じなければなりません(安衛法21条2項、安衛則519条2項)。

上記ケースでは、労働者に安全帯を使用させていない労働安全衛生法違反があるため、6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されることになります(安衛法119条1号)。

 

食品加工用機械による労働災害

【送検事例】福岡労働局管轄平28.5.12

(事案の概要)

スーパーマーケット内にある食肉販売店において、労働者がミンチ機を使用して食肉をミンチ状に加工する作業を行っていたところ、食肉の投入口から入れた右手がミンチ機のロール部分に巻き込まれ、手関節から先を切断した。

個人事業の代表者は、ミンチ機の投入口に蓋や囲い等を設けておらず、労働者に材料を安全に送給するための用具を使用させていなかった。

(適用される条文)

事業者は、食品加工用粉砕機又は食品加工用混合機の開口部から可動部分に接触することにより労働者に危険が生ずるおそれのあるときは、蓋、囲い等を設けなければなりません(安衛法20条1号、安衛規則130条の5第2項)。

また、原材料を送給する場合において、労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、当該機械の運転を停止し、又は労働者に用具等を使用させなければなりません(安衛法20条1項、安衛則130条の6第1項)。

上記ケースでは、これらの規定に違反しているため、事業の代表者は、6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されることになります(安衛法119条1号)。

労働基準法や労働安全衛生法に違反した場合にも刑事罰が処せられる場合があります。

 

 

会社を守るために

会社内で従業員の事故が発生すると、送検され、刑罰を受ける可能性があります。

会社や経営者が処罰されると、経営上大きな損失となってしまうことが懸念されます。

また、刑罰を受けなくても、被害者である従業員から民事上の損害賠償請求を受ける可能性もあります。

ここでは、会社を守るために重要なポイントについて解説します。

 

① 示談の重要性

職場内で事故が発生すると、被害者である従業員が会社に対し、安全配慮義務違反を理由として損害賠償請求される可能性があります。

このような場合、裁判となれば解決まで長期間を要する傾向にあります。

また、裁判では関係者の労力が増加するなど負担が大きくなる傾向にあります。

さらに、労働問題は組織内のトラブルであるため、可能であれば、当事者間による円満解決が理想です。

したがって、示談による早期解決が望ましいと考えられます。

 

② 違法・不当な捜査への対応

会社内での事故が重大な場合、捜査機関によって、過酷な取り調べが行われる可能性があります。

事故が起こった以上、会社側に何らかの落ち度があることが多く、会社の責任がゼロの場合は少ないと思われます。

しかし、捜査機関は必要以上に会社側の落ち度を強調し、事実を捻じ曲げてしまう可能性があります。

そのため、本来は罰則を受けるような事案でないにもかかわらず、処罰されてしまうことも想定されます。

このような事態を防止するために、違法・不当な捜査への対策が必要となります。

まずは、取り調べの前に、弁護士に事前に相談しておくことをお勧めします。

労働災害に精通した弁護士であれば、具体的な状況において、取り調べの際の注意点を助言してくれるでしょう。

また、供述調書については、安易に署名せずに内容をよく精査することが重要です。

供述調書は、捜査機関側が犯罪の成立を立証しやすくするために、事実と異なることが記載されていることがあります。

一言一句内容を確認して、事実と異なる点があれば、修正を依頼し、修正されない限り署名してはいけません。

 

 

まとめ

以上、労働安全衛生法違反について、詳しく説明しましたがいかがだったでしょうか?

労働災害の事案に適切に対応するためには、労働法令の専門知識や経験が必要です。

また、捜査機関の違法・不当な捜査に対応するためには刑事弁護に関する専門知識も必要となります。

デイライト法律事務所には、企業の労働問題を専門に扱う労働事件チームと刑事弁護を専門に扱う刑事事件チームがあり、労働災害の事案では、2つのチームが連携してクライアントをサポートしています。

まずは当事務所の弁護士までお気軽にご相談ください。

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