労働保険とは?労災・雇用保険との違いや加入義務を解説

労働保険とは、労災保険と雇用保険の2種類を合わせた総称のことをいいます。

原則として、従業員を1人でも雇用している場合には労働保険に加入することが義務となっています。

そのため、従業員を1人でも雇用している場合には、労働保険がどのような保険なのか、労働保険に加入するためにはどのような書類が必要なのか、保険料はいくらくらいかかるのかなどを把握しておく必要があります。

この記事では、労働保険の全体像について説明したうえで、労働保険に加入するための手続きの流れ・必要書類や保険料の計算方法などについて詳しく解説しておりますので、労働保険についてお知りになりたい方のお役に立てれば幸いです。

労働保険とは

労働保険とは、①労災保険(労働者災害補償保険) と②雇用保険とを合わせた呼び名のことをいいます。

具体的には、以下の図のような関係となります。

 

労働保険と労災保険の違い

①労災保険(労働者災害補償保険)とは、会社の従業員が、仕事中または出退勤中に負傷、疾病、障害、死亡などした場合に必要な補償を行う保険給付制度のことをいいます。

具体的には、治療費、休業補償、障害補償などが補償される可能性があります。

労災保険の手続きや補償内容等に関して詳しく確認されたい場合は、以下の記事をご参照ください。

前述のとおり、労働保険とは、①労災保険(労働者災害補償保険) と②雇用保険とを合わせた総称ですので、労災保険には雇用保険に基づく補償がないという点で、労働保険と異なります。

 

労働保険と雇用保険の違い

②雇用保険とは、労働者が失業した場合・雇用の継続が困難となった場合や、労働者が子を育てるために休業する場合などに、失業による損失を補償するための給付(失業等給付)や育児に専念するための給付(育児休業給付)などが支給される保険給付制度のことをいいます。

前述のとおり、労働保険とは、①労災保険(労働者災害補償保険) と②雇用保険とを合わせた総称ですので、雇用保険には労災保険による補償がないという点で、労働保険と異なります。

 

労働保険と社会保険の違い

社会保険とは、社会生活の中で生じうる様々なリスク(病気、ケガ、介護、失業など)に備えて、一定の補償を行う保険給付制度のことをいいます。

具体的には、①健康保険、②厚生年金保険、③介護保険、④労災保険、⑤雇用保険が社会保険に含まれます。

①〜⑤までの保険をまとめて(広義の)社会保険と呼び、①〜③までの保険をまとめて(狭義の)社会保険④と⑤の保険をまとめて労働保険と呼ぶことがあります。

すなわち、(広義の)社会保険には労働保険が含まれていることになりますので、労働保険には①健康保険、②厚生年金保険、③介護保険による補償がないという点で、社会保険と異なります。

労働保険と社会保険の違いについて、具体的には次のようになります。

 

 

労働保険の加入義務があるのは?

会社が、正社員、パート、アルバイトなどの労働者を一人でも雇用している場合には、労働保険の適用事業となります。

すなわち、会社が、正社員、パート、アルバイトなどの労働者を一人でも雇用している場合には、会社の業種・資本金の額などにかかわらず、会社は労働保険の加入手続きを行い、労働保険料を納付する義務があります

したがって、会社は、法人・個人を問わず、労働者が加入を希望していなかったとしても、労働保険に加入する義務があります(労働者災害補償保険法第3条、雇用保険法第5条)。

ただし、5人未満の労働者を使用し、個人経営で農林水産の事業を行っている場合については、労働保険に加入する義務はありません。

根拠条文
(労働者災害補償保険法)
第三条 この法律においては、労働者を使用する事業を適用事業とする。

引用元:労働基準法|電子政府の窓口

(雇用保険法)
第五条 この法律においては、労働者が雇用される事業を適用事業とする。

引用元:労働基準法|電子政府の窓口

 

 

労働保険の手続

加入に必要な書類

前述のとおり、労働保険は、労災保険(労働者災害補償保険) と雇用保険とが合わさった保険になります。

そのため、労働保険に加入するということは、労災保険と雇用保険に加入するということを意味します。

すなわち、労働保険の加入に必要な書類とは、労災保険に加入するために必要な書類と、雇用保険に加入するために必要な書類を合わせたもののことをいいます。

ここでは、労災保険に加入するために必要な書類と、雇用保険に加入するために必要な書類をそれぞれご説明します。

なお、勤務先が、建設業・農林水産業・官庁の場合(二元適用事業所の場合)には、労働保険に加入するための必要な書類・手続きが少し異なってきます。

詳しくは、厚生労働省が作成した資料が参考になりますので、勤務先が建設業・農林水産業・官庁の方は、以下の資料の2ページ目をご参照ください

参考:厚生労働省|労災保険・雇用保険加入に関する手続きの流れ及び必要書類について

労災保険の加入に必要な書類

労災保険に加入するために必要な書類は以下のとおりです。

    1. ① 労働保険関係成立届
    2. ② 概算保険料申告書
①労働保険関係成立届

労働保険関係成立届には、事業所の住所や名称・氏名、従業員の見込み数などを記載します。

労働保険関係成立届は、勤務先と従業員との間で、保険関係が成立した日の翌日から計算して10日以内に労働基準監督署に提出しなければならないので注意しましょう。

なお、事業所の所在地を確認するための資料として、登記簿謄本(3ヶ月以内の原本)や賃貸借契約書などが必要になります

②概算保険料申告書

概算保険料申告書には、概算の保険料を記載する必要があります。

概算保険料申告書の見本をご覧になりたい方は以下のページをご参照ください。

参考:厚生労働省|概算保険料申告書の記入見本

概算保険料申告書は、勤務先と従業員との間で、保険関係が成立した日の翌日から計算して50日以内に下記(a)〜(c)のいずれかに提出しなければならないので注意しましょう。

  1. (a)労働基準監督署
  2. (b)都道府県労働局
  3. (c)日本銀行

なお、概算保険料申告書の提出は、労働保険関係成立届の提出と同時に行っても、労働保険関係成立届の提出の後に行っても、どちらでも問題ありません

雇用保険に加入するために必要な書類

雇用保険に加入するために必要な書類は以下のとおりです。

  1. ① 雇用保険適用事業所設置届
  2. ② 雇用保険被保険者資格取得届
  3. ③ 労働保険関係成立届
  4. ④ 商業登記簿謄本(3ヶ月以内の原本)また事業主の世帯全体の住民票(3ヶ月以内の原本)
  5. ⑤ 事業の内容や稼働を確認できる書類
  6. ⑥ 労働者名簿
①雇用保険適用事業所設置届

雇用保険適用事業所設置届には、事業所の名称や所在地、電話番号、従業員の人数などを記載します。

雇用保険適用事業所設置届は、従業員を雇用した日の翌日から計算して10日以内にハローワークに提出しなければならないので注意しましょう。

なお、雇用保険適用事業所設置届は、以下のハローワークインターネットサービスからダウンロードできます。

参考:厚生労働省|ハローワークインターネットサービス

②雇用保険被保険者資格取得届

雇用保険被保険者資格取得届には、従業員の氏名や生年月日、事業所番号、雇用形態などを記載します。

雇用保険被保険者資格取得届には、必ずマイナンバーを記載する必要があります。

雇用保険被保険者資格取得届は、従業員を雇用した日の翌月10日までにハローワークに提出しなければならないので注意しましょう。

なお、雇用保険被保険者資格取得届についても、以下のハローワークインターネットサービスからダウンロードできます。

参考:厚生労働省|ハローワークインターネットサービス

③労働保険関係成立届

労働保険関係成立届とは、労災保険の加入に必要な書類で紹介した書類(上記①)のことです。

雇用保険に加入するための労働保険関係成立届は、労働基準監督署で受付済みであることが必要なので、雇用保険に加入するための手続きよりも先に労災保険に加入する手続きを終えておくことが必要です。

④商業登記簿謄本(3ヶ月以内の原本)また事業主の世帯全体の住民票(3ヶ月以内の原本)

法人の場合、商業登記簿謄本(3ヶ月以内の原本)をハローワークに提出する必要があります。

なお、商業登記簿謄本で事業所の所在地が確認できない場合には、所在地が確認できる次のような資料を追加で提出する必要があります。

    • 賃貸契約書
    • 営業許可証
    • 公共料金の請求書または領収書 など

個人事業の場合、事業主の世帯全体の住民票(3ヶ月以内の原本。マイナンバーは省略可)をハローワークに提出する必要があります。

⑤事業の内容や稼働を確認できる書類

例えば、次のような書類のいずれかをハローワークに提出するとよいでしょう。

  • 売買契約書
  • 請負契約書
  • 委託契約書
  • 取引先が発行した請求書、納品書、注文書 など
⑥労働者名簿

会社は、各事業場ごとに労働者名簿を作成しなければなりません(労働基準法107条)。

従業員が被保険者としての資格を持っているかどうかを確認するためにも必要な書類となります。

根拠条文
(労働基準法)
第百七条 使用者は、各事業場ごとに労働者名簿を、各労働者(日日雇い入れられる者を除く。)について調製し、労働者の氏名、生年月日、履歴その他厚生労働省令で定める事項を記入しなければならない。
第2項 略

引用元:労働基準法|電子政府の窓口

 

加入の流れ

労働保険に加入するためには、次のような手続きをする必要があります。

①労災保険に加入する

前述のとおり、労災保険に加入するためには、「労働保険関係成立届」と「概算保険料申告書」を労働基準監督署に提出する必要があります。

【 提出書類 】

  • 労働保険関係成立届
  • 概算保険料申告書

【 提出場所 】

  • 労働保険関係成立届
    →労働基準監督署
  • 概算保険料申告書
    →(a)労働基準監督署、(b)都道府県労働局、(c)日本銀行のいずれかの場所

【 提出期限 】

    • 労働保険関係成立届
      →勤務先と従業員との間で保険関係が成立した日の翌日から計算して10日以内
    • 概算保険料申告書
      →勤務先と従業員との間で保険関係が成立した日の翌日から計算して50日以内

②雇用保険に加入する

労災保険に加入後、雇用保険に加入するための手続きを行う必要があります。

【 提出書類 】

  • 雇用保険適用事業所設置届
  • 雇用保険被保険者資格取得届
  • 労働保険関係成立届
  • その他関係書類
    ※詳しくは、前述した「雇用保険に加入するために必要な書類」をご参照ください。

【 提出場所 】
ハローワーク


【 提出期限 】

    • 雇用保険適用事業所設置届
      →従業員を雇用した日の翌日から計算して10日以内
    • 雇用保険被保険者資格取得届
      →従業員を雇用した日の翌月10日まで

 

労働保険の年度更新の仕方

労働保険の年度更新とは、下記の2つの手続きを行うことをいいます。

  1. ① 前年度の保険料を精算するための確定保険料の申告・納付の手続き
  2. ② 新年度の概算保険料を納付するための申告・納付の手続き

労働保険の年度更新の手続きは、毎年6月1日から7月10日(土日祝日は除きます。)までの間に行われます。

6月1日から7月10日までの間に労働保険の年度更新の手続きを行わないと、国が保険料・拠出金の額を決定し、さらに、追徴金を課すことがあるため、必ず毎年6月1日から7月10日までの間に年度更新の手続きをするようにしましょう

労働保険の年度更新をするためには、まず、「労働保険概算・確定保険料/石綿健康被害救済法一般拠出金申告書」を作成します。

その後、「労働保険概算・確定保険料/石綿健康被害救済法一般拠出金申告書」に保険料等を添えて、以下のいずれかの場所に提出していただく必要があります。

【 提出先 】

  • 金融機関
  • 所轄都道府県労働局
  • 労働基準監督署

なお、「労働保険概算・確定保険料/石綿健康被害救済法一般拠出金申告書」は、あらかじめ労働保険番号や事業の所在地・名称などが記載され、都道府県労働局から各事業者宛てに送付されますので、そちらをご利用ください。

 

 

労働保険の計算方法

労災保険料について

労災保険料は以下の計算式によって計算されます。

労災保険料 = 「全従業員に支払った前年度の賃金の総額」×「労災保険率」

「全従業員に支払った前年度の賃金の総額」

「全従業員に支払った前年度の賃金の総額」とは、基本給や賞与、通勤手当・残業手当・家族手当、定期券・回数券などの会社が全ての従業員に支払った賃金の総額のことをいいます。

ただし、以下のような項目は「全従業員に支払った前年度の賃金の総額」に含まれません。

  • 役員報酬
  • 傷病手当金、死亡弔慰金、結婚祝金、退職金
  • 出張費、宿泊費
  • 会社が全額負担する生命保険の掛金 など

「労災保険率」

「労災保険率」は、事業の種類によって異なってきます。

詳しくは、厚生労働省が公表している労災保険率表がありますのでご参照ください。

参考:厚生労働省|労災保険率表

 

雇用保険料について

雇用保険料は以下の計算式によって計算します。

雇用保険料 = 「給与額(賞与額)」×「雇用保険料率」

「給与額(賞与額)」

「給与額(賞与額)」とは、所得税や社会保険料などを控除する前の額面の金額のことをいいます。

ただし、次のような支払金は「給与額(賞与額)」に含まれないため注意しましょう。

  • 役員報酬
  • 死亡弔慰金、災害見舞金、結婚祝金、退職金
  • 出張費、宿泊費
  • 傷病手当金
  • 会社が解雇予告をしないで従業員を解雇する場合に支払う解雇予告手当 など

「雇用保険率」

「雇用保険料率」は、事業の種類によって数値が異なっています。

令和5年度の「雇用保険料率」については、厚生労働省が公表していますので、以下のデータをご覧ください。

参考:厚生労働省|令和5年度雇用保険料率のご案内

 

 

労働保険のよくあるQ&A

労働保険に加入しなかったらどうなる?

労働保険は、会社が従業員を一人でも雇っている場合には、原則として加入しなければならない保険になります。

そのため、労働保険に加入するように指導を受けたにもかかわらず、会社が労働保険に加入しない場合には、国が職権により労働保険への加入手続を行うことになります。

その後、国は、会社に対して、支払いを滞納している過去の分も含めて労働保険料を徴収することになります

さらに、再三の指導を受けたにもかかわらず労働保険に加入しなかった場合には、国は、会社に対して、過去の分の労働保険料に加えて、追徴金を徴収することになります。

 

労働保険の種類とは?

前述のとおり、労働保険とは、①労災保険(労働者災害補償保険) と②雇用保険の2種類を含んだ保険のことをいいます。

①労災保険(労働者災害補償保険)には、次のような給付内容の種類があります。

  • 療養(補償)給付
  • 休業(補償)給付
  • 傷病(補償)年金
  • 障害(補償)給付
  • 遺族(補償)給付
  • 介護(補償)給付
  • 葬祭料(葬祭給付)

労災保険の給付内容について、詳しくご覧になりたい方は以下の記事で解説しておりますのでご確認ください。

また、②雇用保険には次のような給付内容の種類があります。

  • 失業等給付
  • 育児休業給付
  • 雇用保険二事業

雇用保険の概要について確認されたい場合には、以下をご覧ください。

参考:厚生労働省|雇用保険制度の概要

 

労働保険の保険料を支払わないとどうなる?

労働保険に加入した場合、労働保険の保険料を支払うことは義務になります。

そのため、労働保険の保険料を支払わないと、国から労働保険の保険料を支払うように指導が行われます。

国からの指導がなされているにもかかわらず、それでも労働保険料を支払わない場合には、財産の差押えなどの強制手段によって、支払いがされていない労働保険料と延滞金(年率14.6%)が徴収されます。

したがって、労働保険の保険料は必ず期限までに支払うようにしましょう。

 

 

まとめ

以上、労働保険について詳しく解説いたしましたが、いかがだったでしょうか。

一部の事業を行っている会社を除いて、従業員を雇用している場合には労働保険に加入しなければならないため、労働保険について詳しくなることは重要なことです。

また、労災保険や雇用保険への加入に必要な書類には提出期限が決められているため、早めに必要書類を準備するようにしましょう。

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