労災の後遺障害とは?等級毎の金額や認定の流れを解説

労災の後遺障害とは、労働災害によるケガや病気の治療を継続したものの完治せず、残った症状が後遺障害の等級表に該当する場合をいいます。

労災保険の後遺障害等級に認定されると、障害補償給付が受けられます。

ただし、障害補償給付では後遺障害慰謝料や逸失利益カバーできないことがほとんどです。

会社に安全配慮義務(従業員の生命身体健康を仕事により害さないようにする義務)違反が認められるケースでは、後遺障害に認定されると、従業員は、後遺障害慰謝料、逸失利益を請求することができます。

以下では、労災の後遺障害の認定基準、後遺障害の認定の流れ、労災保険から給付される金額などについて、詳しく解説していますので、参考にされてください。

労災の後遺障害とは?

労災の後遺障害とは、労働災害によるケガや病気の治療を継続したものの完治せず、残った症状が後遺障害の等級表に該当する場合をいいます。

例えば、労災事故によって骨折し、治療を継続したものの、骨がキレイにくっつかず、痛みが残ってしまった場合には、後遺障害12級12号に該当します。

労災の後遺障害に該当した場合には、等級に応じて、障害補償給付が支払われます。

また、労災事故が発生したことについて、会社に落ち度がある場合(安全配慮義務違反がある場合)には、会社に対して、後遺障害の慰謝料や逸失利益を請求することができます。

 

労災による後遺障害の認定率

労災の後遺障害の認定率の正確な数字は、明らかではありませんが、交通事故の後遺障害の認定率は、5%前後と言われています。

労災は、被災した従業員の救済を目的とする部分もあるため、交通事故の後遺障害の認定よりも、やや緩く認定される傾向があります。

 

「しびれ」は労災の後遺障害になる?

「しびれ」は神経症状に含まれます。

したがって、12級12号の「局部にがん固な神経症状を残すもの」あるいは、14級9号の「局部に神経症状を残すもの」に該当する可能性があります。

 

 

労災による後遺障害の等級とは?

労災による後遺障害の等級とは、労働者災害補償保険法施行規則の障害等級表に定められている等級のことであり、症状の内容と症状の軽重に応じて定められています。

等級毎の後遺障害の内容一覧

等級 後遺障害
第14級
  1. 一眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの
  2. 三歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
    2-2 一耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になつたもの
  3. 上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
  4. 下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
  5. 削除
  6. 一手の母指以外の手指の指骨の一部を失つたもの
  7. 一手の母指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなつたもの
  8. 一足の第三の足指以下の一又は二の足指の用を廃したもの
  9. 局部に神経症状を残すもの
  10. 削除
第13級
  1. 一眼の視力が〇・六以下になつたもの
  2. 一眼に半盲症、視野狭さく又は視野変状を残すもの
    2-2 正面視以外で複視を残すもの
  3. 両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの
    3-2 五歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
    3-3 胸腹部臓器の機能に障害を残すもの
  4. 一手の小指の用を廃したもの
  5. 一手の母指の指骨の一部を失つたもの
  6. 削除
  7. 削除
  8. 一下肢を一センチメートル以上短縮したもの
  9. 一足の第三の足指以下の一又は二の足指を失つたもの
  10. 一足の第二の足指の用を廃したもの、第二の足指を含み二の足指の用を廃したもの又は第三の足指以下の三の足指の用を廃したもの
第12級
  1. 一眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの
  2. 一眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
  3. 七歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
  4. 一耳の耳殻の大部分を欠損したもの
  5. 鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの
  6. 一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの
  7. 一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの
  8. 長管骨に変形を残すもの
    8-2 一手の小指を失つたもの
  9. 一手の示指、中指又は環指の用を廃したもの
  10. 一足の第二の足指を失つたもの、第二の足指を含み二の足指を失つたもの又は第三の足指以下の三の足指を失つたもの
  11. 一足の第一の足指又は他の四の足指の用を廃したもの
  12. 局部にがん固な神経症状を残すもの
  13. 削除
  14. 外貌に醜状を残すもの
第11級
  1. 両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの
  2. 両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
  3. 一眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
    3-2 十歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
    3-3 両耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になつたもの
  4. 一耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの
  5. せき柱に変形を残すもの
  6. 一手の示指、中指又は環指を失つたもの
  7. 削除
  8. 一足の第一の足指を含み二以上の足指の用を廃したもの
  9. 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの
第10級
  1. 一眼の視力が〇・一以下になつたもの
    1-2 正面視で複視を残すもの
  2. そしやく又は言語の機能に障害を残すもの
  3. 十四歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
    3-4 両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になつたもの
  4. 一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になつたもの
  5. 削除
  6. 一手の母指又は母指以外の二の手指の用を廃したもの
  7. 一下肢を三センチメートル以上短縮したもの
  8. 一足の第一の足指又は他の四の足指を失つたもの
  9. 一足の第一の足指又は他の四の足指を失つたもの
  10. 一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの
  11. 一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの
第9級
  1. 両眼の視力が〇・六以下になつたもの
  2. 一眼の視力が〇・〇六以下になつたもの
  3. 両眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの
  4. 両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
  5. 鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの
  6. 咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの
    6-2  両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの
    6-3 一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になつたもの
  7. 一耳の聴力を全く失つたもの
    7-2 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
    7-3 胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
  8. 一手の母指又は母指以外の二の手指を失つたもの
  9. 一手の母指を含み二の手指又は母指以外の三の手指の用を廃したもの
  10. 一足の第一の足指を含み二以上の足指を失つたもの
  11. 一足の足指の全部の用を廃したもの
    11-2 外貌に相当程度の醜状を残すもの
  12. 生殖器に著しい障害を残すもの
第8級
  1. 一眼が失明し、又は一眼の視力が〇・〇二以下になつたもの
  2. 脊柱に運動障害を残すもの
  3. 一手の母指を含み二の手指又は母指以外の三の手指を失つたもの
  4. 一手の母指を含み三の手指又は母指以外の四の手指の用を廃したもの
  5. 一下肢を五センチメートル以上短縮したもの
  6. 一上肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの
  7. 一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの
  8. 一上肢に偽関節を残すもの
  9. 一下肢に偽関節を残すもの
  10. 一足の足指の全部を失つたもの
第7級
  1. 一眼が失明し、他眼の視力が〇・六以下になつたもの
  2. 両耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの
    2-2 一耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの
  3. 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
  4. 削除
  5. 胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
  6. 一手の母指を含み三の手指又は母指以外の四の手指を失つたもの
  7. 一手の五の手指又は母指を含み四の手指の用を廃したもの
  8. 一足をリスフラン関節以上で失つたもの
  9. 一上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
  10. 一下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
  11. 両足の足指の全部の用を廃したもの
  12. 外貌に著しい醜状を残すもの
  13. 両側のこう丸を失つたもの
第6級
  1. 両眼の視力が〇・一以下になつたもの
  2. 咀嚼又は言語の機能に著しい障害を残すもの
  3. 両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になつたもの
    3-2 一耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの
  4. せき柱に著しい変形又は運動障害を残すもの
  5. 一上肢の三大関節中の二関節の用を廃したもの
  6. 一下肢の三大関節中の二関節の用を廃したもの
  7. 一手の五の手指又は母指を含み四の手指を失つたもの
第5級
  1. 一眼が失明し、他眼の視力が〇・一以下になつたもの
    1-2 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
    1-3 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
  2. 一上肢を手関節以上で失つたもの
  3. 一下肢を足関節以上で失つたもの
  4. 一上肢の用を全廃したもの
  5. 一下肢の用を全廃したもの
  6. 両足の足指の全部を失つたもの
第4級
  1. 両眼の視力が〇・〇六以下になつたもの
  2. 咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残すもの
  3. 両耳の聴力を全く失つたもの
  4. 一上肢をひじ関節以上で失つたもの
  5. 一下肢をひざ関節以上で失つたもの
  6. 両手の手指の全部の用を廃したもの
  7. 両足をリスフラン関節以上で失つたもの
第3級
  1. 一眼が失明し、他眼の視力が〇・〇六以下になつたもの
  2. 咀嚼又は言語の機能を廃したもの
  3. 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
  4. 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
  5. 両手の手指の全部を失つたもの
第2級
  1. 一眼が失明し、他眼の視力が〇・〇二以下になつたもの
  2. 両眼の視力が〇・〇二以下になつたもの
    2-2 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
    2-3 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
  3. 両上肢を手関節以上で失つたもの
  4. 両下肢を足関節以上で失つたもの
第1級
  1. 両眼が失明したもの
  2. 咀嚼及び言語の機能を廃したもの
  3. 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
  4. 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
  5. 削除
  6. 両上肢をひじ関節以上で失つたもの
  7. 両上肢の用を全廃したもの
  8. 両下肢をひざ関節以上で失つたもの
  9. 両下肢の用を全廃したもの

 

労災による後遺障害の等級認定の流れ

以下は、労災による後遺障害等級認定の流れのフロー図です。

労災による後遺障害の等級認定の流れ

 

①「治ったとき」(症状固定)

「治ったとき」(症状固定)とは、労災事故によるケガや病気の症状は残っているものの、症状が一進一退で現代医学ではすぐに治せないような状態をいいます。

「治ったとき」というと、完全に症状が治っているかのような印象を与えますが、そうではありません。

「治ったとき」(症状固定)に至っているかどうかは、医学的な判断が必要となるので、主治医に判断してもらうことになります。

 

ワンポイント 「治ったとき」(症状固定)になると何が変わる?

「治ったとき」となって以降は、労災保険や会社に対して、治療費や休業損害の請求ができなくなります。

また、入通院慰謝料(入院や通院に対する慰謝料)の算定は労災事故日から症状固定日までの期間で算出するので、入通院慰謝料の金額にも影響します。

さらに、後遺障害事案では、消滅時効(時間の経過により賠償請求ができなくなる法制度)の起算点にもなります。

このように、症状固定の概念は、賠償の範囲を確定するのに非常に重要な概念となっているのです。

 

②必要書類の収集・作成

労災で後遺障害認定を受けるには、様式第10号の請求書を作成する必要があります。(通勤災害の場合は様式16号の7)

また、医師が作成する後遺障害診断書やレントゲン、CT、MRIなどの画像も必要に応じて病院から取り寄せる必要があります。

 

③労働基準監督署に必要書類を提出

必要な書類を収集、作成できたら、管轄の労働基準監督署に資料一式を提出して、障害補償給付を申請します。

  • 業務災害の場合
    障害補償給付支給請求書(様式第10号)
  • 通勤災害の場合
    障害給付支給請求書(様式第16号の7)

様式は厚生労働省のホームページでダウンロードできます。

参考:主要様式ダウンロードコーナー (労災保険給付関係主要様式)|厚生労働省

 

④労働基準監督署による調査

後遺障害の請求を受け付けた労働基準監督署は、被災した従業員に残っている症状が後遺障害等級に該当するか審査を行います。

調査の方法としては、提出された書類の調査、被災した従業員との面談の調査、医師への医療照会(質問すること)、会社への事実関係の確認などが、必要に応じて行われます。

 

労基署の調査官等との面談について

必要書類を提出した後、必要がある場合には、労基署から面談の連絡があります。

連絡があったら、被災した従業員は、労基署に出向いて、労基署の調査官や医師(地方労災医員)と面談することになります。

面談内容は、提出されている書類の内容の確認や、症状の状態、その他、提出した資料からは分からない事情について質問されます。

面談にあたって、被災した従業員は、自らの症状や労災事故に関する事柄について誠実に回答しなければなりません。

 

⑤後遺障害の結果が通知される

労災保険の後遺障害の審査期間は、必要書類を提出して受理されてから約3ヶ月程度と言われています。

労災事故と障害の関係性の判断が難しい場合などには、3ヶ月以上の時間を要する場合があります。

審査が終了すると、後遺障害審査の認定の結果が記載された通知が届きます。

 

労災の後遺障害の認定通知について

労災の後遺障害の結果の通知は、何らかの後遺障害の認定がなされた場合には、「支給決定通知書」が届きます。

1〜7級が認定された場合には「年金証書」、8〜14級が認定された場合には「支払通知書」も一緒に送られてきます。

後遺障害の認定がされなかった場合は、「不支給決定通知書」が届きます。

 

等級認定に必要な書類

労災の後遺障害の申請に当たっては、以下の書類が必要になります。

  • 業務災害の場合:障害補償給付支給請求書(様式第10号)
  • 通勤災害の場合:障害給付支給請求書(様式第16号の7)
  • 後遺障害診断書
  • レントゲン、CT、MRIなどの画像(必要に応じて提出)
  • その他医療記録(カルテ、医師の診断書、意見書、鑑定書など必要に応じて提出)

 

労災による後遺障害の診断書

労災の後遺障害の診断書は、後遺障害の審査にあたって重要な書類です。

被災した従業員の治療経過や、障害の状態の詳細などを記載する欄があり、その記載内容によって、後遺障害認定が左右される可能性があります。

労災の後遺障害診断書について、詳しくは以下をご覧ください。

 

労災の診断書の様式ダウンロードはこちら

労災の後遺障害診断書の様式については、以下のサイトからダウンロードできますので、ご参考にされてください。

 

 

後遺障害の等級ごとの金額とは?

労災による後遺障害の補償内容

労災による後遺障害の補償内容は、以下のとおりです。

  • 障害(補償)等給付(年金:1〜7級の場合)
  • 障害(補償)等給付(一時金:8〜14級の場合)
  • 障害特別支給金
  • 障害特別年金
  • 障害特別一時金

障害(補償)等給付とは、後遺障害に認定された場合に、その等級に応じて支給される給付で、1〜7級の場合は年金、8級〜14級の場合は一時金が支給されます。

障害特別支給金とは、障害(補償)等給付に上乗せされるもので、社会復帰促進等事業の1つとして特別に支給されるものです。

各等級に応じて8万円〜342万円の金額で決まっています。

障害特別年金は、ボーナス等の特別給与を1日単価の算定の基礎として計算(通常の給与は含まない)し、決まった日数(131日〜313日)分を年金として支給するものです。

障害特別一時金も同じ様に、ボーナス等の特別給与を1日単価の算定の基礎として計算(通常の給与は含まない)し、決まった日数分を一時金として支給されるものです。

 

労災で補償されるのは損害の一部である

労災事故にあった従業員の主な損害としては以下の項目が考えられます。

損害項目 損害の内容
治療費 事故によるケガや病気に対する治療費、入院費、薬代など
休業損害 労災事故により仕事ができなくなって、給料が減ってしまうことに対する補償
入通院慰謝料 労災事故で入院や通院をせざるを得なくなったことに対する慰謝料
後遺障害慰謝料 労災事故による負傷あるいは病気によって後遺障害が残ってしまった場合の慰謝料
逸失利益 後遺障害によって働きづらくなり、将来、収入が減ってしまうことに対する補償

労災保険では、治療費、休業損害の一部、後遺障害の賠償の一部が支払われます。

しかし、慰謝料については支払いはありません。

また、後遺障害の賠償については、あくまで一部の支払いにとどまります。

例えば、以下のケースで損害総額と労災保険で賄われる金額を説明します。

具体例

  • 年齢:47歳
  • 年収:550万円
  • ケガの内容:脳挫傷、びまん性軸索損傷
  • 傷病名:高次脳機能障害
  • 治療費:250万円
  • 給付基礎日額:1万5000円
  • 治療期間:入院60日、通院300日
  • 休業補償の対象日数:360日
  • 後遺障害等級:9級7号の2

このケースでの賠償額及び労災保険で賄われる金額は以下のとおりです。

賠償額 労災保険支給
治療費 250万円 250万円
休業損害 540万円 324万円
※特別支給金は含まず
入通院慰謝料 203万円 0円
後遺障害慰謝料 690万円 586万5000円
※特別支給金は含まず
逸失利益 2863万9187円
合計額 4546万9187円 1160万5000円
※逸失利益は、労働能力喪失期間20年で計算しています。
※従業員の過失割合は0%としています。
※上記表は分かりやすくするために簡略化して概算を計算したものです。
※特別給与はない前提で計算しています。

上記のケースでは、概算ではありますが、総損害額4546万9187円のうち1160万5000円しか労災保険で賄うことができません。

差額のの3386万4187円については、会社が支払う義務を負うことになります。

こうした賠償の請求に備えて、会社としては、使用者賠償責任保険や法定外補償保険などに加入することも検討すべきでしょう。

 

労災による後遺障害の等級別の支給額一覧

以下では、10〜14級の後遺障害等級に該当した場合の労災保険からの後遺障害部分の支給額と、後遺障害慰謝料、逸失利益について、具体例で解説します。

具体例の前提は以下のとおりです。

具体例

  • 災害の種類:業務災害
  • 年齢:42歳
  • ケガの内容:骨折などレントゲンで確認できる障害を負っている
  • 年収600万円(内ボーナス50万円が2回の計100万円)
  • 給付基礎日額:1万3700円(※分かりやすくするために数字を丸めています)
  • 算定基礎日額:2700円(※分かりやすくするために数字を丸めています)

「給付基礎日額」とは、障害補償等給付の金額を算出する際に用いる1日単価であり、労災事故の直近3ヶ月の給与から計算します。

「算定基礎日額」は、障害特別一時金の金額を算出する際に用いる1日単価であり、ボーナスなど3か月をこえる期間ごとに支払われる賃金の総額を365日で除して計算します。

※以下の逸失利益の計算については、一般的な概算を示しています。各等級の号によっては、逸失利益が認められづらいものもあり、以下の金額に満たないケースもあります。具体的事例において逸失利益の金額を計算したい場合には、弁護士に相談されることをお勧めします。

 

労災の後遺障害14級の金額

労災保険からの支給

労災の後遺障害14級に該当した場合、労災保険からは以下のような支給があります。

支給項目 支払日数(金額)
障害補償等給付 56日
障害特別支給金 8万円
障害特別一時金 56日

障害補償等給付:1万3700円 × 56日 = 76万7200円

障害特別一時金:2700円 × 56日= 15万1200円

労災からの支給額:76万2700円 + 15万1200円 + 8万円 = 99万3900円

 

後遺障害慰謝料、逸失利益の金額
損害項目 賠償額
後遺障害慰謝料 110万円
逸失利益 137万3910円
合計額 247万3910円

後遺障害14級の後遺障害慰謝料の相場は、110万円です。

逸失利益は、以下の計算方法で計算します。

計算式 基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

上記の事情を前提にすると以下の計算式になります。

※認定される件数が最も多い14級9号を前提に計算しています。

600万円 × 5% × 4.5797(5年)= 137万3910円

したがって、後遺障害慰謝料、逸失利益の合計額は247万3910円となります。

この金額から上記の労災保険から給付される91万3900円(特別支給金8万円は除外されます)を差し引いた156万0010円を後遺障害と逸失利益の賠償として、会社に請求することができます。

なお、14級9号は労働能力喪失期間が限定的に5年とされることが多いですが、他の号の場合には、67歳まで労働能力喪失期間として認められる可能性はあります。

その場合の逸失利益の金額は以下のとおりです。

600万円 × 5% × 17.4131(25年)= 522万3930円

逸失利益の計算方法について、詳しく知りたい方は以下をご覧ください。

 

労災の後遺障害13級の金額

労災保険からの支給

労災の後遺障害13級に該当した場合、労災保険からは支給額は以下のとおりです。

支給項目 支払日数(金額)
障害補償等給付 101日
障害特別支給金 14万円
障害特別一時金 101日

障害補償等給付:1万3700円 × 101日 = 138万3700円

障害特別一時金:2700円 × 101日 = 27万2700円

労災からの支給額:138万3700円 + 27万2700円 + 14万円 = 179万6400円

 

後遺障害慰謝料、逸失利益の金額
損害項目 賠償額
後遺障害慰謝料 190万円
逸失利益 940万3074円
合計額 1130万3074円

後遺障害13級の後遺障害慰謝料の相場は、190万円です。

逸失利益は、以下の計算方法で計算します。

600万円 × 9% × 17.4131 = 940万3074円

したがって、後遺障害慰謝料、逸失利益の合計額は1130万3074円となります。

この金額から上記の労災保険から給付される165万6400円(特別支給金14万円は除外されます)を差し引いた964万6674円を後遺障害と逸失利益の賠償として、会社に請求することができます。

 

労災の後遺障害12級の金額

労災保険からの支給

12級に該当した場合、労災保険からは支給額は以下のとおりです。

支給項目 支払日数(金額)
障害補償等給付 156日
障害特別支給金 20万円
障害特別一時金 156日

障害補償等給付:1万3700円 × 156日 = 213万7200円

障害特別一時金:2700円 × 156日 = 42万1200円

労災からの支給額:213万7200円 + 42万1200円 + 20万円 = 275万8400円

 

後遺障害慰謝料、逸失利益の金額
損害項目 賠償額
後遺障害慰謝料 290万円
逸失利益 1462万7004円
合計額 1752万7004円

後遺障害12級の後遺障害慰謝料の相場は、290万円です。

逸失利益は、以下の計算方法で計算します。

600万円 × 14% × 17.4131 = 1462万7004円

したがって、後遺障害慰謝料、逸失利益の合計額は1752万7004円となります。

この金額から上記の労災保険から給付される255万8400円(特別支給金20万円は除外されます)を差し引いた1496万8604円を後遺障害と逸失利益の賠償として、会社に請求することができます。

12級の逸失利益について、詳しく知りたい方は以下をご覧ください。

 

労災の後遺障害11級の金額

労災保険からの支給

11級に該当した場合、労災保険の支給額は以下のとおりです。

支給項目 支払日数(金額)
障害補償等給付 223日
障害特別支給金 29万円
障害特別一時金 223日

障害補償等給付:1万3700円 × 223日 = 305万5100円

障害特別一時金:2700円 × 223日 = 60万2100円

労災からの支給額:305万5100円 + 60万2100円 + 29万円 = 394万7200円

 

後遺障害慰謝料、逸失利益の金額
損害項目 賠償額
後遺障害慰謝料 420万円
逸失利益 2089万5720円
合計額 2509万5720円

後遺障害11級の後遺障害慰謝料の相場は、420万円です。

逸失利益は、以下の計算方法で計算します。

600万円 × 20% × 17.4131 = 2089万5720円

したがって、後遺障害慰謝料、逸失利益の合計額は2509万5720円となります。

この金額から上記の労災保険から給付される365万7200円(特別支給金29万円は除外されます)を差し引いた2143万8520円を後遺障害と逸失利益の賠償として、会社に請求することができます。

 

労災の後遺障害10級の金額

労災保険からの支給

労災の後遺障害10級に該当した場合、労災保険からは支給額は以下のとおりです。

支給項目 支払日数(金額)
障害補償等給付 302日
障害特別支給金 39万円
障害特別一時金 302日

障害補償等給付:1万3700円 × 302日 = 413万7400円

障害特別一時金:2700円 × 302日 = 81万5400円

労災からの支給額:413万7400円 + 81万5400円 + 39万円 = 534万2800円

 

後遺障害慰謝料、逸失利益の金額
損害項目 賠償額
後遺障害慰謝料 550万円
逸失利益 2820万9222円
合計額 3370万9222円

後遺障害10級の後遺障害慰謝料の相場は、190万円です。

逸失利益は、以下の計算方法で計算します。

600万円 × 27% × 17.4131 = 2820万9222円

したがって、後遺障害慰謝料、逸失利益の合計額は3370万9222円となります。

この金額から上記の労災保険から給付される495万2800円(特別支給金39万円は除外されます)を差し引いた2875万6422円を後遺障害と逸失利益の賠償として、会社に請求することができます。

 

 

労災の後遺障害が認定されない場合はどうする?

労災の後遺障害が認定されない場合はどうする?

認定結果に納得行かない場合は審査請求を行う

労災保険の審査請求とは、労災保険給付の決定に対して不満がある場合に、再度、審査してもらうよう請求するものです。

後遺障害の認定の結果に不服がある場合には、審査請求を検討することになります。

 

審査請求の流れ

後遺障害の決定があったことを知った日(決定を知りうる状態になった日)から3ヶ月以内に、審査請求を行う必要があります。

申請先は、後遺障害の審査をして決定をした労働基準監督署を管轄する都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官です。

審査官は、審査請求を受理した後、被災した従業員と、後遺障害の決定をした労働基準監督書の意見を聞いた上で、審査がなされます。

審査官は、必要に応じて、事情を知っている関係者への事情聴取や医師への医療照会(医師への質問)を行い、審査を進めます。

審査官による審査が完了後、審査結果が被災した従業員に通知されることになります。

この結果に対しても不服な場合には、再審査請求をすることができます。

 

審査請求のポイント

審査請求で認定を覆すには、最初の申請の段階で認定してもらえなかった理由を明確にする必要があります。

そのため、審査請求にあたっては、まずは情報公開請求によって認定理由の開示を求めるべきでしょう。

開示された認定理由を分析し、認定されなかった理由を打ち消すような証拠を収集して、提出することが大切です。

 

示談交渉をして後遺障害以外の賠償をしてもらう

後遺障害に認定されない場合であっても、入院や通院をしたことに対する慰謝料は発生しています。

また、休業損害も労災保険からは一部しか支払われていないため、残額を請求することができる可能性があります。

後遺障害に認定されない場合は、うした入通院慰謝料や休業損害を会社と示談交渉して支払ってもらうことも検討すべきでしょう。

会社にこうした請求をするに当たっては、労災事故が発生したことについて、会社に落ち度があること(安全配慮義務違反があること)が必要です。

会社が、労働安全衛生法や労働安全衛生規則などに違反したことが原因で労災事故が発生していないかなど検討して、会社に賠償請求することになります。

こうした検討は、高度に専門的な知識が必要になりますので、専門の弁護士に相談されることをお勧めします。

 

 

労災の後遺障害のポイント

会社が不誠実な対応をするとき従業員はどうすればいい?

労災事故が発生した場合に、会社から以下のような不誠実な対応をとられる可能性があります。

  • 労災の申請に協力してくれない
  • 労災からの支給で賠償は完了しているといわれる

 

労災の申請に協力してくれない

労災の申請に当たっては、会社の証明が必要となることから、原則として会社の協力が必要になります。

しかし、会社が協力してくれない場合には、従業員が書類を作成して労災申請することも可能です。

その場合には、会社に事業者証明をお願いしたが拒否されたことを書き添えておいたほうがいいでしょう。

 

労災からの支給で賠償は完了しているといわれる

不誠実な会社の中には、会社の落ち度で労災事故が発生しているにも関わらず、労災からの給付以外には、賠償はしないと主張してくる会社もあるでしょう。

こうした会社は、そもそも労災事故の責任について理解していない可能性があります。

したがって、こうした会社には、従業員に対して安全配慮義務(従業員が生命身体健康を害さないようにする義務)を負っていること、当該労災事故では安全配慮義務違反が認められることなどを具体的に説明していくことが必要でしょう。

こうした説明や交渉は従業員個人では困難なため、専門の弁護士に相談されることをお勧めします。

 

慰謝料などを従業員から請求されたとき会社はどうすればいい?

従業員から、慰謝料などの賠償金を請求された場合には、まず、会社に責任があるかどうかを検討すべきです。

労災事故の発生について、安全配慮義務違反が認められるようであれば、従業員からの請求に対して、誠実に対応していくべきでしょう。

もっとも、賠償するにしても、適切な金額の補償をすればよいのであって、従業員側の請求をそのまま認める必要はありません。

従業員が主張している損害額が妥当なのかを精査する必要があります。

また、労災事故の発生について、従業員にも落ち度がある場合には、その落ち度分は減額するように主張(過失相殺の主張)をしていくことになります。

一方で、会社に安全配慮義務はないと考えられる場合には、会社がその様に考える理由を具体的に従業員に説明することになります。

こうした一連の対応や判断は、専門的な知識と経験がなければ難しいので、専門の弁護士に相談されることをお勧めします。

 

 

労災の後遺障害についてのQ&A

労災の後遺障害を申請するタイミングはいつがいい?

労災の後遺障害の申請ができるようになるのは、傷病が「治ったとき」(症状固定)した後です。

「治ったとき」とは、完全に症状が無くなった時点のことではなく、傷病の症状が安定し、医学上一般に認められる治療をしても、その効果が期待できなくなった状態のことをいいます。

この時点において、残っている症状が、等級表に定める後遺障害に該当するか審査されるのです。

したがって、後遺障害の申請のタイミングは、「治ったとき」(症状固定)の後ということになります。

「治ったとき」(症状固定)に至っているかどうかは、医学的判断に基づいて判断されることになります。

したがって、主治医とコミュニケーションをしっかりとりながら、「治ったとき」(症状固定)の時期を判断してもらうようにしましょう。

 

労災による後遺障害14級でいくらもらえる?

労災の後遺障害認定の中でも14級9号が認定件数としては最も多いです。

14級9号の場合、後遺障害慰謝料は110万円です。

逸失利益は、年収額によって異なりますが、年収450万円の場合は、103万0432円です。

労災保険からは、障害補償給付として給付基礎日額の56日分、障害特別支給金として8万円、障害特別一時金として56日分が支給されます。

 

 

まとめ

以上のとおり、後遺障害の認定基準、具体的な賠償額等について解説いたしました。

従業員と会社の双方にとって後遺障害の認定とその賠償は、大きな問題になりえます。

適切な等級で適切な補償となるよう双方ともに正確な知識を持っておくことが大切です。

労災事故が発生した場合の会社の対応や、適切な補償額の検討にあたっては、専門的な知識が必要となりますので、専門の弁護士に相談されることをお勧めします。

当事務所では、労災事故案件を数多く扱う人身障害部を設置しています。

また、労災事故に遭った従業員の労務管理等について専門的なアドバイスができる労働事件チームも設置しています。

会社からの労災事故案件のご相談については、人身傷害部と労働事件チームの弁護士が対応しておりますので、労災事故でお困りのことがあれば、お気軽にお問い合わせください。

相談方法について、来所されてのご相談はもちろんのこと、電話相談、オンライン相談(LINE、Zoom、FaceTime、Meetなど)も行っており、全国対応しておりますので、遠方でもお気軽にご相談ください。

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