労災の申請書とは、労働災害により負傷した従業員が、労災給付を受給する際に使用する申請書を総称したものです。
労災の申請書は「様式」という所定の書式がありますが、労災の申請様式は単一ではありません。
労災給付の種類ごとに「様式第〇号」という形で個別の様式が存在しており、受けたい給付に合わせて、それに応じた様式を用いる必要があるのです。
この記事では、労災の申請書について、申請書の種類や用途、書き方などを解説していきます。
様式の入手方法についてもご紹介しますので、労災の申請をお考えの方は、ぜひ最後までお読みください。
労災の申請書とは?
労災の申請書とは、労働災害により負傷した従業員が労災給付を受ける際に使用する申請書のことです。
労災の申請書は、1種類だけではありません。
労働災害の種類や、受ける給付の種類に応じて、数ある申請書の様式を使い分けなければならないのです。
そこで申請書の種類に先立って、まずは労災の種類について解説します。
労災の種類
労災の申請書の種類について解説する前提として、まずは労災の種類についてご説明します。
「労災」という言葉はいろいろな意味で使用されるため、違いを知っておかないと混乱するおそれがあり注意が必要です。
そもそも労災とは「労働災害」の略称ですので、「労災」といえば本来的には労働災害、すなわち労働に関連して起こった事故そのものを指す言葉といえます。
しかし実際には、労災保険の制度や、労災保険制度に基づく給付(労災給付)のことを指して、「労災」と呼ぶこともあります。
このように、「労災」という言葉は異なる意味で用いられることがありますので、今どのような意味で使われているのかを、前後の文脈に気を付けて意識的に読み取らなければなりません。
労災は、どのような災害かという分類と、どのような給付なのかという分類の2つの観点から整理することができます。
労災の事故や給付がどのようなものであるかは、労災を申請するに当たってどの様式を用いるかに直結してきますので、ここで簡単に解説しておきます。
労働災害の種類
労働災害とは、労働に関連して従業員が病気又は怪我を負うことをいいます。
労働災害のなかでも、業務自体に直接起因して病気・怪我を負った場合を「業務災害」、通勤途中に負傷した場合を「通勤災害」といって区別します。
病気・怪我の内容が同一であれば、災害の種類がいずれであってもおおむね同等の給付が受けられるのが基本ですが、給付の名称や認定基準などが異なってきます。
シンプルに一本化してほしいようにも思われますが、通勤災害については基本的に会社の外の出来事であって会社の責任を問えないことから、制度として区別する必要があるのです。
たとえば、治療費についての給付であれば、業務災害に対するものは「療養補償給付」、通勤災害に対するものは「療養給付」という名称になります。
ほとんど同じような名称に見えますが、よく見ると業務災害に対する給付には「補償」の2文字が入っています。
療養給付だけでなく、休業や傷病に対する給付についても、業務災害が原因であれば「休業補償給付」「傷病補償給付」、通勤災害によるものであれば「休業給付」「傷病給付」といった名称になっており、「補償」の文字の有無が異なっています。
このように、業務災害であるか通勤災害であるかによって給付の名称が異なるため、両者を指すときには「療養補償給付又は療養給付」と表記するのが正確になります。
しかしこれでは表記が長くなってしまうことから、双方を含める趣旨で「療養(補償)給付」のように「補償」の2文字を()に入れて表記をすることもよくあります。
このような表記を見かけたときは、業務災害と通勤災害を区別せず「療養補償給付」と「療養給付」の双方を含んでいるものと捉えていただければと思います。
給付の種類
労災の給付には、給付の内容に応じて、次の7種類があります。
- 療養(補償)給付
- 休業(補償)給付
- 傷病(補償)給付
- 障害(補償)給付
- 介護(補償)給付
- 遺族(補償)給付
- 二次健康診断等給付
以上のように、労災制度では治療費や休業補償など必要に応じてさまざまな給付を受けることができますが、この記事では、労災の中でも特に申請する機会が多いと思われる療養補償給付と休業補償給付の申請書を中心に解説していきます。
労災の申請書の種類
上記の7種類の給付のうち二次健康診断等給付以外の6種類については、業務災害であれば「補償」がつき、通勤災害であれば「補償」がつかない給付となり、別種の給付となるため、負傷の原因がいずれかによって異なる様式を用いて申請することになります。
また、療養補償給付については、受診した医療機関が労災指定医療機関等かそれ以外かによっても、様式が異なります。
給付と様式の関係を整理すると、次のようになります。
文章による解説だけではイメージが湧きづらいかと思いますので、以下の表を適宜参照しながら、どの給付にどの様式が対応しているのかを確認していただければと思います。
給付内容 | 様式 | |
---|---|---|
療養(補償)給付 | 労災指定医療機関等を受診 | 療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号) |
労災指定医療機関等以外を受診 | 療養補償給付たる療養の費用請求書(様式第7号) | |
休業(補償)給付 | 休業補償給付支給請求書(様式第8号) | |
障害(補償)給付 | 障害補償給付支給請求書(様式第10号) | |
遺族(補償)給付 | 遺族補償年金支給請求書(様式第12号) | |
介護(補償)給付 | 介護補償給付・介護給付支給請求書(様式第16号の2の2) | |
傷病(補償)年金 | 傷病の状態等に関する届(様式第16号の2) |
給付内容 | 様式 | |
---|---|---|
療養(補償)給付 | 労災指定医療機関等を受診 | 療養給付たる療養の給付請求書(様式第16号の3) |
労災指定医療機関等以外を受診 | 療養給付たる療養の費用請求書(様式第16号の5) | |
休業(補償)給付 | 休業給付支給請求書(様式第16号の6) | |
障害(補償)給付 | 障害給付支給請求書(様式第16号の7) | |
遺族(補償)給付 | 遺族年金支給請求書(様式第16号の8) | |
介護(補償)給付 | 介護補償給付・介護給付支給請求書(様式第16号の2の2) | |
傷病(補償)年金 | 傷病の状態等に関する届(様式第16号の2) |
労災の申請書はどこでもらえるの?
労働災害に対する保険給付を受けるには、給付の種類に対応した所定の様式に、必要事項を記入して申請する必要があります。
労災の申請様式は、厚生労働省のホームページから入手することができます。
労災の様式のダウンロードはこちらから
上記の厚生労働省のホームページのほか、当事務所でも申請にご利用いただける様式をご用意しております。
様式は、下記のリンク先からダウンロードいただけます。
労災の申請書の作成方法
以上のように、労災の申請にあたっては、申請しようとする労災給付の種類に応じて、それに対応した様式を選択して作成する必要があります。
ここからは、労災の様式のなかでも特に使用頻度の高い5号、7号、8号について、書き方をご紹介します。
ここでは、作成のイメージをもっていただくための簡単な説明にとどめていますので、各様式の詳しい記入方法については、詳細を解説したリンク先でご確認ください。
改めて、これら3つの様式の用途はそれぞれ次のとおりですので、記入例もそれに沿ったものとなっていることを確認しながらお読みください。
- 様式5号:業務災害で労災指定医療機関等を受診した場合(療養補償給付)
- 様式7号:業務災害で労災指定医療機関等以外を受診した場合(療養補償給付)
- 様式8号:業務災害で休業損害が発生した場合(休業補償給付)
労災の申請書(様式5号)の記入例と書き方
労働災害により負傷した場合、労災病院や労災指定医療機関で治療(療養の給付)を受けることができます。
この場合、「療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の給付請求書」(様式第5号)を使用して給付を申請することになります。
様式5号の記入例
様式5号の書き方
様式5号は労災の様式の中ではシンプルなものであり、記入すべき事項も比較的限られています。
記入する事項はおおむね次のとおりです。
- 労災で負傷した従業員に関する情報(住所、氏名、年齢、生年月日、職種等)
- 会社に関する情報(名称、所在地、代表者氏名等)
- 災害に関する情報(事故の日時、概要、怪我の状態等)
特に注意するポイントは、職種や災害の発生状況の項目は、事故の概要が伝わりやすいように詳しく記載する点です。
たとえば職種であれば、単に「作業員」とするよりも、「出荷作業員」「清掃作業員」のように具体的に記載した方が、従事していた作業内容がより分かりやすくなるため望ましいといえます。
災害の発生状況についても、様式上、作業の場所及び内容、災害の原因及び内容を記入することが求められており、これらの事項をもれなく記入する必要があります。
以上のポイントは他の様式についても共通していえることですので、特に気を付けていただければと思います。
様式5号についての詳しい解説は、こちらをご覧ください。
労災の申請書(様式7号)の記入例と書き方
療養補償給付を受ける場合であっても、受診した医療機関が労災指定医療機関等以外の場合は、様式5号ではなく様式7号を使用して申請します。
労災指定医療機関以外を受診した場合はいったん自己負担した治療費が後日還付される形となるため、様式5号が「療養の給付請求書」であるのに対し、様式7号は「療養の費用請求書」と呼ばれます。
様式7号の記入例
様式7号の書き方
様式5号の書き方で解説した点は、様式7号においても同じく注意する必要があります。
また、様式7号に特有の注意点として、次の2点に気を付けてください。
まず、様式7号は⑴から⑸の5種類に細分化されており、利用した医療機関等の種類に応じて使い分ける必要があります。
様式と医療機関等は、次のように対応しています。
様式 | 機関 |
---|---|
様式第7号⑴ | 医療機関 |
様式第7号⑵ | 薬局 |
様式第7号⑶ | 柔道整復師 |
様式第7号⑷ | はり師・きゅう師、あん摩マッサージ指圧師 |
様式第7号⑸ | 訪問看護事業者 |
また、様式7号は、労災指定医療機関以外の医療機関等を受診した場合の様式ですので、なぜ労災指定医療機関を受診しなかったのかを説明する欄がありますので、そうせざるを得なかった事情を記入する必要があります。
様式7号についての詳しい解説は、こちらをご覧ください。
労災の申請書(様式8号)の記入例と書き方
様式5号と7号が治療に関する療養補償給付を請求する際に使用するのに対し、様式8号は休業補償給付を受給する際に使用します。
様式8号の記入例
▼クリックで拡大できます
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様式8号の書き方
様式8号を作成する上で気を付けなければならないのは、様式8号は休業補償給付を請求するために使用することから、従業員の給与が関係してくる点です。
休業によってどの程度の損害が生じたのかは、休業日数だけでなく、その従業員が受けていた給与によって変わってくるため、治療費の請求のように一律の額というわけにはいかないのです。
このため、様式8号にはその従業員の直近の給与(平均賃金)を記入する必要があり、また、その計算の明細を別紙として添付しなければなりません。
様式8号は作成が非常に煩雑になっていますので、詳細な作成方法は以下のページでご確認ください。
労災の申請書の提出先
労災の申請書は、基本的には負傷した従業員が所属する事業所の住所地を管轄する労働基準監督署長に対して提出します。
ただし、様式5号については、労災指定医療機関を受診した際に用いるものであることから、受診した病院に提出し、そこを経由して労基署へ提出することになります。
労災の申請書の注意点
様式と給付が一致していることを確認する
労災の申請書には給付の種類に応じた様式が存在することは、すでに解説したとおりです。
様式の5号、7号、8号については、特によく使用されることから簡単に書き方をご紹介しましたが、これら以外の様式についても使用することが稀ということではありません。
各様式と給付の関係性については表で整理していますので、給付の種類が分かればそれに対応する様式を特定していただけると思いますが、それでも種類が多く煩雑なことは否めません。
せっかく完成させた様式が実は違う給付の申請書だったとなれば、また一から作成をやり直すことになってしまいます。
そのような事務上の無駄を発生させないためにも、今回の件が労災のどれにあたり、どの様式を用いるべきなのかという点については、ぜひ入念に確認していただければと思います。
労災に強い弁護士に相談する
労災が発生した場合、申請の段階から弁護士に相談しておくことも重要です。
ここまで、様式の入手方法から記入の仕方までひととおりご説明しましたので、あえて弁護士に相談する必要性を感じていない方もおられるかもしれません。
しかし、すでにご紹介したとおり、労災は給付の種類が細かく別れており、給付に応じた様式を適切に選択しなければなりません。
労災は制度自体が非常に複雑な建て付けとなっているため、申請ひとつとっても、専門的な判断が求められるのです。
また、労災では責任の所在を巡って従業員との間でトラブルになることもよくあります。
労災を申請する段階から弁護士に相談しておけば、後に法的な問題が派生した場合でも、早急に対応することが可能です。
ただし、労災問題は弁護士にとっても専門性の高い分野であり、労働関連法規に関する知識はもちろんのこと、交渉力や労災問題への対応経験など、幅広い能力が求められます。
労災問題を依頼する際は、このような視点をもって弁護士を選ぶことが重要となってくるのです。
労災問題における弁護士選びの重要性や、弁護士に相談するメリットについて、詳しくはこちらをご覧ください。
まとめ
このページでは、労災の申請書について、種類や用途などの使い分けや、入手方法、簡単な書き方について解説しました。
記事の要点は、次のとおりです。
- 労災の申請書とは、労働災害により負傷した従業員が労災給付を受けるための申請書である。
- 労災の申請書は給付の種類ごとに様式がわかれており、申請しようとする給付に対応した様式を選択して申請する必要がある。
- 労災問題への対応は幅広い知識や経験が求められるため、労働問題に強い弁護士に相談することが有効である。
当事務所では、労災問題を多く扱う人身傷害部の弁護士が相談から受任後の事件処理まで丁寧に行っております。
電話相談だけでなく、オンライン相談(LINE、ZOOM、Meetなど)により全国対応が可能ですので、労災問題でお困りの際は、ぜひお気軽にご相談下さい。