労災については、必ずしも事故直後に申請しなくても、あとからでも申請することは可能です。
もちろん、会社を退職したあとでも、労災の申請をすることはできます。
しかし、ずっと申請しないでいると、時効により申請ができなくなることもありますので注意が必要です。
この記事では、労災をあとから申請できるのか、いつまでに申請すればいいのかについて、弁護士がわかりやすく解説していきます。
目次
労災をあとから申請できる?
冒頭でお伝えしたとおり、労災をあとから申請することはできます。
例えば、事故直後は手続のことなど、どうしたらよいかがわからず、労災として申請していなかった場合でも、あとから労災として申請することはできます。
また、会社が労災として申請をしてくれずに、時間が経ってしまった場合にも改めて申請をすることは可能です。
ただし、あとからいつでも申請ができるかというとそうではありません。
労災の申請にも、時効といって申請ができる期限が決まっています。
労災を申請できる期限は?
労災を申請できる期限については、申請する内容によって変わっています。
申請する労災給付の内容 | 期限 |
---|---|
療養(費用)給付 | 費用を支出してから2年 |
休業給付 | 休業により賃金の支払いを受けられない日から2年 |
葬祭給付 | 労災で死亡した翌日から2年 |
介護給付 | 介護を受けた翌月の1日から2年 |
障害給付 | 症状固定から5年 |
遺族給付 | 労災で死亡した翌日から5年 |
このように、労災の申請は2年もしくは5年という期限が設けられています。
また、2年もしくは5年の期間をいつから計算するかについても給付の種類によって変わってきます。
治療費については、実際に治療費を支出(発生)してから2年で時効になりますし、休業給付についても休業して賃金の支払いを受けられない日から2年経ってしまうと時効で請求できなくなってしまいます。
葬儀費用である葬祭給付も亡くなって2年で時効にかかってしまいます。
障害給付と遺族給付については、生活保障の側面が強いということもあって、2年ではなく5年と時効までの期間が長めになっています。
したがって、あとから労災の申請はできるといっても、例えば、10年経ってしまうと申請ができないということになってしまいます。
そのため、できるだけ早めに申請をするに越したことはないということは覚えておきましょう。
会社を退職したあとで労災の申請はできる?
しかし、これまでの説明からおわかりいただけると思いますが、労災事故が起こってすぐに労災の申請をしておかないとあとから申請することができないかというと、必ずしもそうではありません。
中には、会社に在籍していながら労災の申請をすることは状況的にできない、会社からの指示でそもそも労災に申請してもらえないといったケースもあります。
そのようなケースでは、会社を退職したあとでも、労災の申請をすることはできます。
ただし、先ほど説明した期間内に申請をしなければなりません。
また、退職後に労災の申請をする場合、会社が労災の申請に協力をしてくれないことも多くあります。
会社が協力してくれなくても申請すること自体はできるのですが、労災事故が起こったことについては、けがをした労働者の方でも労基署に証拠を提出するなどしなければなりません。
そのため、ご自身のけがや病気が労災事故で起こったということについての客観的な証拠をきちんと確保しておくということが大切になります。
健康保険を使用したあとで労災の申請はできる?
すぐに労災の申請をせず(できず)に、とりあえず健康保険を使用して治療をした場合にあとから労災の申請はできるのでしょうか?
まず、結論をお伝えすると、「できます。」
労災保険と健康保険については、両方を同じ治療には使えず、どちらかということになっています。
そのため、本来労災の案件で健康保険を使用している場合には、その切り替えの手続きをしなければなりません。
健康保険から労災への切り替え方法とは?
①切り替えが事故で治療を開始した月である場合
健康保険から労災への切り替えが、治療を開始した月である場合には、多くの場合、治療をした病院が健康保険組合へ手続を行っていないため、病院に労災で治療をすると説明をすれば、切り替えをすることが可能です。
このとき、労災の申請のために、療養給付に関する申請書という書類といったん健康保険で治療をした際の領収書を病院に提出して、書類を作成してもらうことが必要です。
労災の申請書式については厚生労働省のホームページで紹介されていますので、あわせてご確認ください。
②切り替えが事故で治療を開始した翌月以降である場合
次に、健康保険から労災への切り替えが、治療を開始した翌月以降の場合には、すでに病院が健康保険組合へ治療を開始してからの医療費を請求してしまっているため、以下の手続が必要になります。
本来労災保険を使用すべきものに健康保険を使用した場合には、まずは保険証に書いてある健康保険組合に連絡して、「労災保険のものに間違って健康保険を使用してしまった」と申し出る必要があります。
健康保険組合は連絡を受けることで、健康保健組合が治療で支払った部分について、計算をして利用をした人に対して精算を求めます。
原則としては、健康保険組合から届いた請求書の金額を治療をした人が支払いをして精算をすることになります。
その上で、ご自身が精算をした領収書や振込明細を添付資料として、療養費用給付の申請書を作成して、労基署に労災の申請をします。
療養費用給付の申請書類は以下の書式になります。
なお、お金の問題で健康保険組合への精算が難しい場合には、あらかじめ労基署に相談して、例外的に労基署と健康保険組合とで調整をお願いできる可能性もあります。
まずは労基署や弁護士に相談をするようにしましょう。
通勤災害で任意保険を使ったあとで労災を申請できる?
通勤災害とは
通勤災害とは、自宅から会社への出勤中、あるいは、会社から自宅への帰宅中にけがをすることをいいます。
典型的には、通勤中に交通事故にあうという場合です。
労災には、業務中の事故である業務災害とこのように通勤中の事故である通勤災害の大きく2種類があり、どちらも労災保険の対象となっています。
そのため、出勤途中、帰宅途中の場合の交通事故では労災保険を使用することができます。
他方で、交通事故の場合には、自動車保険や自転車保険などの加入により任意保険もあります。
したがって、労災保険と任意保険、どちらを使ったらよいのかということを考える必要があります。
この点については、費目ごとに対応を検討することが必要です。
①治療費
治療費については、労災保険と任意保険をどちらも同時に使用することはできません。
そのため、病院や整骨院の治療費については、労災保険を使用するか、任意保険を使用するかを選択する必要があります。
一般的には、自動車保険である任意保険を選択することが多いでしょう。
ただし、ご自身にも過失が一定程度ある場合には、労災保険を使用したほうが有利になるケースもあるため、通勤災害にあった場合には早めに弁護士に相談したほうがよいでしょう。
②休業損害
休業損害については、治療費と違って、労災保険と任意保険、どちらにも請求することができます。
休業損害とは、事故により会社を休んだことで給料が減ることに対する補償です。
労災保険では、休業給付として基礎賃金の60%を受給できます。
これを超える40%の部分は任意保険に請求することができます。
また、そもそも任意保険に60%の部分と40%の部分を両方請求することも可能です。
なお、労災保険には、休業特別給付という補償項目があり、基礎賃金の20%を受給できます。この20%の給付は特別給付ということもあり、任意保険から休業損害を受け取っていた場合でも申請ができます。
このように、休業特別給付を申請することで、被害者にとって有利な場合があります。
③慰謝料
慰謝料については、労災保険では対応できないため、任意保険のみに請求することができます。
④後遺障害
後遺障害については、労災保険と任意保険、それぞれで計算方法が異なります。
そのため、どちらにも請求すること自体は可能です。
その上で、一方で受け取った保険金については、もう一方の保険申請の際に調整されることになります。
なお、労災保険の障害特別給付金については、特別給付という位置付けのため任意保険の賠償金には影響しないこととされています。
任意保険から労災への切り替え方法とは?
先ほどの治療費のところで説明したとおり、病院や整骨院での治療については、労災保険と任意保険を両方同時に使用することはできません。
そのため、任意保険を最初に使用していて、労災保険に切り替える場合には、
- ①任意保険会社に労災保険を使用することを連絡
- ②労災保険に労災申請書類を提出
という手続が必要になります。
ただし、任意保険会社が治療費の支払いを打ち切ってから労災保険に切り替えようとしても、労災保険の方でも任意保険会社が対応しない以上、切り替えに応じない(労災申請が通らない)というリスクもあります。
そのため、労災保険での治療を希望するのであれば、できるだけ早めに手続をしておくのがよいでしょう。
労災をあとから申請するときのポイント
①あまり先延ばしにしない
ここまで説明してきましたが、労災をあとから申請すること自体は可能です。
しかし、あまりに先延ばしにしてもメリットはありません。
申請する項目ごとに時効の問題もありますし、そもそも労災でけがをしたということについての証明ができなくなるリスクもあります。
そのため、あとから申請するにしても、ただ放置するのではなく、なるべくなら早めに申請をするように心がけましょう。
②会社が労災を認めてくれない場合でもすぐに諦める必要はない
本来、労災の申請は、労災申請書類に会社の証明印をもらって、労働基準監督署に提出することが必要です。
しかし、会社が労災と認めてくれず、証明印を押してくれない場合はどうすればよいのでしょうか。
労災の申請ができないのでしょうか。
答えはNOです。
会社が万が一、労災の申請を認めてくれない場合でも、労災かどうかを判断するのは、労働基準監督署になります。
そのため、会社の証明印をもらえないからといってすぐに諦める必要はありません。
会社の証明印がもらえない場合には、その旨を相談して労働基準監督署に申請するように進めましょう。
③労災で支給されるのは賠償金の一部である
あとから労災を申請して、労災保険から治療費などの支給を受けたとしても、それだけで保証が十分かといえば、決してそうではありません。
例えば、労災保険では、休業給付は基礎賃金の60%にとどまっています。
基礎賃金が1万円の人であれば、1万円×60%=6000円しか労災保険からもらえないので、特別給付金を除いて4000円は支給されません。
また、慰謝料は労災保険では支給されません。
このように、労災保険で支給されるのはあくまで損害の一部であるということを押さえておきましょう。
業務災害については、安全配慮義務違反を理由に会社に賠償を求めたり、通勤災害であれば、交通事故の自賠責保険、任意保険へ賠償を求めたりすることを検討するようにしましょう。
会社の安全配慮義務違反については、こちらもご確認ください。
④労災に強い弁護士に相談する
あとから労災を申請する場合の主なケースとしては、これまで紹介したような
- 会社が労災を認めてくれない
- 会社をすでに退職した
- 業務災害で保険会社と労災を選択しないといけない
といったケースが挙げられます。
こうしたケースについて、労災の申請を進める方法として、
- 自分一人で手続を進める
- 専門家である弁護士に相談・依頼して進める
という方法があります。
ただ、自分一人で手続を進めるのは書類の準備だけではなく、あとから労災申請するのに気をつけるべき点やどの保険を選択するのがいいかなどを考えるのはとても難しいので、おすすめできません。
やはり、あとから労災を申請したい、申請ができないか気になるという場合には、まずは専門家である弁護士に相談をすべきでしょう。
弁護士に相談することで、ご自身のおかれた状況で労災の申請をどのように進めればよいかなどについてアドバイスを受けることができます。
弁護士に相談・依頼するメリットは詳しくはこちらでまとめているのでご確認ください。
まとめ
今回は、労災をあとから申請できるかどうか、その場合の期限、会社を退職したあとでも労災申請できるかなどについて解説してきました。
労災はあとから申請できますが、その際の手続や気をつけなければならないポイントなどもあります。
あとから請求できるといって、ただ放置するのはNGです。
まずは専門家である弁護士に相談して、申請をスムーズに行うように行うようにしましょう。
当事務所には、労災事故案件を数多く扱う人身障害部があります。
労災事故でお困りのことがあれば、お気軽にお問い合わせください。
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