使用者の方の中には、「ちょっとした怪我であればわざわざ労災として扱う必要はないのではないか」と思われている方がいらっしゃるかと思います。
しかし、ちょっとした怪我であってもその怪我が労災と認定される場合には、きちんと労災保険の利用を検討する必要があります。
一方、従業員の方々の中には、「大怪我でもない場合には、わざわざ労災扱いしなくても良いや」と思われているのではないでしょうか。
従業員の方々としては、会社に労災をお願いしづらいといった現実的な問題もあるかもしれません。
しかし、下記でご説明する通り、ちょっとした怪我であったとしても労災保険を利用することができます。
以下では、ちょっとした怪我でも労災を使うべきかどうかについて、解説していますので、ご参考にされてください。
軽い怪我でも労災を使うべき?
労災が適用されるケース
労災が適用されるケースとしては以下の2つがあります、
- 業務災害
- 通勤災害
業務災害
業務災害とは、従業員の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡をいいます。
業務災害と認定されるためには①業務遂行性と②業務起因性が認められる必要があります。
業務遂行性とは、従業員が会社の支配下にある状態をいいます。
業務遂行性については以下の3つの類型があります。
- ① 事業主の支配・管理下で業務に従事している場合
- ② 事業主の支配・管理下にあるが、業務に従事していない場合
- ③ 事業主の支配下にはあるが、管理下を離れて業務に従事している場合
参考:厚生労働省
業務起因性とは、業務が原因となって従業員に怪我や病気等が発生したといえる関係性があることをいいます。
通勤災害
通勤災害とは、労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡のことをいいます(労働災害補償保険法7条1項3号)。
参考:労働者災害補償保険法
通勤災害として認められる条件の詳細につきましては下記のページをご覧ください。
労災保険の対象者とは?
労災保険の対象は、会社に雇用されている方々であれば雇用形態を問いません。
つまり、正規に雇用されている方だけでなく、パート、アルバイト等であっても会社に雇用されているのであれば労災保険の対象者となります。
会社の取締役や個人事業主の場合は原則として労災保険の対象となりません。
もっとも、特別加入制度を活用することによって例外的に労災保険の適用を受けることができる場合があります。
労災は誰が認定する?
当該事故が労災に該当するか否かは原則として被災した労働者の勤務先を管轄する労働基準監督署が認定します。
具体的には、労働者あるいは会社から労働基準監督署に対して労災申請を行った上で、労働基準監督署が当該事故が労災に該当するかを判断します。
労災申請をしてから結果が出るのは約1〜3か月後です。
もっとも、仕事とケガの内容の関係性が明確でない場合や、精神疾患の場合には、結果が出るのに半年以上かかることもあります。
全国の労働基準監督署の所在地については下記のページを参照してください。
参考:厚生労働省
労災保険の申請手続きの流れは以下の通りです。
労災保険の申請手続の詳細につきましては下記のページをご覧ください。
労災の補償内容
業務災害・通勤災害として認定された場合、労災保険より以下の8つの給付を受けることができます。
なお、通勤災害の場合の各種給付内容については、括弧書き内に書かれた名称となります。
ケース:仕事中や通勤中に怪我をした場合
- ① 労災病院や労災保険指定医療機関等において療養を受ける場合
怪我の治療自体の給付(労働基準監督所から直接・労災病院や労災保険指定医療機関等に治療費を支払うため怪我をした従業員による治療費の立て替え不要) - ② 労災病院や労災保険指定医療機関等以外において療養を受ける場合
怪我の治療のための費用を給付(怪我をされた従業員が一度治療費を立て替える必要があります)
ケース:仕事中や通勤中に怪我をしてしまった結果、治療を受けるために仕事を休んだ場合
休業特別支給金
仕事を休んだ日の4日目から、休んだ日1日ごとに給付基礎日額の20%相当を給付
給付基礎日額とは
給付基礎日額とは、原則として労働基準法で決められている平均賃金に相当する金額をいいます。
平均賃金とは、業務中の怪我や通勤中の怪我をした日または医師の診断の結果、疾病の発生が確定した日の直前3ヶ月間にその労働者に対して支払われた賃金の総額(①)を、その期間の暦日数で割った1日あたりの賃金額(②)をいいます。(なお、①の総額にはボーナスや臨時に支払われる賃金は含まれません。)
参考:厚生労働省
ケース①障害年金
仕事中や通勤中に怪我をしてしまった結果、後遺障害の等級として第1級から第7級のいずれかに該当する等級が残った場合
ケース②障害一時金
仕事中や通勤中に怪我をしてしまった結果、後遺障害の等級として第1級から第7級のいずれかに該当する障害が残ったとき
後遺障害等級に応じて給付基礎日額の313日分 〜 131日分の年金が支給されます。
- 第1級の場合→313日分
- 第2級の場合→277日分
- 第3級の場合→245日分
- 第4級の場合→213日分
- 第5級の場合→184日分
- 第6級の場合→156日分
- 第7級の場合→131日分
後遺障害等級に応じて給付基礎日額の503日分 〜 56日分の一時金が支給されます。
- 第8級の場合→503日分
- 第9級の場合→391日分
- 第10級の場合→302日分
- 第11級の場合→223日分
- 第12級の場合→156日分
- 第13級の場合→101日分
- 第14級の場合→56日分
①障害年金
- 障害特別支給金:障害の程度に応じて、342万円 〜 159万円までの一時金
- 障害特別年金:障害の程度に応じて、算定基礎日額の313日分 〜 131日分の年金
②障害一時金
- 障害特別支給金:障害の程度に応じて、65万円 〜 8万円までの一時金
- 障害特別一時金:障害の程度に応じて、算定基礎日額の503日分 〜 56日分の一時金
「算定基礎日額」とは、原則として業務災害や通勤災害によって怪我をした日または診断によって病気にかかったことが確定した日の前1年間にその従業員が事業主から受けた特別給与の総額を365で割った金額をいいます。
「特別給与」とは、給付基礎日額の算定の基礎から外されているボーナス等3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金をいいます。
なお、特別給与の中には臨時に支払われた賃金を含みません。
例えば、労災前の1年間でボーナスが200万円支給されていた場合、算定基礎日額となるのは5479円(200万円 ÷ 365)です。
参考:厚生労働省
ケース①遺族年金
仕事中の怪我や通勤中の怪我により従業員が亡くなってしまった場合
ケース②遺族一時金
- (1)遺族年金を受領する遺族がいない場合
- (2)遺族年金を受領している者が失権し、かつ、他に遺族年金を受領できる人がいない場合であって、すでに支給された年金の合計額が給付基礎日額の1000日分に満たない場合
遺族の数等に応じて、給付基礎日額の245日分 〜 153日分の年金
- 1人の場合→153日分
- 2人の場合→201日分
- 3人の場合→223日分
- 4人以上の場合→245日分
(1)のケースでは、給付基礎日額の1000日分の一時金
(2)のケースでは、(1)の金額から、すでに受給した年金の合計額を差し引いた額
①遺族年金
- 遺族特別支給金:遺族の数に関わらず、一律で300万円
- 遺族特別年金:遺族の数等に応じて、算定基礎日額の245日分 〜 153日分の年金
②遺族一時金
- 遺族特別支給金:遺族の数に関わらず、一律300万円((1)の場合のみ)
- 遺族特別一時金:算定基礎日額の1000日分の一時金((2)の場合は、(1)の金額からすでに受給を受けた特別年金の合計額を差し引いた額)
ケース:仕事中の怪我や通勤中の怪我により亡くなった従業員の葬祭を行う場合
無し
ケース:仕事中の怪我や通勤中の怪我によって負った怪我が療養開始後1年6ヶ月を経過した日又は同日後において下記①②の両方に該当する場合
- ①怪我が治って(症状固定)いないこと
*症状固定とは、これ以上治療をしたとしても症状が改善しない状態をいいます。 - ②怪我による障害の程度が傷病等級に該当すること
障害の程度に応じて、給付基礎日額の313日分 〜 245日分の年金
- 第1級の場合→313日分
- 第2級の場合→277日分
- 第3級の場合→245日分
傷病特別支給金
障害の程度により114万円 〜 100万円までの一時金
傷病特別年金
障害の程度により算定基礎日額の313日分 〜 245日分の年金
ケース:障害年金、あるいは、傷病年金受給者のうち第1級の者または第2級の精神・障害及び胸腹部臓器の障害があり、現に介護を受けているケース
※令和5年4月1日以降は17万2550円
親族等の介護を受けており、介護費用を支出していない場合、あるいは、支出した額が7万5290円を下回る場合には、7万5290円
※令和5年4月1日以降は7万7890円
※令和5年4月1日以降は3万8900円
なお、親族等の介護を受け介護費用を支出していない場合、あるいは、支出額が3万7600円を下回る場合は、3万7600円
無し
ケース:職場の直近の定期健康診断等(一次健康診断)において、次の①②のいずれにも該当するとき
- ①血圧検査、血中脂質検査、血糖検査、腹囲またはBMI(肥満度)の測定のすべての検査において異常の所見があると診断されていること
- ②脳血管疾患または心臓疾患の症状を有していないと認められること
二次健康診断および特定保健指導の給付
⑴二次健康診断脳血管および心臓の状態を把握するために必要な以下の検査
- ① 空腹時血中脂質検査
- ② 空腹時血糖値検査
- ③ ヘモグロビンA1C検査(一次健康診断で行った場合には行わない)
- ④ 負荷心電図検査または心エコー検査
- ⑤ 頸部エコー検査
- ⑥ 微量アルブミン尿検査(一次健康診断において尿蛋白検査の所見が疑陽性(±)または弱陽性(+)である者に限り行う)
⑵特定保健指導脳・心臓疾患の発生の予防を図るため、医師等により行われる栄養指導、運動指導、生活指導
無し
軽い怪我の労災についてのQ&A
軽い打撲でも労災保険は使えますか?
労災保険を使うとなった場合、勤務先の会社に怪我をしたことを報告する必要があります。
また、労災保険を使うための申請書類を会社に協力をお願いする必要があります。
どうしても会社の協力が必要となる関係上、軽い打撲であれば黙っておこう、自身の保険でなんとかしようと思ってしまう労働者の方もいると思われます。
しかし、明らかに業務災害あるいは通勤災害である場合には、労災保険を使うことができるので、会社に相談してみましょう。
軽傷で労災隠しはできますか?
そのため、被災した従業員から労災保険の利用を求められた場合、会社は基本的に応じることになります。
もっとも、会社が労災保険を使わずに、労災保険を利用したのと同等の補償を行うのであれば会社は労災保険を使う必要はありません。
しかし、軽傷であっても、被災した従業員が仕事を休んだ場合には死傷病報告を労働基準監督署に提出する必要があり、結果的に労災隠しはできません。
死傷病報告の書式は下記のページをご覧ください。
参考:厚生労働省
労災の場合はやっぱり労災保険を使う必要がある?
風邪をひいた時によく健康保険を使うのと同様に軽傷であれば健康保険を使おうと思っている労働者の方々が多いと思われます。
しかし、法律上、業務災害あるいは通勤災害の場合は労災保険を使うと定められておりますので遠慮することはありません。
したがって、業務中あるいは通勤中の怪我をしてしまった場合には、労災保険を利用しましょう。
会社に迷惑をかけてしまうこともある?
労働災害等により労働者が亡くなってしまった場合又は仕事を休んだ場合には、会社は遅滞なく、労働者死傷病報告等を労働基準監督署長に提出する必要があります。
「労災かくし」とは、事業者が労災事故の発生を隠すため、労働者の死傷病報告(労働安全衛生法第100条、労働安全衛生規則第97条)を、①故意に提出しないこと、②虚偽の内容を記載して提出することをいいます。
参考:厚生労働省
もし、被災された従業員が労災があることをきちんと報告しない場合には、「労災かくし」として会社が責任を問われることになりかねません。
そのため、もし業務中あるいは通勤中に怪我をしてしまった場合には遠慮せずに会社に対して報告をしましょう。
労災はどれくらいの怪我から適用されますか?
軽い打撲から骨折等の重症に至るまで業務災害あるいは通勤災害に該当する場合には、労災保険が適用されます。
したがって、業務中あるいは通勤中の事故によって怪我をしてしまった場合には怪我の程度に関係なく労災保険を使用することができます。
労災を使わないで健康保険で治療してはいけませんか?
法律上、労働災害については労災保険、それ以外の怪我については健康保険を利用すると明確に区別されています。
したがって、業務災害あるいは通勤災害の場合には労災保険を使う以外に選択肢はありません。
仮に労災にあたることを知らずに当初は健康保険を使っていた場合には、労災に該当する場合には、後々労災保険に切り替える必要があります。
勤務先が労災に加入していない場合はどうなりますか?
労災が発生した時点で、勤務先が労災保険に加入していなかったとしても、被災された従業員ご自身で申請手続きを行うことができます。
労災申請に必要な書類については、事故が発生した場所を管轄する労働基準監督署に備え付けてあります。
もし、どの労働基準監督署が管轄となるかご自身で判断できない場合には、最寄りの労働基準監督署に管轄について問い合わせてみると良いでしょう。
労災にくわしい弁護士に相談
既にご説明した通り、会社が労災保険に加入していなかった場合は、従業員ご自身で労働基準監督署に労災申請をする必要があります。
また、労災に被災してしまった場合に、会社が労災保険に加入していたとしても、必ずしも会社が協力的な態度を示してくれるとは限りません。
この場合も、被災された従業員自身で労働基準監督署に労災の申請をしなければなりません。
労働基準監督署に対する申請にあたって、必要書類が多く要求されます。
治療をする傍らで労災の申請を行うことは被災された従業員にとって非常に負担になりますので、まずは労災に詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。
弁護士に相談することで、労災認定の見通しや、解決までの流れを知ることができます。
また、労災手続きの依頼をする場合には、弁護士が必要書類を収集し、労災申請を行います。
まとめ
以上の通り、ちょっとした怪我でも労災を使うべきかについて解説いたしました。
上記記事に記載した通り、労災保険が適用される怪我の程度に限定はありません。
そこで、満足が行くまで治療を行うためにも労災保険の申請を行った方が良いでしょう。
また、怪我の程度が重い場合には、治療に専念するために休業を余儀なくされたり、治療に励んだとしても後遺障害が残ってしまう可能性があります。
怪我の程度が重い場合には、労災保険を申請を行った上で、しっかりと補償を受けましょう。
一方、症状の程度の軽いちょっとした怪我であってもその怪我が労災と認定される場合には、きちんと労災保険の利用を検討する必要があります。
デイライト法律事務所には労災申請に関して悩まれている従業員の方々をサポートできる体制が整っております。
また、デイライト法律事務所には企業法務部も設置されており、従業員から労災の相談をされて対応が分からない等の状況に置かれている企業の方々のサポート体制が整っております。
なお、企業の方々からのご相談は初回無料となっております。
当事務所はZOOMやLINEを活用して、全国対応できますので、一度ぜひご相談ください。